はるか太古。未だ神が人間の上に立ち、聖書の神が生きて居た時代にそれは居た。
ーーーこの世は人の物である。故に、
そう言って立ち上がったのは1匹の魔性。神格を有しながら善悪二元論に置いて
その属性は邪悪なれど、その心は光だった。彼は人を愛していた。人の可能性を信じていた。
だから彼は立ち上がった。愛する人の
神々との交渉は思いの外捗った。神々も人はもう自分たちの手を借りなくても大丈夫だと悟ったらしく、機を見て人の世を見守ることを彼に誓った。
だが人外はーーー悪魔、堕天使、天使はそれを拒んだ。トップは違っていたがその下の者たちが反発したのだ。悪魔は人を家畜と扱い、堕天使は人を下等生物と見下し、天使は人を保護すべき生物だと思っていた。
現代では数が減りトップの目も届く様にはなっていたのだがその頃は人外の全盛期とも呼べる時代で、現代よりも桁は２つも違っていたのだ。幾らそれぞれの勢力のトップとは言えど、それだけの数の反発を抑え込むことは出来ない。
だから、彼は
冥界と天界に乗り込んで悪魔を喰らい、堕天使を貪り、天使を飲み込む。彼の権能により殺し、喰らう程に力を増していく彼を悪魔と堕天使と天使は止めることが出来なかった。
最上級の悪魔が、堕天使が、天使が出て全身全霊の攻撃を仕掛けても彼には傷１つ付けられない。それは彼の存在理由にあった。
ーーーこの身は人類の不倶戴天の敵である。故に、我を倒すことが出来るのは人類のみ。
人外の血河死山の上で彼は叫ぶ。彼は人類に滅ぼされるべくして産まれ出でた。故に人類でなければ彼を滅ぼすことは出来ない。つまり、悪魔堕天使天使では、彼を倒せない。
そうして行われるのは大虐殺。倒す倒せないどころの存在ではない彼を止められるものは人類以外に居ない。神々もそれを止めるどころかむしろ人外が滅ぶのを望んでいる様で放置していた。
初めの頃は対処出来るだろうと楽観ししていた三大勢力だが、1割減って希望を持ち、2割減って不安になり、3割減ってようやく危機感を持ち……そうして9割が虐殺された。
だが、その大虐殺は唐突に終わりを迎える。言ってしまえば、彼は限界を迎えたのだ。いや、限界をなどとうの昔に過ぎ去っている。数多くの人外を喰らい貪り飲み干した事で彼の意識は白濁し、自我を保てなくなりつつあった。それでも限界を超えて保てていたのはひとえに意志の力というしか無い。ただ愛する人の世を、人だけの力で歩んでいける世界を作る為に彼は限界を超えていたのだ。
ーーー魔王！！堕天使総督！！そして聖書の神よ！！我を討て！！討たねば貴様らは滅ぶぞ！！
それは挑発ではなく懇願だったのだろう。もう彼自身の意思ではこの肥大化を止めることは出来ない。このまま三大勢力を滅ぼせば彼の意思は完全に無くなり、醜悪な怪物として人間を食らおうとするだろう。
容量を超えて尚力を増していく彼に魔王、堕天使総督、そして聖書の神は人間に頭を下げ、助力を求めた。そして人間の英雄1万と共に彼に戦いを挑んだ。
そして彼の望みが叶う。それはつまり、彼が人間によって討たれたことを意味していた。肥大化していた彼の巨体を消し飛ばしたのは彼の姿を見て哀れに思った神々が授けた神造兵器である聖剣の一振り。
全身がズタボロになりながら、1人では立っていられずに聖書の神に支えられながら、振り下ろされた一撃の輝きは彼が望んでいたものだった。
彼の望みとは、人の
ーーーあぁ、安心した。俺は間違っていなかったのだな。
人はもう1人でも立って歩ける。その手に持つ武器は神造兵器なれど、聖書の神に支えられながらなんとか立っている状態なれど、それでも彼を倒したのは人だったのだから。
ーーーならば良し！！悔いも無し！！認めよう、
