ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか   作:あるほーす

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臓腑

 バベルの近くにある噴水。その前で、ベルはアリマを待っていた。

 多くの冒険者たちがこの噴水を待ち合わせ場所として利用している。ベルとアリマも、そのうちの1人だ。

 何をするでもなく、噴水から噴き出る水を眺めるベル。もう随分とこうしている。

 しかし、別にアリマが遅刻している訳ではない。不測の事態でアリマを待たせるなんてことがないように、待ち合わせの時間よりもずっと早く来ているのだ。

 

「お兄さん、そこのお兄さん!」

 

 自分を呼ぶ声だろうか。

 振り返ってみると、大きなバックパックを背負った少女がいた。

 

「私をサポーターとして雇いませんか?」

「えっと、お兄さんって僕のこと? それに、雇う?」

「簡単な話ですよ。貧乏サポーターが、冒険者様のお零れに預かろうとしてるんです」

 

 サポーター。聞き覚えのある単語だ。冒険者になって間もない頃、エイナに教え込まれた知識を思い返す。

 モンスターの魔石を集めたり、アイテムを持ち運んでくれる人のことだった気がする。

 

「あれ、君は……」

「はへ? どうしたんですか?」

 

 この子の顔、見たことがある。フードを被っているから、すぐには分からなかったけれど、間違いない。

 

「昨日会った小人の子だよね?」

 

 昨日、アリマと別れた後の路地裏。

 理由はよく分からないが、男の冒険者に斬られそうになっていた女の子だ。どうにかベルが割って入り、事なきを得たが。

 ちなみに、その冒険者を追い返したのは、これまた偶然通りかかったリューである。眼力だけで冒険者を追い返したその姿は、男から見ても男らしかった。

 

「小人? リリは獣人、シアンスロープなのですが?」

 

 少女がフードを外すと、ぴょこんと犬耳が出てきた。

 

「あれ、それじゃあそっくりさん?」

 

 ベルは首を傾ける。

 印象的な出会いだった上、昨日の今日だ。顔はよく覚えている。間違えてはいないはずだ。しかし、犬耳がなかったのも事実。

 姉妹でもなさそうだし…… やはり、超絶そっくりさんなのだろうか。

 

「それで、雇ってくれますか?」

 

 上目遣いでそう言われ、思わず頷きそうになる。自分1人なら、迷わず雇っているのだが……。

 

「うーん、僕は構わないんだけどさ。一緒にダンジョンに行く人がいるんだけど、その人が何て言うか……」

「それなら、その人が来るまで待ちますよ!」

「先に言っておくけど、驚かないでね」

「へっ?」

 

 アリマが来ると言わないのは、誰も信じてくれないからだ。

 しかし、仕方のないことだと納得している。逆の立場なら、ベルだってきっと信じないだろう。

 

「やあ、ベル」

「アリマさん!」

 

 アリマが来た。噂をすればなんとやらだ。

 チラリと少女に目をやる。

 少女は目を丸くし、ぽかーんと口を開けている。脳が今の状況を必死に処理しているのだろう。やがて、彼女の顔からブワッと汗が噴き出した。

 

「キキキキキショウ・アリマ!!!?? それじゃああなたは、ベル・クラネル!!!??」

 

 ああ、やっぱり驚いた。

 もう何回目だろうか、このやり取り。

 

「その子は?」

「サポーターをやりたいって子で…… ごめん、そういえば名前は?」

 

 名前を聞かれ、少女はハッとした顔になる。

 

「さ、先ほどは失礼しました。リリルカ・アーデといいます」

 

 ぺこりと頭を下げるリリルカ。心なしか震えている気がする。アリマを目の前にして緊張しているのだろう。

 

「サポーターか」

「どうします、アリマさん? 丁度サポーターが必要だと思っていたから、雇いたいと思うんですけど……」

 

 アリマは少しの時間押し黙り、やがて口を開いた。

 

「ベルの好きにしたらいいよ」

「ありがとうございます!」

 

 良かった、と安堵の息を漏らす。

 ここまで引き止めておいて、断るなんて可哀想だ。それに女の子だし。こういう縁は大切にしたい。

 

「それと、今日は一緒にダンジョンに行けそうにない」

「ええっ!?」

「少し、ロキファミリアで仕事がある」

 

 アリマはコートのポケットから1枚の紙を取り出し、ベルに差し出す。

 

「今日はその紙に書かれているメニューをやってくれればいい。俺からの宿題だ」

 

 紙に書かれている内容が気になるのか、リリルカも紙を覗き込んだ。

 

「ちょっ、なんですかこれ!?」

 

