復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

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帰国と真実

 

 

冥府に行ってアテナとの婚約?パーティーをハーデスと部下の死神たちとした翌日、俺は暇をしていた。ハーデスに鍛えて欲しいと頼んでハーデスは了承してくれたのだが、俺の指導者を探すのに時間がかかっているそうだ。一人は簡単に見つかったがもう一人が良いのが居ないらしく、死者の中からも探しているとか……死者に鍛えられる生者って俺だけだろうな。

 

 

「なぁレージ、日本に帰ってみないか?」

 

「……」

 

 

そんな時にアテナに突然そう言われた。日本に帰る、つまり俺の家に行くつもりは無いかという事だろう。

 

 

正直、行きたくない。行ったらサーゼクスを殺せなかった自分を殺してしまいそうだから。でも行かないと父さんと母さんの遺体がそのままになっているかもしれない……多分誰かが見つけて警察に連絡して、事件扱いになってるかもしれないがそのままにされている可能性としては無くもない。

 

 

「……分かった、帰るよ」

 

 

悩んだ末に出した答えは帰る事。もしも二人がそのままだったらキチンと弔ってやりたいと思ったから。

 

 

「そういうと思って、すでに足は用意してあるぞ」

 

「初めまして坊ちゃん、アッシはヘルメスと申しやす」

 

「早ぇえよ!!」

 

 

アテナが足と言っていたのは羽の付いた帽子と靴を履いたダンディーなおじ様だった……ただし、リヤカー引いて現れてるけどなぁ!!

 

 

「ヘルメスだっけ?よろしくな」

 

「お礼は結構です……もしそれでもしたいというのなら!!坊ちゃんの知り合いのこう、膝が崩れた具合のマダムのご紹介をッ!!」

 

「ヘルメスは熟女趣味だ。六十代からミイラまでイケると豪語しておる」

 

「後半ただの乾物じゃねぇか!!ミイラ相手にしたいならエジプト行けよぉ!!」

 

「……すでに行って、エジプト神話の者たちと揉めた後だ」

 

「いやぁ古代のマダムは素晴らしかった……!!」

 

 

もうダメだこいつ。ミイラとヤった時の事を思い出してるのか顔がダラシなく緩んでいる。下半身(ゼウス)といいヘルメス(こいつ)といい、ギリシャにはハーデス以外にマトモな奴は居ないのだろうか?

 

 

「んで?これに乗れば良いの?」

 

「ヘイ、アッシなら世界の何処へだってひとっ飛び出来やす」

 

「実際便利だぞ。この間はハーデスと一緒にグランドキャニオンに日帰りで観光に行ってきた」

 

「フットワーク軽いなぁ……」

 

 

アテナが先にリヤカーに乗り、その膝の上に俺が座らされる。狙われてるって分かったけどアテナの態度は変わらないからどうも警戒し辛い……でも、なんかアテナになら良いと思っている自分がいる。

 

 

「乗りやしたね?ならしっかりと掴まってくださいーーー」

 

 

その瞬間、俺たちは風になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーゼェ、ゼェ……し、死ぬかと思った……!!」

 

「病み上がりとはいえ少し情けないぞ」

 

「いきなり音速の壁越えられたら人間だったらこうなると思うけど!?」

 

 

さっきまでギリシャにいた筈なのにものの数分で俺たちは日本に、俺が住んでいた町に来ていた。ここに居るのは俺とアテナだけで、ヘルメスは……マダムと仲良くなってくるから帰りたくなったら教えてくれと言って何処かに走り去っていった。

 

 

「ふぅ……」

 

「落ち着いたみたいだな……そうだ、ハーデスからこれを預かってる。被っておけ」

 

「これは……帽子?」

 

 

アテナから渡されたのは布を巻いて作った帽子の様なもの。アテナも同じ物を持っていて、それを躊躇いなく被っている。

 

 

「それはハーデスの隠れ兜と言ってな、簡単に説明すると姿を見えなくする効果がある。まぁ持っていても効果はあるし、同じ物を持っているか探査能力の高いものには効果は無いがな」

 

「へぇ……」

 

 

