復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

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復讐歌劇の幕開け・5

 

 

「ふぅ……これで最後っすね」

 

「えぇ、お疲れ様」

 

「センパァイ!!」

 

 

捕らわれて神器(セイグリッド・ギア)を暴走させられていたギャスパーを助けた一誠とリアスは無力化した魔術師たちに猿轡をした上で拘束して一息ついていた。

 

 

ギャスパーが解放されたことで時間停止は終わったのだ。これを知ればテロリストたちも撤退するだろうと安堵しているとーーー拘束した魔術師たちの足元で魔法陣が輝き、姿が消えていた。

 

 

「お疲れ様でしたねリアス・グレモリー、赤龍帝」

 

 

その下手人はカテレア。彼女は目的であったニルレムの魔術師たちの回収のためにこの場を訪れたのだった。

 

 

カテレアの姿を見た瞬間、一誠は目を見開いて僅かに鼻息を荒くする。カテレアの挑発的な格好は一誠の好みだったらしく、見苦しくは無いが興奮している様だった。もしこれがとある世界なら、一誠は醜態を晒して見苦しい事を言っていたに違いない。リアスの教育の賜物だった。

 

 

「私はカテレア・レヴィアタン。此度の首謀者です」

 

「レヴィアタン?会長とセラフォルー様の家族か何かっすか?」

 

「いいえ……彼女は先代魔王の子孫よ。今の悪魔社会が実力社会でなかったら彼女が魔王だったかもしれないわね」

 

 

一誠の疑問に答えるリアスだが、その顔には余裕は無い。目的を果たしたからかカテレアからは敵意を感じないがそれでも今のリアスと一誠にとっては疑いようも無い格上なのだ。下手をすれば、抵抗する前に殺されてもおかしく無い。

 

 

「あぁ、警戒は結構ですよ?私の目的は果たしましたから、今は見物に来ているだけです」

 

「見物?一体何の」

 

「外を見れば分かりますよ」

 

 

カテレアにそう促されてリアスは注意しながら窓に目をやり、一瞬で意識を外に持って行かれた。

 

 

窓の外にいるのは夥しい数の蜂、蜂、蜂。億を超えて兆にも届くほどの蜂が敷地内を我が物顔で飛び交っているのだ。そしてその中では悪魔と天使と退魔師(エクソシスト)たちを相手取っている5人の人影の姿があった。

 

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

「ヒイィッ!!は、蜂ですか!?」

 

「これは……!!」

 

星辰光(アステリズム)と、彼は呼んでいましたね。この蜂は確かに……」

 

『リアス・グレモリー、だよね?』

 

 

突然耳に届いた第三者の声。その声は近くに飛んでいた蜂から放たれていた。

 

 

「その声、やはり黒歌でしたか」

 

『ありゃ?カテレアもいたの?まぁ良いや』

 

「黒歌って、小猫の……!!」

 

 

黒歌という名前にリアスは聞き覚えがあった。それは塔城小猫の姉の、主を殺してはぐれとなった悪魔の名前なのだから。

 

 

『これは警告、貴女には小猫を守ってもらった借りがあるから。死にたくなかったら近寄らないこと……もし近づいたら、どうするか分からないから』

 

「待って!!」

 

 

リアスの制止を無視して蜂は外の群蜂の中に紛れて姿を隠した。すぐに追おうとするのだが蜂がギチギチと威嚇する様な音を立て始めた為に足を止める事になる。

 

 

「何だよいったい……!!」

 

 

訳の分からない事が立て続けに起きた為に一誠の頭は処理能力を超えつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機械蜂が飛び交う校庭を黒歌は一歩一歩噛みしめる様に歩いている。その行く先は会談に使われていた会議室。そこに、彼女が求めていた者がいるから。

 

 

例え妖怪から悪魔に転生したとしても、守りたかった。契約を破られそうになって主を殺して、はぐれとなった事には一切の後悔は無い。

 

 

後悔があるとするなら、それは妹を魔王に渡してしまった事だろう。いくら極限状態だったとしても、あんな甘言に騙されるだなんて今となっては悔やんでも悔やみ切れない。

 

