ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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喰るう人

 リリルカは今、人生最大の危機的状況に立たされていた。

 足下に投げられたのは、瀕死のキラーアント。キラーアントは瀕死になると、仲間モンスターを呼ぶ習性を持つ。

 何故そんなものが投げられたのか。答えに凡その見当をつけながらも、外れてほしいと願いながら男に問いかける。

 

「どういう、つもりですか……!」

「どういうつもりも何も、大方は察してんだろ? お前をキラーアントの餌にしてやるんだよ。普通に殺すのもつまんねえからよ、ちょっと趣向を凝らしてみたんだ。どうだ、気に入ったか?」

「……約束が違いますよ」

「バーカ、俺が約束したのはあの2人にお前の正体を話さないこと! お前を生かして帰すなんて約束はしてねえよ!」

 

 ゲラゲラと笑う男。

 ある種の懐かしさを感じる。ベルとアリマに出会う前までは、リリルカの周りにはこんな冒険者しかいなかった。

 

「こんなことをしたら、アリマ様が黙っていませんよ……」

 

 アリマの名前を出すしかない。いや、アリマの名前を出せば助かるはずだ。

 自分の所有権はアリマにあると主張すれば、どんな冒険者でも手を出すのは諦めるはずだ。龍の威を借る狐のようで情けないが、生き残るためなら些細な問題だ。

 ピタリ、と男の笑い声が止まった。心底面白くなさそうに、男は顔を歪ませる。

 

「あのガキの言葉なら考え直したかもしれねえけどよぉ…… お前みたいな代わりがいくらでもいる底辺サポーターに、本当にあのキショウ・アリマが何かしてくれると思ってんのか!? あんな天上人が、俺らみたいな下々の人間を気にかける訳ねーだろうがよ!」

 

 男の叫びから羨望、嫉妬、憎悪といった感情がヒシヒシと伝わってくる。

 

「ちょこまかと逃げられる前に、足の一つでもぶった斬ってやるよ!」

 

 男は剣を引き抜いた。

 アリマの名前を出しても、相手を刺激するだけで逆効果だ。この男だって腐っても冒険者。走って逃げても、すぐに捕まってしまうだろう。

 なら、どうする? このまま黙って殺されればいいのか?

 リリルカは大きく息を吐く。

 懐から短剣を取り出す。そして、切っ先を男に向ける。

 戦うしかない。戦って、勝つしかない。

 やっと、やっと自分の本当にしたいことが分かったのだ。それなのに、それなのにこんな場所で終わってたまるか!

 勝算はある。リリルカが握っているのはただの短剣ではない。炎を飛ばす魔剣だ。接近されたら勝ち目はないが、真っ直ぐ突っ込んでくる瞬間を狙えば、倒せるかもしれない。

 

「なんだ、それは……?」

 

 男は震えた声で呟いた。

 瞳孔が完全に開いている。怒ったというのなら好都合だ。冷静さを失わさせれば、その分だけこちらの勝率は上がる。

 地面を蹴る音が響く。男がリリルカに向かって走り出した。

 今だ!

 リリルカの魔剣から炎が放たれる。

 男の目が大きく見開く。まさか魔剣とは思っていなかったのだろう。完全に不意を打てた。これなら当たる!

 

「ちぃっ!!」

 

 男は大きく体を反らし、炎を躱す。

 失敗した──!

 男が体勢を崩している隙に、更に2発目を叩き込もうとする。しかし、既に体勢を立て直し、リリルカのすぐそばまで接近していた。

 そう、この男は腐っても冒険者なのだ。長い間サポーターとしてダンジョンに潜っていたリリルカとは地力が違う。

 

「オラァ!!」

「ぐぅっ!?」

 

 男は剣を使わず、右拳をリリルカの顔めがけて突き出した。

 どうにか腕で防御するも、勢いまでは殺せず、地面に倒れこむ。

 このままじゃ殺される。どうにかしないと……!

