シャルティアの日常   作:クロハト

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読み切りではなく続き物となっております

次回更新は2017年06月15日(木) 21:00です


ナザリック武闘大会1

「コキュートス、わちきここ数日の記憶が曖昧なんでありんすが、いつの間に大会開催当日になったでありんす?」

「シャルティア、私モヨクワカラナイ、ダガ無事ニ開催サレタトイウコトダケハ確カダ」

 

 アイテムの効果で肉体疲労は防げても精神や頭脳の疲れは防げないらしく、疲れから頭が回っていないため微妙に噛み合っていない気がする会話をしつつ、二人は目の前に広がる光景を眺める。

 

 会場であるナザリック地下大墳墓 第六階層 円形闘技場、観客席はナザリックに所属するものたちで埋まっており。その観客たちの中でも一際熱い視線を寄せているのはリザードマンたちである。

 

 リザードマンたちはこの大会にとても積極的で大会を一日で完結させるために行われた予選には戦士である者達は全員参加するほどだった。

 

 予選に落ちたものたちは観客席で今日の戦いを目に焼き付け強くなるための糧として、次こそはもっと強くなり本戦に出るぞと観客席にありながらも真剣そのものである。

 

 そんな様子を見たコキュートスは、その在り方を好ましく思い、彼らをナザリックの一部としてほしいという自分の願いを聞き届けてくれたアインズに心のなかで改めて感謝を捧げる。

 

 大会の基本ルールとしては『ライフ・エッセンス/生命の精髄』が使えるものが審判を務め残りライフが30%を切った時点で決着というルールとなり、これに関しては当初シャルティアが10%で決着にするべきだと訴えたが、流石に事故死もあり得る残量で判断するのは危険だと却下されたという経緯がある。

 

 さらに闘技場の中心には魔法で作られた闘技台があり、そこから落ちたものは失格となるというルールが有る、これは可能な限り殺傷することなく勝利する条件を作るために設けられたものであり、案を出したのは意外にもコキュートスであった。

 

 闘技場の中央にある競技台は一般的なモンスターたちだけが使うものであり、この大会の目玉である階層守護者達による戦いには使われない、階層守護者たちは、少しでも実戦に近い形で戦おうということになったためである。

 

 闘技台中央にアインズが現れ大会開始の挨拶を始める。

 

 先程までざわついていた空気がピタリと止み、アインズの声以外聞こえなくなる。衣擦れの音さえ立てないようにと誰一人動くことはない、ただじっと競技台の上のアインズに視線をそそぎ耳を済ませるだけである。

 

 そんな配下の様子に内心困惑していたりするアインズ、これが彼らの普通なのだと何度も経験し理解していても未だ人間であった頃の部分のせいかなれることはない、それでも、彼らが望む存在であろうと今日も彼は平静を装い日々練習続けている上に立つ者の振る舞いを行う。

 

「諸君、本日はシャルティアとコキュートスが主導となって企画し開催されたナザリック武闘大会によく集まってくれた。予選をくぐり抜け、この大会本戦まで勝ち進んだ者達よ、持てる力をすべて出し己が強さを示せ!!」

 

 アインズの言葉が終わると同時に闘技場どころか地下墳墓全体を揺らすのではないかと思うほどの歓声が上がる。

 

 アインズ自身はただの挨拶程度のつもりだっただけに、何でこんなに盛り上がってるのかがわからず戸惑いを覚えるも、精神沈静化のおかげもあって何事もなく退場することができた。

 

 前半は一般モンスターたちの戦いであり、彼らはシャルティアが出した案の通りパーティーを組み、組わせごとにパーティーの合計レベル上限が決まりそれに合わせてメンバーを選び戦うという形であったがそれを使うことになったのはリザードマンたちくらいなもので、あとは単独出場である。

 

 リザードマンたちは連携などを駆使し頑張ってはいたもののやはり実力の差は埋めきれず苦戦し、それでも二回戦までは行きその成長をコキュートスは喜んでいた。その裏でアインズもリザードマンが予想以上に成長していることとそれを指導しているコキュートスの成長という二つの成長に対し素直に感動していた。

