……最初は作者の現実逃避です……その後が本編です。
アウラ、ルプスレギナ、本当にごめんね……
これがオバロファンののやることかよぉぉぉぉぉ! みたいな内容です……
なお後書きにて作者から今後のこの作品の見通しを発表します。ネタバレも存在するため、御注意をお願いします……
ネムはエンリにアインズの家がどれほど凄かったか、語り続けていた……夜中なのに……エンリも相槌を打ち続けているが、眠そうだ。
ネムはアインズに貰った装備のおかげで、何の問題もないが、エンリは別だ……
「……それで、一緒に大きな、お湯に浸かれるお風呂に一緒に入ったんだよ! ……お姉ちゃん?」
気付けば、エンリは眠りに就いていた……椅子の上で。それで自分が頂いたアイテムの事を思い出したネムはエンリに無理をさせていたのだと気が付いた……
(……ごめんね。お姉ちゃん……)
ネムは静かにベッドから布団を持ってきて、エンリに掛けると家の外に出る……本当は自分も眠るべきなのだろうが、眠る気分にはなれなかった……シフ達が後ろからネムに付いてくる……少し心配そうにしながら……
家から離れると何かを切裂くような音が聞こえる……気付けば、シフ達3人が自分の前に出ていた。少しずつ近づいてみると、ブレインが空間に向かい、武器を振るい続けていた……自分に気付いたのだろう……
「……こんな遅くにどうしたんだ? 子どもは寝る時間だろう?」
「……眠りたくないんです……ブレインさんは眠らないんですか? 賢王様は眠ってますよ?」
ネムが起きている事に注意を促してくるが、簡単に反論を言って、疑問を聞き返す。実際、ブレインは起きているが、森の賢王は深い眠りに就いているのだから。
「……俺はパンドラズ・アクターから睡眠や疲労を無効にする、アイテムを貰ったから必要ないんだ。ネムはどうして眠れないんだ?」
「アインズ様のお家の事をもっと喋りたくて……それと私もアインズ様から、睡眠が必要なくなるアイテムを貰いました!」
「……やれやれ。力のケタが違うのは理解していたが、子どもにもそれ程までの物を与えられるとはな……」
「……凄い事なんですよね?」
「あぁ。疲労無効のアイテムだけで、国宝だろう……俺は鑑定士じゃないから正確な値段は分からないが、ネムが貰った装備を含めれば、国でも持っていないだろう……それで、アインズ…様の家はどんなとこだったんだ? 凄いところだったんだろう?」
どうやらブレインは、自分の話し相手になってくれるようだ。武器を仕舞うと、地面に座っている。
「ありがとうございます!」
ネムも地面に座ろうとするが、気付くと地面の感触ではなく、毛皮の感触がした。自分が座ろうとする一瞬の間にシフが地面と自分の間に入り込み、椅子になってくれているのだ……
「……ありがとう、シフ」
そしてネムは語り出す。キラキラした天井や、キレイな人形、残念ながらできなかった爪の御化粧や、食べ放題の料理や、綺麗なメイド達の事やたくさんの本の事を……ブレインは相槌を打ちながら興味深そうに聞いてくれる……そして話は……
「それで、アインズ様と一緒にお湯で身体を洗って、お湯に浸かれるお風呂に一緒に入ったんですよ!」
「…………は? もしかしてアインズ様は女性か?」
「……多分男の人だと思いますけど……それがどうかしたんですか?」
「…………いや、何でもない……」
「? 変なの……それで、アインズ様と洗いっこしたんですよ。お湯の中で抱っこもして貰いました!」
「そ、そうか……」
先程からブレインがおかしくなっているが、ネムはその後の事も話し続けて、一緒のベッドで眠った事も自慢した。自慢してしまった……
(……真正のロリコンかもな……まぁ何も言うまい……それにそいつがロリコンのおかげで、俺が強くなれる……引いては、世界が救われるなら……感謝しないとな……)
ブレインの勘違いは暫くの間、続く事になる……またその事を知った、エンリ達と一騒動あるのは別のお話……
★ ★ ★
アウラとの
「アルベド~」
「なにかしら、アウラ?」
「えへへ、なんでもない……でも本当に、この服で大丈夫かな? 嫌われないかな?」
