「……どうした、お二人さん。浮かない顔してるぞ」
翌日、朝。教室にてステラと珠雫に英雄は声をかけた。
表情が暗い理由など、聞くまでもない。
黒鉄一輝が、騎士連盟日本支部の倫理委員会に拘束されている。理由は、国賓たるステラ・ヴァーミリオンとの恋仲を追及するもの。
それを一輝一人を悪者とし、メディアを使ってまで彼を徹底して攻撃している。
昨日の夕刊、そして今日の朝刊の新聞はその報道で一色であった。この攻勢は、数日は続くのではないかという大騒ぎだ。
「『父親というのは、自分の子どものことは分からないものだ-It is a wise father that knows his own child-』──さて、誰の言葉だったかな」
父親の親馬鹿を言うことわざだ。総じて父親というものは、子供をよく見ていないことが多い。それが出来る父というのは、よほど賢い者であるのだと。
首謀者は倫理委員会委員長赤座守。そしてそのさらに奥には、黒鉄兄妹の父──騎士連盟日本支部支部長、黒鉄巌がいる。
黒鉄一輝を騎士にしない。たったそれだけの目的で、ここまでの大事に発展したのだ。
……なるほど、これも一種の過保護に当たるのだろう。
あからさま過ぎて失笑すら浮かぶ。手腕があまりにも拙すぎて、怒りよりも呆れる程だ。
「何でアンタは普段と変わんないのよ」
「あり得ねえから」
ステラの質問を真正面から英雄はぶった切った。こんなもので騎士になる資格を失うなど、あり得なさすぎる。
「まず理由があり得ねえ。皇女だろうが落伍者だろうが恋愛は自由だ。たかが有名人の熱愛発覚報道だろうが。例外を一つでも押し通したら、法がガタガタになるくらいアレらもわかってる癖によ。次に」
「──次に追放処分があり得ない。追放処分は本当に最後の最後の手段だよ」
「日下部さん、台詞取らないでくれ」
「てへ」
「ぶりっ子ぶるんじゃねえよ可愛いじゃないか」
話に割り込んできた新聞部の日下部加賀美。
騎士に対する追放処分は本当に最後の手段。それがされた騎士はほぼ確実に、犯罪者へと成り下がるからだ。
ましては学生騎士に追放など、レアケースもレアケース。以前語った、百人斬りでもやらかさない限りあり得ない。
「……だが、無理が通れば道理も引っ込む。あり得ないことに狙いはマジで追放処分だ」
「……じゃあ、どうすればいいっていうの」
一介の学生騎士にここまでやるのが異常中の異常。たとえ騎士連盟日本支部の名誉が地に落ちるのも覚悟の上の、なりふり構わない姿勢である。
ここまでやるのは、当事者に近くにいた英雄が引くほど。そんなことをすれば騎士連盟内の日本支部の信用が丸潰れになるのは分かりきっている。
それすら厭わないとすれば……なるほど、親馬鹿ここに極まれりといったところか。
恋は盲目というが、子への愛情もまた同様に盲目に違いない。
「──そして最後にあり得ねえのは。一輝がこんなもんで屈する訳がない」
────信じろ。それが一輝への最高のエールだ。
シン、と教室が静まる。英雄の言葉を、クラス全員が聴いていたのだ。
クラスメイトのスキャンダル、気にならない者はいない。しかもそれが、破軍で今一番注目を浴びている黒鉄一輝だ。
そしてその一番の友人が、信じろと言った。恋人であるステラに、妹である珠雫に。そしてこのクラスにいる全員に。今までと変わらず、信じ続ければいいと。
『そうだな、アイツ良い奴だもんな』
『俺たちに剣術教えてくれたし、悪いことなんかしてそうな顔してねえもん』
『ヴァーミリオンさんとも凄く仲良くしてたし、あんな風に言われる筋合いはないもの』
『むしろ素敵じゃない、そういうのって!周りは応援こそすれ茶々入れるものじゃないわ!』
そうだそうだ、と沸き立つクラスメイトたち。熱は伝染し、高まり、士気が下がる見込みはない。