 

 我が子の成長に感動する親のような気持ちになっているアインズのことなど露知らずコキュートスは後半の階層守護者たちとの戦いを心待ちにしていた。

 

 大会開催までの苦労は全てそのために耐えてきたのだから当然といえば当然である、一方もうひとりの主催者は敬愛するアインズ様の前で無様を晒さないかと不安をいだき震えていた。

 

 シャルティアは本来は調子に乗りやすい性格であったが考えなしというわけではなかった、自身が犯した大罪と、考える事の大事さを知ったことがいささか悪い方に作用してネガティブな方向に未来予測しやすくなっている節があった。

 

 そのネガティブさは慎重さとも言えるものであるし、いうべきことやるべきことはしっかり判断できるだけの度量もあるため目立ちにくく本人ですら気づいていないことだったが、今回は「御前試合」という言葉が頭にちらついていることもあって緊張の度合いが増していたためネガティブな考えになりやすくなっていた。

 

「前半ガ終ワッタヨウダ」

 

 コキュートスの言葉にビクっとシャルティアの体が震えた。

 

 そんなシャルティアの様子を見てコキュートスは「どうした?」と声をかけるが「なんでもない」といってシャルティアは闘技場へと向かう。

 

(そう、なんでもないでありんす。私は全力を持ってアインズ様に見事だと言ってもらえるような戦いをするだけでありんす)

 

 そう決意してしまえばネガティブな考えは吹っ飛び、あとは目的を果たすためにどうするかだけ考えればいいのでシャルティアの顔色はいくらか良くなっていた。

 

 闘技台の撤去も終わり、階層守護者たちがいつでも戦える準備が終わる。階層守護者の戦いはトーナメント方式でその組み合わせは事前に行われた予選のときにクジで決まっており。

 

 第一試合はアルベド対マーレ、第二試合はシャルティア対デミウルゴス、第三試合はコキュートス対アウラで第三試合勝者は一戦少なくなってしまうためコキュートスは残念がり、逆にアウラはこれで勝てれば決勝戦進出となるので、組み合わせでさんを引いたのがコキュートスでなければもっと喜んでいたかもしれない。

 

 なおセバスは緊急時に備えておく者も必要でしょうと言って事前に大会参加を辞退しており、コキュートスが強いものが減ったとうなだれたりもしていた。

 

 審判による「第一試合開始」の掛け声とともに完全武装状態のアルベドが大きく斧を振り上げて飛びかかる。防御に長けているアルベドが率先して攻め込んでくるとは思っていなかったマーレはワンテンポ反応が遅れ浅めではあったが一撃を受けてしまう。

 

 油断した代償だとマーレは気持ちを切り替えるが、アルベドの猛攻は止まらない、両手斧を巧みに振り回しどんどんマーレのライフを削っていく、アルベドはこの大会のルールである30%以下になった時点で敗北という点を重視した戦い方であり、少しずつでも削っていきあとはカウンターのダメージを追加することで少しでも早く目標ダメージを与えてしまおうという作戦だった。

 

 知略に優れるが故にもっと複雑な手を打つのでは? と思うものもいるだろうが、知略に優れるというのは多様な手を考えることができるということであり、複雑な手を打つのを好むという意味ではない、シンプルな策が最も効果的ならばその策を使うだけなのだ。

 

 そしてそれは見事にマーレにとって打つべき手を奪っていた。強化された身体能力を駆使して致命的な一撃を避けつつ、カウンターできないタイミングを見極めては拳による一撃を叩き込んだり、地面を弾丸のように固めて飛ばしたりしているがアルベドの素の防御力の高さも相まってアルベドよりも与えているダメージが少ないのである。

 

 さらに見極めたつもりでもカウンターが発動することが度々あり、それがカウンターを警戒した動きへとつながり大きな一撃を打ち込みきれずにじわじわとマーレはライフが削られていく。

 

 

 一度仕切り直そうと大地を隆起させる魔法や壁にする魔法を使うがアルベドはソレを読み切り距離を取らせない。

 