やはり不安なのだろう……だが、アウラを完全に依存させることこそが目標である、アルベドからすれば望むところなのだ。
「ええ。大丈夫よ。私を信じなさい。アインズ様は必ず褒めて下さるわ」
「……分かった!」
そして二人は歩き続ける……まるで本当の親子のように……アルベドもアウラも笑顔を浮かべている。しかしその表情は崩れる事になる。
「……まさかルプスがアインズ様の妃候補に挙がるなんて」
そう、そんな言葉が聞こえたからだ……二人で顔を見合わせる。
「静かに近づいて、詳しーくお話ししましょうか。アウラ?」
「……当然だよね。アルベド。でもその顔じゃまたアインズ様に怖がられるよ?」
「……そうね。この顔じゃ駄目ね」
アルベドの顔が笑顔になる……第三者が見れば般若に見えたかもしれないが……
「では行きましょうかアウラ……あなたも気を付けないと駄目よ?」
「もちろん」
二人は少しずつメイド達に近づく……その間にもメイド達の会話は尽きない……そう怒りの燃料を投下しているのだ……だがアルベドは怒りだけでなく別の目的も隠し持っていた……
(……上手く利用できる良いんだけれど……)
「あらあら。ルプスレギナが一番正妃に近い? 私がいない間に、何があったか、詳しーく聞かせていただけないかしら? お・う・ひ・さ・ま?」
空気が止まった。こちらを振り向いたプレアデス全てが何かに怯えるように表情を引き攣らせる。そのなかでもルプスレギナは段違いだ……
「あ、ある、アルベド、様……」
「どうしたの? 顔を引き攣らせて? 何か私に言えない事でもあるのかしら、お・う・ひ・さ・ま?」
無言だ。ただ無言を貫く……それに比例してアルベドの顔はさらに深い笑顔になる……
「何故答えられないのかしら? なんでだと思う、アウラ?」
「……分かんない。でも私達がいない所で、そんな話になってるのは許せない、かな?」
「……当然ね。さて、早く答えなさい……そうね、ルプスレギナと、ユリ以外は離れてていいわよ? それとも姉二人と一緒にいたいかしら? 選んでいいわよ?」
満面の笑顔で言い切ると、3人が後ずさっている。どうやらユリが離れるように手で指示をしているみたいだ……ルプスレギナはただただ固まっている……
「さて、3人が離れたみたいだし……そろそろお話を始めましょうか?……できれば、早めに話してくれると嬉しいけれど……どうかしら?」
3人が離れる間に用意していた武器をアルベドとアウラがともに構える……口を割る気になったのだろう。
「い、言え、ないっす……パンドラズ・アクター様の命令で、アルベド様に、伝えるなって、言われてるっす……だっ、だからその……」
恐らくルプスレギナは真実を話したら、死ぬと思っているのだろう……必死に責任を転嫁しようとしているが……
「もう一度だけ聞くわ、何があったか言いなさい。なぜ私を差し置いて、あなたが正妃になろうとしてるのかしら? アウラは私に譲ってくれたわよ? あなたも私に譲るのが筋ではなくて?」
「そうだよ。ルプスレギナ……あなたは正妃にも第2妃にも相応しくないよ?……早く答えて欲しいかな~?」
アウラが空間に向かい鞭を振るう。空気が引き裂かれる音が周囲に響き渡る……気付けば、他のメイド達も騒ぎを聞きつけたのか、こちらを向いている。決して、近づいては来ないが……よく見れば、逃げたはずのプレアデス達もこちらを心配そうに見ている……いつまでたってもルプスレギナが答えないため、標的を変える。
「ユリ? あなた達は確か私に協力してくれると言ってくれたわよね? 悲しいわ。まさかあなた達が裏切るなんて……何があったか、早く言いなさい!」
ビクッと二人が、肩を揺らす。それでも何も言わない……ただ恐怖で話せないだけだが、アルベド達はそう取らなかった……
「早く言いなさい? 死にたいのかしら?」
殺気を直接向けられていないはずのメイド達が何人か恐怖で膝をついて腰を抜かしている……その中でも気の弱い者達は気絶して倒れる。殺気を直接受けているルプスレギナは、戦闘メイドのためか気絶する事ができずに、腰を抜かして怯えている……するとルプスレギナの周りに水溜りができ始める……
