ダンジョンに白い死神がいるのは間違っているだろうか 作:あるほーす
今日の豊饒の女主人はより一層の繁盛を見せていた。神会の後ということもあり、誰も彼も飲めや食えやのお祭り騒ぎだ。
特に今回は、とある少年── ベル・クラネルがオラリオ最速でLv2にランクアップを果たしたという噂で持ちきりだ。
しかし、噂の張本人は不満気な表情でテーブルに突っ伏していた。
その原因は、ベルに付けられた二つ名にある。
「未完の少年って二つ名、どう思う?」
「普通、ですね」
ベルの問いかけに対して、向かいの椅子に座るリリルカは特に迷わずそう言った。
「そうなんだよ。神様は無難だって喜んでいたけど、僕はもうちょっとカッコいい名前が欲しかったな……」
そう、普通なのだ。同じ時期にランクアップしたヤマト・命は【絶†影】というカッコいい二つ名が付けられたのに……。
どうでもいいが、とある白い死神は神々の付ける二つ名に「貴様らのネーミングセンスには東京喰種のようなオサレさも深さも感じられない!」と思っていたりする。
「それに、未完の少年って何だか少し子供っぽい気がするんだよね」
「何言ってるんですか、ベルさんはまだまだ子供ですよ」
声のした方を見ると、オードブルのサラダと飲み物を持ったシルとリューがいた。
「シルさん、リューさん!」
シルとリューはテーブルの上にオードブルのサラダと飲み物を置く。そのままシルはベルの隣に、リューはリリルカの隣に座った。
「ランクアップ、おめでとうございます。凄いですね、ベルさん。元々アリマさんの一番弟子で有名だったのに、最速でLv2に上がって、更に名前が広まっちゃいましたよ」
「私からも祝言を。やはりあのキショウ・アリマが見込んだ冒険者か、と評判ですよ」
「そうなんですか? 何だか照れ臭いな……」
明らかに頬が緩んでいるベル。
そんなベルの様子を見て、リリルカは面白くなさそうに目を細めた。2人きりの時間を邪魔されて、しかも意中の人が自分以外の異性に意識を向けていたら、誰だってそうなるだろう。
「お2人とも、お仕事は良いんですか?」
「心配無用です! パーっと祝福してこいと、ミア母さんが休憩を貰いましたから」
「私も同様です。それと、たっぷり金を落とせと」
店員がこんな所で油を売っていていいのか、という皮肉を込めた発言にも、シルは満面の笑みで応答し、リューは相変わらずの澄ました表情だった。
「心配とかではなく…… いえ、何でもないです」
今日だけは気にしないことにしよう。この目出度い席で僻んでいても、場が白けるだけだ。今はこの料理と、ベルのランクアップを素直に喜ぶとしよう。
4人はグラスを持ち、ベルのランクアップに乾杯した。
ミノタウロスにどうやって勝ったのか、アリマはこんな短期間でランクアップさせるよう指導したのかなど、話に花を咲かせる。
ふと、ベルは話の種にと、ある話題を零した。
「神様から聞いたんですけど、本当は JACK′s ナイフっていう二つ名が付く予定だったんですよ」
「あれ、結構カッコいいじゃないですか」
「だよね、カッコ良いよね! でも、神様が全力で阻止しちゃって……」
「あらら、何でまた」
「それが、僕にもよく分かんなくて」
リューが口に手を当てて、考え込むかのような素振りを見せる。
「JACK…… 騎士…… ああ、なるほど」
「あっ、私も分かりました」
シルも合点したように手を叩く。
何が分かったのかと、ベルとリリは首を傾げる。シルはクスリと笑い、2人にヒントを教えることにした。
「アリマさんのファーストネームを思い出してみて下さい」
「アリマさんのファーストネームですか?」
「えっと、キショウ・アリマ…… キショウ……」
「「あっ!」」
「騎士のナイフ…… つまり、アリマ様の懐刀みたいな意味になりますね」
騎士のナイフ。ある意味、アリマの一番弟子であるベルに相応しい二つ名だろう。
