「種明かしをして下さい」
「いきなりどうした妹」
七星剣武祭学内予選終了後、代表選手たちの表彰も終わって夏季休暇を迎えるだけになった頃に。
黒鉄一輝が開いている剣術指導に参加している英雄は、一輝の妹の珠雫に詰め寄られていた。
種明かしと言われても、何をどう明かせばいいのかわからない。
「一輝の嘘か?公衆の面前で一輝と一緒に謝っただろうが」
「実質アンタの嘘じゃないのアレ」
「一輝が言ったところ見ただろお姫さん」
「……結局、計画してたことだったらしいし」
「うわ、ずっる。こっち見ろよお姫さん」
ステラは英雄から目を逸らして合わせない。確かに、嘘が真であったことだとしても、だ。
学内予選後に倫理委員会への捜査の手が及んだ結果、叩けば埃どころか産業廃棄物ばかりが出てきた組織ではあったが、実際に朔月英雄放校計画を企画していたことが明るみになった。表彰式でそれを一輝と共に謝罪した時に、理事長から明かされたことであった。
──捜査のきっかけとなった赤座守委員長の汚職発覚の情報も、髑髏の仮面を被った者たちの影があったというが、詳しいことは全て闇の中。
大いに偏った報道内容を強要する証拠が挙げられ、一輝に行った苦痛を与えるだけが目的の査問、水を与えなかった待遇、侍局時代の憲兵隊が用いた自白剤の使用などなど……彼の人権を大いに蹂躙した対応が世に明かされる。
事件後、赤座以下倫理委員会の人間は刷新されて、報道関係もいくつかの首が飛び──騎士連盟日本支部支部長黒鉄巌の退陣によって、この一件は幕は降りた。
事情通であればあるほど、ここまでやるかというほどに追い詰めた誰かを、畏敬の視線で注いでいる。具体的には、同級生の眼鏡の新聞部の女の子とか。
「で、種明かしってなんだ?」
「英雄さんの
「ああ、それか……。守秘義務が発生するから無理……って言えたらいいんだが、それが無いしな」
英雄の中には断る理由が、喋りたくない、しかない。明かして欲しいのであれば明かすしかなく、知りたいのであれば教えるしかない。
学内予選期間はライバルであったために、直接英雄に聞くことはなかった。知己の一輝からしか頼みの情報はなかったが、その情報量もあまり頼りないものだった。
終わった今、それを聞いておきたい。英雄に敗れた珠雫だからこそ、何をやったからどうなった、を理解していないと、反省をすることも出来やしない。あまりにも、不明瞭なところが多すぎるのだ。
「アタシも聞いておきたいわ。まだ色々隠してるでしょ?」
「一輝とやりあって、大半の手札を切ったよ」
「まだあるのね」
「この秘密主義者」
この言われよう。女子二人からボロクソに言われるのは少し堪える。
一輝へと救援の視線を送る。彼女たちを制御できるのは彼しかいない。
「英雄、まだあるのかい?」
「あー……」
あるのなら、聞きたい。そういう目で返されると、英雄も弱い。
あの試合で全力を出したことに疑いはないが、隠していることがあるなら知っておきたい。
「口で説明しても分かりにくいし、実演しようとも指定場所以外で固有霊装出しちゃいかんだろ。常習犯が二人いるから軽視しがちだけど」
「うん、確かにそうだ。……待ってステラ、珠雫。魔力出てるから、熱いし寒いから」
────だから訓練場の予約が取れた時でいいだろう、と恋人と妹に挟まれて焦熱地獄と八寒地獄を同時に味わっている一輝を余所に英雄は話を終えた。
所詮これはただのその場しのぎ。……だが、煙に巻くのは英雄の十八番だ。
その時その時で言い訳を思いつくのは、東堂刀華と貴徳原カナタで慣れている。……そんなことばかりしているから、口が
「──そうですね、私も聞きたいです」
「ええ、とっても」
「──は?」
背後から、二人の女の声。
振り向けば──生徒会長の東堂刀華と、生徒会会計の貴徳原カナタがいた。
噂をすれば影、どころか思考したら影だ。