「へぇ? 私の質問には答えられないのに、トイレはできるのね……そこまで死にたいなら……いいわ。望み通りに……」
「そこまでです! お前達!」
気付けば、アルベド達の周りに、パンドラズ・アクターと配下のシモベ達が武器を構えて集結していた……そうアインズを連れずにパンドラズ・アクター達だけで……アルベドの願い通りに……
(くふふ、あなたならきっっと来てくれると信じてたわ……パンドラズ・アクター……アインズ様も来られていないようだから……刺し違える必要もないわね……アインズ様がいらっしゃれば、まだ勝敗は分からなかったわ……でもいらっしゃらない。私の勝ちよ)
妖艶に微笑んだ。まるで全てが自分の予想通りに進んでいると言わんばかりに……まだパンドラズ・アクターは気付けないでいた。彼女の真意を……
★ ★ ★
パンドラズ・アクターは父上に講義を続けていた。
「……なるほど。そう理解すればいいのか……」
「その通りでございます! 父上も理解が進んで参りましたな!」
「お前のおかげだ。パンドラがいなければ、こんなに早く理解する事も出来なかっただろう……これで彼らの望みである支配者としての演技ができそうだ……」
「……父上、申し上げにくいのですが……本当にそれでよろしいのでしょうか?」
訳が分からないような顔をしている。父上にとって、彼らの気持ちに応えるのが当然なのだろう……
「……彼らの望みである、支配者を演じる事でございます。確かに彼らはそれでも幸せかもしれません……しかし父上と家族になれる方が彼女達も喜ばれると思われます……それに現状では父上が本当の幸せを手に入れる事は至難の業でございます……」
黙ってこちらを暫く見つめると、寂しそうに笑い、首を横に振る。
「彼らはな……仲間達の子どもなのだ……俺も彼らと家族的な関係を築きたいと考えてはいる」
「でしたら!」
「話は最後まで聞くものだぞ? ……だがだ、彼らは私に支配者として君臨してもらう事を望んでいるのだ……それを裏切る事はできない……俺に残された唯一の宝物なのだから……それに、俺には頼りになる息子がいるからな。家族がいて、宝物がある。それだけで十分だ……可能なら仲間たちと再会したいがな……」
「……感謝いたします……お仲間の方々は必ず見つけてご覧にいれましょう!」
(そして勝手ながら、彼らの望みを、支配者ではなく、家族としていて貰いたいと言わせてみましょう!)
「……感謝する……だが、無茶はするなよ? お前は仕事が多すぎるからな……そうだな、何かでリフレッシュした方が良いのではないか?」
「ありがとうございます……それでしたら、ネム様との冒険の時に共に、アイテムを探しに行きたいと思います」
「……あはは! やっぱりお前は俺の子どもだな……俺もレアなアイテムを収集したいよ……だが暫くは無理だろう? 今は大丈夫なのか?」
「……そうですね……では何か探してみようと思います……」
二人の間に心地よい、沈黙が訪れる……だがそこに、無粋なメッセージが入る……
『アルベド様、御乱心! ルプスレギナ様達に武器を向けておられます。このままでは、御二人が殺されます!』
「……それでは、父上。今日のところは失礼致します」
「そうか? そうだな。ではまた明日も頼むぞ?」
「は! では」
父上に緊急事態が起きた事を悟らせずに、その場を去る。現状を認識できていないため、危険地帯に父上をを連れていく訳には行かないからだ……それに内部の争いは父上が一番恐れるものなのだから……
ドアを閉めると全力で走り出す。周囲にいる、部下に命令を下しながら……
「2名はアインズ様の部屋の前で護衛を。私以外誰も通すな。他の者達は私に続きなさい」
すぐにアルベド達の姿が見えてくる……そう威圧してるだけと信じたいが……武器を構えている……アルベドだけでなく、アウラまで……アルベドならまだ理解はできるが、アウラも同調しているのは信じる事ができない。
(……一体何が……まずは止めるべきです!)
