※注意
ヘルメスはルシードでは無い!!
あの後、何とか落ち着いた俺はアテナの案内されてある場所にやって来ていた。
「これが冥府ね。生きている内に来れるとは思わなかった」
「アテナちゃんアテナちゃん、どうして冥府に来たの?」
「妾が気に入った者をハーデスに紹介しようと思ってな……ところでゼウス、何でここにいる?」
「え?来ちゃいけなかったの?酷いっ!!そんな子に育てた覚えはありません!!」
「奇遇だな、妾もお前に育てられた覚えは無い」
アテナとゼウスのやり取りが物凄くコント染みてて見ていて飽きない。そんなコントをBGMにしながら冥府の観察をする。一見すれば広い鍾乳洞の様に見えるのだが空気が違う。漂っている冷気は身体じゃなくて魂を凍らせようとしている。普通の人間なら好き好んでこんな所には立ち入りたいとは思わないだろう。正直俺もここにいるのは辛い……でもあの日の事を思い出せば、この程度の寒気なんぞ気にならなくなる。
「ん?……ハープか?」
怒りで魂を温めていると足元にボロボロになったハープが落ちている事に気付く。木製のハープは傷だらけで汚れているが腐っていなくてそのまま使えそうだった。
「冥府にハープと言ったら竪琴弾きを思い出すね」
「確かオルフェウスだったか?昔にそんな人間が冥府から死者を連れ出そうとしていたとハーデスが言ってたな」
「ん……弦も緩んで無さそうだな」
「手馴れてるねぇ〜もしかして弾けるのかい?」
「母さんが良く弾いててな……」
ハープの調子を確かめているところのゼウスの言葉で母さんの事を思い出す。良く休みの日の昼にハープを弾いていた。綺麗で優しい音色だったから良く覚えている。
その事を思い出したからだろう。何となく、何も考えずに俺はハープを弾くことにした。母さんと父さん、真輝の事を思い出し、それをサーゼクスに奪われた
悲しみの音色が冥府に響く。母さんと父さんが死んだのは日本で、行く先は多分日本の閻魔のところだ。だとしても、もしかしたからあの世繋がりで冥府と閻魔のところが繋がっているかもしれないと思い、二人に届けと弾き続ける。
5分かそこらを弾き続け、終わった時に気が付いたら目から涙が流れていた。ラースのせいで怒りに感情が特化し過ぎているかと思いきや、まだ悲しいと感じる事は出来るらしい。
「……レージ」
目を服の袖で拭っていると後ろからアテナに抱き締められた。女性特有の柔らかい身体の感触とアテナの体温が服越しだがハッキリと伝わってくる。
「どうしたんだ?」
「分からん……だが、急にこうしたくなった」
「いや〜……凄いね。感情に直接語りかけられている様な気分になったよ」
ゼウスに声をかけられて気が付いたがゼウスの目は潤んでいて、鼻をすする音が聞こえてくる。
「ゼウス……あんた上半身で泣くことが出来るんだな……」
「おっと悲しみが一気に吹き飛んだね。それはどういう意味だい?」
「下半身が本体だと思ってた」
「ちょっ!?それ酷く無い!?」
「事実だろう?」
「アテナちゃん!?」
『お前なら実際下半身だけで生きていけるじゃろ』
「んぎィィィィィィィィィィィィ!!!」
ハッハッハ、愉悦愉悦。頭をバリバリ掻きむしって発狂しかけている
ここにいるのは俺とアテナと
「ん?ハーデス、こんなところまで来るとは珍しいな」
『カッカッカ、可愛い姪の出迎えと先の竪琴の音色に惹かれての。あれはオルフェウスの竪琴を思い出す程に
四人目は俺の隣に立っていた。ボロボロのローブを着た骸骨が笑っているのかカタカタと音を立てながらアテナと話している。アテナの言葉が正しかったらこの骸骨が冥府の王であるハーデスなのだろう。
『ぬ、その
「あぁ、生きているぞ。因みに先の竪琴を弾いていたのは彼だ」
「初めまして、上代零十郎です。長かったらレージって呼んでください」
『ふむ、礼儀正しい
「冥府の食べ物食べたら帰れなくなるじゃないですかぁ!!」
『安心せい、これは部下の死神に現世で買わせてきたものじゃ。食べても大丈夫じゃぞ』
「あぁ……だったら一つ」
ハーデスから差し出された袋から飴を一つ取って口に入れる。どうやら林檎の飴だったらしく、林檎の酸味と甘みが口の中に広がる。凄い……美味しいです。
『一つで足りるかの?まだまだあるから遠慮はいらんぞ?』
「アテナアテナ、どうしよう。ハーデスが凄い近所のお爺ちゃんに見えてきた」
「ハーデスは子供好きだからな……まぁ見た目で怖がられているから怖がらないレージが好ましいのであろう」
あぁ、それなら納得だ。正直言って骸骨がカタカタ音を立てながら飴を差し出してくるのはギャグを通り越してホラーにしか見えない。人間でいうところの子供好きだけど強面で損している人みたいな感じかな?