「いや、何を……」
「いいじゃない、私に勝ったんだから」
「おい
「私に勝ったんだから」
「だから……」
「私に、勝ったんだから」
徐々に目が笑わなくなっていくのを見て、たじろいで引いてしまう。
数歩引くと、背中に誰かに当たってしまう。謝ろうと顔を見れば……。
「何も問題はないぞ、朔月。訓練場の一つ、貸し切りにできる」
「こういう時の先生たちだぜー、舐めんなよー」
「理事長に西京講師まで……貴女たちは知ってるでしょうに」
「知らなかったぞ、『
「その右手のスキンシールの下にあるものも知りたいなーウチらは。令呪、だっけ?」
「あー……」
新宮寺黒乃と西京寧音からも追い詰められたら、もうどうしようもない。
もう無理、駄目、逃げられる段階をすっ飛ばされた。
「……もしかして、最初からグルだったか?」
「悪いね、英雄」
手を合わせて謝る一輝を見て、英雄は大方理解した。
主導は彼女たち、一輝はその仕掛け人の一人として頼まれたのだろう。
「……俺が戦術で嵌められたかぁ……」
こうして逃げ場を無くされて囲われるよりも、それを悟ることが出来なかった方が、英雄にとって致命であった。
学内の訓練場が貸し切りになり、先のメンバーに加えて日下部加賀美がリング上に集まった。
中心人物の英雄は嵌められたことをまだ引きずっており、死んだ目で落ち込んだままであった。
「ヒデオ、いつまでも暗い顔してないで説明しなさい」
「やる気出ねぇ……」
無理矢理連れてこられてくれば、やる気もなくなるというもの。
喋れるか喋れないかで言えば、喋れる。だが、そうする気がまるで湧かないのだ。
「……ほう、研究者が自分の力のプレゼンも満足に出来ないと?」
「──理事長、それは挑発ですか?乗るよ、乗りますよ?」
残っていないやる気を無理矢理にでもひねり出し、仕方ないと頭を掻きながら思考を整える。
本業の研究者としての力を甘く見られた時点で、英雄の中では戦争だ。
──この場の全員の頭に自己の力を説明して叩き込み、二度と聞きたいなど言わせないようにしてやる。
「
指を弾くと、着ていた破軍学園制服が英雄の属しているカルデアの制服へと、テレビのチャンネルが変わるように切り替わり、その上から白衣を羽織った。
白衣のポケットから眼鏡ケースを取り出して、眼鏡を掛ける。カチリ、とギアが変わった感覚を感じ取り、学生モードから研究者モードへと思考形態が変化する。
眼鏡そのものは度の入っていない伊達眼鏡だが、英雄なりの意識の切り替え方法だった。
「今のは一体?」
「
そして態度も一変。声音も低くなり、威圧的な雰囲気が漂う。
さらりと聞き逃せない単語があったが、口外したら絶対にろくなことにならないと言われた通りに忘れることにする。
「朔月英雄、伐刀者ランクB、
「ああ、そうだな」
「もう一度言う──忘れろ」
思わず全員ずっこけそうになるが、何とか耐えようとする。
「……じゃあ、何か?虚偽の内容を提出したのか、お前は」
「
「出来なかったら?」
「学校辞めて、日本を出ます。
「騎士連盟を脱退するほどのものか。……わかった、そうしよう」
情報の隠匿を理事長に協力を取り付けて、話す決心がつく。
「今から一切の記録媒体に遺すことを許さない。全部頭の中に入れてくれ。無論、口外することは禁止だ」
「朔月先輩、セキュリティレベル上げすぎじゃないっすか?」
「日下部さん。本来なら全員に
「は、はい……」
有無を言わさない。これは、英雄にとっても覚悟のいることのことだから。
死後の魂まで縛るセルフギアススクロールの準備もあったが、それをするのは不信の極みと思い用意しなかった。
彼らだからこそ……そして、破軍に在籍する限り巻き込まれる可能性がゼロじゃないからこそ、話すのだ。
事情を知るのと知っていないのとでは、まるで対応の幅が違うのだから。
「──起動、『
