復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

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今日は少し短いです。




復讐歌劇の幕開け・8

 

 

聖句(ランゲージ)を紡ぎ終えたアスラの全身から夥しい星辰の輝きが迸る。だが、それだけ。表面上の違いは見られない。レージの様に分解のオーラを出すのでは無く、イザイヤの様に殲滅光(ガンマレイ)を輝かせるのでも無く、ジャンヌオルタの様に周囲を凍てつかせるのでも無く、黒歌の様に機械蜂を操るのでも無く、クリスティアンの様に磁界を発生させるのでも無い。

 

 

だが何かあるとヴァーリはこれまでの経験から警戒し、構えを取る。そして次の刹那ーーー放たれたのは剛腕一閃。最短距離を愚直に飛び出してヴァーリに突貫する。速い、だが捌けるとヴァーリはその一撃を腕を使い受け流そうとしてーーー

 

 

「なーーー!?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。鎧があったと言うのに肉体に直接、しかも外からでは無くて内側からという異常。さらにアスラの一撃は至近距離から大砲でも放たれたかのような衝撃を伴ってい、躱すのでは無く受ける事を選んだヴァーリは周囲の大気を鳴動させる衝撃に飲み込まれた。

 

 

このままではどこまでもこの衝撃はついてくると判断したヴァーリは背中のブースターを吹かせて何とか逃れる。しかしたった一撃で白龍皇の鱗であるはずの鎧は見るも無残な姿になっていた。脱出に使ったブースターも壊れ、修復を急いでいるがしばらく時間はかかるだろう。

 

 

「がぶっ……!!ハ、ハハッ……凄いぞストレイド!!たった一撃で鎧をここまで砕くとはーーー」

 

「ーーーゴチャゴチャ五月蝿え」

 

 

続く第二打。さきと同じ様に真正面からボロボロになっているヴァーリに目掛けて打ち下ろしを放つ。初撃からアスラの攻撃を受けてはいけないと学習したのか、ヴァーリは全力で回避行動を取る。目的が無くなったアスラの拳はそのまま止まらず、()()()()()()()()地面が何故か抉れ、砕け散って宙を舞う。

 

 

アスラからしてみれば、これは全力などでは無い。ただ親不孝者の餓鬼の躾をしているに過ぎない。たったそれだけなはずなのに、規格外の破壊力を振るっている。

 

 

「どうしたどうしたぁ!?逃げてばかりじゃ勝てねぇぞ、さっさと反撃してみろやぁ!!」

 

 

ただ腕を振るっているようにしか見えない動作が、圧倒的な暴力となってヴァーリを追い詰める。それでもアスラの攻撃が当たっていないのはヴァーリのバトルセンスによる物だろう。アスラが逃げ惑うヴァーリを焦ったく思い挑発してみるが、それにヴァーリは乗らない。初撃の腕が内側から弾けるという攻撃の正体を明かすまでヴァーリは攻勢に出る事が出来ないから。

 

 

白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)は触れた相手の力を半減し、減らした分だけ自分の力に加算する。禁手(バランス・ブレイク)した今もその能力はあるのだが、それを使う為には触れなければならない。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アスラの能力が触れられた、もしくは触れた瞬間に作用するものならば、徒手空拳で向かうのは愚行でしか無い。

 

 

「なら、こっちはどうだ!?」

 

 

ゆえに、ヴァーリが選んだのはアザゼルに致命傷を与えた魔弾の連射。放たれる弾幕の密度は無視出来るものでは無い。

 

 

その弾幕に、()()()()()()()()()()()()()()()ーーー()()()()()()() ()

 

 

「だったらーーー!!」

 

『Half Dimension!!』

 

 

ヴァーリの次手は白龍皇の(ディバイン・ディバイディング)(スケイルメイル)の能力。空間自体を半減させるというもの。流石のアスラもそれは喰らえないのか、飛び退いて回避し、ヴァーリの呼吸を盗んで懐に潜り込み、顔面に向けて正拳突きを放った。

 

 

たった一瞬の秒にも満たない隙を突かれたヴァーリは目を見開き、顔を反らせるそこで回避する。流石にフェイントも何も無しに放たれた攻撃を受ける程ヴァーリは弱くは無い。そしてーーー