黒鉄一輝は、いわれなき理不尽に晒されている。義憤を抱けども、見捨てる理由にはなりはしない。
自分たちが目指す騎士とは、そういうものを覆すためのものではないのか。守りたい何かがあるからこそ、騎士になるのを目指すのではないのか。
学生騎士だから黙って見ているのではない。学生騎士だからこそ、大人たちの明確な理不尽を覆すべく動くべきなのだ。
「意外と、熱いこと言えるんですね」
「当然のことを言っただけだ」
らしくないような英雄の言い分に珠雫は、こうも思う。彼もまた、兄を信じる兄の友人なのだ。
これが当然となるほどに得たのが、黒鉄一輝の人望なのだ。自分はただ当たり前のことを言っただけ。誇ることは何もない。
焚き付けるまでもなく、こうはなっただろう。それを少し早めたに過ぎない。
「これで億が一、兆が一、一輝が屈せず無理矢理追放処分になってもな。アイツは勝手に騎士になるぞ」
「勝手にって、どうやって」
「騎士は
むしろ追放処分になった方が手が付けられなくなるのを、誰もわかっていない。社会というものが黒鉄一輝を犯罪者として見ようが、その在り方は決して忘れられない。
──騎士というものは、なるものではない。なっているものなのだ。
放っておけば、いずれ世界は認めざるを得なくなる。黒鉄一輝こそが騎士であると。黒鉄一輝だけが、騎士であると。
「騎士とは職ではなく、在り方か……」
認められずとも、騎士になる。それはきっと、茨の道では済まされない険しいものだ。
それでもきっと、黒鉄一輝は迷いなく進む。
本物の騎士たちを見てきた英雄が、そう断言したのだ。
「……一輝のことは一輝に任せておいて、俺は全勝を維持しなきゃならんのだが」
「そうだ、今日!朔月先輩、生徒会長との試合じゃないですか!」
「え、その生徒会長って強いの?」
「昨年の七星剣武祭ベスト4。強いよ」
「……大丈夫なんですか?対策とか練習とかしなくて」
生徒会長、学生序列一位、Bランク伐刀者……東堂刀華はこの学園で最も強いと認められた学生騎士だ。
去年の七星剣武祭では、ベスト4にまで上り詰めた。
彼女のことは、珠雫も調べていた。彼女は伐刀絶技と武術を共に高レベルで修めた伐刀者だ。
いわば、英雄の天敵。開幕からの必殺を叩き込める者だ。
「ああ、大丈夫。──もう詰んでるから」
試合前。リングに繋がるゲート前通路にて。
朔月英雄は、嫌悪を隠さぬ顔を浮かべながら、目の前の男に絡まれていた。
「ウッフフフ、初めまして朔月英雄クン。私、騎士連盟日本支部倫理委員会委員長、赤座守といいます」
「はあ、ご丁寧に」
気の抜けた返事をして、目すら合わせない。
赤い服で身を包んだ肥満体型。顔に張り付いたニヤケ顔が不愉快な気分を増長させる。
────同じ赤いデブでも、
「聞けば、あの男の友人だとか?いけませんねえ、あんなろくでなしの不良と付き合っていたら。歴史学の権威ともあろう方が」
「……」
返事をするのも億劫だ。聴覚を遮断できるのなら今すぐしたい。
「だから本戦出場が出来なければ退学という目に遭うのです。しかも次の相手はかの『雷切』……宜しければ、転校先の便座をこちらで計りましょうか?武曲とか如何でしょう?」
……ふと気づけば、
「その代わりといってなんですが……」
「この一戦そのものは偶然の組み合わせだとしても、その後は必然になる。違いますか?」
「……ほう?」
「黒鉄一輝の最終戦の相手は、東堂刀華を指名している。そうでしょう」
「……貴方、どこからそれを」
赤座の顔から、貼りついた笑みが消えた。まだ、正式に一輝にも通達されていない情報。黒鉄一輝を陥れるための、最後の砦。
徹底的に弱らせた一輝を、『決闘』の習いに乗っ取って、代理人に立てた圧倒的な実力者によって彼を狩らせる。