胸の内から英雄が取り出すように顕現したのは──黄金に輝く杯だった。
杯の中には何も入ってはいないが……固有霊装から発せられる魔力は、尋常ではなく濃く膨大だ。
……それこそ、世界最大の魔力量を誇る、ステラ・ヴァーミリオンを優に数百倍は上回るほどのもの。出現した瞬間に、訓練場を魔力で満たしてしまうほどの奔流を、杯を中心に巻き起こっている。
「これ、は……?」
「何なの、この魔力量……!アタシなんか目じゃない程の……」
「──これが俺の固有霊装……端的に言って『聖杯』だ」
これこそが、朔月英雄の真の固有霊装にして全ての根幹──『朔月型聖杯一〇八号』。
「主な機能は魔力の蓄積。俺が魔力の生成をすると同時に、この杯にも魔力が注がれ続ける。
「……なるほど、その魔力量も納得だ」
貯蔵量に限度がなく、常に魔力が生成されるのであれば……その量は凄まじいものになるだろう。起きていようが寝ていようが、健常な生活を送っている限りは魔力は常に生成され続けるものなのだから。
その上、目立った性能ではないが朔月英雄の魔力回復速度はトップレベルにある。ステラと比肩しても遜色ないほどのスタミナの怪物だ。──その大半が聖杯に回されているため、実際に英雄の回復量はCランクの平均程度にしかならないが。
「ちょっと待って、だったら何で魔力量のトップがアンタじゃないの」
「理由は簡単。
「……は?ヒデオが貯めた魔力なのにヒデオが使えない?」
「ごめんなさい、英雄さん。意味が全くわからないんですが」
「この貯めた魔力は、他人に使われるためにある。
────これに願えば、何でも願いが叶う。そうするための代物である。
そもそも、朔月英雄とは、そのためだけの存在だった。そうなるはずの、運命であった。
「えっと……ランプの魔人的な?」
「回数制限があれば良かったんだがな」
「……願い、言ってもいいですか?」
「末期の台詞になるが、いいのか」
本気の殺意が籠った目を向けられ、加賀美は竦み上がり、近くにいた一輝は反射的に背中に庇った。
──
「英雄」
「……日下部さん。これが表に出ている内は迂闊な発言は控えてくれ。前の取材の時も言ったよな?聖遺物の類は、世界を滅ぼすって」
加賀美は全力で何度も縦に頷いた。好奇心猫を殺すを、自分の身で体感する寸前だったと身に沁みた。
「隠したい理由はこれでわかって頂けただろうか?」
「──禁技指定にするわけにもいかず、国家機密にするわけにもいかない。公的機密である限り、機密を知る人間は出てきてしまう」
そんな力が明るみになれば、国家ですら危うい。どうしても、英雄個人だけで秘匿するしかなかった。
「……どこまで、可能なんだ?願いの範囲は」
「
「…………っ!?」
「人の力で叶わぬことを叶える万能の願望器──それが聖杯だ」
人の今の技術でも、伐刀者の超常の力でも、およそ叶えることが不可能な事象を可能にするもの。
そういう代物を、英雄の中に宿している。自分の願いを叶えられず、他人の願いだけを叶えさせるだけの器……そんなものがもし、自分の中にあったとしたら……死にたくなる程度で済めば最善だろう。他者の黒い欲望に晒される危機感を、彼は常に感じている。人間不信になっていない方がおかしいのだ。
一輝の中で合点が、いってしまう。英雄があのような戦い方をしなければならない理由に説明がついてしまう。自分以外の全てを敵に見て、自分以外の全てを倒すための戦いなのだ。
──最悪の最悪……自分以外の全人類の絶滅すら、視野に入れている程に。
「……『
「っ!英くん、まさか……!」
「十年前の……!」
寧音がポツリと呟いた言葉で、刀華とカナタ……同じ養護施設からの縁である彼女たちは、頭の中で点と点が線で繋がったのだ。
何故、朔月英雄が『若葉の家』に入ることになったのか。その経緯を、彼女たちは知っている。
「……まあ、そういうことだ」