 

だから、黒歌は復讐を誓った。

 

 

誓ってなお、それよりも優先した……妹との再会を。

 

 

そうして黒歌は会議室の前に辿り着く。行儀が悪いが窓を乗り越えて中に入れば、そこにはソーナとその眷属、リアスの眷属とゼノヴィアの姿があった。リアスの眷属の朱乃が床に倒れて恍惚な表情をしているのが気になるが、おそらくは警告を破って抵抗しようとして機械蜂に刺されたのだろう。大人しくしてくれれば何もしなかったのだが暴れられたら妹に被害が出るかもしれないと割り切る。

 

 

それよりもと、目の前にいる白髪の少女に向き直る。背丈はあの時から時間が経っているはずなのに然程変わっていない。まるで、あの時から時間が進むことを否定している様で、それが黒歌の心を締めつけた。

 

 

そして……なんと言って良いのかを迷った。この日が来ることを待ち望んでいた訳だが、いざ対面してみると言いたい事が多すぎて声が出ない。えぇ……や、あぁ……などと言い淀み、結果として出せた言葉はーーー

 

 

「ーーー久しぶり、白音」

 

 

ーーーそんな在り来たりで差し障りの無い台詞だった。

 

 

「ーーー黒歌、姉様……」

 

 

小猫……白音から出た声は震えていた。だが、それは主を殺したはぐれ悪魔を恐れるのでは無く、感極まって震えているのだと理解出来た。

 

 

「待って……ました……ずっと、ずっと、黒歌姉様が来るのを……」

 

 

白音は黒歌との約束を覚えていた。必ず迎えに来ると、泣きながら約束する姉の顔を覚えていたのだ。そのことを、忘れた事は1日たりとも無い。

 

 

「遅い……遅いですよ……!!」

 

「ッ!!白音ぇ!!」

 

 

堪らず黒歌は白音に抱き締めた。強く、強く、決して離さないと言わんばかりの抱擁。白根もまた、それに応える様に黒歌にへと抱き付く。

 

 

「ごめん……!!ごめんねぇ……!!迎えに来てあげられなくて……!!」

 

「姉様……!!姉様ぁ……!!」

 

 

この日、ようやく悪魔によって弄ばれて離れ離れになった姉妹は再会を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わって、校庭。そこでは二組の戦いが行われていた。

 

 

暗赤色のオーラを纏い、赫怒と共に爆進するレージをサーゼクスといつの間にか隣に立っていたグレイフィアが魔力を放ち押し留めていた。

 

 

今のレージは遠距離の攻撃手段を持たない。無機物有機物を問わずに分解するオーラを纏いながらも近づかねば意味を成さない。対するサーゼクスとグレイフィアは違った。

 

 

魔力を放つ。たったそれだけ。単純ではあるのだが、驚異的なのは威力とその数。サーゼクスはバアル家より引き継いだ滅びの魔力を、グレイフィアは生まれ持った素質を十全に振るって千を超える魔弾を無尽蔵に放ち続ける。分解のオーラに触れれば僅かな間で分解される、だがレージから逸れて地面にぶつかった物が爆ぜ、隕石でも落ちたかの様なクレーターが作られれば嫌でもその威力を思い知らされる。

 

 

高火力の砲台。今のサーゼクスとグレイフィアを評価するならそれが適切だった。魔力が尽きぬ限り放たれ続ける魔弾の弾幕。そのどれもがたった1人の人間を殺すには異常な威力。それほどサーゼクスがレージのことを警戒しているのかと思えば、そうでは無い。

 

 

「ハッハッハ!!どうしたんだいその程度なのか?君が奪った【星を産み出す力】は?」

 

 

グレイフィアは無表情だが、サーゼクスはそんなレージの姿が愉快だと言わんばかりに挑発と共に嘲笑を浮かべる。その程度のはずが無いだろうと、過剰な攻撃をぶつけ続ける。

 

 

「……」

 

 

