北海道旭川市のあるところで、女の子が産まれた。
その赤ちゃんはある病気をもって産まれてきた。
この世界では、他人の考えが読める、自分が増える、未来を予知できるという世界の理(ことわり)を無視している病気がある。人々はそれを理破壊の病と呼んでいる。
産まれた赤ちゃんは「一定時間誰にも認識されない」という病をもって産まれてきた。
忘れられている、という簡単なものではなく、存在しているという事実が無くなっているというものだ。
そんな彼女はある秘密がある。
それは前世の記憶を持ち合わせているということだ。彼女の前世は高校2年生だった。修学旅行の時に起きた飛行機事故で亡くなってしまった。そして女の子に生まれ変わった。輪廻転成というやつだ。
そんな彼女は今日も街で元気に過ごしていた。
「だねー。私もそう思う」
「理破壊の病ってほんと辛いよ。いずたんなんかそうじゃん」
「まあ、ね」
本人も、存在しなかったことにされるのは予想以上にくる。友達には気づいてもらえず独りでいるしかなくなるからだ。
買い物も、友達と他愛のない話も、ふざけ合いもじゃれ合いも何もかもできない。独りで遊ぶしかすることがない。
一瞬とはいえ友達の頭の中から自分という存在が消えるのは辛いものだ。
「私もしょっちゅう頭の中に人の雑念が入ってくるのが辛いけどさ」
「でもいいじゃん」
「私なんか消えるんだよ、って?」
「そう。あ、やば。くる」
その瞬間、世界から出雲が消えた。
「あれ?なんで私一人で映画見てたんだろ。友達誘わなかったのかな?」
その友達は、映画館から去っていった。出雲はそれを追わず、諦めたかのように微笑みかけて見送っていた。
これでまた独り。自分を見つけてくれる人はいない。
世界から出雲が消え、世界には一人人が減った。
何億といる世界の人口からしたら一なんてちっぽけな数字でしかない。たくさんあるうち一個消えたくらいで世界にはなんの支障もない。無情なことに、世界はそれで回ってしまっている。
「さてと。なにしようかな」
イタズラでもしようか、それともここで脱いで解放感を味わおうか。
世界には自分しかいなくなっている。誰も私の存在には気づかない。出雲はそう思いながら2時間の時間の潰し方を模索していた。
自分の世界には自分しかいない。他者の介入は一切許さない。
介入するのは不可能なことなのだが。そもそも人から見えてないし。
「まあ、部屋に戻って寝よう」
こうなると眠るのが一番の時間の潰し方だった。
と、彼女が歩き出した。