否定せず、肯定。だが、この場で詳しく口にするにはそぐわないと目線で制する。
「これが俺の秘中の秘だ。……口外出来ない自信が無い奴は、今からでも忘却の魔術をかける」
聖杯は英雄の中へと溶け、
名乗り上げる者はいない。皆が皆、腹を決めた。
「……結構。では、今度はコレのことだな」
手に持ったキャスターのカードがひとりでに手から離れ、七枚のカードへと別れて宙に浮く。
キャスターに加え、
「……ずっと、それが固有霊装だと思っていたんですが」
「間違ってはいない。実質、これ単体でも固有霊装並の強度を備えている」
「何ですか?固有霊装を一人で二つ持っているってことですか?」
「それは正しくはない。これは、聖杯由来の力──願われて、俺はこの機能を得た」
クラスカードによる力は、聖杯によって後天的に加わった力であると英雄は言う。
誰かに願われ、英雄は力を得た。悪徳と欲望から身を守る、強大な英霊たちの力を借りることができるようになった。
この力があったからこそ、今の今まで生きてこられた。今の今まで、壊れずにいられた。助けてくれる
彼らに敬意を持っているからこそ、歴史を学び続けている。彼らの思いを、彼らの願いを、後世に繋げていくのが自分に出来る恩返しだと信じている。
「正式名称『
──今まで使ってきた多岐に渡る力は、
その高すぎる応用性は、ありとあらゆる伐刀者に対して優位に立てる。
サーヴァントの数だけ固有霊装が存在し、伐刀者がいるも同然。つまり、朔月英雄という伐刀者一人で、何百人以上の伐刀者で構成された軍であるということだ。
個人が保有するには過ぎた戦力と思うも、聖杯の事実を知ってしまった今、その守護をするにあたって妥当な戦力であると評価するしかない。この能力だけでも、Aランク評価は覆らない。
英雄はランサーとアサシンのカードを手に取る。
「ランサー、『
カードを展開すると、現れるのは一刺必殺の朱色の呪槍。『
……この槍一つですら、数あるサーヴァントの一人の力に過ぎないというのだから驚いてしまう。
「僕らにとって一番よく見る力だね」
「サーヴァントの武装だけを取り出す力だ。武器由来の逸話があるのなら、
「のうぶるふぁんたずむ……?」
「サーヴァントにおける、伐刀絶技と思ってくれればいい。人の祈りが作り上げ、幻想が重なって物質化した奇跡。それが、宝具だ」
この槍の力は全員が知っている。槍の間合いで解放したのなら、心臓に命中したという結果を作ってから放つことが出来る、一刺必殺の宝具だ。
そして槍をカードに戻し、今度は胸に当てた。
「『
カードが英雄の中へと溶け、英雄の姿が一変する。
全身に青い装束に身を包んだ、先程の朱槍を携えた姿へと形を変えた。
「これが『夢幻召喚』──サーヴァントの力を、その身に宿す展開方法だ。ついでに言わせれば、絶対に一輝に見られたくなかった力だ」
「……そういうことか。納得がいった」
「どういうこと?」
「これは、サーヴァントの力、経験、技術を得る。とはいえ、動かすのは俺本人でな……
「どうも英雄の体の作りが理にそぐわないと思ったんだ。英雄、僕に会うまではその力を主力に使ってただろう?」
「……何でわかった?」
「
「これだよこの
互いに良く知るからこそ、読み合いが熾烈に加熱する。試合で衝突するまでに、一輝と英雄は互いの手を読み合う盤外戦を繰り広げていた
刀華戦だけにこの力を解放した意味は、単に彼女が強いという理由ではなく……
赤座の策略が無く、一輝が拘束さえされていなければ……刀華との対戦は、夢幻召喚を用いない別の手段を取っていた。
それを察した刀華はふくれっ面となる。戦っていた自分よりも、観客にいる一輝の方が脅威と思っていた。それは大いに彼女のプライドを傷つけた。
「そういえば、朔月は東堂をカモ扱いしていたな」
「『もう詰んでるから』、だっけ?」
「昨年のベスト4の生徒会長相手に、余裕綽々でしたよ」