それに対してレージは無言。分解の星辰を纏わせた剣で魔弾を斬り裂きながら、弾幕の奥のサーゼクスとグレイフィアを観察する。前進しては魔弾に押し戻されて無傷。それを繰り返していて千日手な状況だった。

 

 

膠着状態。戦況はサーゼクスたちが有利だが分解の星辰を貫けない、レージは無傷だがサーゼクスたちに近づけない。そんな状態だった。

 

 

「はぁ……()()()()()

 

 

無言だったレージの口からようやく溢れたのは、隠しきれない()()()()。サーゼクスが何を考えているのか分からないし、知りたくも無いと斬り捨ててレージは前進を再開する。

 

 

一歩、力を込めて踏み出すだけでサーゼクスたちとの距離は一気に縮まる。この爆発力にサーゼクスは目を見開きーーー

 

 

「ーーー邪魔だ」

 

 

星辰を纏わぬレージの斬撃によって全身を斬り刻まられる。手応えからして致命傷、だが即死する様な物ではなく死ぬまで時間があると察したレージは丁度いいとサーゼクスを蹴り飛ばした。

 

 

「ッ!!サーゼクス!!」

 

「あぁ……思い出した」

 

 

(サーゼクス)が斬られたことであげられた(グレイフィア)の声を聞いてレージは父と母が殺された日のことを思い出した。それはレージがサーゼクスの喉元に噛み付いた時の事。振り払われたレージは後ろから声を聞いたのだ……()()()()()()()()()()()

 

 

レージのやりたい事を察したのかクリスティアンがサーゼクスとの間に磁力による壁を作り出す。これを無理に越えようとすれば全身を遺伝子ごと引き裂かれる事になるだろう。

 

 

それに心の中で頭を下げたレージは、速やかにグレイフィアの()()に着手する。動揺しているグレイフィアを一瞥して間合いに苦もなく侵入、逆手の剣を滑らせる。

 

 

ーーー両脚を断った。

 

ーーー両腕を断った。

 

ーーー乳房を断った。

 

ーーー下腹を断った。

 

 

出来上がった不恰好な達磨の髪を掴み上げて流れる様に顔面に膝を叩い込む。血反吐を吐いて仰け反る顎へさらに数度、拳を容赦なく打ち付けた。そのままついでに斬り裂いた腹へ腕を突き入れて内臓器官を一つ一つ丁寧に潰しながら最弱まで落とした分解の星辰を流し込む。

 

 

そして何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も……痙攣した身体に剣を突き立てる。どうか少しでも苦しむ様に、嘆いて壊れて哭く様に……あぁ、でも時間はかけていられないから、手早くすることに決めた。

 

 

念入りに顔面を斬り刻んで、ついでに舌も取っておく。恐らく美貌も自慢だろうから、耳から顎まで皮も剝ぎつつ口へと足を突き入れながら喉の奥を蹴り上げた。靴を舐める屈辱を与えたところで傷口に指を差し込み、搔き回す。狂った様に鳴り響く生きた悲鳴(ひめい)を、まだまだ足りないなぁと壊して壊して、壊して壊して壊して壊して、壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊してーーー

 

 

グレイフィア(こいつ)の全てを否定する様に。お前は塵なのだと、きっちり教育する。

 

 

「あぁ……うぁ……」

 

 

ひとしきり蹂躙した後に出来上がったのは掴んだ髪にぶら下がる、子供が無邪気に潰したトマトだ。あの時に味わった怒りの億分の一でも味あわせるべく、サーゼクスが受けるべき苦痛をグレイフィアにぶつけて、彼女の全てをレージは徹底的に嬲り尽くす。

 

 

「さぁ……ぜすく……さまぁーーー」

 

「グレイフィアァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

虚ろな意識から漏れる言葉はサーゼクスへの救いを求める声。その肝心のサーゼクスは致命傷を負って、後ろで血塗れで虫の息。そんなまるで神に縋り付く信徒の様なグレイフィアに、レージはそっと耳元に口を寄せて囁いた。

 

 