決闘によって決めたことは絶対。騎士というものに固執する一輝だからこそ、乗らざるを得ない手。
それを、どうして一介の学生が知っている。
「赤座氏。この試合で俺が勝ったら、一輝の最後の相手を俺に一任して頂けないでしょうか」
英雄の要求。それは、自分を『決闘』の代理人に立てろ。
学園最強を上回れば、文句は言わせない。それ以上に相応しい者など、他にはいない。
「おや、いけませんね。いくら友達の為とはいえわざと負けるつもりでは……」
「お前俺を馬鹿にしてるのか?友人だからこそ、引導を渡して決着を付けたいとは思わないのか」
────その程度の気持ちも酌めないとか、それでも貴方は一介の騎士なのかと。
英雄から発せられた怒りのオーラは赤座を怯ませるのに十分なものであり、思わず数歩後退してしまうほどのものだった。
騎士としての名誉を守るのならば、友であろうと容赦はない。友だからこそ、全力を注ぐ。殺意と覚悟が、しっかりと英雄の目には宿っている。
「ん、ンフフフ、いいでしょう。この試合で勝てたなら、そう計らいましょう」
「感謝します」
試合開始時間間近となり、英雄はゲートの方へと歩いていく。
残った赤座は、下種な想像を巡らせた。
この試合、英雄が勝とうが負けようが旨い展開に持ち込める。最後の希望を叶えるために立ち塞がったのが、唯一の友。中々に感動的だ。
────精々食い合って、強い方が残りなさい。
「……
リング上にて、対峙する朔月英雄と東堂刀華。
彼女は既に眼鏡を外している。全力を発揮するために視界を制限し、相手の電気信号を感じ取って先を読む
当たりたくない、そう思っている相手だからこそ衝突する。
これが運命というのなら、それを決める神様というものは相当に性悪だ。
「そうかね。俺は、こうなるのが最善だと思っていた」
「一緒に、七星剣武祭に出たくないの?去年だって、研究だからって棄権して……」
「研究のが大事だ。それにまあ、どうせどっちか消えるだろコレで」
左手に一枚、右手には二枚のカード。……そして、英雄の周囲に浮かぶ、ざっと五十枚以上のカード。
試合では今までに見せたことのない数のカードを……惜しげもなく英雄は展開した。
(英くんは必要以上のカードは出さない。槍で仕留めてた時も一枚、前の時だって、きっかり五枚出していた。なら……)
真に注目すべきは、手にあるあの三枚。他のカードは物量作戦のためだと考える。
であるならば、使わせる前に斬り伏せる。加減なしに、開幕速攻で必殺の『雷切』を放つ。
固有霊装『鳴神』を腰に差し、居合の構え。そうやると決めたし、英雄もそう来ると知っている。
知っていても、朔月英雄には防げない。
「
「何?」
「俺に勝ったら、俺が消えてからの二年間、その間に書いた俺の日記を見せようか」
「っ!」
それは東堂刀華が欲しい情報だった。
養護施設に預けられていた時からずっと、英雄は毎日欠かさずに日記をつけていたことを刀華は知っている。
消息不明の二年間で、一体どこで何をしていたのか。それが事細かに記載されている。
動揺を誘う材料か。少しでも剣が鈍るために、賭け金を追加した。
「…………ううん、いらない」
だが、刀華は過去よりも今を見た。
今こうして、英雄と向き合っている。それでいい、それだけでいい。
────今は、他に何もいらない。
「そうかよ」
賭けは不成立。互いは既に、迷いはない。
そこから先は、もう言葉はいらない。
「『
「『雷切』!」
英雄の右腕にコイルが埋め込まれた帯電する篭手と、その拳の先に鉛色の水晶球体が帯電しながら浮遊する。
だがもう既に、刀華は間合いを詰めた。『抜き足』と呼ばれる歩法により、敵の無意識に付け込み、雷を切る剣を英雄へと──。
