復讐者慟哭。幕上がるは復讐歌劇   作:鎌鼬

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BGMは【魔星狂乱】で。作者はこれを無限ループしながら書きました。




復讐歌劇の幕開け・4

 

死が満ちる死を満たせ死を(さかずき)へと注ぐのだ

狂乱と破壊と炎と災いで見渡す荒野を深紅に染める

青銅の鎧を纏え両手は槍を携えよ

戦車へ騎乗し突撃すれば敵兵はものみな等しく髑髏の山と成り果てようぞ

おお芳しきかな人肉の脂が燃える

打ち震えるかな無意味で無情な流血よ

ただ理不尽に散りゆく獲物(いのち)これぞ戦の誉れなり

野獣の如き蹂躙だけがこの身を至福へ誘うのだ城壁の破壊者は泰平をこそ打ち砕く

永遠たれ凶兆たる災禍の紅よ神々の弾劾さえ我が悦びを裁くに能わず

 

 

暗赤色の赫怒のオーラが滾り、殺塵(カーネイジ)聖句(ランゲージ)が紡がれる。

 

 

巨神が担う覇者の王冠太古の秩序が暴虐ならばその圧政を我らは認めず是正しよう

勝利の光で天地を照らせ清浄たる王位と共に新たな希望が訪れる

百の腕持つ番人よ汝の鎖を解き放とう鍛冶司る独眼(ひとつめ)我が手に炎を宿すがいい

大地を宇宙を混沌を――偉大な雷火で焼き尽くさん

聖戦は此処に在りさあ人々よこの足跡(そくせき)へと続くのだ約束された繁栄を新世界にて(もたら)そう

 

 

イザイヤの魔剣に絶滅の分裂光(ガンマレイ)の輝きが灯り、聖句(ランゲージ)と共にその輝きを強めていく。

 

 

有翼の帽子と靴を身に纏い双蛇の巻かれた杖を手に主神の言葉を伝令すべく地表を流離う旅人よ

盗賊が羊飼いが詐欺師と医者と商人が汝の授ける多様な叡智を、今かと望み待ち焦がれている

幽世(かくりょ)さえも旅する人どうか話を聞かせておくれ

石を金へと変えるが如く豊かな智慧と神秘の欠片で賢者の宇宙を見せてほしい

願うならば導こう――吟遊詩人よこの手を掴め愛を迎えに墜ちるのだ

太陽へかつて譲った竪琴の音を聞きながら黄泉を降りていざ往かんそれこそおまえの真実である

 

 

流れるように謳われるのは悲しき二面反背の聖句(ランゲージ)。クリスティアンが纏う星辰が高まる。

 

 

そして3つの魔星に続く魔星が2つある。

 

 

散りばめられた星々は銀河を彩る天の河巨躯へ煌めく威光を纏い無謬の宇宙(そら)を従えよう

ならばこそ大地の穢れが目に余るのだ醜怪なるかな国津の民よ賎陋たるその姿生きているのも苦痛であろう

燦爛な我が身と比べ憐れでならぬ直視に耐えん

 

 

紡がれる聖句(ランゲージ)は呪詛のごとく、冷気と共に周囲に撒き散らされる。ジャンヌオルタの抱いている憎悪は自身が信仰した神と天使への憎悪に他ならなかった。信仰に尽くしているが故に、貴様らは神の絶対性を表すための道具なのだと切り捨てられた信者(かのじょ)は、そんな物でしか己が存在の証明を果たせぬ天使とそんなものを生み出した聖書の神を尊大に侮辱する。

 

 

ゆえに奈落へ追放しよう――雨の恵みは凍てついた

巡れ、昼光の女神巡れ、闇夜の女王爛漫と、咲き誇れよ結晶華これぞ天井楽土なり

 

 

故に、これはジャンヌオルタからすれば慈悲なのだろう。命を氷結させ華と化せば、いかに醜怪であろうとも美しく散るはずだから。

 

 