 あまりにもブッ飛んだ内容に、リリルカは驚きの声をあげる。

 4層目までのモンスターは一歩も動かずに倒すこと。5層目からのモンスターの攻撃は全て受け止めるか、ナイフでいなすなどして対処すること。今日1日のメニューにはそう書かれていた。

 今まで多くの冒険者と行動を共にしたリリルカだが、こんな無茶な戦い方を要求する冒険者など見たことがない。

 

「これでもいつもより優しいよ」

「えええぇぇぇ……」

 

 しかし、けろっとした様子のベル。感覚が麻痺しかけているのは言うまでもない。

 

「それじゃあ、また後で」

「あ、はい! わざわざありがとうございます!」

 

 そう言って、アリマは人混みの中に消えていった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 信じられない。それが、ベルと共にダンジョンに潜ったリリルカの感想だった。

 

「くぅっ!!」

 

 ベルは愚直なくらい、アリマの教えに従って戦っている。

 ウォーシャドウの爪を黒いナイフで真正面から受け止める。そのまま至近距離まで詰め寄り、硬直しているウォーシャドウの胸にナイフを突き立てる。

 ウォーシャドウは黒い霧となり、地面に魔石が落ちる。

 先ずは1匹。しかし、ベルの表情に油断や歓喜はない。

 息もつく暇もなく、別の個体のウォーシャドウがベルの背後から襲いかかる。

 ベルは見向きもせずに、再び黒いナイフでウォーシャドウの爪を受け止める。後ろに目でも付いているのだろうか。

 振り返る勢いそのまま、いつの間にか引き抜いていた別のナイフで斬りつける。

 

「すごい……」

 

 ベルの話では、彼はまだ冒険者を始めてから数週間らしい。有り得ない。こんなの、駆け出しの冒険者の動きではない。

 アリマの指導があってこそなのだろう。あの黒いナイフの性能もあるのだろう。しかし、それらを差し引いたとしても、ベル・クラネルの冒険者としての才能を垣間見るには十分だ。

 これが、あのキショウ・アリマが認めた冒険者……。

 カチリ、とナイフが鞘に仕舞われる音が響く。ベルは全ての攻撃を受け切りながらも、キッチリとモンスターを壊滅させた。

 リリルカは本来の『仕事』を思い出し、地面に散らばる魔石を回収する。

 

「ありがとう、リリ。助かるよ」

「いえいえ、これがリリの仕事ですから。あ、傷は大丈夫ですか? 塗り薬なら持ってますよ」

「大丈夫だよ、擦り傷ばかりだから。それに、怪我には少し慣れているんだ。アリマさんに何度も斬られているから」

「えっ」

「ああいう混戦状態のときは、アリマさんも混じって攻撃してくるんだよね。だから、アリマさんのいない今日は楽で楽で……」

「す、凄まじい指導ですね……」

 

 自分なら一瞬でも耐えれそうにない。

 Lv7の冒険者に弟子入りするとはそういうことなのだろうか。

 

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」

「!」

 

 そういえば、もうそんな時間か。

 リリルカの本来の『目的』は、ベルから武器を盗むことだ。

 見ず知らずの自分を助けるようなお人好しなら、簡単に騙すことができる。そう踏んでいた。

 しかし、甘かった。

 今ではもう、ベルから武器を盗める気なんてしない。後ろに目が付いているかのように、恐ろしく気配に敏感なのだ。妙な真似をすれば即座にバレる。

 

(諦めるしかない、ですね)

 

 そもそも、万が一ベルから武器を盗めたとしても、キショウ・アリマから何をされるか分からない。

 触らぬ死神に祟りなし。我ながら上手いことを言ったものだ。

 

「ええ、帰りましょう」

 

 結局あの黒いナイフは盗めず、ダンジョンから帰還してしまった。

 今日の稼ぎはなしか、と溜息を吐く。

 ファミリア専属のサポーターならともかく、フリーのサポーターは冒険者から軽蔑されている。稼ぎに群がるハイエナ。才能のない落伍者。そんな認識でしかない。

 報酬も稼ぎの1割でも貰えれば良い方で、難癖を付けられて報酬を貰えないのなんてしょっちゅうだ。

 魔石の換金をするベルの後ろ姿を見ながら、思う。目の前のことの人も、きっと他の冒険者と同じなのだろう。

 しかし──

 

「はい、リリの分」

「えっ……」

 

 ベルから大量のヴァリスが入った袋を渡される。

 集めた魔石の量から察するに、稼ぎの半分相当が報酬ということになる。

 この人は、それを何の躊躇いもなく、当然のように渡した。

 