「へぇ? 私の質問には答えられないのに、トイレはできるのね……そこまで死にたいなら……いいわ。望み通りに……」
「そこまでです! お前達!」
部下達が二人を囲む……自分はアルベド達と、二人を分けるように立つ……安心したようにルプスレギナが気絶する。ユリは腰を抜かして倒れ込んでいる……自分に気付いたアルベドが微笑む……そして一瞬、一瞬だが、ただ憎い敵を殺すための殺意を感じる……まるで父上以外の至高のお方々に向けているような物を……
(アルベド殿は一体何を考えている! 父上がこんな事をするのを許さないのは、あなたとて分かっているだろうに!)
「……あなたは何をしているのですか、アルベド殿!」
「…………何かって? 私を差し置いて正妃になろうとしている者に罰を与えてるのよ?」
「…………それだから、私はあなたが正妃になるのを反対しているのですよ…………」
アルベドが怒りのままバルディッシュを自分に振り下ろそうとしている……機先を制して言葉で攻撃をする。
「あなたは何かあれば、怒りのまま、アインズ様を殺すように感じるから、あなたは妃に相応しくないと言っているのですよ……何か弁明はありますか?」
パンドラズ・アクターに命中する直前で、攻撃が止まる……どこか笑いを堪えるように……
「あら、私のどこがアインズ様に怒りのまま、攻撃を仕掛けると言うのかしら?」
「全て、ですよ……今の御自分を御覧なさい。同じくアインズ様に仕える者にさえ、嫉妬から殺そうとする。もしアインズ様が見ればお嘆きになり、嫌われますよ。頭を冷やしなさい……そして、アウラ!」
アウラがビクッと震えている……自分がしている事を理解したのだろうか?
「なぜ、アルベドに同調している! 私があなたがアインズ様の妃に相応しいと言ったのは、アルベドとは違うと考えていたのも、その一つです! なのになぜ!」
「……あっ」
様子がおかしい。良く見れば普段の服装ではない……マーレの色違いの服になるだろう……
「……アウラ?」
「ごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないでごめんなさい嫌わないで捨てないで」
――アルベドが微笑んだ……まるで自分に感謝するように、そして唇だけを動かして自分に言葉を投げかける「ありがとう……手伝ってくれて」と――
「……大丈夫よ。アウラ……あなたを捨てたりなんかしないわ……」
「捨てない……あっ。アルベドアルベドアルベドアルベドアルベド」
優しくアウラを包み込んでいる。アウラも母を求めるように抱きついている……こんな場面でなければ素直に感心したかもしれない……
「それにアインズ様もあなたを捨てる事はないわ……パンドラズ・アクターから聞いたでしょ? 彼がナザリックを捨てるようにアインズ様に進言しても、アインズ様はこの地をお捨てにならなかったのだから……」
「……え」
ユリ・アルファが、恐怖から解放されたかのように、自分を凝視している。そして気絶をしていない一般メイド達全員が息を飲むのが聞こえる……配下のシモベ達にはある程度事情を話しているため混乱は見受けられない……なぜその話を今するのかが理解できない……アルベドの言葉を徐々にだが理解した、ユリやプレアデス、一般メイド達からの視線に…………
(まさか、まさか、まさか!)