 顔を上げると、そこには血走った目で足を振り上げている男がいた。

 

「テメエまで、そうやって、俺を馬鹿にしやがるのか!!」

 

 男の足が振り下ろされる。咄嗟に身を丸めて、男の足から頭を守る。

 男は何度も何度もリリルカを踏みつけ、蹴りつける。リリルカの身体中に鈍い痛みが襲い、思わず悲鳴をあげる。

 

「あのベルってガキも、キショウ・アリマも、ゴミを見るような目で俺を見やがった!! クソが、何様のつもりだ!!」

 

 とどめとばかりに、リリルカは男に蹴り飛ばされる。

 地面を転がり、仰向けになって止まる。

 立ち上がって、逃げないと。その思いに反して、身体は動かない。

 男がふらふらとした足取りで、倒れるリリルカに近づく。そして、手に持っている剣を振り上げる。男の目は、殺意の色で塗り尽くされていた。

 

「キラーアントの餌にするのはやめだ。ここで死ね!」

「──っ!!」

 

 とうとう剣が振り下ろされる。

 もう、駄目だ──。

 諦めかけた次の瞬間、鳴り響く金属音。

 リリルカと男の間に割り入った少年が、男の剣を黒いナイフの腹で受け止めていた。

 雪のように白い髪。小さいながらも、どこか頼りある背中。見間違うはずもない。この後ろ姿をずっと見てきた。

 思わず涙が溢れる。来てくれた。来てくれたんだ。

 

「ベル様……!」

 

 掠れた声で、その少年の名を口にする。

 ベルは少しだけ振り返り、にこりと優しく微笑んだ。

 ベルはすぐに視線を男の方に戻す。リリルカに向けた表情とは打って変わり、険しい表情だ。

 

「こいつで二度目だなあ、ガキぃ……!」

 

 男は不敵に笑っているが、その内心は焦燥に駆られていた。

 どれだけ剣に体重を乗せても、ナイフはピクリとも動かない。まるで大きな岩に剣を押し付けているみたいだ。それはつまり、ベルと男の間にはどうしようもないステイタスの差が広がっているということで──。

 ぞわり、と背中に嫌な感覚が奔った。

 思わず後方へ跳ぶ。ベルは追撃せず、そのまま距離を保っている。

 男は安堵の息を漏らすと同時に、ある考えがごくごく自然と浮かぶ。

 まさかこいつ、俺より強い──?

 かぶりを振るい、その考えを否定する。こんな子供が自分より強いなんて、そんな訳があってたまるか。

 

(あのガキが突然割り込んできやがったから、驚いて剣を全力で振り下ろせなかったんだ。そうだ、全力でやればあんなガキ、どうとでもできる!)

 

 自分に必死に言い訳をする男に目もくれず、ベルは倒れているリリルカを抱き起こす。

 

「リリ、大丈夫?」

「来て、くれたんですね……」

「当然じゃないか。ちょっと待ってて、すぐに終わらせるから」

 

 ベルはリリルカをゆっくりと地面に寝かせる。ゆっくりと立ち上がり、後ろにいる男を睨みつける。

 

「リリは女の子なんだぞ……!」

「女だからどうしたんだ?」

 

 リリルカの顔のあちこちには痣ができていた。どれほど殴られたのだろうか。どれほど蹴られたのだろうか。それを想像するだけで、ベルの心の奥底から怒りが湧き上がってくる。

 

「謝れ…… リリに謝れ!」

「はっ、謝る訳ねーだろ!」

「それなら……」

 

 ベルはヘスティアナイフを男に向ける。

 

「リリの痛みを思い知らせてやる!」

 

 男はベルの目を見た。

 本気だ。本気で、自分を叩きのめそうとしている。その行為は、男のプライドをどうしようもなく逆撫でした。

 ぷつり。理性をどうにか繋ぎ止めていた細い糸が切れた。

 男は駆け出し、ベルとの距離を詰める。

 剣のリーチまで届いた瞬間を見計らい、全力で剣を振り下ろす。最早この男は、アリマの弟子であるベルを殺せばどうなるか、という判断すらできなくなっていた。

 ──キィンッ!

 再び響く金属音。

 男は混乱の最中にあった。何が起きた。どうして俺は、何もない地面に剣を叩きつけている!?

 離れた位置から見ていたのと、ベルとアリマの動きを見ていたからこそ、リリルカの目はどうにか一連の流れを捉えていた。

 ベルは振り下ろされる剣の腹を正確にナイフを当て、剣をいなしていたのだ。

 

「こ、このっ!!」

 

 男は再度剣を振るう。

 ベルはナイフでいなそうとせず、全ての剣戟を紙一重で避けていた。

 少しでも見切りが甘ければ、男の振るう剣に斬り裂かれることになる。しかし、ベルの顔に恐怖はない。ただ冷静に、男の太刀筋を観察していた。

 ベルのその動きに、リリルカはキショウ・アリマの姿を彷彿した。そうだ、アリマだ。今のベルの動きは、まるでキショウ・アリマの縮図のようだ。

 