「恐らく、それがヘスティア様は気に食わなかったのかと」
「そっか、それで……」
二つ名がアリマ関連となれば、ヘスティアが全力で阻止したのも頷ける。
ヘスティアは意外とやきもちを焼きやすい。アリマは訓練でベル君と一緒にいるのに、二つ名までアリマ関連になるなんて納得いかない、といった所か。
「未完の少年って、やっぱり普通ですよねえ。それに、大人になっても未完の少年だったらどうしよう……」
「俺は良いと思うよ、未完の少年」
「そうですかねぇ…… って、アリマさん!!??」
いつの間にやら、テーブルの横にアリマが立っていた。
豊饒の女主人が静まり返り、誰もがアリマに目を向ける。
ベルだけでなく、豊饒の女主人にいる誰もがアリマに気づいていなかった。つまりそれは、冒険者としてかなりのやり手であるリューやミアにすら気配を悟らせずに、ここまで近づいたということ。
意図してか、それとも無意識か。どちらにせよ規格外であることには変わりない。
「えっと、どうしてここに!?」
ベルが慌てた様子で聞く。
「ベルがLv2になったと聞いたから、そのお祝いに」
誰もがそういうことじゃないと心の中でツッコミを入れる。
聞きたいのは、ロキファミリアが遠征に向かっているのに、どうしてアリマがここにいるのかだ。まさか、アリマが遠征のメンバーに外されたなんてことはあり得ないはずだ。
「……あの、ロキファミリアは遠征の真っ只中なのでは?」
「今回は途中で参加することにした。どうせすぐ追いつける」
リリルカの問いかけに、アリマは何てことないようにそう答えた。
アリマの言葉を聞いた誰もが頬を引き攣らせる。
ロキファミリアは文句なしの一流ファミリアだ。ダンジョンを攻略する速さは、それこそオラリオ最速と言っても過言ではない。そんな彼らがダンジョンに潜ってからもう4日ほど経っているのに、アリマはそれでもすぐに追いつけると言った。
最早尊敬を通り越して、呆れてしまう。ただ、ベルだけは「凄いですアリマさん!」と目を輝かせていた。
「そういえば、最後に会った日に1人でダンジョンに潜るって言ってましたよね。もしかして、その日からずっとダンジョンに?」
「ああ」
「凄い、そんなに長くダンジョンに潜れるなんて……」
ベルとアリマが最後に会った日は、今から10日以上も前のことである。その事実を知っているリリルカは、より一層頬を引き攣らせた。
「それと──」
アリマの目がシルに向けらる。
「……?」
突然アリマに目を向けられたシルは取り敢えず微笑みかけるも、アリマの表情はピクリとも動かない。
「……」
「あ、あの? 私の顔に何か付いてます?」
「いや」
アリマはそう呟くと、シルから視線を外した。
「改めて。ランクアップおめでとう、ベル」
「あ、ありがとうございます!」
「これからは稽古をもっとキツくしても大丈夫そうだな」
「はい、どんな稽古でも頑張り…… えっ、今よりキツく? ……頑張ります!」
頑張りますと言ったものの、ベルの顔は真っ青になっていた。
無理もない、とリリルカは思う。
モンスターと戦っている最中にIXAで突き刺されたり、ナルカミの雷撃から逃げながら戦ったりと、十分に厳しい稽古だったのに、何をどうやってこれ以上厳しくするのだろうか。仮に厳しくできるとしたら、それこそ死線を彷徨う覚悟が必要になる。
「リリルカも、よくベルのサポートをしてくれた」
「!? い、いえ! 褒められるようなことなんて、リリは何も……」
「そんなことないと思うよ」
まさか自分も褒められるとは思っていなかったリリルカは、顔を赤くしてアリマの言葉に反応する。
雲の上どころか大気圏すら突き抜けた存在のアリマに褒められる日が来るなんて、夢にも思わなかった。何だか気恥ずかしいが、それ以上の喜びを感じる。