アテナに説明されながら俺はハーデスの隠れ兜を被る。見えなくなったという実感は無いが、被っているアテナの気配が薄くなっているので効果はあるのだろう。

 

 

「一応用心しなくてはな……まだサーゼクスがレージの家を見張っているかもれしぬ」

 

「……こっちだ」

 

『気持ちは分かるけど苛立つなよ主人、アテナとハーデスの警戒は正しいぜぇ?』

 

 

ラースが言った通りにサーゼクスとの接触を避けるのは正しい。原罪(ラース)を宿しているとはいえ、俺はまだ子供で戦い方を知らない。サーゼクス本人か、手先を送られたら何も出来ない。だから、今はこうして隠れる。

 

 

頭では理解している、心でも理解している。だが、俺の怒りは納得してくれない。今すぐサーゼクスを殺せと喚き立てる。

 

 

それを強引に押さえつけながら、俺はアテナと一緒に家に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー何だよ……これ」

 

「これは酷いな……」

 

 

10分程歩いて俺は家に帰ってきた……だけどそこにあったのは見慣れた家では無く、焦げた柱と燃えカスだけだった。

 

 

「証拠隠滅のために燃やされたか……成る程、一々記憶を操作するよりもこちらの方が効率が良いな……気に入らんが」

 

 

アテナが何か言ってるけど俺は半ば放心状態で聞こえなかった。玄関があったところから家の中に入り、台所だったところに行く。そこには燃えカスしか残っておらず、家具も何も残っていなかった。

 

 

「……レージ、大丈夫か?」

 

「あぁ……」

 

 

アテナに肩を揺すられて、惚けながら返事をする。

 

 

怒り以外の感情は薄れているのだと思ってた……でも違った。怒りが大きすぎただけだったらしい。俺の中で燃えている怒りと同じくらいの喪失感が襲ってきた。

 

 

「何か親がサーゼクスに狙われる様な心当たりはあるか?正直、ただの人間がここまでやられるとは思えない。何か理由があると思うのだが……」

 

「理由……」

 

「手掛かりでも何でも良い。例えば親がレージたちに入らせなかった部屋があるとか……」

 

「部屋……そういえば……」

 

 

アテナに尋ねられて心当たりがあったので、ふらふらと台所だったところから出て、階段があった場所に向かう。階段の下は物置になっていて、地下室があるんだと父さんが言っていた気がする。俺も真輝も一度も入った事は無かったが、良く父さんと母さんが出入りしていたのだ。

 

 

階段のあった場所に辿り着いて、燃えカスを退かす。するとそこには焦げた扉があった。

 

 

「ここ……俺たちは入った事は無いけど父さんと母さんは良く出入りしてた」

 

「……なんと、これは……」

 

「何かあったのか?」

 

「この扉に恐ろしく複雑な魔術的施錠が施されている。正しい方法以外でここを開けようとしたら中が潰れる仕組みになっているな……時間をかければ魔術的施錠を解除する事は出来るだろうが、少なくとも半日はかかる」

 

 

……魔術的施錠?それも女神のアテナが半日以上かけなければ解けない様な代物が?父さんと母さんは何をしていたんだ……

 

 

「正しい方法って?」

 

「ここに穴があるだろう?6つの穴と1つの穴が。その穴に何かを嵌めれば開くのだが……」

 

「6つの穴……もしかして」

 

 

心当たりがあった。それは俺が首にかけていたネックレスだ。7歳の誕生日に父さんから貰ったもので、黄色と水色と蒼色と紫とピンクと暗い赤の玉に紐が通されている。真輝は母さんから灰色の玉に紐が通されているネックレスを貰っていた。

 

 

これじゃ無いかと思いながらネックレスの玉を扉の穴に嵌めていく。そして最後の玉を嵌めてーーー扉は開いた。

 

 

「開いた……」

 

「行こう、きっとこの先に何かある」

 

 

それに頷いて、アテナと一緒に地下に降りる。石造りで出来た階段を下っていくとすぐに地下室に着いた。そこは大体家と同じくらいの大きさで、良くわからない機材が所狭しと置かれている。

 

 

そして一番奥にあった机の上には、何も書かれていない封筒が1つだけ置いてあった。

 

 

「……」

 