(──分かる。相手の動きが手に取るように分かる。モンスターなんかより、全然戦いやすい)

 

 ベルは一種の高揚感を感じていた。

 プログラミングされたように、思考よりも先に身体が動く。反射とも言っていい。自分の身体が自分じゃないみたいだ。

 隙だらけの男の剣。付け入る隙はいくらでもある。現時点で一番最良なのは、左側から回り込んで肉薄すること。

 そう思った瞬間、ベルは男の左側に回り込んでいた。

 突然のベルの動きに男は対応できず、そのまま固まる。ここだ、ここで──

 

(首を刈れ──)

 

 そして、ベルは男の首へとヘスティアナイフの刃を走らせて──

 

「っ!!??」

「がびゃっ!!?」

 

 咄嗟にナイフの持ち方を変え、柄尻を男の顔に叩き込むように振るう。

 ぐちゃりと肉が潰れる音がした。

 男の口からは数本の歯と血飛沫が飛んでいる。勢いそのまま、男は地面に倒れ落ちた。

 

(僕は今、何をしようと……!)

 

 ナイフを握るベルの手は震えていた。

 もしもあのまま、ナイフを振り抜いていたらどうなっていた?

 無意識とはいえ、自分のしようとしていたことに漠然とした恐怖を覚える。

 しかし、今はそんなことに疑問を覚えている暇はない。ベルはすぐにその恐怖を抑え込み、毅然とした表情で男を見る。

 びくり、と男が震える。ナイフの柄で殴られたせいか、鼻筋は折れ曲がり、前歯はまばらに抜け、顔が醜く歪んでいる。第三者から見れば、惨めという言葉しか浮かんでこないだろう。

 

「今度また、リリに近づいてみろ。こんな怪我じゃ済まさないぞ!」

「ひっ、ひぃっ!?」

 

 ベルがそう一喝すると、男は四つん這いのままダンジョンの奥に消えていった。

 ベルはすぐにポーションを取り出し、リリルカのそばに座り込む。リリルカの口を開き、ポーションを飲ませる。

 リリルカの顔の傷が消えていく。呼吸も安定してきた。

 むくり、と上半身だけ起こす。ホッとした表情のベルとは対照的に、リリルカは申し訳なさそうな表情だった。

 

「ごめんなさい、ベル様。また迷惑をかけちゃいましたね」

「謝ることなんてないよ、リリ。悪いのはあの男なんだから」

 

 リリルカは静かに首を横に振った。

 

「ベル様、私はずっと嘘をついてました」

 

 リリルカは決めた。全てを話そうと。

 この人に全部話さなければ、きっと自分は前に進めない。全て話したせいで、ベルに受け入れられなかったとしても構わない。

 

「本当は、武器を盗むためにベル様に近づきました。あなたみたいなお人好しなら、簡単に奪い取れると思ったから」

 

 結局、無理でしたけどね。そう言いながら、まるで自虐するように笑う。

 ベルはただ、静かに聞いている。

 

「こんなことを、リリはもう何回もやってきました。あんな風に恨みを買うのも当然のことを、何度も何度も……」

「うん」

「魔石も何個かちょろまかしたり、報酬も自分の分を水増ししたりしました」

「うん」

「ベル様やアリマ様のこと、内心ではあんな特訓を毎日してるとかドSとドMコンビかよって思ってました」

「……う、うん」

 

 強く握り締めたリリルカの手に、ポツポツと涙が落ちた。

 

「こんなリリでも、ベル様はまだ仲間と思ってくれますか……?」

 

 その言葉を聞いたベルは、優しく微笑み返した。答えを聞かなくても、リリルカには分かった。ああ、この人は──。

 

「当たり前じゃないか。最初から最後まで、リリはずっと僕らの仲間さ」

「っ…… ベル様ぁ!!」

 

 誰よりも純粋で、誰よりも優しい。

 思いっきりベルに抱きつく。

 これからは、そう。これからは、この人の隣に立っても恥ずかしくないように、生きていこう。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 ベルに敗北した男── ゲド・ライッシュはダンジョンの中を逃げ惑っていた。

 出口に向かっているのか、それともダンジョンの奥へ進んでいるのか。闇雲に逃げているせいで、分からない。

 だが、今はそれでいい。少しでも長く、ベル・クラネルから離れなければ。

 どんどん足が動かなくなる。壁に身を預けながら、それでも気力だけで進む。

 

「……何なんだよ、何なんだよ!!」

 

