覇王少女ネム育成計画(修羅場ルート)   作:万歳!

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お待たせしました! 少しずつ地の文の修正作業等を行っております! 今話は多少改善されたのではないかと思いますが……ご指摘いただけるとありがたいです!


第12話 思い

 パンドラズ・アクターは二人の家に案内された。

 

「ではこちらをご覧ください!」

 

 チェスの盤と駒を見せてルールを説明する。二人も苦戦していたが、集中を見せて僅かな時間で覚えて見せた。教える最中、エンリは疑問を浮かべていた。これで指揮官の練習になるかが分からないように……指揮官とは何かを理解できていないので当然のことである。本来なら軍人将棋の方がよい訓練になるのだが、文字を教えるのには時間が掛かるため、こちらで代用する。

 

「エンリ嬢。なぜ、指揮官の訓練になるか分からない顔をしていますね?」

 

「あっ……すみません!」

 

「構いませんとも! では解説いたしましょう!」

 

 パンドラズ・アクターは演技を使い分かりやすく解説を始める。多少時間がかかったが、二人とも理解する事ができたのだろう。頷いている。……ネムは多少怪しい部分があるが問題は無いだろう。実際に彼女が戦う場面になれば、ほぼ詰みといえるのだから。

 

「……解説したとおり、戦いとは如何に相手のしたい事をさせず、自分のしたい事を相手に押し通すかです。こちらはゲームですので完全には再現できませんが、どう対応するか、こう動けば、相手はどう動くか、動かせさせるかの訓練にはなります!」

 

「……実戦だったらさらに不確定な要素が加わるんですね?」

 

「その通りです! エンリ嬢良く理解できましたね! 付け加えるなら、指揮官はどんな時でも絶望を見せてはならないという事ですね! 指揮官が諦めてしまえば、勝ち目は0になりますから!」

 

 エンリが指揮官としての適性を見せた事には、パンドラズ・アクターも驚いていた。この妹にして、この姉ありである。正しくはこの姉にして、この妹ありだろうか? また不確定な要素に関しては心当たりがるのかもしれない。カルネ村が騎士に襲われた時、アインズに救われたのは不確定要素と言えるだろう。

 

「では、お二人とも紹介したい者がおりますので外に向かいましょう!」

 

 ネムが元気よく返事をしながら外に出ていくように誘導する。ネムがいては、エンリの疑問を晴らす事ができないのだから。

 

「……ご安心を、ネム様が戦場に立つような事がないように、尽力いたしますので……」

 

「……パンドラズ・アクター様は、不確定要素を恐れておられるんですか?……また誰かがこの村を襲う可能性があるんですか?」

 

「……その通りです……私やアインズ様であれば大抵は守りぬけるでしょう。しかし私達はこの村に常駐する事はできない。そのため護衛の者達も用意しましたが、万全とは言えない……あなたやネム様、村の者達には私達がいなくても時間を稼げるようになって頂かなくては」

 

「……私も全力でネムに危険がきた時に、対処できるように頑張ります!」

 

 エンリは何か覚悟を決めた瞳でネムの後を追う。パンドラズ・アクターが語っていないだけで、多少の不確定要素が起こっても、ブレインだけで守り抜けるだろう。……法国かナザリックの者が攻寄せない限り。

 

(しかし……この家も改築しなければなりません……家族との思い出でしょうから、新しく家を作る方が良いでしょう。防衛力を高め……新しい家に恒常的に父上の部屋に門を開けるようにすれば、頻繁に招く事も容易になりますしね)

 

 外に出る。時間的にそろそろナザリックに帰還しなければいけない。本来ならもう少し時間をとって、カルネ村に必要な物を調査したいが、ナザリック(アルベド)が気がかりなため、これ以上の時間をカルネ村に投入するのは止めるべきである。

 

「村の者達よ! 大事な話があります! 各員傾聴して下さい!」

 

 パンドラズ・アクターの大声に村人の多くが集まり始める。一体何が起きるのかワクワクした目で見る者と、何か問題が起きたのかと警戒を露わにする者たちである。前者は主に子どもが多い、筆頭はネムである。

 

「パンドラズ・アクター様。一体何事でしょうか?……まさかこの間みたいに何者かが……」

 