 

それを手に取り、開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『零十郎か、それとも真輝か、二人のどちらかが見ているか分からないが手紙を遺す。きっとこの手紙を読んでいる頃には私と母さんは死んでいるだろう。書き遺すのは、私たちが殺された理由だ。

 

私と母さんは魔術師と錬金術の家系の人間だった。自分で言うのもなんだが私たちは天才で、いろんな結果を残してきた。それを聞いた悪魔から依頼を受けたのだ。

 

【魔力でも光力でも無い、全く新しい力を開発してくれと】。

 

その頃の私たちは天才と言われて天狗だったのだろうな、その依頼に二つ返事で答えてしまった。そして成功した。依頼を受けてから5年……たった5年で、悪魔の魔力とも、天使や堕天使の光力とも違う力を作ってしまった。

 

その力を私たちは星辰光(アステリズム)と名付けた。

 

だが、そこで1つ狂いが生じた。開発し、隔離していた星辰光(アステリズム)がどうしてだがお前たちに宿ってしまったのだ。星辰光(アステリズム)を産み出す力は零十郎に、星辰光(アステリズム)を滅ぼす力は真輝に。

 

どうにかしてその力を分離しようとしたのだが、出来なかった。そこで私たちは開発に失敗した、私たちには無理だと悪魔に報告する事にした。研究成果として二人を差し出せば富と魔術師錬金術の名声を得る事が出来ただろう……だが、そんな物のためにお前たちを犠牲になんてしたくなかった。

 

悪魔は食い下がっていたが私たちの対応が変わらないと判断したのか、しばらくすると退いた……そして、魔王であるサーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブを連れてきた。

 

魔王が来たとしても私たちの対応は変わらない。だが、その時のアジュカ・ベルゼブブが真輝を興味深そうに見ていたことが気にかかる。零十郎が遊びに出ていて居なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

恐らく、私たちが力の開発に成功したとアジュカ・ベルゼブブにはばれたのだろう。だとするなら星辰光(アステリズム)を宿した零十郎と真輝を私たちを殺してでも奪おうとするに違いない。

 

私たちとしては、二人には裏側の事情に関わって欲しく無い。ただの子供として遊んで笑って成長して、ただの人間としての人生を送って欲しかった。

 

だが、もし私たちが死んで、裏側について知ってしまったのなら、好きに生きなさい。例えそれが良い行いでも悪い行いでも、私たちはそれを誇らしく思う。二人が自分で選んだ道を、誇らしく思う。

 

最後にーーー産まれてきてくれてありがとう零十郎、真輝。お前たちは私たちの大切な宝物だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

手紙を最後まで読み終えて、堪えられなくなって来た。

 

 

この感情は、怒りじゃない。

 

 

現実離れしていたから、どこかで期待していたのだろう。もしかしたら、父さんと母さんは生きているんじゃないかと。

 

 

だけどこの手紙を読んで理解してしまった……二人はもう死んで、この世には居ないのだと。

 

 

怒りで誤魔化されていた、悲しみが湧き上がってきた。

 

 

「あぁ……あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……レージ、外に出たぞ」

 

「……うん」

 

 

手紙を読み終えたレージは泣いた。大声で、涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながらその場で泣き叫んだ。その姿はレージに惹かれているアテナでも見ていられない程に悲痛なものだった。

 

 

今思えばレージは悲しみを怒りで誤魔化していたのだろう。だが家に帰り、焼け落ちた家を見て、父親の遺した手紙を見て、悲しみを誤魔化仕切れなくなったのだろう。

 

 

今のレージに必要なのは時間だ。落ち着ける環境で、ゆっくりと時間をかけて悲しみを癒す。そうしなければ、レージの人間性が壊れてしまう。ただ復讐の為だけに生きる壊れた復讐者になってしまう。それをレージを愛しているアテナは望まなかった。

 

 

だからすぐにヘルメスに連絡をして、ギリシャに帰ろうとしてーーー

 

 

「ーーー待て、そこの2人」

 

 

ーーー結界に閉じ込められて、悪魔たちに囲まれた。対応の速さからしてアテナとハーデスの予想は正しかった。この家は見張られていて、悪魔たちは見張り役の者なのだろう。恐らくは上級悪魔、それも立ち振舞からして相当に戦い慣れている。