 なけなしの体力を使い、ゲドは叫ぶ。叫ばずにはいられなかった。

 どうしてあんなガキが、小娘が、オラリオ最強の一角と名高いキショウ・アリマに認められるんだ。どうして俺は、自分よりも年下の子供に圧倒されて、涙を流しながら逃げているんだ。

 自分がどれだけ惨めなのか、今日ほど思い知ったことはない。

 ふと、ゲドは逃げる足を止めた。

 

「キラー、アント……」

 

 ゲドの目の前には、無数に群がるキラーアントたちがいた。

 思わずその場でへたり込む。

 ずっと逃げ回っていたせいで、もうキラーアントから逃げる体力は残っていない。当然、このキラーアントの群れを全滅させることも不可能だ。

 どうしてこんな場所に…… いや、そうだ。他でもない自分が、あのサポーターを殺すためにキラーアントを呼び寄せたじゃないか。

 自分が張り巡った策を忘れて、勝手に溺れる。どうしようもなく間抜けで、愚かだ。

 

「何、で…… この俺が、こんな馬鹿みたいな死に方をしなきゃ……!!」

 

 キラーアントの大顎が近づいてくる。あの大顎で砕かれるのは手足? 頭?

 どちらにせよ死ぬ。間違いなく死ぬ。あのサポーターのように、誰かが助けてくれる仲間なんていない。

 脳裏にこれまでの人生が浮かび上がる。自分なら大成できると思い、遥々オラリオに来てみたら、待っていたのはモンスターの餌という末路。自分の人生ながら、悲しくなってくる。

 噛みつかれる寸前、何故かキラーアントが動きを止める。周りにいる他の個体も、まるで時が止まったように動かない。

 どういうことなのか、よくよく周りを見渡してみる。

 誰かがいる。蠢めくキラーアントの群れの中に、黒い布切れをフードのように被っている誰かが。

 体格から察するに、成人の男。キラーアントに襲われず、悠然と佇んでいる。只者ではないと、直感で理解した。

 男が軍隊を制止するように右腕を横に出す。するとどうだろうか、キラーアントは顔をこちらに向けたまま後退した。

 

「キラーアントが、退いていく……!」

 

 残ったのは、ゲドとフードを被った男だけだった。

 

「助けて、くれたのか……?」

「……」

 

 フードの男は何も言わない。

 無言のまま、一歩一歩、ゲドに近づく。

 

「……おい、何とか言えよ。聞こえてんだろ、何とか言えって!!」

 

 状況だけ見れば、命の恩人と言っていいのだろう。どんな方法を使ったのかは知らないが、キラーアントを退かせてくれた。

 しかし、ゲドはフードの男から不穏な雰囲気を感じた。

 この男はヤバイ──。立ち上がろうとするも、足がガクガクと震えて動かない。

 男の顔の下半分が見えた。男の口角が大きく吊り上っている。まるで獲物を見つけたようなそれ。

 ゲドが感じ取っていた不穏な雰囲気は、獰猛な肉食獣と対峙したようなそれに変容する。

 

「ひぃっ!?」

 

 地面にへたり込んだまま後ずさりし、手近にあった小石を投げる。

 しかし、無駄な足掻きだ。フードの男の歩く速さには敵わないし、小石を投げる程度で動きを止めれる訳もない。

 

「く、来るな!! 来るんじゃねえ!! 俺のそばに近寄るな!!!」

 

 フードの男はゲドの目の前にしゃがみ込む。そして、ゲドの襟元を右手で掴み、ぐいっと顔の近くに寄せた。

 目の前にあるのは大きく開いた口。まるで奈落の底に繋がっているように、暗く、深い。

 

「う、うわあ──」

 

 ぐちゃり。

 骨ごと咀嚼する音が、誰もいないダンジョンに響いた。フードの男は口にべたりと塗り付いた血を拭うと、もう動かなくなったゲドの左腕を掴み、ズルズルと引きずりながらダンジョンの奥へと消えていった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 どうしたんですかねえ、この状況?