「こ、こんなにいいんですか!?」

「当然だよ。リリのおかげでこんなに稼げたんだから」

「リリのおかげなんて…… こんなの、誰にでもできることですよ」

「そんなことないよ」

 

 ベルは屈託のない笑顔を浮かべながら、手を差し伸べる。

 

「ねえ、リリ。良ければ明日もサポーターを引き受けてくれないかな? また、リリと一緒にダンジョンに潜りたいんだけど……」

「は、はい」

 

 考えるよりも先に体が動き、ベルの手を取ってしまった。

 違う。これはそう、こんな良い金ヅルを逃す手はないから、体が無意識に反応しただけだ。きっとそうだ。

 ……だけど、他の冒険者とは違う不思議な人というくらいは、認めてやっても良いかもしれない。ベルの笑顔を見て、そう思った。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 ベルたちがダンジョンから帰還したほぼ同時刻。

 ダンジョンの中階層に、ロキファミリアの第一級冒険者たちの姿があった。

 今彼らがいるのは、ある冒険者の仲間の死体が消えたという場所である。何か手がかりがないか調査しているが、不審な点は未だに見つからない。

 

「チッ、何で俺がこんなことを……」

「文句言わない! 団長のご命令なのよ!」

 

 愚痴をこぼすベートを叱るティオネ。とはいえ、誰もが大なり小なりではあるが何も変わらない状況に苛立っている。

 

「何も見つからない、か。そろそろ日を改めた方が良さそうかな。このままじゃ、みんな不満が溜まりそうだしね」

「ああ」

 

 フィンの言葉に頷くアリマ。

 

「手がかりを掴むまでは、個人調査に切り替えた方がいいかな。さすがに、みんなを毎回駆り出す訳にはいかない」

「1人でいいのか?」

「危険は承知の上さ。それに、本当に危なくなったら恥も外聞もなく一目散に逃げればいいだけだしね」

「ティオネなら喜んでついてくるんじゃないか?」

「あはは、検討しておくよ……」

「そうか」

 

 会話が途切れる。

 しばらくして、アリマはダンジョンの探索に戻ろうと足を進める。

 

「ちょっと待って」

 

 フィンの声にアリマは足を止め、ゆっくりと振り返る。

 

「会議のことなんだけど、君のマイペースは今に始まった事じゃないから、僕は気にしていないよ」

「……」

「その代りと言ってはなんだけど、君の口から直接聞きたいことがある」

 

 次の瞬間、2人の間の空気が凍った。

 

「信じていいのか?」

 

 普段のフィンからは想像もできないような、鋭く、冷たい声。並の冒険者なら顔を青ざめ、震え上がるだろう。

 しかし、フィンと対峙しているのは並から最も程遠い存在、キショウ・アリマ。フィンの声を浴びせても、眉一つ動かさない。

 

「ああ」

 

 短く言葉を返すアリマ。

 それを聞いたフィンは、少し気まずそうな様子で笑った。

 アリマが完全な黒だとは思っていない。しかし、昨日のアリマからは何か知っているような雰囲気を感じた。

 だから揺さぶりをかけてみたが、アリマはやはり無表情。彼が何を考えているのか、サッパリ分からない。

 

「変なことを聞いて悪かったね。それじゃあ帰ろうか」

 

 これ以上ダンジョンに粘っても無駄だろう。成果はないが、仕方がない。

 歩き出そうとした、そのとき──

 

「待て」

 

 今度はアリマがフィンを呼び止めた。

 何かが地面に落ちた音がする。

 アリマの足下にはアタッシュケースが転がっていた。蓋が開いている。つまり、IXAかナルカミを取り出したということ。

 フィンはアリマの手に目を向けた。アリマの右手にはIXAが握られている。

 

「遠隔起動」

 

 アリマはそう呟き、IXAを── 地面に突き刺した。

 ダンジョンの地盤が削れる音が響く。

 遠隔起動。IXAの特性の1つである。アリマほどの卓越した操作技術ならば、IXAの切っ先を地中に潜り込ませ、地上にいる敵を下から串刺しすることもできる。

 何故、今この場で遠隔起動を──。

 フィンだけでなく、他の者たちもアリマの行動に注目している。

 

「!」

 

 アリマが地面から跳び退く。

 次の瞬間、無数の蔓がアリマのいた地面を突き破り、現れた。

 軽やかに着地するアリマ。いつの間にかIXAも元の形状に戻っていた。その切っ先には紫色の体液が滴っている。

 

「アリマ、これは!?」

「モンスターだろう。地中に気配を感じた」

 