「──『
「っ!?」
──鞘から抜き放つ寸前に、刀華の伐刀者としての生存本能がけたましく警鐘を鳴らし、それに従って後方へと飛んだ。
しかし攻勢を緩めるわけにはいかず、雷撃を絶え間なく撃ち続ける。避けることはおろか、防ぐことも困難な雷速の魔法攻撃。雷切で仕留めることはできずとも、十二分に威力は発揮する。
…………だが、その全ての雷撃は呆気なく英雄に直撃せずに逸れるばかり。
「……いいのかよ、下がって。もう詰んだぞ?」
────これで最初で最後の勝機を逸したぞ、と笑って彼女を見た。
この時点で、東堂刀華に勝利する算段がついた。この最序盤の窮場さえ凌げれば、もう勝ったも同然なのだから。
「…………それ、何なの?」
「億が一、勝ったら教えてやる」
その電気の篭手も、その球体も。
球体を見た時点で雷切を抜くことに危機感を覚え、抜いたら負けるという確信を抱かされた。篭手から発せられる電磁結界が、刀華が放った雷撃を逸らしていた。
そして今、視界を封じて視る『閃理眼』に、ノイズが発生している。電磁結界によって電気信号を感じ取ることがままならず、霞がかっている。
朔月英雄を彼女は視ることが出来ていない。ぼやけた視界ばかりが映り、視認して見分けるなど不可能だ。
既に刀華が英雄に勝つ確率は、英雄の中では億分の一程度にしかない。つまり、教えるつもりは毛頭ないのだ。
「当たりたくなかった?残念──」
左手のカード──
この試合、この状況……鑑みれば、これほど運のいい星回りはない。
「──俺は当たりたかったよ、この状況だからこそ」
対戦相手が東堂刀華、赤座守に決闘の代行の約束を取り付けられた…………そして何より、黒鉄一輝がこの試合を見ていない。
これが僥倖と言わず、何という。
「…………
カードが胸の中に吸い込まれていき、朔月英雄が置き換えられられていく。
闇の色をした、フルプレートアーマー。視界を開くための兜のスリットからは、赤き狂気の光が奔っている。そして全身から噴き出す黒い靄は、全体の細部を悟らせない。
帯電する篭手と肩の上で浮遊する球体は黒く染まり、毛細血管のように入り乱れた赤い線が伸びる。帯電する稲妻の色は、彼の入れ替わった彼の憎悪を示すかのように……赤く染まる。本来の持ち主から、支配下を変えた証でもあった。
彼が握る武器、武装、全てが憎しみの魔力に浸される。武器を選ばず、ただの石の礫ですら、ただの弾丸を上回る魔弾と化す。
「Aaaaaaaaaaaaa!!!」
絶叫。憎悪と怨嗟、狂気に満ちたその咆哮は、ビリビリとドーム全域を響かせた。
耳に届くだけで、痛ましい。ただの怒りではなく、悲嘆が混じる。
今の英雄に宿った者こそ、騎士の中でも最高と謳われた円卓最強の騎士──それが狂乱に堕ちた時の姿であった。
刀華の眼は……閃理眼は、完全に機能していない。ノイズすら映らない。肌に感じるのは、禍々しい魔力だ。
「Guaaaa!!」
浮遊するカードの一枚を乱暴に取り、握りつぶすように『
丁寧に一発一発……弾丸に電撃が付与されており、殺傷力を高めている。
刀華はそれを残らず叩き落とす。閃理眼による先読みが不可能になっても、その程度の芸当は可能になっている。
弾切れになれば拳銃を捨て、また新たにカードを握り潰す。
今度は火縄銃。だが、手に持つのではなく背後に無数に浮いていて、その全てが一瞬の隙にクロスレンジに持ち込もうとして間合いを詰めた刀華へと銃口が向けられている。
「『
一斉発射。狙いは正確、向かう弾丸全ては刀華へと放たれる。
弾幕の密度、威力は拳銃の弾丸とは比べものにならないほどに上昇。炸薬の勢いに加えて、銃身にレールガンの原理を利用しており、威力を高めている仕組みである。
(なんて、密度……!)