 所用も片付き、昨日ぶりにベル君とリリちゃんに会ったら、なんか2人ともベッタリしてた。いや、2人ともっつーか、リリちゃんが一方的にベル君に引っ付いている。

 ベル君の顔は面白いくらい真っ赤だった。多分あれだな、当ててんのよってやられてんだ。リリちゃん、意外と立派なぱいおつがあるからなあ。無印時点のトーカちゃんよりは確実にある。

 しかしここ、いつもの待ち合わせ場所の噴水だぞ。人の目があるんだぞ。現に生暖かい目で見られているんだぞ。

 

「……どうしたんだ?」

 

 とりあえず、どうしてこうなったのか聞いてみた。なんかつっこんだら負けな気がするけど。

 

「実はかくかくしかじかで……」

 

 ベル君が昨日、ダンジョンで何があったのか話してくれた。

 そっか。リリルカ、自分のことを全部話せたのか。ベル君を完全に信頼したという証だろう。いやあ、良かった良かった。

 ……いや、信頼とは少し別物な気がする。なんかもっとピンク色な感情の気がする。いつまで引っ付いてんねん。ぱいおつ押し付けてんねん。

 というか、俺の名前を出したのに、まだリリちゃんにちょっかいを出せるような冒険者がいるのか。念には念を入れて、ソーマファミリアとお話し(肉体言語)してきた方がいいかもしれんな。あいつら、神酒を飲むためなら何でもするっぽいし。リリちゃんが狙われる前に、釘を刺しておこう。

 それにしても、ベル君も初めての対人戦でよくやったよ。少し相手がアレ過ぎだけど。俺の特訓の成果が出ているようで安心した。実はベル君に教えているの、効率的な攻撃の避け方と、効率的な人間の壊し方だから。この調子で俺をブッ殺せるまで成長してほしい。

 

「それで、ソーマファミリアは脱退できそうなのか?」

「はい! お金も別に奪われた訳でもないので、もうすぐ脱退できる金額に届くと思います」

「足りない分なら、俺が出してもいいけど」

「僕だって手伝うよ、リリ」

「心配しなくても良いですよベル様、お義父様。ソーマファミリアはリリがきちんと話をつけに行きますから」

 

 脱退金くらい気にしなくてもいいのに。俺、IXAとナルカミの調整と日用品購入くらいでしか金使わないから、余りに余ってるんだよな。この前通帳的なの見たら、ゼロがたくさん並んでいた。面倒だから半分からは数えていないが、結構あるはずだ。

 まあでも、本人がいいって言うなら、無理強いは良くないな。偽有馬さんとしての生活が長いせいか、金銭感覚が狂ってるみたいだし。ベル君の鎧を買うときに学びました。

 ……って、んんん? お義父様??

 

「あの、リリ……? お父様って……?」

 

 急にぶっ込んできたな、びっくりしたわ!

 それとベル君、多分君の言ってるお父様とは意味が違うぞ。お父様じゃないぞ。お義父様だぞ。

 

「はわわ、すみません! お2人の姿が似ているから、ついつい間違っちゃいました!」

「あ、あはは…… そんなに似てるかなぁ? 確かに髪の色は同じだけど。ふふっ」

 

 俺と似てると言われたからか、嬉しそうに笑うベル。それを見たリリちゃんも笑う。ただし、計画通りって感じの笑い方で。どこのキラかな?

 まさか、お義父様って呼んだのは、俺という外堀を埋めるため? だとしたら、なんて末恐ろしい…… なんて末恐ろしい子なんだ。

 この子、間違いなく肉食系だ。典型的な草食系男子のベルなんて、もう喰われる(意味深)しかねえぞ!

 そういやリリちゃん、小人だから幼く見えるだけで、15歳でベル君より普通にお姉さんなんだよなあ。年上で肉食系なんて、もう完全に弄ばれてるやんけ。

 俺としたことが完全に見誤った。こんなん…… こんなんサイコちゃん枠やない! 月山さん枠や!

 そんなこんなで、今日もいつもと同じように、ダンジョンでベル君を鍛えた。変わったことといえば、何か妙にリリちゃんとベルの距離が近かったくらいか。

 どうやらリリちゃん、ベル君の専属サポーターとして、ヘスティアファミリアにご厄介になるそうだ。まあ、あの強かさならヘスティアとも上手くやれるでしょう。まんま月山さんみたいで草生える。

 あ、帰り道のついでにソーマファミリアともお話し(肉体言語)してきました。当然、リリ山さんにはバレないように。リリ山さんの脱退金を受け取ったら、もう二度とリリ山さんに手を出さないこと。というか受け取る前でも手を出すな。そう要求して、ソーマファミリアのメンバーの1人をボコったら、みんな素直に要求を聞いてくれてましたよ。イイヒトタチデヨカッタナー。

 それと見知らぬ花屋の老夫婦さん、仇は俺が取っておいたので安心してください。

 

 

 




 感想・評価ありがとうございます!
 東京喰種恒例、なんかフードを被った人! お、おまえはいったいなにものなんだー。

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