「ご安心を! 今回は護衛の者をあなた達に紹介するためです! ……私達も頻繁に来られる訳ではないので、この村に住み込みで護衛する者を用意しました!」

 

『ブレイン! こちらに来なさい!』

 

★ ★ ★

 

 ブレインはただひたすらに、仮想敵と戦い続ける。いつの日か、見果てぬ頂きに手をかけるために。

 

 現在の仮想敵はシャルティアだ。何度切りつけても、どこを狙っても、全てを弾かれる。小指の爪一つで。パンドラズ・アクターに聞いた通りであれば、奴がフル装備をすればより強化されるという。何度も不可能の文字が頭を過る……頭の中に出てくる言い訳を切り捨てる。

 

「……俺は絶対に諦めない! 必ずだ……必ず到達してやる! 諦めなければ、必ず夢は叶うと俺は信じる!……何度倒れようともだ!」

 

 求道者は咆哮をあげる。ただ、我武者羅に前だけを見続ける。自分を見下す視線を睨み返す……またブレインがシャルティアに殺される結果に終わる。何度繰り返しても、結果に変化は訪れない……

 

(……こいつは俺の想像でしかない。……本当のあいつは数倍以上に強いはずだ!)

 

 これでは駄目だと自分自身を叱咤する。森の賢王が隣で何か言っているが、無視してもう一度仮想敵と戦おうとする、そこに……

 

『ブレイン! こちらに来なさい!』

 

「……賢王。あいつがお呼びだ。村に向かうぞ」

 

「……了解したでござるよ! ブレイン殿。話しかけたら、返事をして欲しいでござるよ!」

 

 ブレインは仮想敵との殺しあいで刀に付いた血を振る事で落とす。仮に本当に血があった場合、多くの者が眉を顰めるほどの返り血を浴びているだろう……見る者がみればこの地を戦場と勘違いするかもしれない……それほど濃密な殺気がこの地には漂っているのだ。……別の見方をすれば、それほどブレインは追い詰められているのだ。

 

「……悪いが、俺には余所見をしてる暇は無いんだ……お喋りがしたいなら、村の奴らとしてくれ」

 

「仲間と話す事が余所見でござるか! 共に村を守るのでござろう!」

 

「……痛いとこ突くな……悪かった……善処する……急いで村に向かうぞ? あいつに怒られたくないだろう?」

 

「むぅ……誤魔化しに乗ってやるでござるよ! ……殿に怒られるのは嫌でござる」

 

 二人は無言で走り出す。ここで奇妙な事が起きる。ブレインが余力を残して走っているように見えるのに対して、賢王は全力で走っているように見えるのだ。確かに昨晩の戦闘でブレインは賢王に勝った。疲労無効を考慮しても単純な素早さでは、賢王が上の筈だったはずなのに。

 

「まだまだだ……こんなんじゃ、あいつには届かない」

 

 ブレインは命をかけ続ける特訓により急成長を果たしている。現在のブレインは昨日の稽古で難度にして105ぐらいに成長しただろうか? 仮にガゼフと戦っても、1対1なら負けは無いと確信できる程に。……頂きにいる者たちから見れば鼻で笑われるだろうが。

 

「来ましたね……あちらにいる者達が、この村に住み込んであなた方を護衛する者達でございます!」

 

 村人達が二人に威圧されている。当然だろう。賢王のおかげでこの村は生存できていたのだから……隣には殺気が飛び散っている存在もいるのだから……

 

「……ブレイン! 今すぐにそれを収めなさい! あなたの役目はこの村を守る事ですよ! 契約を忘れましたか!!」

 

「……すまん。悪かった」

 

「まったく。あなたは……村人の皆さん! ご安心を! 確かに恐ろしく見えるかもしれませんが、彼はただ強くなる事に情熱をかけているのです! そのために私と契約した身! 村を守る事はあっても、敵になる事はありません!」

 

「悪いな……あいつの言うとおり、俺の仕事はこの村を守る事だ……」

 

「まったくブレイン殿は! 殿の御命令を遵守しないとは! それがし森の賢王でござるよ! 困った事があったら、何でも聞いてくれて良いでござるよ!」

 