 動きを止めてカウンターできない状態にして強烈な一撃を与えようと思い捕縛系の攻撃に切り替えるも時はすでに遅く、攻撃の手を緩めたせいでアルベドに与えるダメージが激減した結果アルベドのライフは7割ほど残っている状態のままマーレのライフが残り3割をきり、マーレにとってはあっけなく勝負がついてしまった。

 

「あちゃー…」とアウラが情けない戦いをした弟に対してそんなことばをもらす。だが次の試合に備えて横にいたデミウルゴスの独り言ともとれるような呟きがそれを否定する。

 

「アルベドの作戦勝ちですね。マーレも予想外のことで慌ててそのまま負けるかと思いましたが落ち着いて打てる手はうっていましたし見事な戦いでしたよ」

 

「んー、そうかもしれないけど、アルベドが相手なんだって分かってたんだし、何かしてくるかもってもっと警戒しておくべきだったと思うのよ」

 

 不満ありげにそういうが、その声は弟を褒められたことに対する嬉しさのようなものが滲んでいた。そして負けて落ち込んで戻ってくるマーレをみかけると「もっとがんばりなさいよ」と軽く叱るが、それでも最後には頭をワシャワシャとなでながら「まあ頑張ったんじゃない」と照れくさそうにマーレのことを褒めていた。

 

 デミウルゴスは、その二人の様子を見て「仲睦まじいことですね」とつぶやきながら闘技場へと出ていく。

 

 同じようにシャルティアも闘技場へと進み、それぞれ定められた位置に立つ。

 

 デミウルゴスは人間態を解除し半悪魔形態へと変わる。対するシャルティアはレジェンド級の赤い鎧に身を包み、さらには少し奇妙な形の槍であるスポイトランスを手にした完全武装状態。

 

「こういうのは失礼とは思うでありんすが、お前様はてっきり棄権するのではと思ってたでありんすよ」

「その言葉否定できませんね。私自身の直接戦闘能力はいささか低いですし、一対一であなたとまともにやりあうのは無理だと確かに思いますよ、ですが貴女自身が言っていたのではないですか、自分よりも強い存在と戦う経験を得たいと、私も少しだけその言葉に思うところはありましてね……」

 

 デミウルゴスはそう言って苦笑してみせるが、シャルティアはその言葉を鵜呑みにせずに警戒する、本当に『思うところがあった』というだけであのデミウルゴスが戦おうとするはずはない、何か勝算があるはずだと。

 

 先程と同様に「第2試合開始」という掛け声とともに今度はシャルティアがデミウルゴスに飛びかかっていた。

 

「その判断は間違いではないですね」

 

 余裕のある声で後ろに飛びながらそう言ってのけるデミウルゴス、彼が通り過ぎていったあとには無数の魔法陣が展開していた。

 

(トラップ?)

 

 策を弄するにしても時間が必要だろうと考えた上での突撃だったがあっさりと読まれていたことに歯噛みするシャルティア。デミウルゴスはシャルティアがどう動くかを読み、開始と言われるタイミングを見計らって開始と同時に呪文詠唱と魔法の展開が完了するようにしていたのだ。反則スレスレの行為ではあるが、発動のタイミングさえ間違えなければ問題なく、それはデミウルゴスには容易なことだった。

 

 幾つもの爆発と同時に爆炎が吹き荒れシャルティアのライフを削っていく、だが重装甲で身を固めているシャルティアには微々たるダメージでしかない、また追いついてスポイトランスでライフを奪ってしまえばあっという間に逆転できるのである。

 

「デミウルゴス、何を企んでいるでありんすか?」

 

 シャルティアの問いに当然ではあるがデミウルゴスは答えない、デミウルゴスが全力を出す上では必須の形態の『完全悪魔形態』があるが、その姿になったのを見たことあるものはいないとされる。どんなときでも半悪魔形態までであり、もしかしたら創造主であるウルベルトによってその姿となることを禁じられているか、なるとしても条件をつけられているのかもしれないとシャルティアは考える。

 