……そう、閃いてしまった……この
(そのために、わざとプレアデスを殺そうとしているように、偽装したのか!……そしてアウラ殿を手駒にするために……心を壊した…か)
パンドラズ・アクターは自分がアルベドにした誘導をしたように、誘導されたのだ……アウラを壊すために……そしてメイド達から好感度が下がっていた全てを帳消しにしたのだ……悪感情全てをパンドラズ・アクターに向けさせたのだ……
――パンドラズ・アクターは気付くのが遅すぎた。そして、彼女の心を甘く見過ぎていたのだ……――
「みんなもごめんなさいね……頭に血が上り過ぎていたわ……後で彼女達にも謝らないとね……パンドラズ・アクター止めてくれてありがとう。後一歩で、絶対にしてはいけない事をしでかしかけてたわ……ほらアウラも頭を下げなさい……」
「……止めてくれて、ありがとう。パンドラズ・アクター……聞いても良いかな?」
アルベドに抱きしめられて幾分か冷静さを取り戻した、目に光のないアウラが自分に質問をしてくる。
「……私で答えられる事なら……」
「……ありがとう。パンドラズ・アクター、私達はアインズ様にご迷惑をかけていたんだよね……どうしたら、
「…………アウラ、それは自分で答えを出さないと行けないのです……誰かを参考にするのも良いでしょう……しかし最終的に御自身で気付かないと行けないのです……」
「……うん。分かった。頑張る」
「ええ。私も頑張るわ……誰もが認めるアインズ様の妃になれるように」
真意は認めぬ者は排除する、だろう……つまり至高の御方々と自分を殺すと宣戦布告だ……いや、至高の御方への殺意を、自分が知っているのは知らないはずだから、自分を殺すと宣言したのだろう……
「さぁ。アウラ、アインズ様にシャルティアの件を御報告に上がりましょう……」
「…………私も同席させて頂きますよ?」
「構わないわ。それであなたは、今回の事を御報告するのかしら?……そうそう、シャルティアへの慰めはしっかりしてきたわよ? あなたなら……分かるわね?」
もし報告するのであれば、シャルティアにした越権行為も報告すると言っているのだろう……そうなってしまえば、自分もアルベドも遠ざけられる結果になると見越して休戦にしようと言っているのだ……もし飲まなければ、私もアルベドも動けなくなる代わりに、自分は時間を失う……現状、時間はアルベドの味方なのだから……既に主導権はアルベドにあるのだ……ここからの逆転は……ない。
(……私をこのまま排除しないのは、窮鼠を警戒しているからですか……若しくは、この地における、敵対存在の件があるからですか? ……飲むしかないですね……ここで下手に動けば、このまま始まるでしょう……)
「…………いえ、止めておきましょう……ルプスレギナの面倒は私が見ましょう……よろしいですね?」
「……ええ。構わないわ……では向かいましょうか?」
(……せめてもの抵抗です……ルプスレギナまでも彼女達に引きずらせる訳にはいきません……彼女は幸いに気絶していて、聞いてはいないですからね……)
「ええ。お前達、ルプスレギナを私の部屋に運んでおきなさい……」
パンドラも一応予備の部屋を与えられている……今まで使った事は無いが……部下に命令すると3人でアインズの部屋に向かう……その間お喋りはまるで存在せず、奇妙な緊張感だけが存在した……
★ ★ ★
パンドラズ・アクターが去った後、アインズは図書館から借りて来ていた書籍を読んでいた……パンドラが幾つか借りてきてくれたため、支配者像を崩さずに済んだのが幸いと言える……すると扉がノックされる……
「誰だ?」
「アインズ様、パンドラズ・アクターでございます! アルベド殿達が任務を終えてアインズ様の下へ向かうのを見つけたため、共に参りました……」
「……入れ」
ドアを開けてパンドラズ・アクター、アルベドとアウラが入室する。何故かは分からないが、アルベドとパンドラズ・アクターから不穏な空気を感じた。訝しく思いながらも話を進める。
「二人とも御苦労だったな」
「御苦労だなんて! アインズ様の御命令を遂行するのは当然であり喜びであります! アウラもそうよね?」
「もちろんです!」
二人が元気よく返事をする。今までより仲が良くなっているように見えるのは気のせいだろうか?
(……アウラはいつもより笑顔だな……だが目に光がない気がするのが心配だが……それに普段の服装もしていないようだが……アルベドは、何だあの笑顔は……)
ぞく、アンデッドなのに寒気を感じる。――この時点でアインズが事態に気付けていれば、アウラを助ける事も不可能ではなかった……今ならまだ未来に起きる、最悪の結末を回避できたかもしれないのだ。例えば、アインズがアルベドに自分の思いを、打ち明ける事ができれば……パンドラズ・アクターがなぜナザリックを捨てさせようと理解したため、別の手段もあったかもしれない……しかし情報も伝達されていない。さらにアルベドの美しさが、怖くて深く考える事ができなかったのだ……パンドラズ・アクターはただ影に徹している……何かを観察するかのように、打開策を探すように……だから奇跡は起きないまま時だけが進む――
(笑顔なのに、笑顔じゃない! 私が今感じている感情は恐怖か? 馬鹿な、私はアンデッドだぞ!)
