復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

44 / 45
人間同盟

 

 

「……揃った様だな」

 

 

薄暗い部屋に置かれた円卓の一席に腰を下ろした現日本総理大臣の伊達勇は吸っていたタバコの火を消しながらそう告げた。辺りを見渡せば人影はある、だが伊達以外の全員が背後の景色が見える程に薄かった。それもそのはず、これは魔術による投影で、言葉は伝わるが本人がそこにいるわけでは無いのだ。立体映像だと思えば分かりやすいだろう。

 

 

『Hey伊達、この間はご苦労だったな!!何せコカビエルの襲撃と蝙蝠と鴉と鳩の会談が立て続けにあったんだからよ』

 

 

ニタニタと人を小馬鹿にする様な笑みを浮かべながら口を開いたのは金髪の中年。現アメリカ合衆国の首相のウィリアム・ユニシアンだった。

 

 

「そう思うなら関税減らせ、まだ搾り取るつもりか」

 

『それはそれ、これはこれってな。俺様だって心苦しいんだぜ?好物の日本のコミックが読みにくくなってな』

 

『あ、うちは関税減らしますからコミックの輸出増やしてくれませんか?』

 

『ならこっちはアニメーションの規制緩和を……』

 

「あれ?これってそういう会議だっけ?」

 

 

中国首相の黄音鈴(ファン・インリン)と南米代表のロドリゲス・グラーツの言葉に頭を抱える。

 

 

『戯け、そう言う話は今度にしろ。今日は別の話があるのだからな』

 

 

日本文化の話になり掛けていた会議の場を一蹴したのはドイツ首相のリヒター・ハイドリヒ。金と紅のオッドアイで音鈴とロドリゲスを睨みつけて黙らせる。その野獣を思わせる眼光に負けたのか、2人は床に転がって腹を見せる。

 

 

『そうだな、話せよイサム。わざわざ割いた時間を無駄にさせないでくれ』

 

 

床に転がった音鈴とロドリゲスを犬畜生でも見る様な目で見ながら伊達に続きを促すのはロシア首相でこの中でも最年少の女性キーラ・グルジェア。常人なら膝をついて平伏すだろうカリスマを前にして、伊達はやっと本題に入らそうだと安堵の溜息を吐く。

 

 

因みにキーラに見られていた音鈴とロドリゲスの2人は言いようの無い快楽に襲われていた。

 

 

「三大勢力が会談をして、そこに禍の団(カオス・ブリゲード)という組織が介入したのは知ってるか?」

 

禍の団(カオス・ブリゲード)?何、その年頃の少年が名付けた様なぼくのかんがえたかっこいいそしきみたいな名前は?』

 

『知っているぞ。確かそのトップは無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)だったな』

 

「先日に終末捕食(ノヴァ)の相手を頼んだ組織って言った方が分かりやすかったか?」

 

『あぁあそこか!!中々粒揃いの組織ですよね!!』

 

『あそこの英雄派は強いぞ?先日堕天使の駆逐を頼んだら即座に解決してくれたし』

 

『あーアメリカ(うち)もハワイで出てきたら古代文明の兵器の駆逐頼んだな。被害が出ないうちに対処してくれたし、その兵器の解析が出来て一石二鳥だったわ』

 

『その禍の団(カオス・ブリゲード)がどうしたと言うのだ?』

 

「そこの派閥の1つの復讐派の代表と懇意にしててな、良く三大勢力のやらかしたことの愚痴を聞いてもらってんだ。んで、昨日の夜に連絡があったんだがな……リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが動いたらしい」

 

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの名前が出た途端に会議室に緊張が走る。リゼヴィムと言えば過去に起きた三大勢力による大戦で消息不明になった超越者で、人間界で起きた流血を伴う大惨事に介入していると思われている超危険悪魔だからだ。

 

 

生死不明であれば生きていると考えよと教えられていたが、それでも死んでいるだろうと考えてしまっていた首相たちが驚かない訳がない。

 

 

「リゼヴィムの目標は復讐派の代表らしいんだが、何をしでかすか分からないから注意しろと言われてな。リヒターのところで魔寄草のアウトブレイクが起きただろう?あれもそいつによればリゼヴィムがやったらしい」

 

『……成る程、その老害は余程死にたいと見える。我が愛し子らに手を出すとはな』

 

 

魔寄草のアウトブレイクの原因がリゼヴィムにあると聞いたリヒターは殺意と怒気を隠すことなくぶち撒けた。

 

 

自国の民に手を挙げるなど愚行中の愚行、だがそうしなければドイツは滅んでいた。仕方がなかった、それ以外に道は無かったと決断を下したのはリヒターだがその決断をさせたのは元凶であるリゼヴィムである。

 

 

「出るか?黄金の野獣」

 