 ざわめきが起こる。『森の賢王』。この名称はカルネ村にとって特別な物だ。村長がアインズに語った通り、カルネ村が何の防衛対策もとらずに存続できたのは、『森の賢王』が防波堤代わりになっていたからである。

 

「……あなた様は、周辺の森を支配していらっしゃる、森の賢王様でございますか?」

 

「左様でござるよ! それがしがその賢王でござる! 今は殿に従属しているでござる! ブレイン殿と共に、この村を護衛するように命令されているでござるよ! 困った事があれば、言ってくれると嬉しいでござる! 手伝うでござるよ!」

 

 村人達は全員パンドラズ・アクターが強者だとは肌で感じていた。どれほどの高みにいるかは認識していなかったが。今理解できた情報を組み合わせると、『森の賢王』をいとも簡単に従属させる事が可能という事だ……

 

「さて、顔合わせも済みましたね。我々もそろそろ帰還しないと行けません。二人ともしっかりとカルネ村を護衛して下さい! ……村の方もご安心を! ブレインはともかく、賢王の方は礼儀正しいので!」

 

「……おいおい。それは言いすぎじゃないか? 確かに俺は武骨者だが、さすがにこいつに負けるのは御免だぞ?」

 

「ブレイン殿こそ、失礼でござるよ! それがしは確かに、ブレイン殿に力では負けるでござるが、賢さで負ける気はないでござるよ!」

 

 村人達は唖然としている。森の賢王より、ブレインと呼ばれる男の方が強いという事と、軽口を叩きあっている事に……二人の間には細いが確かに絆が存在しているのだと理解させられたのだ……

 

「……仲が良くて、大変よろしい! では皆様! 本日はこの辺で失礼致します! ゴブリン達よ、彼らとの打ち合わせは任せました! ユリ嬢、帰還致しますよ!」

 

 帰還が開始される。「パンドラ様! ありがとうございました!」村人とは思えない程の服と指輪、鞭を装備した子どもが、帰りゆく者達に挨拶をしている……彼女の装備には場違い感がある。まるでどこかの貴族のようだ。二人が帰還するのを見届けた少女が、自分達に話しかけてくる。……怖くは無いのだろうか?

 

 

「えっと。初めまして! ネム・エモットです!」

 

 彼女の言葉で疑問の一部が氷解する。ブレインはパンドラズ・アクターに言われていたのだ。

 

「良いですか? あなたが護衛する優先順位は、ネム・エモット様。続いてネム様の姉である、エンリ嬢。続いて村人達です」

 

 彼女の装備が護衛対象なら当然だと納得できた。彼は明言こそしていないが、命を捨てでも守れと言っているのだから。そして別の疑問が湧いてくる。

 

(……こいつが俺の最大の護衛対象か……もしかして、あいつの主はロリコンか? こんな子供を最大の護衛対象に……いや、もしかしたら子どもでも亡くしていて、似ているのか?……どっちにしても俺がやる事は変わらないな)

 

 ロリコンと思われた事をアインズが知れば間違いなく、鎮静化が行われる。後者を聞いても、自分の職業(童貞)を思い出し結果は同じだろう。パンドラズ・アクターを息子と認識していても職業に変化は無いのだから。仮に両方知れば、精神的に追い詰められすぎて、自害を選ぶかもしれない……まぁナザリックの面々が止めるだろうが。

 

「……ああ。初めまして。俺は、ブレイン・アングラウス……」

 

「それがし、森の賢王でござるよ!」

 

「初めまして! アングラウスさんは、パンドラ様のお友達なんですか?」

 

(……ははは。あいつの名前を略して嬉しそうに呼ぶか……頂きを知らなかった頃の俺以上に怖いもの知らずだな……)

 

「……いや、どちらかと言えば、俺はあいつの弟子になるな」

 

「お弟子さんなんですか! ンフィー君と一緒です!」

 

(ンフィーレア・バレアレか? 確か協力しろと言われた奴だな……情報を集めさせるとか言ってたか?)