その笑顔に何かを感じたのか、パンドラズ・アクターが視線を遮る……まるで自分を何かから守るかのように……
「あら、どうしたの? いま私はアインズ様とお話ししているの。視線を遮らないで頂戴……パンドラズ・アクター」
「……ふぅ。今のあなたの目は獲物を捕食する前の、動物のようですよ?」
「失礼ね。捕食するのは私じゃなくてアインズ様よ?……ですよね、アインズ♡」
違う。絶対に違う。そう叫べたらどんなにいいだろう……
(……一体何が起きている! …………何も問題は無いとして話を進めよう)
必死に自分に言い聞かせてから口をだす。
「……一部誤りがあるが、まぁ良いだろう。パンドラズ・アクター、私の横に……」
声が震えなかった事を自分でも褒めたい。一体アルベドに何があったのか理解できない……
「……畏まりました」
「誤りでございますか? アインズ様?」
アルベドが怖い……下手な事を言うと、本当に捕食されそうだ……
「な、何でもないぞ、アルベド……ところで任務は、シャルティアの件だな? どうなった?」
(話を進めろ。話を進めるんだ、俺! 逃げる事はできない!)
「はい! シャルティアは温情にとても感謝しておりました! これからは失敗をしないように努めるとの事でした」
「……そうか。ならパンドラズ・アクターにも相談した上で、謹慎処分を解こう」
横にいるパンドラズ・アクター重々しくだが、頷いているから問題は無いだろう……それに自身も罰を与える事を望んでいないのだから……
「温情に感謝いたします」
「シャルティアを許してくれて、ありがとうございます、アインズ様!」
「構わない、元は私の失策だからな……」
「「そんなことありません、命令を守らないシャルティアが悪いんです!」」
「だが……」
「アインズ様だけが私達をお捨てにならなかっただけで、我々は救われているのでございます」
アルベドの言葉の刃が胸に突き刺さる。自分以外この場にいないのだから……自分しかこの場にいないのだから……
「アインズ様。シャルティアの命令違反で、私達を見捨てないでくれてありがとうございます…………」
気付けばアウラは涙目になっていた……アウラやマーレは幼く作られている以上他の者よりも、堪えるているのだろう……
(…………捨てられた、か。アウラもそう思っているんだな……事情を知らないんだからな……もう少し、アウラやマーレと触れ合う時間を作った方がよさそうだな……)
「……あぁ。私はずっと、ナザリックと、お前達と一緒だ……だから泣くなアウラ。可愛い顔が台無しだ」
アインズはアウラを持ち上げて自分の膝に座らせ、持っていたハンカチでアウラの目を拭う。骨なのは我慢して貰うしかないだろう……アルベドが少し睨むような形になっている……アルベドの頭も撫でると急に恐怖が無くなった。が…
「アインズ様、私もお願いします!」
「……お前は大人だろう?……アウラは子どもだから良いが」
「……アインズ様、私もタブラ・スマラグディナ様の娘でございます!」
「いや、しかしだな……」
「アインズ様、あたしからもお願いします!」
アウラとアルベドの視線が交差する。目で会話をしているようにも見える。
(……慰めの件でより仲良くなる事ができたのか……そうだな、さすがに添寝は駄目だが……)
「……分かった。さすがに持ち上げるのは許してくれ……」
アルベドが嬉しさを堪え切れないかのように、アインズの上に座る。
「……そうだな、私の命令に従ったのだから何か褒美を与えないと行けないな。二人とも何かあるか?」
二人に聞くと、少し目を合わせた後……アウラがお願いしてくる。
「アインズ様。私、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが欲しいです!」
「ふむ? ……いいだろう。だが、ナザリック外への持ち出しは許可しないぞ?」
「もちろんです! 奪われたら大変ですもんね!」