『……のうアテナ、先から
「そうだ、その事を報告しに来たのだったな……妾の夫予定の男だ」
「ーーーッ!?」
『ーーーフォッ!?』
あっ、やべ、飴が喉にーーー
「オエッ……大丈夫?俺まだ生きてる?
「生きてるから安心せよ……まったく、何をそんなに驚いているのか……」
「突然夫候補とか言われたら驚くよぉ!!え?何?アテナ俺のことそういう目で見てたの?」
「うむ、精通が来たら交わるつもりだ」
『おいおい、こいつ本当に女神かよ』
ああ……俺の看病の時に妖しい光が目にあったのはそういうことか……そう思うとソファーに座っているアテナの膝の上で座らされている今の体勢もそこはかとなく不安になってくる。
『ーーーオルクス!!命令じゃ!!宴の支度をせい!!何?どうして宴をするかじゃと?アテナがついに婿を連れてきたからじゃ!!』
ハーデスはハーデスで携帯電話で誰かに話をしてる……完全に反応が行き遅れた娘の結婚を喜ぶ父親のそれなんだよな……
「不満か?一応女神と言われているから外見は悪くはないと思うのだが……あぁ、胸か?」
「性欲も糞もないガキに色仕掛けするのはどうかと思うぞ〜……」
まぁ、確かにアテナは俺から見ても綺麗だと思う。だけど結婚するとかいう話になられても困るんだよな……
『ーーーふぅ、これで宴の支度は万全じゃな。あぁ、無論現世の食材じゃから
「外堀が埋められるってこういうことか……」
もうハーデスの中じゃ結婚は決定事項みたい……もうどうにでもなぁれー。
「ふふっ、感謝するぞハーデス……ところで、一つ相談がある」
『なんじゃ?今なら祝いでなんでもしてやるぞ?』
「ーーーレージを、鍛えて欲しい」
「……」
『……ふむ』
緩んでいた顔を引き締めてアテナはハーデスに言った。ハーデスはアテナがどうしてそんな事を言い出したのかを考えているようだが、俺には心当たりがある。
アテナは、俺の復讐を手伝おうとしてくれているのだろう。手を出す形ではなくて、手を貸す形で。流石は女神様と言ったところか、良く俺の考えを分かっている。
『目的は?』
「復讐。家族をサーゼクスと呼ばれていた紅い髪の男に奪われたから」
尋ねられた事をアテナが何か言う前に俺が答える。この復讐は俺のものだ。なら、復讐を成し遂げるための手段も俺が得なくちゃならない。何より……女におんぶに抱っこは男として終わってる。
『……決意は固そうじゃのう。復讐は虚しいだけ、復讐は次の復讐を産む、それらを理解しておるか?』
「分かってるよ。その上で言わせてもらう……
復讐は次の復讐を産む、復讐は成し遂げても虚しいだけだと小説の中で言われているが俺からしてみればそんな言葉は薄っぺらすぎる。
死んだ者は復讐を望まないとも言っているな……そんな事は分かってるんだよ。だけど辞めるつもりは無い。何故なら、これは俺の復讐だから。父さんと母さんが復讐を望んでいるだなんて言うつもりは無い。これは父さんと母さん、真輝を奪われた俺の復讐だ。
絶対に殺すと誓った、あいつから全てを奪って殺すと誓った、俺だけの復讐だ。
『……良いじゃろう、部下の中から良き者を見繕っておく。しばらくは其奴に師事するように』
「ありがとうございます」
『何、構わんよ。ただ一つ頼みたいのは……アテナと結婚して欲しい……!!これ以上アテナが行き遅れとか言われるのが我慢ならんのだ……!!』
「ふふっ……安心しろハーデス、私はレージを絶対に逃さん」
「ちょっ!?服の中に手ェ突っ込むな!!耳を噛むな!!ズボンの中に手を入れるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
冥府に俺の悲鳴が響き渡った。
ゼウスと読んで下半身と書く、シリアス以外はこれで決まりだな!!
ハーデス登場……でもなんかただのお爺ちゃんになってる……どうしてぇ!?
アテナに狙われている事にレージ、ようやく気がつく。前回のラストは