 

「そうだな。それにしても人間に襲われたらしいから、もう少し俺の事を警戒するかと思ってたんだが? それに殺気をだしてしまったしな……」

 

「……パンドラ様が連れてきた人だから大丈夫です!」

 

 村の人間も同じような事を言っている……ただ殺気の事に関しては説明を求めている。いきなり来た人間が殺気を出しているのだから、疑念の目で見られる程度で済んだのは驚きである。

 

「……さっきのは、宿敵(シャルティア)との戦いを思い出していたんだ……何もできずに、殺される運命だった……な」

 

 何かを思い出す雰囲気が見られる。恐らく、村人が虐殺された時の状況を思い出しているのだろう……何人かから怒り以上の意思が見られる……虐殺をした存在は違う。立ち位置もブレインと彼らでは、まったく異なる。唯一の共通点が、何者かに襲われ、無力を味わった事だ……

 

「……ブレイン殿も村人達も怒りを鎮めるでござるよ! それがし達は殿の御命令通りにそこのゴブリン達と話しあうでござるよ!」

 

「……そうだな……とりあえず俺と、こいつの二人なら大抵の危険からは守れる。安心しな……」

 

 村の人間達から否定の声が上がる。

 

「俺達だって村を必ず守ってみせます!」

 

「……お前たちじゃ足手まといだ……理解できてるだろ?」

 

「……そうだとしても! もう村の危機に何もしないなんて、自分が許せません! 楯ぐらいにはなりますよ!」

 

 全員が強い瞳を見せている……幼い子供でさえ……頂きにいる者から見れば、ミリ単位の差だろう。しかし自分でもこの村レベルなら蹂躙する事ができるほどに彼らは弱い。なのに……

 

(何で、弱いのに、大きく見えるんだ?)

 

「もう! 誰も死なせたりなんかしないよ! ネムも戦えるんだから!」

 

 護衛対象が鞭を器用に操ってみせている……装備を考慮すれば最低でもミスリル級冒険者複数で掛からなければ勝ち目はないだろう。傍にいる魔獣を含めればオリハルコン級でも厳しいかもしれない。

 

(…………俺は、こいつらと一緒にいれば、もっと強くなれるかもな……それにネムは装備を考慮しても鞭の扱いが上手い…………あいつの主が気にいる訳だな……はは。この村が滅びれば人類が滅びるか……俺も気合いを入れて世界を救うか!)

 

「……はっ! お前達が戦いの準備を終える前に、全て終わらせてやるよ! これでも人間ではかなりの腕だ。任せろ」

 

 今まで聞き役に徹していたゴブリン達も話しだす。村を守るために……

 

「確かにあんたは強い。……俺達も鍛えて頂けませんかね? 村を守るために」

 

「だったら俺達も!」

 

「いや、自警団の人達は俺らの訓練を受けた方がいい。今は……俺達の訓練に慣れたら、格上との戦いの仕方を実地で教えて貰いやしょう」

 

「その通りだな……お前達はまず戦いを見て貰う……そうだな……賢王。デモンストレーションと行こうか?」

 

「了解でござるよ! ブレイン殿!」

 

「お前達には戦いの空気になれて貰う……一先ず俺とこいつの戦いを見せる……範囲攻撃はなしだぞ?」

 

「無論でござるよ! それでは殿の命令である、護衛の意味が無くなるでござるよ!」

 

 二人はお互い怪我しないよう、周りに被害がでないように接近戦を行う。ちなみに賢王はブレインを全力で殺しに掛かっているが、全てブレインに防がれるか、受け流す作業が続く。

 

 賢王がパンドラズ・アクターに降伏した後。アイテムを作るための材料を二人で探している間、作っている間、パンドラズ・アクターに召喚された死の騎士(デス・ナイト)とブレインは殺しあいを続けていた……倒すとさらに再召喚……最終的には2体を相手に防戦主体なら生き延びられるようになった。

 

(さすがに昨日の訓練は大きいな……死の騎士(デス・ナイト)との6連戦の後に2体同時はさすがに死ぬかと思ったが……途中から強化魔法も無くされたしな……俺より強い奴は幾らでも居る……それを認識したうえで、必ず、頂きに辿り着いてやる……あいつが内部の方向転換を失敗した場合、この村と世界を救うために、シャルティアと再戦する可能性もあるからな……違うな。無くてもあいつに再戦を挑むのみだ! 今度は爪ぐらい斬り飛ばしてやる!)