「ああ。だが危険な目にあったらすぐに逃げ出すんだぞ? お前達が危険な目に遭うのは私にとって、とても辛い事だからな……」
「はい! ありがとうございます……ずっとずーっとナザリックにいて下さいね……私達の支配者でいて下さいね?」
「ああ。アウラは心配性だな?」
「えへへ」
子犬のようにアウラが自分の手に頭を擦りつけてくる……アインズは気付けない。パンドラズ・アクターの驚愕を――極少数であるが、真の意味でアインズの家族となりうる者はナザリックにも存在した……ルプスレギナやアウラである……しかしアウラが家族に成りえるのは子どもゆえの無邪気さとも言える……力の方向が狂えば、墜ちていくのだ。アルベドも可能性ならあった……しかし――
「そういえば、アウラ。その服はどうしたんだ? 普段と違うようだが?」
「……えっと……似合っていますか?」
「ああ。私は服に詳しくないから、アウラにとても似合ってると思うぞ?」
「……ありがとうございます、アルベドが選んでくれたんですよ!」
「……ふむ。そうなのか?」
アウラの反対側に座るアルベドを観察する……何か褒めて欲しそうに見える……
「さすがはアルベドだな……普段からアウラは可愛いが、より一層可愛く見えるぞ?」
「ありがとうございます、アインズ様……ですが服に詳しくないなどと嘘を言われずとも……」
「いや、本当に服には詳しくないのだ」
納得していないようだがアルベドが引き下がる……隣のアウラを見るといつの間にか不機嫌になっていた……
「……どうしたのだアウラ?」
「……何でもないです……」
「あらあらアウラったら……アインズ様、アウラはかわいいではなくて、綺麗と言って欲しかったのです」
「……そうなのか?」
(……成長期って事で良いのかな? やっぱり
「ああ。とっても綺麗だよ。アウラ」
「……ありがとうございます、アインズ様!」
「構わない。お前は……お前達は私の宝物だよ……」
何も恥ずかしがる事は無い。だって真実なのだから……アウラとアルベドが泣き始める……
「おっおい。どうしんだ!」
「……アインズ様。私ずっと、アインズ様のお部屋から遠ざけられていて、寂しゅうございました……捨てられるのかと思いました……他の方々と同じように……」
「……捨てる訳がないだろう? ただ非常事態だから、お前には部下への指揮に専念して貰いたかっただけだ……」
「ありがとうございます……永遠に我々をお捨てになられないでください……永遠に支配者として君臨いただけますよう……お願い申しあげます……」
ただ静かにモモンガはアルベドとアウラを慰め続ける……――その光景はパンドラズ・アクターが望んでいたものに近いかもしれない……二人はただ父親に捨てられたくない子どもなのだ……そして、
アインズは二人が満足するまで、慰め続けた。名残惜しそうに二人も自分から立ち上がっている。
「……アインズ様……実は私もお願いがございます」
「む? なんだ言ってみなさい。できる限り応えようじゃないか」
「ありがとうございます……暫くの間だけではありますが、アウラやマーレを手伝ってもよろしいでしょうか?……また他のNPC達がシャルティアのような間違いをしないように、視察をして参りたいのでございます」
「…………分かった。好きにするといい」
「感謝いたします……ではアウラ、行きましょう?」
「…………」
アウラが沈黙を保っている……何かまだ用事があるのだろうか?
「……一緒に眠って欲しいです……」
(……はっ? え? ……父性愛か……ネムにもしてあげたし……アウラやマーレになら構わないんだが……)
ちらりとアルベドを見ると、笑顔を浮かべている……間違いなく一悶着あるだろう……
「……そうだな。それはまた次回にしよう。その代わりぶくぶく茶釜さんの声が入った時計だ……」
アウラが呆然としながら受け取る……細かな注意事項を言うが、頭に入っているだろうか?