 地面を掻き分けるように、大量の蔓が溢れ出てくる。

 いくつもの蔓が絡み合い、上空へと伸びていく。まるで柱。フロアの天井を支える柱のようだ。あまりの大きさに、その場にいる誰しもが顔を上げる。

 蔓の頂が四方に分かれる。中から出てきたのは巨大な花弁だった。見る者を惑わすような、毒々しくも美しい紫色をしている。

 

「し、植物!? それともモンスター!? 何なんですかこの大きさ!?」

「イイねぇ、こういう方が性に合ってらあ!」

 

 冒険者とモンスターが出会えば、やるべきことは2つに1つ。

 即ち逃げるか、倒すかだ。

 ロキファミリアの誰もが武器を構える。大きさに気圧され、ロクに戦わぬまま撤退するなど、ロキファミリアの冒険者であるという誇りが許さない。

 

「レフィーヤ、仕掛けるぞ」

「は、はいっ!」

 

 フロアの天井にまで届きそうな巨体。接近戦なら脅威だが、魔法を使える者からすればただの的だ。

 

「「!!?」」

 

 どこからともなく無数の蔓が伸び、リヴェリアとレフィーヤの手足に絡み付く。

 振り解こうと力を入れるも、手足はピクリとも動かない。

 周りを見る。他の者は何ともない。狙われているのは、一番遠くにいたはずの自分たちだけ。

 ぞくり、と戦慄するリヴェリア。最悪の可能性を思い当たる。このモンスターには知性があるのではないか? 魔法を使うのを察知して、優先的に狙ったとしか考えられない。

 

「きゃっ!?」

「レフィーヤ!」

 

 レフィーヤが地面に倒れる。

 手足に絡みついた蔓が、彼女を本体の元に引き摺り込もうとしていた。

 

「テンペスト」

 

 アイズがエアリアルを発動し、吹き荒れる風が2人に絡みついていた蔓を全て斬り刻んだ。

 

「ありがとうございます、アイズさん!」

「うん」

 

 その光景を見て、思わずフィンは眉をひそめる。

 力のステイタスは低いとはいえ、リヴェリアはLv6の冒険者だ。アリマやフィン、ガレスならばともかく、Lv5の冒険者が捕まってしまえば、脱出は難しいだろう。

 ならば──

 

「僕、アリマ、アイズは本体を叩く! リヴェリア、レフィーヤは魔法の詠唱! 他のみんなはリヴェリアとレフィーヤを守って!」

 

 全員がフィンの言葉を聞き、動いた。

 アリマ、アイズ、フィンは本体であろう花に突撃する。他の者たちは、詠唱中のリヴェリアとレフィーヤを守りながら、四方八方から伸びる蔓に攻撃する。

 この作戦は、いかに早くリヴェリアとレフィーヤの魔法が炸裂するかにかかっている。ベートたちが2人を守るのもそうだが、アリマたち前衛もできるだけ蔓を引き受け、後方の負担を減らすのかも肝心だ。

 

「テンペスト」

 

 蔓はアイズに接近することすら叶わず、暴風により薙ぎ払われる。

 短い詠唱で範囲攻撃を可能にするアイズの唯一の魔法、エアリアル。フィンの読み通り、このモンスターとの相性は抜群だった。

 

「!」

 

 蔓が絡み合い、一本の巨大な蔓の鞭になる。

 鞭が振るわれる。テンペストでも吹き飛ばせない。風邪を切る音を響かせながら、鞭がアイズへと迫る。

 アイズは後方に大きく跳び退き、鞭を躱す。その間際、不壊の剣デスペラードで斬りつける。鞭がアイズのいた地面に直撃し、同時に大きく陥没する。途轍もないパワー。マトモに受けるのは得策ではない。

 しかし、切断まではできなかったものの、それなりに深い傷は与えた。このままダメージを積み重ねれば、いずれ斬り落とせる。

 そう確信した矢先に、別の蔦が鞭に絡みついた。瞬く間に、切られた場所が修復されてしまった。

 狙いを定めたのか、蔓の鞭は執拗にアイズを狙う。あまりの猛攻に、アイズは躱すだけで精一杯だ。

 

「アイズでも駄目か……っと!」

 

 フィンも、蔓のあまりの手数に苦戦していた。切っても切っても、次から次へと湧き出てくる。思うように前へ進めない。

 ベートたちもあまりの数に手が足らず、蔓がリヴェリアとレフィーヤに攻撃するのを許してしまっている。蔓の対処で、詠唱が中断されるのは言うまでもない。

 そんな中、アリマは──。

 

「……」

 