ベルがアリマの期待に必死になって応えている理由が、少し分かった気がした。
「お席、お持ちしました!」
ふと、メイドの1人が椅子を持ってきた。
店内にいる全員がホッと胸を撫で下ろす。アリマを立たせたまま、呑気に食事なんてできる訳がない。
しかし、アリマは首を横に振った。
「すまないが、もうダンジョンに向かわないといけない」
「もう、ですか? もう少しゆっくりしていけば……」
「いや、フィンたちが59階層に潜るとなると、黙って見てる訳にはいかない」
そう言って、アリマは出入り口の扉へと足を進めた。アリマを見ていた冒険者たちは慌てて通路を譲る。
「それじゃあ、また」
それだけ言い残すと、アリマは豊饒の女主人を立ち去った。残るのは、嵐の後のような静けさだけだった。
「嵐のように来て、嵐のように去って行きましたね……」
シルのその言葉に、無言ながらも誰もが同意した。
▲▽▲▽▲▽▲▽
ベルは新しい防具を買うためにヘファイストスファミリアのバベル支部にやって来た。
お目当の品は、ヴェルフ・クロッゾが作った防具だ。
他の店にも足を運んでみたが、ヴェルフの作った防具は売っていなかった。そこで、アリマと一緒に来た店に訪れた。ここならヴェルフの作った防具が置いてある可能性が一番高いと踏んだのだが……。
閑古鳥すら寄り付かないような店が一変、店前には溢れるような人集りができている。これもアリマがこの店で商品を買った効果だろうか。となると、ヴェルフの作った防具は売り切れているかもしれない。
ベルの胸に焦りの感情が芽生える。
「頼むよ、お前にとっても悪い話じゃないだろう!」
「お断りだ。他を当たりな」
店中から2人の男の会話が聞こえた。
何があったのだろう。ベルは人集りの中を進んで行く。
店内に入り、ある程度前に進む。店の主人と、首に青いスカーフを巻いた赤髪の男が見えた。
「お前だってもっと儲けたいだろう!? もっと速く新しい武器を造ってくれよ!」
「防具を置かせてくれた誼みで会いに来てみりゃあ……。何度でも言うぞ、俺は金儲けがしたくて武器や防具を造ってるんじゃねえんだ! やっつけ仕事なんて絶対にしねえ!」
話はそれきりだと言わんばかりに、赤髪の男がカウンターから離れる。
当然、行き先はベルたち野次馬のいる出入り口。不機嫌そうな顔で、ズンズンと大股で向かってくる。
周りの人たちが赤髪の男に道を譲るろうと、左右に捌ける。ベルもそうしようと足を進めると同時に、赤髪の男の足が止まった。
「お前、ベル・クラネルか!?」
「えっ?」
不機嫌な表情から一転、驚いたような、それでいてどこか嬉しそうな表情に変わる。
「一度話してみたかったんだ! おい、今時間あるか?」
「あ、ありますけど……」
あれよあれよと、近くにあるベンチまで連れて行かれ、そこに座らされた。
「自己紹介が遅れたな。俺はヴェルフ・クロッゾ。お前が選んでくれた防具の製作者だ」
「あなたがあの防具を造ったクロッゾさんなんですか!?」
「おう、そうとも。……それと、俺の名前を呼ぶときはヴェルフでいい。クロッゾって呼ばれるのは、あまり好きじゃねえんだ」
「えっと、それじゃあヴェルフさん、さっきの会話は何だったんですか?」
「ん? ああ、そりゃ聞こえてたよな。ほら、俺の防具をキショウ・アリマが買ってくれただろう。それで俺の造った防具やら武器やらが飛ぶように売れるもんだから、あのオヤジが俺に何でもいいから武具をさっさと造ってくれって頼んでいたのさ」
武器や防具を造ってくれと頼まれるのは、鍛冶職人として喜ぶべきことだろう。しかし、先ほどの会話では、ヴェルフは武器や防具を作るのを拒んでいた。
何か、造れない事情でもあるのだろうか。
ベルのそんな疑問を察していたのか、ヴェルフは真剣な面持ちで口を開いた。