「お任せ下さい。アウラには私から詳しく言って聞かせますので」
「そうか? では頼んだ……アルベドも何か考えていると言い」
「……ありがとうございます。では失礼いたします……アウラ、行きましょう」
アウラが挨拶をしながら扉の外に出ていく……
――アインズは気付けなかった……自らアウラが壊れる、最後の引き金を引いていた事を……パンドラズ・アクターは動けない……自分の罪を明確に認識してしまって――
★ ★ ★
「……ははは。まさかアウラが甘えてくるとはな……」
父上は機嫌がとても良さそうに見える……全てを知らなければ、まるで家族のように甘えてきてくれたのだから当然ともいえる……
「……だが二人があれほどまでに、追い詰められているとは……これは他のNPC達もそうかもしれないな……何か考えた方が良いかもしれないな……」
「……父上の言う通りかと……私も少し浅はかでございました……アルベド殿の気持ちを考えず、アルベド殿の職務を奪っていたのですから……何かフォローをしておくべきでした……」
「……仕方ないだろう……私が支配者として振舞うためには、お前の力が必要なんだから……お前が気に病む事じゃない……」
「……はっ……それから父上。宝物殿のアイテムの持ち出しを御許可願いたいのですが……」
「……お前の事だから必要な事なのだろう? そうだな……仲間達の武具でなければ許可しよう……」
「……感謝いたします……
(私がアウラ殿を壊してしまったのですね……いえ、アウラ殿だけではない。他のNPCも……アルベド殿も……)
今のパンドラズ・アクターの胸の内は後悔だけだ……アルベドが暴走したのは、パンドラズ・アクターの存在により遠ざけられたことに起因するのだから……恐らくこの事がなければ、彼女がより深く壊れる事もなかったのだから……
――ここに一つの結末が定まった……パンドラズ・アクターがアルベド達NPCに殺されるのは間違いない……モモンガはパンドラズ・アクターが殺されれば、怒り狂うだろう……だがそれでも、彼にはNPCを捨てる事はできないのだ(ギルメンを殺されれば別かもしれないが)……現状、彼の敗北を覆す手段は存在しない……後はどのような敗北を選ぶか……どのような死に方を選ぶかだ……
敗因はただ一つ、彼はアルベドを軽視し過ぎた……もし彼女に、デミウルゴスに話した内容を伝えていれば、この結末は避けられただろう……なぜ自分がアインズの隣で彼女の代わりにいたのか……パンドラズ・アクターとデミウルゴスの間で合意された事を伝えられていれば……だが彼女はもう止まれない。
パンドラズ・アクターがモモンガに
唯一、パンドラズ・アクターの味方だと断言できるのは、デミウルゴス一人だ……そう、たった一人しか味方がいないのだ……そして極少数では……何もできない――
彼は指輪を使い、宝物殿へ転移する……その背中は何かに打ちのめされた老人のようであった……
読了ありがとうございました! 最近寒くなってきましたが、如何お過ごしでしょうか?
さて、前置きはこの辺にして本題に入ります……
恐らく、今話を読んで下さった皆様は理解頂けたかと思いますが……
BADENDが確定しました! もう覆すのは無理です!
本当にどうしてこうなった? きっといつの間にか作者が深淵を覗いて、深淵に覗き返されて発狂していたのでしょう……
今まで読んで下さった皆様に感謝を!
ここからは、NPCがアウラがアルベドがパンドラズ・アクターがアインズ・ウール・ゴウンがどのような悲劇を迎えるかをご覧ください……
でもさすがに、自分の考えていた話の展開がほとんど消えてしまいました……それを認めるのは苦しいです……
よって! こんどこそ! ネムとモモンガ様が主役の、覇王少女をリメイクしようと思います!
作者が本当はどんな物語を望んでいたのか……今回の話が一体どれほどずれているか見比べて頂けると、天国と地獄が味わえるかもしれません……(登場人物の生存的な者で……)
なおこちらでは、心機一転! 愉悦部に入部した気持ちで続きを書きたいと思います。
リメイク作はほのぼのです。誰が何と言おうとも、ナザリック勢にも死人が出ない優しい作品にしてますとも!
本当に、本当に申し訳ありませんでした!