「あ、ちょ、理事長っ、お姫さんに妹も」
「へー、そう、ふーん……」
さらにヘソを曲げて、刀華は笑顔になる。目が、全く笑っていない以外は、笑顔だ。
この後絶対面倒くさい、と英雄は辟易する。ご機嫌取りに何をされるか、たまったものではなかった。
変身を解き、今度はカードをリングに置く。──十秒の集中のインターバルを置き、発動させる。
「『
魔力がカードを核にして人型が編まれていき、作り出していく。
顕れるのは、先程英雄が変身した姿の男。青い髪に、その槍と同じような赤き目をした、武人然とした漢。
全員が理解する。今、自分らは彼の槍の間合いにいる。全員が、彼の掌に命を握られている。
「──サーヴァント、ランサー。マスター、呼んだ理由はわかっちゃいるが、自己紹介ってこといいんだな?」
「ええ、お願いします」
「赤枝の騎士団、クー・フーリン……つっても、この国じゃマイナーだがな」
────知ってるヤツなんていねえだろ、と彼は笑うが英雄以外の全員は気が気ではなかった。
ヤバイ、強い──この二言で頭の中で埋め尽くされた。強さ云々だけでなく、存在の格がまるで違うのだ。
ケルト神話のアルスター
「これがサーヴァント召喚術『聖杯召喚』。英霊と祀られた
「なるほどなるほど……なぁ、マスター。綺麗どころが揃ってんじゃねぇの」
「ナンパは今度なランサー」
「何だよマスター、離れていてもあの嬢ちゃんにぞっこんてかい?現地妻の一人や二人作っても怒りやしねえって──」
「ランサー、
「……あー、悪かった」
英雄は、右手の甲のスキンシールを剥がして、その下にある赤い紋様をランサーに見せつけた。
「アタシはそれが気になってたんだよねぇ、なにそれ?」
「『令呪』。簡潔に説明すれば、三角からなる聖杯から零れた魔力で作られた高純度の魔力の塊で、俺の魔力の総量でもあります。効果は、サーヴァントに対する絶対命令権」
「……
「はい。サーヴァントにも人格もあり、思想があります。善人がいれば、悪人もいます。救いに手を差し伸べる聖人もいれば、救えない暴虐を為す邪悪もいます」
寧音は、令呪の効果を聞いた瞬間に意味を察した。
絶対命令権、と聞けば仰々しいもの。サーヴァントに死ねと命令すれば自害する、文字通りの生殺与奪権だ。
それが必要になる場合がある危険な
つまり、令呪がある限り英雄はマスターであり、サーヴァントを使役していられるのだ。
「──待て。つまり、黒鉄の試合で三角全て使っていたのは」
「ほぼ自殺行為です。アサシンに裏切られても、まあ何の文句も言えませんでしたね」
絶句。黒乃は何の言葉も出なかった。
あの試合、魔力の全賭けどころではない。サーヴァントに対する信頼と自分の命も賭けに乗せていたのだ。
結局のところ、英雄の敗北で終わったが、あの試合にどれだけ賭けていたものがあったかを、改めて実感した。
「その
「──いや、マスター……オレが言うのもアレだけどよ、二度とすんなよアレ」
「必要ならやる。ランサー、貴方にもな」
「いやいやいや……。あのアサシンだったらまだいい。亡霊だったから、元の格も大したことはねえ。俺とか師匠にそれをやってみろ、下手したら人理が壊れるぞ」
────サーヴァントの領分を超えた力だ、と彼は諫めた。
ただそこにいるだけで、世界に甚大な災害をもたらすものになると……神に近くある貴種の英雄は、断言した。
「……わかった、控える。ランサー、ありがと」
「おう。今度ナンパすっからまた
「『
去り際の言葉を耳にせず、問答無用に彼を光に消していく。
「とまあ、このクラスカードなんだが……まだ、機能がある」
「まだあるんですか!?」
「『限定展開』『夢幻召喚』『聖杯召喚』は、所詮サーヴァントの力の出し具合でしかない。このカードの機能の根幹は、別にある」