「そりゃあ、金があったに越したことはねえよ。だけどさ、そんなことのために武器や防具を打っちまったら、使い手も武器たちも可哀想だろ? 俺が鍛冶士になったのは、最高の武器や防具を造りたいからなんだ。そこだけは曲げたくねえ」
ヴェルフの言葉からは、自分の考えは絶対に曲げないという強い信念が感じられた。
「……その気持ち、分かります。他人がどうこう言おうと、自分が絶対に譲れないものなんですよね」
信念…… と言えるほどのものではないかもしれないが、ベルにも譲れない想いはある。
どんなに困難だろうと、アリマの背中に追いつきたいという想いだ。
誰かがその想いを聞けば、そんなの無理だと言い、笑うかもしれない。それでも、ベルはその想いを諦めるつもりはない。
きっと、ヴェルフも似たような気持ちなのだろう。
「はは、ただの意地みたいなもんなんだけどな。ありがとな、ベル。そう言ってくれると嬉しいぜ」
「いえ、凄く立派な信念だと思いますよ」
その言葉を聞いたヴェルフは、何かを決意したようにベンチから身を乗り出した。
「……なあ、ベル。突然だけどよ、俺と直接契約を結ばないか?」
「直接契約、ですか?」
「ああ。お前の専属になって、武器や防具を造ってやるってことだ」
「本当ですか、嬉しいです!」
「その代わりにだけどな…… 少し頼みもあるんだ」
「頼み、ですか?」
「俺をお前らのパーティに入れてほしいんだ。ランクアップして鍛冶のアビリティが欲しいんだが、1人じゃどうにも効率が悪くてな……」
ヴェルフのパーティ加入の頼みは、ベルにとって願っても無いことだった。
昨日の祝賀会のリューの言葉によると、中層からのダンジョンはパーティを組んでいないと厳しいらしい。
アリマがいれば中層はおろか、そのまま下層まで行けそうな気もするが、アリマに頼らないと中層に行けないというのも情けない話だ。アリマがいなくとも、中層に潜れるようになりたい。
ソロで潜れるようになれば、という考えは即却下された。中層以降をソロで潜れるのは、それこそアリマやアイズといった、超一流の冒険者でなければ自殺行為と変わらない。
パーティを組めと、半ば恐喝に近い形でリューに勧められた。しかし、アリマとリリルカ以外に頼れそうな冒険者はいなかった。
だから、ヴェルフがパーティに参加してくれるのは素直にありがたいのだが……。
「歓迎しますけど、ファミリアの人たちはどうしたんですか?」
武器や防具を売っているということは、ヴェルフはヘファイストスファミリアに所属しているはずだ。ランクアップをしたいなら、ヘファイストスファミリアのパーティに参加すればいい。
ベルがそんな疑問を持つのを見越していたのか、ヴェルフは更に言葉を続ける。
「ファミリアの奴らとはちょっと揉めちまってな。少し頼み辛いんだわ。勿論、お礼はするぜ。あのおっさんの店に来たってことは、武器か防具が欲しいってことだろ? 俺の工房にある自信作をやるよ」
「わ、悪いですよ! 僕にとっても、ヴェルフさんがパーティに入ってくれるのはありがたいのに!」
「なぁに、金なら腐るほどあるから気にすんな。それにさ、お前を一目見て思ったんだよ。俺が作った武器や防具を使ってほしいって。だから、俺の意を汲むと思って受け取ってくれ」
「そ、それならお言葉に甘えて……」
「いよっし、決まりだな! それで、武器と防具のどっちが欲しいんだ?」
「防具が欲しいんです。実は、ミノタウロスとの戦いで防具が砕けちゃって」
「マジかー…… まだまだ修行が足りねえな。まあ、明日はもっと性能の良い防具を持ってくるから、期待しててくれ!」
こうして、2人目の仲間がベルのパーティに加わった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
迷宮都市オラリオの中央に聳え立つ象牙の塔、バベル。その根本にある中央広場は、ダンジョンに挑もうとする多数の冒険者たちが往来している。