(もしそうなら一応、今のこれがデミウルゴスの全力ということにはなるでありんすが……)

 

 先程からデミウルゴスは、ただただ魔法で爆発と爆炎を巻き起こしながら逃げ回るばかりなのだ。それでは大したダメージは与えられないとわかっているはずなのだが、あのデミウルゴスが無駄なことをするとも思えないだけに不気味なものを感じながらシャルティアは幾つかの遠距離攻撃用の魔法で応戦しつつ間合いを詰めようとする。

 

 その様子を旗から眺めているアルベドとコキュートス、そしてアインズの三人はその意図を見抜いていた。

 

(これが『殺し合い』ならデミウルゴスは無駄なMPを消費し続けているだけの愚者だけれど)

 

(これは『試合』で『殺すこと』は禁止されているし、ライフを30%以下にすればその時点で勝負が決まる)

 

(デミウルゴスハシャルティアニ何カ手ガアルノデハナイカト警戒サセツツ煙幕モカネタ攻撃ヲ繰リ返シ自身ノ被弾ヲ抑エル、単独ノ戦闘デハ決定打ヲ持タナイデミウルゴスニハ唯一トイッテイイ勝利方法カモシレン……ダガ)

 

 シャルティアのライフが残り70%ほどとなりデミウルゴスのライフは残り90%。このままの展開が続くならデミウルゴスの勝利だっただろう、だがしかしことはそうは進まない。

 

「ああもう面倒でありんすね」

 

 唐突にシャルティアの動きが変わる、煙幕も被弾も意に介さずただ目についたデミウルゴスの姿に向かって一直線に向かう動きへとなる。すると徐々にシャルティアとデミウルゴスの距離が縮まっていく。

 

 この流れは全てデミウルゴスの想定通りだった。まともに打ち合えば負ける相手ならば逃げ回るというのはいささかみっともないだろうが、それ以上になすすべもなく負けるほうがよっぽどみっともないと彼は考えた。

 

 そして逃げ回るにしてもシャルティアがどう動くかを読みさらには魔法の展開の仕方もシャルティアがどう動くのかを予測し誘導し、そうすることで本当の意味での無駄撃ちは一切ないといえるレベルにまでした完璧と言える作戦。ただしこれを考えながら実行できるのはデミウルゴスとアルベドくらいなものだろう。

 

 シャルティアのライフは被弾を続け50%近くまで減っていた。対するデミウルゴスはシャルティアが接近することに集中したため90%から動いていない、ここで大きな一撃を与えてしまえば勝負は決まると弾幕でシャルティアの動きをさらに制限し逃げながらでも打てる最大火力の魔法を使う。

 

 だが、唐突にシャルティアの姿が消えていた。デミウルゴスが何かを企んでいることだけは分かっていただが何を企んでいるかまではシャルティアの頭ではどうしてもわからなかった。

 

「慎重に立ち回るべきだ」とかつての戦いでアインズは言っていた。だからシャルティアも警戒し続けていた。

 

 だが限界だったのだ。大会開催までに頭は十分酷使したのだと、シャルティアはの脳はこれ以上考えるのを放棄したのである。だがそれが功を奏した。

 

 戦士の本能が危険を察知し考えるよりも速くシャルティアの身体は動いていた。それがデミウルゴスの裏をかきデミウルゴスが放った一撃をあっさりとかわし、デミウルゴス気がついたときには上から急襲をかけるシャルティアの姿。

 

 上空から落下の勢いもあいまった一撃はデミウルゴスのライフを大きく削り、肉薄した状態となれば何もできないに等しいデミウルゴスはそのままシャルティアの槍による猛攻に為す術もなくライフを削りきられ、シャルティアの勝利で戦いは終わった。

 

 戦いのあとデミウルゴスはシャルティアに何故あの一撃を避けれたのかと訪ねてみると、シャルティアは「わかりんせんですね。なんとなくだったでありんす」と答え、デミウルゴスは「なるほど……。これが戦士とそうでないものの違い…なんでしょうかね」とシャルティアの言葉を噛みしめるかのように静かに呟くのだった。


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