沈黙する肉体に引きずられる様に彼の意識は消えつつある。だが、最後に去り逝くものの義務として言葉を遺すべく彼は叫ぶ。
ーーーどうかその輝きを絶やさないでくれ！！その輝きがある限り、人は前へと歩む事が出来るのだから！！
遺す言葉に込められるのは限りない喜色。そこに悲嘆の色など一切無し。もしも彼の身体が元の物だったら、きっとその顔には満面の笑みが浮かんでいたのだろうと予想出来た。
ーーー万歳ッ、万歳ァイ！！おおぉぉぉォッ、万歳ァァァァァァァイッ！！
そうして彼の意識は消え去った。誰よりも人を愛し、誰よりも人の輝きを信じていた
聖書の神は残った力を振り絞ってその肉の塊を天界に封印しようとした。これを人に押し付けるのは間違い。かと言って冥界に置いておけば時が経って彼の脅威を忘れた悪魔や堕天使が利用しようと封印を解く可能性がある。だから目の届く天界に封印するーーーつもりだった。
それが阻まれる。肉の塊が悪魔と堕天使に囲まれる。聖書の神はそれに驚愕した。確かに封印をしようとしているのはわかるーーーだが、それと並行して転移を、しかも人間界にしようとしていた。
止める間も無く肉の塊は封印されて、転移した。慌てて傷ついた身体を引きずりながら転移された場所に行けばそこは南極大陸の永久凍土。自然界の檻の中にそれは封印されていた。しかもご丁寧に移動ができない様に細工までされて。
故に聖書の神は傷ついた身体を引きずりながら人の世を治める者にあの肉の塊の脅威を知らせた。その時の映像を見せながら説明すれば彼らは震え上がり、監視することを約束してくれた。
そうして時が流れて三大勢力による大戦が行われて魔王が、聖書の神が死んだ。肉の塊の脅威を知るものは減り、いつしか昔話の様な朧げな存在になってしまう。
だが、人はその脅威を忘れてなかった。聖書の神から与えられた映像は歴代の国をトップに引き継がれ、人外の手に渡らぬ様にと監視をつけられる。
しかし、その努力も虚しくとある愚かな悪魔の手によってその封印は解けそうになってしまった。
その名はーーー
「ーーーここがそうか」
「分かるんだな」
「分からない筈がないですよ。封印はまだ解かれてない筈なのに凄い気配が感じられますから」
そして現代。南極大陸の永久凍土に4人の人間がいた。レージ、曹操、イザイヤ、そして悪魔契約で有名なファウスト博士の子孫のゲオルグ・ファウスト。
ゲオルグは腕を組んで不動。レージたちは大地ーーー正確には足場になっている氷の中にいる存在に顔には出していないが驚愕していた。
彼は人間によって討たれたことで神格を無くし、権能を無くしてただの肉の塊になった。それでも、解かれかけている封印から漏れる気配は強大。下手をすれば
「んじゃ、やろうかーーー」
「えぇーーー」
「「
その気配に驚愕しながらも臆する事なくレージとイザイヤは剣を握り、
「加減はしない、全霊だーーー受け取れ」
それに続くのは曹操。自身の
音を超え、光の速度で飛翔する聖槍は封印が解けたことで動こうとしていた肉の塊の
大穴からは何も聞こえてこない。代わりに起こった変化はーーー足場になっていた氷が割れる事だった。
「ゲオルグ！！」
「ヨロコンデェ！！」
離れていた場所にいたゲオルグが即座に飛翔の魔術を自身を含めた全員に掛けて、宙へと逃げる。
「ーーーハハッ、マジでこれ？」
「ーーーOH……」
レージが渇いた笑いを、イザイヤが惚けた声を上げたが仕方のない事だろう……何せ、
「予定通りにするぞ」
「ハイよ」
「ふぅ……行くぞ」
「転移・ジツ！！」
ゲオルグの
「ーーー行くぞォォォォォォォォォォォォ！！！」
そして、曹操の咆哮と共に元