やれやれ、なんて滑稽な……身の程を教えてやろうーーーそして、死ね。

 

 

「どうした?(サーゼクス)は助けに来ないぞ?お前は……見捨てられたんだ。だってそうだろう?愛されているのなら、大切に思われてるのならたとえ死にかけだとしても助けに来るはずだ……それなのに来ないって事が何よりの証拠じゃないか」

 

「あ、うっ、あぁぁ……ああ、あ、アァァァァァァァァァァァァァァ……!!!」

 

 

悪魔たちがそうした様に、歪み捻じ曲げられた真実を伝えられ、グレイフィアの中で何かの線がプッツリと切れる。違う、違う……違うやめてと懇願されてもそれを否定する要素はどこにも無くーーーその頭蓋を踏み砕かれて、絶望と共に冥府に堕ちて行った。

 

 

「グレイフィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

「ハハハッ!!そうだそうだよ!!それが俺の味わった物だ!!」

 

 

地面の染みにのった飛び散った脳髄を踏み躙りながら、背後から聞こえるサーゼクスの慟哭を愉しくて仕方がないと笑う。

 

 

ただ殺すだけならばさっき出来ていた。だが、()()()()()()()()()。自分と同じ奪われた絶望と怒りと憎悪を味あわせなければ意味が無いと、レージはサーゼクスでは無くグレイフィアを狙ったのだ。

 

 

振り返ればそこには全身を砂と血で、顔を涙と鼻水で汚しながら泣き叫んでいるサーゼクスの姿が。あぁ、お前のその姿が見たかったんだとレージは愉悦に浸る。

 

 

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーー!!!」

 

「アハハハハハハーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァァァァァァァァァァァァァ……ま、良いか」

 

「ハハハーーーは?」

 

 

サーゼクスのその姿にレージは間抜けな声を出す事しか出来なかった。

 

 

たった今さっきまで(グレイフィア)を殺されて泣き叫んでいたはずの(サーゼクス)が、平然とした顔でいるのだから。涙を袖で拭い、砂埃を払って致命傷を負ったはずなのに立ち上がる姿にレージは戦慄した。

 

 

「はぁ、中々に良い女だったのになぁ……美人で私を立てることが出来て強くて……あんな優良物件見つけるの大変だったのに……まぁミリキャス産んでくれから最低限の仕事はしてくれたんだけどね……うわっ、凄い血だ。こんなに血を出したのは大戦の時以来だよ」

 

 

そう言いながらサーゼクスの関心は惨殺されたグレイフィアよりも血塗れになった自分の服に向けられている。妻のことなどもう頭に残っていない素振りのサーゼクスに、レージは訳の分からない恐怖を感じる。

 

 

砂埃を払って立ち上がったサーゼクスの身体には傷が無い。致命傷を与えた筈なのに傷一つ残ってなく、斬られて血塗れの服が無ければ怪我を負っていないと思ってしまう程。

 

 

「さて、これだけの血を流させてくれたお礼をしなくてはね……」

 

 

そう言ってサーゼクスは滅びの魔力を圧縮、圧縮、圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮ーーー

 

 

「良く漫画とかで良く切れる剣とかあるじゃないか?それをちょっと真似てみた。真紅の滅剣(ルイン・ブレード)って私は呼んでる。まぁこれは切るどころか触りもしないんだけどね」

 

 

そうして出来上がったのは、剣の形をした超高密度の滅びの魔力。その柄に手を取り、下げれば校庭の接した部分が()()()()

 

 

「使う時に注意するのは手放さない事だけ……下手したらマントルまで一直線に落ちちゃうから、ねッ!!」

 

 

そう言ってサーゼクスが突貫し、第二ラウンドが始まる。

 

 





黒歌と白音の再会。今作の白音は、黒歌ぎどうして主を殺したのかという事を知っていて、再会の約束をしていたので原作とは違い黒歌の事を受け入れました。

グレイフィア処刑シーン。すごくたのしかった(小学生並の感想)

クレイジーサーゼクス。サーゼクスの狂いっぷりを感じてもらえたら幸いです。


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