全力で迎撃するも、それで精一杯。完全に亀になって守りに徹しなければ、一瞬の内に蜂の巣となっている。
今の彼は、既に一個の軍。朔月英雄にさせてはならない、戦争の状態へと持ち込まれているのだ。
回避は不可能。驟雨の如き弾幕は、抜き足をしようとした瞬間に足を射抜かれる。抜き足はそもそも対人技。それを対軍用に昇華することが出来るのは、刀華の知る限り師である南郷寅次郎と姉弟子の西京寧音くらいだ。
東堂刀華は、ほぼ詰んでいた。
着々と、追い詰められていく。
英雄とて、手持無沙汰ではない。片っ端から剣や槍を浮遊しているカードから展開し、刀華へと投擲している。それらが的確に命中し、彼女に手傷を負わせていた。
「『
最後に残ったカード。とどめとばかりに、手にしたのは金色だった鉞。それを帯電する右の篭手で握りしめる。
……それは、カード同士の相乗効果なのか。雷に由来するサーヴァントの力が深く結び合い、その力をより高めていく。
鉞の機構として存在するカートリッジ。それには雷の力が封じられ、それを三発撃鉄を打つ。篭手のコイルと合わせて、広範囲の対軍仕様で撃ったならば威力が少なからず弱まるものが……対人に収束した破壊力のままで、対軍仕様で放つことが出来てしまう。
「『
鉞をリングに叩きつけ、そこから走る雷撃は刀華を襲う。
童話の主人公、雷神の子。平安日本の退魔のスペシャリストの一人が振るった鉞は、近代が生んだ雷電の神によって更なる威力を発揮した。
…………逃げ場などない。防ぐ手段などない。そのまま彼女は、雷に呑まれていく。
「……狂気に呑まれるのも、楽じゃない」
全てのカードを使い切り、魔力を大量に消費したことによる疲労が英雄にのしかかった。
鎧の中は、汗でびっしょりだ。サーヴァントの狂化を解き、普段の思考通りに動くようになる。
東堂刀華は倒れ伏している。立ち上がることは──。
「『雷──」
「『
──知っていた。
東堂刀華はそういう女だ。信頼している。
「『──切』」
不可避。クロスレンジで、ここまで接近されてしまったら、朔月英雄に成す術はない。
集中が切れた一瞬に入り込み、瞬時に立ち上がって間合いを詰めた。
億分の一を、強かに狙っていた。勝機があると信じ続けて、耐え続けた。
最後の力を振り絞っての、全力。自らが最大限に信頼する必殺を抜けることを信じた。
「『
──必殺に対する必殺が、発動する。
「あっ…………」
浮遊する球体から放たれた短剣は、光弾となり刀華の胸を貫いた。
「
────この最後の最後で、雷切を抜くことを。
このためだけに、英雄はこのシチュエーションを組み立てたのだ。この状況を作り出すために、わざと油断をしたのだ。
絶対に、雷切を抜かざるを得ない状況を作り出す。その一手のためだけに、ここまで誘導してきたのだ。
今度こそ、彼女は倒れたまま。幻想形態とはいえ心臓を射抜かれた今、絶対に起き上がることはない。
決着が告げられ、勝者としてスクリーンに大々的に自分の顔が映る。
「さて……宣伝材料にはなったかね」
変身を解きながら、英雄はリングから出ていく。
去年の七星剣武祭ベスト4、東堂刀華を無傷で圧倒した。これ以上のないランク主義者たちへの強さの証明をした以上、認めるしかない。
──朔月英雄こそが、破軍最強の騎士であると。