情欲と、愛欲と、繁殖と、豊穣よ 、

海に浮かんだ真珠の泡へどうか血肉を宿して欲しい

濡れた肢体に滴る蜜は止め処なく西風は魅了され季節の女神は侍従となった悶える雌雄の悦びで地表に愛が満ちていく

 

黒歌の聖句(ランゲージ)で一番初めに異常を感じ奪ったのは聴覚だった。虫の羽音のように無機質なうねりは微かであったはずなのに次第に轟音にへと増殖している。

 

 

その正体は無数の機械蜂。いつの間にか結界内を埋め尽くす程に膨大な数の蟲型飛行物体が、鉄色の雲霞となって黒歌の周囲を滞空していた。

 

 

さあ、若き王様黄金の林檎をどうか私にくださいな

褒美として理想の媚肉(からだ)を授けましょう

木馬の蹄に潰されようと禁忌の果実を貪りながら褥の奥へと篭もりなさい

 

 

百や千などでは到底届かぬ、万や億でも足りぬ程の大群は正に黒歌という女王蜂に従う眷属たち。その一匹一匹が星辰の煌めきを纏っていた。

 

 

楽が束の間あるならばそこは正しく桃源郷なのだから

繋がり抱き合い交わって甘い巣箱に溺れましょうや

 

 

数こそが力であると語っているかのような異質な星が顕現する。

 

 

「「「「「超新星(Metalnova)―――」」」」」

 

 

魔星顕在。

 

 

「ーーー義なく仁なく偽りなく(Disaster)死虐に殉じる戦神ッ(Carnage)!!!」

 

 

レージが掲げるは、殺戮の暗赤色の魔星。

 

 

「ーーー天霆の轟く地平に(Gamma・ray)闇はなく(Keraunos)!!!」

 

 

イザイヤが掲げるは、絶滅の魔星。

 

 

「ーーー雄弁なる伝令神よ(Miserable)汝、魂の導者たれ(Alchemist)!!!」

 

 

クリスティアンが掲げるは、叡智の魔星。

 

 

「ーーー美醜の憂鬱(Glacial)気紛れなるは天空神(P e r i o d)!!!」

 

 

ジャンヌオルタが掲げるは、氷結の魔星。

 

 

「ーーー妖娼神殿(H e x a g o n a l)蕩ける愛の蜂房なれば(V e n u s H i v e)

 

 

黒歌が掲げるは、群蜂の魔星。

 

 

ここに、奪われ集った5つの魔星が復讐の幕を開けた。

 

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「滅びなさいッ!!」

 

 

警戒する三陣営のトップを無視して動くのは警備のために集められた悪魔と天使と退魔師(エクソシスト)。正体不明の力を持っているが数には敵うまいと高を括り、悪魔は魔力を、天使は光の槍を放ち、退魔師(エクソシスト)らは光の剣を片手に斬りかかっていく。

 

 

 

「塵になれよ、悪魔共がッ!!!」

 

 

一番槍は自分だと言外に宣言しながら爆進するはレージ。規格外の脚力に任せた跳躍で放たれる魔力や光の槍を暗赤色のオーラで消しながら悪魔だけを見て突き進む。

 

 

一斬。逆手に持たれた剣が振るわれて、範囲内にいた悪魔がボロボロと崩れて塵になる。それは端からは消滅しているように見えて、否応なしにサーゼクスの滅びの魔力を連想させた。

 

 

「人間が、滅びの魔力を使うだと……!?」

 

 

驚愕しながらそう呟いた悪魔はレージの一閃にて塵と化した。跳躍による上昇が終わりを告げて、落下が始まるかと思えば空中を蹴って更に高く跳びあがる。

 

 

「ガッ……!?」

 

 

レージから距離を取っていた悪魔にも異常が起こる。チクリと虫に刺されたような小さな痛みを感じた途端に身体をなんとも言えぬ快楽が襲い、飛ぶことが出来なくなって次々に墜落していく。その時の痛みすら快楽と感じてしまい、中には絶頂してしまう悪魔もいた。

 

 

「ふふ……蕩けるでしょう?私の毒は」

 