 

 森の賢王の爪の振り下ろしを、ブレインは紙一重で避ける。それを何度も繰り返す。ブレインには決して当たらない。まるで自分と森の賢王の力の差を見せつけるように……刀を森の賢王の目にに突き付けると、村人達から歓声が湧きあがる。二人の戦いは熱気の興奮に包まれていた。森の賢王も同じだ……唯一氷のように淡々と戦った、ブレイン以外。内心は熱くなっていたが。

 

「凄い!」

 

「まだまだだ……あいつには届かねぇよ」

 

「確かに殿は別格でござるが……ブレイン殿も十分でござるよ!」

 

 全員がブレイン達の戦いを見て、興奮を覚えている。心情的に近い物も存在するため、彼らは順調に打ち解けていく。

 

 ――余談だがブレインと賢王は家に住まず、常に外で暮らす事になる。ブレインに至っては村人が話しかければ答えるが、話しかけないと雨が降っていようとも、休む事も食事もせずに常に鍛錬をしている。何かに追われるように……時々村の仕事を手伝ったり、不器用な優しさを見せているが……

 

 ただ彼の強さに憧れた、子ども達や男達が彼を見ていたり、彼の強さと不器用な優しさに恋に落ちた女性は多い。恋人や結婚をしていた者、エンリとネム以外全員が恋に落ちたと言えるかもしれない。

 

 賢王は元の縄張りを案内してくれる事で薬草の位置を村人に教えてくれた。獲物をとる事で村に貢献もしてくれている。縄張りを案内してくれる事で、木材の入手も容易になった……全ての村人はさすがは森の賢王とほめ称えたと言う。……一人だけ「これじゃ、仕事上がったりだ」苦笑しながら呟くレンジャーもいたが……

 

 村人と護衛達の絆は少しずつ深まっていった。

 

 彼を連れてきてくれた、パンドラズ・アクターやアインズに対する感謝の念がさらに深まったのは当然と言えるだろう。

 

★ ★ ★

 

 ナザリックに帰還したパンドラは、部下から話を聞いた後メイド達を集めていた。

 

「さて、私が何故アルベド殿達が妃に相応しくないと考えたか、理解しておりますか?」

 

 メイド達が息をのんでいる……ナザリックのメイドに相応しくない程に全員の顔に緊張が走っている。これから何が起きるか察しているのだろうか?

 

「まず一つ目が嫉妬が過ぎた事です……あなた達も怖い思いをしたでしょう?」

 

 全員が首を縦に振っている。嫌いではないが、殺気に近い物を受けた者も多いのだから……

 

「そのため今回はあなた達が人間に対して、どれぐらい嫉妬するかアインズ様に内緒で調査しました……アインズ様はナザリックの者達に脇が甘いので、多少アインズ様の行動を誘導させて頂きましたが……ルプスレギナ! 前へ」

 

「はいっす!!」

 

 尻尾があれば振っているぐらいの喜びを露わにしている。他の者達は「失敗した!」と表情に出している。

 

「現在私がナザリック内で、アインズ様の妃に一番相応しいと考えているのはあなたです」

 

「そうっすか!」

 

「ですので、あなたにアインズ様の専属メイドになって貰うよう進言するつもりです。アインズ様のお許しがでしだい、仕事を始めて頂きます!」

 

 メイド達が大きくざわめく……現在はパンドラズ・アクターがアインズの傍に仕えているため、メイド達が仕える機会がない。それをただ一人のメイドに与えるように進言すると言うのだから、正妃が確定したと感じているのかもしれない。

 

「但しまだ確定ではありません。そして、アインズ様の妃になるのであれば、何が必要か御自分で考えなさい……それが理解できない限り、あなたは妃になれない……アルベド殿とも相談の上で、あなた達には休みを与えます。それを利用して、他の者達も自分がアインズ様の妃になると考えた場合、何が必要になるかを考えなさい!」

 

「…………了解したっす!!」「「分かりました!!」」

 

「それと今回の話はアルベド殿には御内密に……恐らく彼女が知れば暴走しそうですので……被害をあなた達だけで解決できるのであれば、問題ありませんが」

 

 今までの彼女を思い出しながら全員が首を青くしながら頷いている。デミウルゴスやセバスが見れば、ナザリックに相応しくないと発言する程に、大きなざわめきが流れていた……

 

(さて、これでアルベド殿が暴走しても、ルプスレギナに全て嫉妬が向かうでしょう。暫くの間はネム様の安全が確保できますしね……その間にNPCの意識改善とアルベド殿の考えをどう改めさせるか考えなければ……さすがにアルベド殿もNPCを嫉妬で殺す事も……どうなんでしょう?)