その中には、今まさにダンジョンに挑もうとするベルたちの姿もあった。
「ベル、似合ってんじゃねーか」
「そうですか?」
ベルは新しい防具を装備していた。
その名も
外見こそアリマに買ってもらったMK-IIとほぼ同じものの、防御力が格段に上昇しているらしい。
名前のセンスが異次元な点を除けば、満足できる性能の防具だ。
「んで、そいつは?」
ヴェルフは大きな荷物を背負う少女──リリに目を向けた。
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。この子はリリ。僕の仲間です」
「リリルカ・アーデです。色々とお話は聞いていますよ、ヴェルフ様」
リリルカの口調はどこか冷たさを帯びていた。
「……色々、ねえ」
リリルカの「色々」という言葉の真意に気づいたのか、ヴェルフは目を細めた。
「ベル、お前ももう聞いたか?」
ベルは黙って頷いた。
昨日のヘスティアとの会話を思い返す。
クロッゾ家は昔、強力な魔剣を造ることができる鍛冶一族として栄華を極めていた。しかし、ある時期から魔剣を造ることがパタリとできなくなり、凋落の一途を辿ることになったという。
しかし、何の因果か目の前の男には── ヴェルフには、強力な魔剣を打つ能力が与えられた。しかし、当人は魔剣を打つのを嫌がっているらしい。
「だけど、僕はそんなの気にしませんよ」
魔剣を打たないのは、きっとヴェルフに譲れない何かがあるからだろう。
それに、魔剣を打つように強要するつもりはないし、必要もない。
今の自分にはヘスティアナイフと、何よりユキムラがある。これ以上望めば、それこそバチが当たってしまう。
その言葉を聞いたヴェルフは、少し安心したように笑った。
「そうそう、細かいことは気にしない方がいいんだ。お前もあまり気にしすぎると美容に良くないぞ、リリ山」
「リリ山!!? 何ですかリリ山って!?」
「山みてえにデカいバッグを背負ってるからな。何だ、不満なのか?」
「不満しかないです! 何でそんなどこぞの山みたいな渾名を付けられなきゃいけないんですか!!」
「ナイスな渾名だと思ったんだがな」
「全然ナイスじゃないです! そんなセンスのない渾名を付けられるなんて堪ったものじゃありません! もうダンジョンに行きますよ!」
ベルたちは順調にダンジョンを進み、あっという間に11階層に着いた。
一言でダンジョンの構造を説明するなら、霧が発生している草原だ。
しばらく探索していると、もこりと地面が盛り上がった。モンスターが現れる予兆だ。ベルたちはそれぞれの武器を構える。
現れたのはゴブリンとコボルト。1匹1匹の力は大したことはないが、いかんせん数が多い。
「ヴェルフさん、そっちは頼みます!」
「おう、任しとけ!」
ヴェルフは大剣を豪快に振り、1匹のコボルトに叩きつける。コボルトはぐちゃりと音を立てて潰れ、黒い霧となって消えた。
次の獲物へ移ろうとしたとき、モンスターたちの体に次々と矢が突き刺さった。
「リリも援護します。……今更ですけど、ちゃんと戦えてますね」
「あたぼうよ。その辺の冒険者よりは頼りにしてくれても良いぜ。それよりリリ山、ベルを援護しなくていいのか? 向こうの方が数が多いだろ」
「それこそ要らない心配です。あの人はアリマさんの一番弟子なんですよ」
一歩も動かないベルと、対照的に息を荒げながら襲いかかるゴブリンたち。
ベルはジッとゴブリンたちの動きを観る。無駄に動く必要はない。ただ、限界まで引きつけるだけ。それだけでいい。
ゴブリンたちがユキムラの攻撃範囲まで侵入した瞬間、ユキムラを起動する。刀身が生える。それと同時に、ユキムラを横一閃に振るう。
空気すらも斬り裂くような感覚。刃の走る軌跡にいたゴブリンたちは、成す術もなくその身に刃を受け入れた。まるで最初からそうだったように、ゴブリンたちは上半身と下半身に斬り裂かれた。