そう言って、今度はアサシンのカードを見せつけた。そしてそれを、出しっぱなしになっていた一輝の固有霊装──『陰鉄』に、重ねた。
途端、カードは陰鉄に吸い込まれて、光と共に形を変え……長刀へと変化する。
「……は?」
「見覚え、あるよな?」
「佐々木小次郎の物干し竿……」
交えた剣だ、間違えるはずがない。陰鉄が姿を変えた刀は、間違いなくあのアサシン──佐々木小次郎の物干し竿だった。
手をかざして、カードが抜きとられると、物干し竿は陰鉄へと元に戻る。
そして今度は、一輝の胸にカードを押し付けると──。
「まさかっ」
「『夢幻召喚』」
──黒鉄一輝の制服姿から、雅な陣羽織に身を包んだ姿へと置き換えられた。
陰鉄は物干し竿へ。魂そのものへの干渉が行われたため、霊装にも変化が生じているのだ。
「燕返し、そのままで出来るだろ」
「……っ」
一切の魔力の強化……一輝の伐刀絶技『一刀羅刹』どころか『一刀修羅』なしに、一輝は虚空へと向けて構えた。
そして、全く同時に放たれた三つの太刀。これこそが、秘剣・燕返し。佐々木小次郎だけが可能だった
放った一輝本人すらも驚愕を露にしている。今の自分では、素面で放つことは到底不可能であることを良く知っている故に。
「貸与が認められたカードは、
「………………」
「召喚、宝具、令呪の発動を除けば、サーヴァントの現界の維持は聖杯の魔力が使われる。つまり、疑似サーヴァントとなった貸与されたカードの持ち主は、
聖杯の魔力については、全員が思い知らされた。ほぼ無限としか表現のしようのないあの魔力量は、誰もが面を食らったもの。
だが、何故聖杯の説明が必要だったか……願望器としての機能を明かし、守秘義務を課し、暴露の危険性を背負いながら話す理由があっただろうか。
……しかし、ここで理解させられる。真の意味で、英雄の伐刀者としての異能全ては聖杯が根幹にあるのだと。
カードの貸与が可能。しかも、その際に英雄のサーヴァント扱いとなり、聖杯の魔力供給がされるようになる。
貸し出されたカードを持っているだけで、魔力量無限。カードを使わないでも所持しているだけで、自前の
……例えば、黒鉄一輝にしてみれば一刀修羅の一分の限界など存在せず……強化倍率を五倍どころか数百倍に引き上げることだって容易いこと──。
『──は……』
「は?」
『──反則だあーーーーーー!!!』
訓練場に響く、絶叫。
無双の戦力たるサーヴァントに加えて、無限の魔力を持った伐刀者軍団。それを構成することすら可能になる。兵站の維持、継戦能力に関しては無類のものとなり、英雄の指揮能力が合わされば大変に手のつけられないこととなるだろう。
──戦争において、朔月英雄は最強。その意味を、この場の全員が思い知らされた結果となった。
こんなチートでも、勝てない時は勝てない。
つーか、本当に土俵が違うのよ、騎士決闘と戦争とでは。
以下追記
キャラクタートピックス 文責・日下部加賀美
朔月英雄
■PROFILE
所属:破軍学園一年(留年一回) 人理継続保障機関フィニス・カルデア
伐刀者ランク:B(Aへの昇格打診の噂も)
伐刀絶技:
二つ名:『
人物概要:世界的歴史学権威
攻撃力:B+ 防御力:F+ 魔力量:B 魔力制御:B+ 身体能力:F+ 運:A(自己申告)
かがみんチェック!
底が知れない数と種類の武装を持つ超何でも屋。一体どれくらいのものを持っているのかは本人すらわからないとか。その武器効果のせいで、ステータスも安定しないものになっている。戦術、戦略眼も輪をかけて一級品であり、戦う前から既に相手を詰ませており、その読みはほぼ的中という切れ者。唯一の弱点は、開始直後の展開のタイムラグを狙ったクロスレンジ──とはいえ、それが狙えるのは武術に長けた伐刀者でなければ不可能なほどにシビア。半端に近づけば、一撃必倒の槍の餌食になるよ。言っちゃあなんだけどこのあたりのエグさは性根の悪さに似て