 

 パンドラズ・アクターが話した通りの業務も行わせるのは、パンドラズ・アクターの中で決定している。ネムとアインズの話しあい等を見させて、自発的に壁を壊させるために。またルプスレギナは、より重要な任務を知らない間に任される。それこそ、死ぬ可能性が0ではない、アルベドの嫉妬を一身に背負うという任務を……

 

(どうせアルベド殿に今日の事は知られるでしょうし。木を隠すなら森と言いますしね……最悪の場合、高位のシモベとNPC達で取り押さえましょう)

 

★ ★ ★

 

 アインズはパンドラズ・アクターのいない時間、報告書を読んで少しでも多く理解しようとしていた。またシモベの存在があるため、支配者として相応しいと呼べる態度をしている。

 

(いくら何でも、息子に頼りっぱなしは嫌だ。少しでも多く理解してあいつの負担を和らげないとな)

 

 普段パンドラが自分の傍にいるのは、シモベやメイド達が常に自分の傍に控えさせないためだ。自分が凡庸な人間だったと理解してくれているため、重圧に弱い事を察してくれているのだ……またパンドラ自身も別の部屋に移動している事もあるため、十分休む事ができる。

 

(……普段から他のシモベ達も同席させて、重圧に少しでも慣れるようにするべきか?……ネムのおかげで随分リラックスできたみたいだし…)

 

 アンデッドであるため一定以上の感情の揺れは鎮静化されるが、少しずつ小さい感情が積み重なっていたのだ。その分を解消する事ができた。

 

(本当に感謝するべきだ……シャルティアの件も少し冷静に考えられるな……油断から負けた……つまり我々ですら油断すれば負ける可能性がある事をシャルティアは教えてくれた……コキュートスの件次第で知識面での成長が可能かが分かるな……メイド達にスキルがない事ができるかも実験させなくては……私自身もやってみるか)

 

 リラックスしたためか、柔軟に働く脳みそ(語弊があるが)で自分ができる事を思考している。どれぐらい時間が経過しただろうか? 執務室の扉が叩かれる。

 

「誰だ?」

 

「ただいま帰還致しました。アインズ様!」

 

「入れ」

 

 扉が開かれ、一番信頼できる存在が帰還する。

 

「お前達は外に出て通常の業務に戻りなさい」

 

 命令に従い護衛の者達が外に出る。何故だろう……オーバーなアクションがかっこよく見えてきている自分がいる。自分も成長しているという事なのだろうか? (ただの現実逃避である)

 

「良く帰ってきたな。パンドラ」

 

「ただいま帰還しました父上! いくつか御報告させて頂きたい事がございます!」

 

「……カルネ村の件か? 私も報告を聞きたいな……ンフィーレアとは話が付いたのか?」

 

「無論でございます! カルネ村の為ならと、協力を惜しまない様子でございます! またカルネ村に常駐する護衛の者2人を引き合わせて参りました!」

 

「そうか。それで護衛の者はどういった人物だ?」

 

「二人とも王国戦士長に匹敵する者でございますので、桁外れの強者が出てこない限り問題は無いでしょう! またブレイン・アングラウスという者なのですが、強くなる事に情熱を燃やしているため、昨夜パワーレべリングを行ったところ、戦士長を圧倒できる程度には成長したと思われます!」

 

「……つまり、現地の者でも、我々に匹敵できる可能性があるのだな?」

 

「やもしれません。しかしあの者が裏切る事は無いでしょう。我々の協力がなければ現地で効率よくパワーレべリングを行うのも難しいため、我々を利用するでしょう! またンフィーレアにもパワーレべリングを行い、差があるのか、職業選択がどのように選ばれるかの実験をしようと考えております!」

 