息つく暇もなく、別のゴブリンたちがベルを攻撃しようと跳びかかる。
ベルは僅かに動くだけでゴブリンたちの突進を躱し、すれ違い様にヘスティアナイフで1匹ずつ斬りつけた。
「すっげえ……」
あれだけいたゴブリンたちがほんの一瞬で全滅した。
ヴェルフたちもモンスターを倒し終わり、ベルたちは一息つく。ふと、ヴェルフはベルの持つ長剣── ユキムラに目を向けた。
「なあ、ベル。それ、一級品装備なんじゃねえか?」
「ああこれ? 実はアリマさんが使っていた武器なんだよね。ユキムラって銘なんだ」
ヴェルフはユキムラの銘を聞いた瞬間、目を大きく見開いた。
「ユキムラぁ!!?? ユキムラって、あのユキムラか!!?? うおおおおおおおお、まさかこんな近くで見れるなんて!!!」
兄貴肌で、いつも冷静なヴェルフからは想像もつかない大声だ。
「ベルさん、この人危ない人ですか?」
「ちょっとリリ!?」
「悪い悪い、つい興奮しちまった。ロキファミリアの冒険者が時々うちのファミリアにユキムラの整備を頼みに来てな、偶然一目見たときからユキムラを俺の目標にしてるんだ。だからユキムラで戦うところを生で見れて、嬉しくてな。そりゃあIXAやナルカミには性能的に負けるし、派手なギミックはねえけどよ、こいつはアリマさんと一緒に成長した武器なんだよ。最初こそ普通の武器だったのに、今となっちゃ一級品装備としてバリバリ活躍してるんだぜ。信じられるか? 汎用性の高さにも目を見張る点だよな。特殊なギミックはないが、それを補って余りある切れ味がある。どんなモンスターにだって一定以上の効果がある。こんな凄え武器他にねえよ」
リリルカは既に魔石の回収に向かっていた。ベルは適当に相槌を打ちながら、止まる気配のないヴェルフの言葉を聞き続ける。
「なあなあ! もう一回その辺のモンスターと戦ってくれよ! 今度はユキムラがモンスターを切り裂く瞬間を間近で見たいんだ!」
「え、ええ」
本当にユキムラが好きなんだなあ、と思いながら苦笑いを浮かべる。
これでユキムラの整備を頼んだら、どれだけ興奮するのだろうか。
「うわああああ!!??」
弛緩した空気を切り裂くような悲鳴。何人かの冒険者が、体長4Mを超える四足歩行の竜── インファントドラゴンから逃げていた。
迷宮の孤王が存在しない上層では、事実上の階層主と認識されているモンスターだ。当然、その強さも他の上層のモンスターとは隔絶している。
「リリ山、逃げろ!」
魔石を拾っていたのが災いした。
リリルカは、インファントドラゴンに狙いを定められてしまった。
リリルカはすぐに立ち上がり、駆け出すも、インファントドラゴンはリリルカ以上の速さで追いかけてくる。
このままじゃ、間に合わない。
「っ!」
ベルの足から青白い光が発せられ、どこからか鐘の音が響き渡った。ほぼ無意識に地面を一蹴りする。するとどうだろうか、ベルはかつてないスピードでインファントドラゴンの首に接近した。
勢いそのままユキムラを振るう。ユキムラは容易くインファントドラゴンの首を切り落とす。
受け身を取るのも忘れ、叩きつけられるように着地するベル。顔を上げると、呆然とした顔のリリルカとヴェルフと、インファントドラゴンの魔石がそこにあった。
あるほーす「ソードオラトリアか…… 面白そうだし、少し読んでみるか」
あるほーす「ぎゃ……めろッ!! 馬鹿野郎ォォ!! (プロットが)死ぬッ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!死ぬゥゥウゥゥ!!!!」
こんな事情で更新遅れました。とりあえず眼鏡買ってきます。
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