 

朦朧とする意識の中で聞こえるのは妖艶な笑みを浮かべながら機械蜂を操る黒歌の声。

 

 

「クソがぁっ!!」

 

 

機械蜂の危険性に気づいた悪魔が魔力を放つがそれで討ち取れた機械蜂は精々10か20。すぐに出来た穴を他の機械蜂に埋められて、目をつけられて群がられて他の悪魔と同じ様に快楽の中で墜落する。

 

 

機械蜂は一匹一匹こそ大した脅威では無いがそれを兆を超える数が覆す。機械蜂の毒は蓄積すればするほどに筋肉を弛緩させて、中枢神経を麻痺させる麻痺毒。

 

 

与えた者曰く、強力では無いが凶悪であると評価した魔星である。

 

 

「さぁ凍りなさいーーー!!!」

 

 

悪魔はレージと黒歌によって蹂躙されていた。それを横目で見ながらジャンヌオルタは空中に氷杭を精製し、飛んでいる天使と向かってくる退魔師(エクソシスト)目掛けて放っていた。

 

 

「こんなもの!!」

 

 

それを天使は光の槍で、退魔師(エクソシスト)は光の剣で迎撃。砕かれた氷が飛び散りーーーそれが種となり、樹氷や氷華となって天使と退魔師(エクソシスト)を襲う。

 

 

四方に伸びる樹氷の枝は天使や退魔師(エクソシスト)たちに向かって伸びて瞬く間にさせる。氷華は地上で咲き誇り、飲み込んだ退魔師(エクソシスト)の墓標となる。

 

 

あっという間に完成するのは天使や退魔師(エクソシスト)の死体が飾られた氷河の庭園。その中心で主たるジャンヌオルタは平然としているが、その空間の気温は絶対零度。無粋に踏み込んできた天使や退魔師(エクソシスト)は寒さによって運動能力を低下させて、今もなお成長を続ける樹氷と氷華の餌食となる。

 

 

斬と、四方へと無差別に伸びる樹氷氷華を切り裂き氷河の庭園を駆けるのはイザイヤ。天使や退魔師(エクソシスト)が動きを鈍らせていく中で彼だけが身体から煙を上げながら絶対零度を物ともせず、樹氷氷華を斬り裂いたことで新たに芽吹く樹氷氷華を更に斬り裂きながら天使や退魔師(エクソシスト)目掛けて愚直に進んでいく。

 

 

何故イザイヤは物皆凍てつく氷河の庭園の中であって変わらぬ運動能力を発揮出来るのだろうか?その答えは上がる煙にある。

 

 

イザイヤの身体は()()()()()()()()()()()()。イザイヤの体内で駆け巡る星辰光(アステリズム)の大暴走。涼しげな顔ではいるがその皮膚下で轟く星の力は悍ましく、蠢き弾けて結合して連鎖爆発を引き起こしている。

 

 

それは間違いなく暴挙である。イザイヤの星辰光(アステリズム)は核分裂、つまりイザイヤは自分の身体に分裂光(ガンマレイ)を叩き込んでいる事なのだから。たった一筋でも致命傷となりかねない分裂光(ガンマレイ)の輝きを取り込んでいるが為に氷河の庭園の中でも変わらぬ……否、普段以上の運動能力を発揮しているーーー加速度的に自壊しながら。

 

 

動く度に関節からは火花が飛び散り、滲んだ血は体表面から離れた途端に油の様に発火し、呼吸にすら殲滅光(ガンマレイ)の輝きが宿っている。その苦痛は想像を絶する。遺伝子ごと体細胞が内側から焼かれ、次の瞬間に発狂してもおかしく無い。

 

 

さりとてイザイヤの顔に苦痛の色は無し。生き地獄を味わいながら、その苦痛を気合に根性ーーー()()()()()()()()()()()、かつて自分たちを本当の地獄に叩き込んでくれた者どもを冥府に叩き込む。

 

 