 1人、本体の根元まで到達していた。

 IXAを振るう。本体の根元が斬れ、紫色の体液が飛び散る。

 苦しそうに花が揺れる。次の瞬間、アリマに無数の蔓が襲いかかる。

 

「……」

 

 目に見えない速度でIXAを振るい、全ての蔓を斬り落とす。いや、それだけではない。一瞬の合間に本体の根元も切り裂いている。

 手数だけ増やしても無駄だと悟ったのか、無数の蔓が絡み合った鞭を形成する。アイズに振るわれたそれとは、比較にもならない大きさ。一撃で叩き潰す気だ。

 尋常ではない風切り音。鞭というよりも、巨人の腕だ。

 普通なら受け止めようとは思わない。即座に回避行動に移るだろう。

 しかし、アリマは──。

 

「防壁展開」

 

 漆黒の盾が現れる。IXAの防御形態だ。

 まさか、あの攻撃を受け止める気なのか!?

 アリマ以外の冒険者は息を呑む。

 轟音が響く。土煙が舞い、アリマの姿を覆い隠す。

 土煙が晴れる。そこにいたのは、IXAで蔓の塊を受け止めているアリマだった。即座にIXAを攻撃形態に換え、蔓の塊を真横に切り抜ける。

 

「アリマ、離れて!」

 

 ティオナが叫ぶ。

 アリマが蔓の大部分を引き受けた結果、リヴェリアとレフィーヤが詠唱するのに十分な隙が生まれた。

 つまり、広範囲殲滅魔法攻撃が来る。

 リヴェリアとレフィーヤの杖には、有りっ丈の魔力が込められた超弩級の火球が形成されていた。

 2つの火球が本体へ射出された。

 それに直撃した瞬間、植物型モンスターは炎に包まれた。勝負ありだ。全ての蔓を燃え尽くすまで、あの焔は止まらないだろう。

 

「まだだ!」

 

 フィンが叫ぶ。

 まだ動けるだけの力があるのか、植物型モンスターは燃えたままの蔓をフィンたちに振り下ろそうとする。

 ──とすっ。

 捩れた槍のような黒い物体が、植物型モンスターを真下から串刺しにした。IXAの遠隔起動と理解できたのは、植物型モンスターが黒い霧になってからだった。

 アリマは倒した喜びも達成感も感じさせない無表情で、IXAを元の状態に戻した。

 

「終わった、の……?」

 

 ティオナが呟く。その言葉は、この場にいる誰しもの思いを代弁していた。

 途轍もない強敵だった。

 どう控えめに見積もったとしても、Lv6に相当する強さだ。中層にいていいようなモンスターじゃない。

 もしもアリマがいなければ、更に苦戦を強いられていただろう。

 

「フィン、死体が消えたのはあのモンスターが原因じゃないのか?」

 

 リヴェリアの言葉にフィンは頷く。

 

「ああ、僕もそう思う。あのモンスターは冒険者の死体を地中に引き摺り込んで、養分にしていたんだろう」

「……知性が、あるようにも見えました。私とリヴェリアさまを狙ったのもそうですし」

「私のエアリアルも突破された……」

「知性がつく長い間、冒険者の死体を養分にして、潜んでいたんだと思う。本当にとんでもないモンスターだったよ」

「あの大きさじゃ、ダンジョン全体に根を張っていたとしても不思議じゃないもんね」

 

 気づけば、親指の疼きも消えている。きっと、あのモンスターが消えたからだろう。

 

「暴れ足りねえ…… 暴れ足りねえぞ! 俺がやったの、リヴェリアとチビのお守りをしただけじゃねえか!!」

「じゃあ、久し振りに稽古でもしようか」

「それなら、私もお願い」

「ア、アイズもか!? 望むところだオラァ!!」

「あっ、私もー! 久し振りにアリマと身体を動かしたいなー!」

「平胸ぇ!! テメエしゃしゃり出てくんじゃねえ!!」

「誰が平胸だああああ!!!!」

「まったくお前らは……。せめてダンジョンから出てからやるんだぞ」

「団長! 今日もかっこよくて、的確な指示でしたよ!!」

「あはは、ありがとう」

 

 あれだけの激闘の後なのに、相変わらず賑やかなロキファミリア。思わずフィンもつられて笑う。

 手がかりを掴むどころか、元凶を倒してしまった。本当に、ダンジョンでは何が起こるか分からない。

 ちなみに、ダンジョンでの戦いよりアリマとの稽古の方が疲れたと、後にアイズたちは語ったそうだ。

 

 

 

 




 更新速度落ちると思います。ぐぎぎ……!
 気長にお待ちいただければ幸いです。
 感想・評価ありがとうございます。まぐっ……! りながら頑張ります。

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