「確かにお前の言うとおりだな……ユグドラシルと今の違いを調べなければ。それに悪いとは言わないが、ナザリックの者達は、人間を下等生物と侮り過ぎるきらいがあるからな……」

 

「その通りでございます! 上手く成長すれば、ナザリックの者達が油断する事も無くせるでしょう! 現地の者でも、やり方次第で我々を追い詰める事が可能だと!……さすればシャルティア殿のように人間を侮り敗北する者もいなくなるでしょう!」

 

 シャルティアの敗北、世界級(ワールド)の存在で一部は改められているが、完全ではないのだから。

 

「……見事だ! カルネ村を強化しながら、複数もナザリックの益になる事を実行するとは」

 

「恐縮でございます!……ではそろそろ講義を行おうと思います! よろしいですか?」

 

「無論だ。それとこちらは私が読み込んだ物だ。幾つか理解できない点があるため、補足説明を頼む……その前に質問なんだが、私自身重圧に慣れるために、普段から誰かを控えさせた方がいいと思うか?」

 

「畏まりました!……その点に関しては私も進言しようと考えておりました! ルプスレギナ嬢が最善かと思われます!」

 

「そうか……では講義を頼む」

 

 話が付いた後パンドラは手早く、報告書を読み込んで講義を始める――名実共に端倪すべからざるという、ナザリックの至高の支配者に近づいているのは間違いないだろう。それがいい事か悪いことかは現時点では判断できないが……NPC達の被支配者の壁を崩そうとする、パンドラズ・アクターからすれば自分で難易度を上げている事を理解していなかったので、悪い事なのだろうが――

 

★ ★ ★ 今日のプレアデス

 

「……私がいない間に随分変化が起きたみたいね……まさかルプスがアインズ様の妃候補に挙がるなんて……」

 

 ユリ・アルファはカルネ村にいることが多くなっていたため、ナザリックの変動を察知する事ができなかった。妹達に聞いた話では、メイド長にメイド達が怒られたらしい。また妃のところでは我知らず声が大きくなってしまった。

                          コツコツ

 

「うひひ。いやー私の普段の行いが良かったってことすかね!」

                          

「ないと思う」

「ないと思うわぁ」

「……ない」

「……みんなの言う通りね」

 

「みんなひどいっすよ!」

 

 現在ナザリックにいるプレアデス全てから否定の声が上がる。全員がルプスレギナに対して思う事は一つだ。

 

「だからこそ分からないわ。パンドラズ・アクター様がルプスがアインズ様の妃に一番ふさわしいって言った事が」

                          コツコツ

 

「もしかして、アインズ様はルプスみたいな性格の女性が好き?」

 

「そうかもしれないわぁ」

                          コツコツ

「……でも私達が妃になる可能性もあるらしい」

                

 そうなのだ。パンドラズ・アクターの話によると、何かに気付かなければ妃になる事は無いと言っているのだから。

                          彼女達は今すぐ逃げなければ

「……正妃の座は渡さないっすよ!」 

 

 ルプスレギナは調子に乗っているのだろう。至高の41人の頂点の正妃になれる可能性があると知ればナザリックの全ての者達が強弱に差はあれど、その座を望むだろう……仮に自分達が同じセリフを言われれば、やはりルプスレギナと同じようになる可能性が高い。

 

                          恐怖の権化が接近しているのだから

 

「……はい! お喋りはそこまで! それとルプス。あまり調子に乗るべきではないわ。浮かれていて失敗をしたらどうするの?」

 

 姉として妹を窘める。

 

                          ピタ  すでに後ろに

 

「…………問題ないっす! 時と場所は弁えるっす!」

 

                          ユリは窘めるのが遅すぎた、だって

 

「あらあら。ルプスレギナが一番正妃に近い? 私がいない間に、何があったか、詳しーく聞かせていただけないかしら? お・う・ひ・さ・ま?」

 

                          全てを聞かれていたのだから

 

 そこには、美しい、あまりにも美しすぎる笑顔を浮かべた、守護者統括がいた。隣には普段と様子の違う、6階層守護者の片割れがいる。その顔が怒りに歪んでいるように見えるのは錯覚だろうか?

 

(あ……私、死んだっす)




修羅場NOW\(^o^)/

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