そのイザイヤの愚行を目の当たりにしながら、近くにいたジャンヌオルタを始めとした復讐派の面々は何も言わなかった。何故なら、イザイヤの心境に理解も納得も、共感も出来るから。命に代えても報復したい、その為に命を磨り減らす事を厭わない。それに共感出来るから誰も何も言わないのだ。

 

 

「クッ!!」

 

 

レージたちを脅威と認識した悪魔や天使たちが距離を取ることを選んで引き始めた。そうして遠距離から魔法なり光の槍の投擲なりで攻めようとしているのだろう。その選択は正しい。だが、それが出来るとは誰も言っていない。

 

 

「逃さんよ」

 

 

呟きと共にクリスティアンの星辰が煌めき、距離を取ろうとしていた悪魔や天使たちを不可視の力で拘束し、コカビエルの時のように地面から黒い槍を生やして背中から生えている羽根をスダボロにする。そうして落下すればーーー下にいるレージ、黒歌、ジャンヌオルタ、イザイヤの餌食となる。

 

 

今回の会談でアザゼルはヴァーリ以外の護衛を誰も連れてこなかった。事前にアスラにアザゼルを殺すのは最後にしてやると伝えているのでこの場ではクリスティアンの復讐対象はいない事になる。なのでクリスティアンはサポートに回る事にしていた。

 

 

さり気無く距離を取ろうとする悪魔や天使たちを落とし、戦意を喪失して逃げ出そうとする退魔師(エクソシスト)を不可視の力で引き戻す。レージと黒歌は悪魔しか、ジャンヌオルタとイザイヤは教会関係者しか狙わないのでそれぞれが混ざらない様に気を配る。この場を支配しているのはクリスティアンだった。

 

 

そしてこれはもはや戦いでは無い。一方的な虐殺でしか無かった。戦意を喪失し、魔王や大天使に助けを求める悪魔天使退魔師(エクソシスト)を蹂躙して殺す。一斬一打、それこそ指一本でさらなる屍山血河を築き上げていく。

 

 

そうして、最後の悪魔をレージが塵にしたところで増援は無くなった。

 

 

「さて、駒は無くなったぜ?サーゼクス」

 

 

悪魔であった塵を払い除けながら()()()()()()()()()()()サーゼクス、そして会議室から出てきたミカエルを見る。レージと黒歌はサーゼクスを、ジャンヌオルタとイザイヤはミカエルを赫怒と憎悪と殺意の籠った目で睨みつける。

 

 

「ふむ……君の星辰光(アステリズム)だが私の滅びの魔力に似ているね。だけど違う、多分【分解】……それも侵食が消滅してしまうと見間違える程に早く分解している」

 

「そちらの老人は【磁力】ですかね?先程の黒い槍は砂鉄を固めたものみたいですし、金属が動いていたので分かりやすかったですよ」

 

 

星辰光(アステリズム)が看破された。確かにレージの星辰光(アステリズム)は物質の結合力そのものを崩壊させる物質分解能力、クリスティアンは磁界生成能力だ。部下を犠牲にしながらもこちらの能力を看破した観察眼は確かなのだろう……だが、

 

 

()()()()()()()

 

 

そう、看破されたところでさして問題にはならない。赫怒と憎悪と殺意と共に磨き上げた魔星の輝きは看破された程度では一片も翳らない。そう思っているのはレージだけでなく、他の者たちも同じだった。

 

 

「さぁ、己が因縁を清算しようやーーー!!!」

 

 

レージと黒歌がサーゼクスに、ジャンヌオルタとイザイヤがミカエルに星の煌めきを強く輝かせながら向かう。

 

 

魔王と大天使に魔星たちはぶつかって行った。

 

 

 




詠唱長スギィ!!と読者は突っ込むだろう……でも、これがしたいのだからしょうがない。

ジャンヌオルタは氷河姫(ピリオド)、黒歌は露蜂房(ハイブ)でした。だってジャンヌオルタは残念臭が漂うし、黒歌はエロリストだから……

何故かイザイヤが英雄化してやがる……このままではイザヤライドになってしまうでは無いか!!……ありだな。


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