「色々と言いたいことはあるだろうけど悪いが明日にしてくれ……」
駒王学園からギリシャへ帰還してオーフィスにお菓子を与えながらそう言い、レージは自分の部屋に籠ってしまった。サーゼクスの事に
クリスティアンは眠いと言って部屋に戻り、アスラは
「つまりこれは私がレージを慰めて親密になる展開ね……!!」
「現実と乙女ゲームを一緒にしないでよ乙女ゲーム脳」
「売られた喧嘩は買うわよ黒猫!!」
「あ〜残念だけど今日はパス。久しぶりに白音と一緒に寝たいし」
サーゼクスにより幼い頃に生き別れになった愛しい妹の白音。確かにレージのことも愛しているが今日に限っては再会できた妹と一緒にいたいと思うのが黒歌の心境だろう。
姉が居て、黒歌の心境が分からないでもないジャンヌオルタはそれを察し、鼻を鳴らすだけで何も言わなかった。
「んんっ!!……レージ、入るわよ」
そう言ってレージの部屋のドアノブに手を掛けて開こうとして……開かなかった。ガチャガチャと回してみても開かない。壁に足をかけて全力で引いても開かない。
「ーーー
「危なっ!?」
ミカエルの魂を犯すほどの呪いを孕んだ一撃を扉にぶつけるが、やはり開かない。巻き込まれそうになった黒歌はオーフィスを盾にして難を逃れた。ちなみにオーフィスはこの一撃を指一本で弾いて平然としている。
「どうして!?どうして開かないのよ……!!」
「さっき、アテナが入って行った」
開かない扉の答えを口にしたのはお菓子をモキュモキュ食べていたオーフィスだった。レージが部屋に戻ってすぐにアテナがレージの部屋に入るのを見ていたのだ。誰も何も言わなかったから黙っていたが、ジャンヌオルタがこのままだと煩そうなので知りたいことを教える事にしたのだ。
それを聞いたジャンヌオルタは手と膝をついて四つん這いになる。その時の絶望したような顔から本気で落ち込んでいるらしい。時折ルートだとかヒロインだとかの単語が聞こえるが……乙女ゲームに犯されすぎである。
何も出来ることは無いし、下手に何かをして絡まれるのも面倒だからと黒歌は白音と共に自分の部屋に戻って行った。残されたのはガチで落ち込んでいるジャンヌオルタとお菓子をモキュモキュ食べているオーフィスだけである。
数分後にジャンヌオルタはオーフィスが食べているお菓子をやけ食いし、数日後に体重計に乗って更に絶望する事になる。
「……レージ」
レージが部屋に籠った後に部屋にやって来たアテナはベッドに横になっているレージの名を呼んだ。戻ってきた時のままの格好で横たえているレージの顔は……今にも泣き出しそうな顔であった。
「アテナ……」
顔と同じように声も今にも泣き出しそう。アテナがベッドの縁に腰を下ろして顔を撫でたら、レージはその手を弱々しく握ってきた。
「真輝が生きてた……でも俺のことを恨んでいた……サーゼクスに嘘を教えられて、それを信じてる……」
「洗脳されているのか?だったら解けば良いではないか」
「多分洗脳じゃない。あれは、完全に
洗脳なら望みはあった。洗脳は別の記憶を植えつけたり価値観を捻じ曲げたりする事で、解けばそれらは元に戻るのだから。そうであったら、良かった。
だが、レージは直感で
「それに赤龍帝が
「あなたの様な力があったのでは無いか?」
「俺の様な力があったとしても、時間が無さ過ぎる。俺でも
レージが持っている
【
アテナはそれを指摘して、レージはそれを否定した。そういう能力があるレージでも2時間掛かるのに、特殊な設備無しでそれ以下の時間で
実際、
「しかも……よりによって使ったのが、星を滅ぼす能力だった……
そう言って歯軋りをしながら空いている腕で目元を隠す。そう、レージが一番混乱している理由はそれだった。
もしも
問題はその
「……レージ」
分からない分からないと悔しそうにするレージの手を優しく握り返す。レージは幼い頃に精神が成長するのが早過ぎた為か、なくなる筈だった精神の未成熟な部分を今でも残している。人間界では使わないと自分で決めていたはずの
成熟した身体に、未成熟な部分を残した精神。本来ならそれは不必要なもの。復讐を果たそうというのなら、その未成熟な部分を否定しなければならない。復讐を止めず、果たす事を望んでいるアテナの立場からしたらそれを否定しなければならない。
「レージ、泣きたいのなら泣け。ここには妾しかいない。だから思いっきり泣け。何、夫の弱気も受け止められないで何が妻だ」
だからアテナはレージの弱さを否定しない。全てを受け入れて、抱き締めて慰める。そうして立ち上がると信じているから。
「うぅ……あぁ……!!」
そうしてレージの口からは嗚咽が溢れ、泣き疲れて眠るまでレージの残された目からは涙が流れ続けた。
ジャンヌオルタちゃん敗北!!敗北!!ジャンヌオルタちゃん敗北!!やっぱり正妻には勝てなかったよ……
レージの弱い部分、それは精神の未成熟な部分がある事。子供の頃から精神の成熟が早過ぎた為に、本当だったら無くなる筈だった未成熟な部分が残ったまま。つまり、いきなりぶっ飛んだ短絡的な、簡単に言えば子供の様な思考になる。前回の何も考えずにキレて
それを慰めるアテナはマジ正妻。
ようやく出せたレージの本当の