『あぁ出るとも。我が愛し子らを、そして偶然その街にいたが故に巻き込まれた我が爪牙たちを害した罪を償わせねばなるまい』

 

 

黄金の野獣と呼ばれたリヒターは迷う事なく頷く。

 

 

リヒターは自国の民を心の底から愛している。幸せになって欲しいと思い願い、なってもらえる様にと働きかけて来た。故に、それを害したリゼヴィムを許さない。

 

 

リヒターは軍の事を爪牙と呼び、英雄(エインフェリア)であると誇っていた。自国の民であったとしても、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)であったとしても、愛し子らを守る彼らは英雄であるとリヒターは心の底から思っていた。故に、英雄を奪ったリゼヴィムを許さない。

 

 

伊達の言う復讐派の代表には思うところはあるが、それでもリゼヴィムがやらなければあの惨事は起きなかったのだ。リゼヴィムの様に殺してやりたいと思う程に憎くは無かった。

 

 

「あ〜……報告によるとドイツの対人外部隊の銀狼と黒兎はそいつと協力して街から脱出して、禍の団(カオス・ブリゲード)に加入したらしいぞ」

 

『ーーー何故それを先に言わぬ。すぐに禍の団(カオス・ブリゲード)への物資補給の開始と支援予算を組むとしよう』

 

 

そしてその憎しみは伊達の追加の一言で消え失せた。魔寄草のアウトブレイクに巻き込まれたためにあらゆる権利を剥奪してしまったのでドイツに戻ることは出来ない。しかし爪牙たちが生きていると、それも保護もしてくれたのだから復讐派の代表への憎しみは消える。

 

 

すでにリヒターの頭の中には禍の団(カオス・ブリゲード)との同盟まで考えられていた。

 

 

『ふむイサム、禍の団(カオス・ブリゲード)の英雄派からは何かなかったか?』

 

「存在自体は知っているが懇意にしているのは復讐派だけだ。ただ聞いた話によると派閥の仲は悪いという訳ではないらしい。何かあれば預かるが?」

 

『いや、私は英雄派の代表を狙っててな。特に連絡が無かったから心配したんだが何も無かったのなら良い……フフッ曹操、私を心配させてただで済むと思うなよ……』

 

 

キーラが曹操の名前を出して怪しく微笑んでいた頃、本部の会議室で魔法熟女カテレア☆レヴィアたんの撮影をしていた曹操が悪寒に襲われたことは言うまでもないだろう。

 

 

「にしても三大勢力は散々舐め腐った真似をしてくれた訳だな……俺はもう胃と我慢の限界だ」

 

『大丈夫ですか?良い漢方薬送りますよ?』

 

『良い南米美人紹介するぞ?』

 

「黄はありがとう。ロドリゲス、お前は既婚者にハニトラ仕掛けようとするんじゃない……あぁ、面倒だな。言うぞ?日本は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

突然の宣言に会議室の空気が固まる。とは言えど驚いているのは音鈴とロドリゲスで、ウィリアムとリヒターとキーラは()()()()という表情で笑っていた。

 

 

『腹を括ったなみたいだな』

 

「もう耐えられないんだよ……国民が三大勢力の犠牲になることがな。それに禍の団(カオス・ブリゲード)が正面から三大勢力に宣戦布告したんだ、便乗しない手はない。日本神話からの支援も取り付けたし、妖怪とも同盟を結んだ。こっちはいつでも動こうと思えば動ける」

 

()()()()()()アメリカ(俺様)もその話に噛ませろ。良い加減、蝙蝠も鴉も鳩もウザくなってきたんだ』

 

ドイツ(我ら)も乗らせろ。これを逃せば害虫どもを排除する機会は二度と訪れないだろうからな』

 

ロシア()も乗ろう。そろそろ掃除がしたいと思っていたんだ』

 

 

ウィリアム、リヒター、キーラが伊達の唐突な提案に迷う事なく参加する事を決めた。伊達だけではなく、彼らも三大勢力の行いに我慢の限界を迎えたからだ。

 

 

『簡単に決めますね……まぁ、中国(こちら)も動こうと思えば動けますけど』

 

『この流れ、乗られずにはいられない!!つうわけで南米(うち)も乗らせてもらおう』

 

 

音鈴とロドリゲスもそれに続く。

 

 

この日、秘密裏に人間による対三大勢力同盟が築かれた。

 

 

 





日本、中国、ロシア、ドイツ、アメリカ、南米による対三大勢力同盟結成。禍の団(カオス・ブリゲード)の動きに便乗して三大勢力の排除を目論みます。

各国の首相はそれぞれ好きなキャラを思い描いてどうぞ。ただしロシアは八命陣のキーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェアでお願いします。

そして曹操が感じた悪寒の正体とは……?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。