 

 

「その子供はカミシロレイジュウロウだな。我らの王サーゼクス様の命だ、その子供をこちらに渡してもらおう」

 

「ほぅ、それは妾がギリシャ神話のアテナだと知っての事か?」

 

 

威嚇として神威を悪魔たちにぶつける。悪魔勢力の立ち位置からして他の勢力との揉め事は望まないはずだ。ギリシャ神話の者だと身分を明かして威圧する。

 

 

現状で不利なのはアテナの方だ。悪魔たちは複数、狙いはレージを連れ去ること。対するアテナは呆然としているレージを1人で守らねばならない。ヘルメスに連絡をしようとしているが結界で阻まれて届かない。仮に1人がレージを捕らえ、残りで足止めされればアテナの負けは確実だ。

 

 

だからこその威嚇。普段ならばこれで退くのだがーーー

 

 

「狼狽えるな!!数はこちらの方が勝っている!!あの子供を連れて帰れば我らの勝ちだ!!」

 

 

ーーー指揮官が檄を飛ばした事で他の悪魔たちも冷静になってしまった。殺意こそは無いが闘気は十二分。アテナ1人なら苦戦はしないが……今のレージがいればそうはいかなくなる。

 

 

なんとしてもレージは守ると、アテナは武器である鎌を召喚しようとしーーーその隙を突かれて、レージに前に出られてしまった。

 

 

「ッ!!レージ!!」

 

「……なぁ、お前たち。俺の父さんと母さんを知ってるのか?」

 

「貴様の親だと?あぁ、知っている。魔王様の命令を断った愚か者だろう?まったく、馬鹿な奴らだ!!」

 

 

何が面白いのか、悪魔たちは声高々に笑い始めた。悪魔たちは明らかにレージの親を馬鹿にしていた。サーゼクス様に逆らうからこうなるのだと、レージの親をゴミだと蔑みながら唾を吐き掛ける者まで出る始末だ。

 

 

「そうか……馬鹿かーーーでもよぉ……」

 

 

ギチリと、大気が軋む。

 

 

「それでも、俺にとっては最高の親だったんだよ……!!」

 

 

ギチリと、大気が悲鳴をあげる。

 

 

「大切な、大切な!!掛け替えのない家族だったんだ……!!」

 

 

悲しみで弱っていた心が、赫怒の炎にて蘇る。

 

 

「ーーー殺す」

 

 

短く吐き出されたのは誓いの言葉。放たれる赫怒は無差別に、アテナが見た時以上の熱を持っている。

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーーサーゼクスもアジュカも、テメェラ悪魔も、塵も残さずに殺して、解体()して、()してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

誓われるのは殺塵宣言。親を殺し、蔑む悪魔どもを塵も残さずに殺してやるという鋼の誓い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー天昇せよ、我が守護星!!鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため!!」

 

 

そうして、殺塵の聖句(ランゲージ)が紡がれる。

 

 





ヘルメスは熟女スキー……特異点?勘のいいやつは嫌いだよ。なお、ヘルメスタクシーで運んだ後は熟女探しに出た模様。

レージの母は魔術師、父は錬金術師でそれぞれ天才と言われていました。それを聞いたサーゼクスとアジュカが手下の悪魔を通して2人に【魔力でも光力でもない力の開発】を依頼。

そうして出来たのが星辰光(アステリズム)と呼ばれる力。星辰光(アステリズム)を産み出す力と、もしもの時の為に作った対星辰光(アンチアステリズム)の2つを作ったのだが、星辰光(アステリズム)を産み出す力はレージに、対星辰光(アンチアステリズム)は真輝に宿ってしまう。

だから2人は開発出来なかったと手下の悪魔に報告するがサーゼクスとアジュカが直接やってきて、真輝を見たアジュカが魔力でも光力でもない力を真輝が持っている事に気付く。

それを奪おうとサーゼクスがやってきて……その現場を帰ってきたレージが目撃する、という流れでした。

そしていよいよ次は戦闘シーン。レージ8歳VS上級悪魔複数。


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