 

 

「ーーーガハッ!?」

 

『ヴァーリ!?』

 

 

()()()()()()()()()拳が側頭部にヒットして、()()()()()()()()()()()

 

 

ヴァーリは失念していた。アスラの能力がヴァーリの予想していた通りに当たれば発揮するものならば、攻撃の必中を磨き上げて当然なのだ。武芸の型をなぞりながら型に嵌まっていない拳撃は自由奔放であるが故に魔拳。アザゼルとの親子喧嘩に使われる事が無かった必殺が、拾われ育てられた恩を忘れた親不孝者に牙を剥く。

 

 

「オラオラオラオラッ!!!」

 

 

直線に放たれたのは一撃が直角に折れ、上から落ちてくる一撃が下から放たれ、正面から向かってくる一撃が背後から襲ってくる。そしてそれらのダメージはすべて()()()()()()()()()()()()()。横腹を突かれたはずなのに足が折れ、顎をカチ上げられたはずなのに腕が砕け、背中を穿たれたはずなのに内臓だけがすり潰される。

 

 

理解不能、予想不能。何が起きているのか仮説を立てることさえ許されずーーー

 

 

「ーーー沈めやオラァァァァァァァァ!!!」

 

 

懐に入り込んで、膝で鳩尾に痛烈な一撃を叩き込む。胸部を粉砕するはずだった衝撃を、全身に拡散して脳をシェイクする。流石にそれには耐えられなかったのか、ヴァーリは吐瀉物を撒き散らして地面に倒れ伏す。ただその顔は、新しい玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべていたが。

 

 

「チッ……」

 

 

その顔が気に食わなくて舌打ちをする。そしてヴァーリをそのままにしてアザゼルの元に向かう。殺しはしない、何故なら幾ら親不孝者であろうと父親(アザゼル)の息子である事には変わり無いから。血の繋がりは無くとも兄弟を殺すという親不孝をやるつもりは無い。

 

 

息はあるが出血が酷いのか気絶してしまったアザゼルを抱えて黒歌が居るであろう会議室に向かう。いつも見上げてばっかりだったはずのアザゼルを抱えられるほどに成長した事に苦笑してしまう。

 

 

そうして会議室に辿り着けば、そこには壁にすがって校庭を見ているクリスティアンの姿だった。

 

 

「おう爺さん、黒歌はどこだ?」

 

「中だが……今は入らん事を勧める。生き別れの姉妹の再会だ、邪魔するほどお前は無粋では無いだろう?」

 

「あ〜そうしたいのは山々だが……このままだと親父殿死んじまうからな……」

 

 

アザゼルは何とか生きている状態だ。片腕がもげて、出血が酷い。止血をしているが、放置すれば死にかねない。仇である堕天使を見せられてクリスティアンの目に憎悪が宿るが最後に殺すとアスラと約束したのだ。深々と溜息を吐いて憎悪を薄め、念の為にと用意していた霊薬を懐から出した。

 

 

「使え。死なない程度にはなるだろう」

 

「良いのかよ、仇なんだろ?」

 

「貴様が聞くかよ……堕天使は須らく儂の手で殺さねば気が済まん。だから、ここで死なれては困る」

 

「ハッ、そうかよ……礼を言うぜ」

 

 

クリスティアンから霊薬を受け取り、アザゼルの傷口に振りまく。そうすれば傷は塞がった。だが霊薬とはいえど失った部分は戻らないらしく、腕は無くなったままだった。

 

 

これでアザゼルは助かったと安堵するアスラ。そこにーーー

 

 

「ヌゥッ!?」

 

「おっとぉ!?」

 

 

高速で何かが飛んできて、2人の目の前に墜落した。咄嗟にアスラが前に立ち、飛び散る礫をすべて弾く。モウモウと上がる砂埃、その中に居たのはーーー()()()()()()()()()()()()()()レージの姿だった。

 

 

 





アスラVSヴァーリ。結果アスラの圧勝。だって触れられないんだったら力の半減も使えないし、空間の半減も避けられるから通用しないし。

てかストレイドの星辰はほんとやばい……人間の極みなだけはあるわ。対抗策無しじゃ触れる事も出来ないとか。


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