アイドルマスターシンデレラガールズ 〜彷徨えし真紅の幻想録〜 作:ドラソードP
第3話
幻想郷
『幻想郷は都市伝説レベルで存在する』
そのエクステを付けた少女はそう静かに言った。
「……あくまでも今聞いた話限りでの推測になるが、彼女が言っている場所というのは恐らくそこで間違いない」
「隔離された忘却の世界……」
『幻想郷』
先程の迷子の少女ことフランも口にした名前だ。
俺自身全く見たことも聞いたこともない単語で、最初はアニメかゲームの話だと思っていた。
だが彼女の話を聞いた限りだとどうやら少しだけ違った様だ。
「まあキミもそうだろうが普通、社会一般の人間ならば耳に挟むことも無い単語だろう。だが一度その通な人間達が居る世界に踏み込めば……っと」
少女はスマートフォンを取り出し、手馴れたように何かを打ち込み始める。インターネットで何かを検索しているのだろうか。
そしてスマートフォンを操作し始めてしばらくすると、少女は俺にそのスマートフォンの画面を見せてきた。
「今話題の都市伝説、噂の異世界幻想郷についてのまとめ……?」
画面に映し出されていたのは某大手のまとめサイトだった。そして彼女は俺にそのサイトの中のとある記事を示す。
「ここの記事に色々詳しく書かれているからとりあえず見てみると良い。補足などはできる範囲で後からする」
俺はスマートフォンを手渡される。
今俺が使っている携帯は折りたたみ式携帯のため、スマートフォンの操作についてはあまり詳しくなかったが、とりあえず画面を触って動かしてみた。
「幻想郷、そこは様々な妖怪や怪物、神が住むとされる隔離された別世界であり……」
ということで俺はその記事を読み進めて行く。
書いてある内容は幻想郷がどういったものなのか、という話からそれについての噂話、そしてネットでの幻想郷の話題についての歴史である。
正直俺が望む今回の問題に直接結びつく様な有益な話は書いていなかったが、幻想郷がどのような場所なのか、まではある程度理解することができた。
まあ予備知識としてなら今後少しは役に立つ情報だったか。
さて、ではそんな記事に書いてあった肝心の内容についてだが、具体的に且つわかりやすく、簡単にまとめていくとこうだ。
今回フランが口にした場所である幻想郷、それはネット上の一部の層の間で最近話題に上がってきている要するに、都市伝説の一つとして存在する異世界のようなものらしい。
そこは謎の結界で守られた広大な世界で、その結界の中には天狗や河童みたいな妖怪が居るだとか、度々妖怪がこちらの世界から人を結界の中に連れ去って神隠しをするだとか、行く為にはちゃんとした手順を踏んでとある神社を探し出さなきゃ行けないとか、とにかく記事にはそんな感じの様々な噂話が書かれていた。
ただあくまでもこれらは全て噂話であり、実際この数々の話の元ネタや出典は不明らしく、いつの間にかネットで都市伝説として定着していた話ということだ。
恐らく様々な人間により情報が溢れ返っている今となっては、その一つ一つの話の真偽を確かめる事は不可能だろう。
また一部のそういった話に詳しい層の話によると、一時流行ったSCP財団の話の様な、言ってしまえば誰かにより意図的に作られた創作話が輪をかけてこうして、都市伝説という形として定着してしまったのではないか、という説が有力とのことらしい。
まあどちらにしろ俺が今記事を見た限りでは、ただの良くある作り話の様なものだな、という感想だった。
「……一応記事の内容は最後まで見た。幻想郷について大体どのような物かは理解したよ」
「そうか、分かった」
俺はスマートフォンをエクステの少女に返す。
「で、話は戻るがつまりこの子はそこの話を知っていた、或いはそこから来た可能性があるのでは無いか、と言うことなのか?」
「繰り返すがこれは現段階での情報だけでの推測だ。それに君も記事を見て思っただろうが、あくまでもこれはUFOやミステリーサークルの様な都市伝説としての存在でしか無い。普通なら本気で信じるのもバカバカしいもの、つまり
「つまり普通なら、ということは何か気になる点が?」
「ああ。その少女、フランドールの話を聞くとどうやらあながち作り話でもないと思える点が数点ある」
「……と言うと?」
「一つ目は彼女の発言であるという巫女、魔法使い、妖精、吸血鬼、その他etc……などの発言についての点だ」
飛鳥は説明を続ける。
「例えば彼女の年齢を見た目通りの年齢だと仮定すると、僕的にはインターネットを使って幻想郷関連の話題についてわざわざ調べたとは考えにくい。かと言って彼女の作り話とするには年齢の割に話が出来すぎていて具体的過ぎる。それに、仮に作り話だとしたら今度はネットの話と一部一致している部分があるのも引っかかる」
「確かに、言われてみればそうか。ネットを見ていないのに、ネットに書かれている幻想郷についての説明を知っているのはおかしいことになる」
だがそこで俺は疑問に思う。
「しかし待ってくれ、その意見だと例えばこの子の両親か兄弟がネットで幻想郷についての記事を見ていて、それを覗いて見ていた説などを否定できないんじゃないのか? それに今の時代子供でもインターネットを使える子は結構居るみたいだし」
「確かに、その点については否定できないね」
というか先程から思っていたのだが、仮に嘘だろうが本当だろうがどちらにしろ、巫女に魔法使いに妖精に、妖怪に吸血鬼に挙句神様って、色々ジャンルがバラバラ過ぎやしないだろうか。せめてその世界の設定を考えた人間、あるいはその世界を作った神様とやらは和風か洋風か統一しろよ、と俺はそっと心の中で呟く。
いやしかし、仮にこの子やフランが言っていることが本当だとしたら、非現実の世界ではそれが当たり前になるのか。
俺達一般人にとっての常識がそちらの世界でも同じとは限らない。
つまり常識が非常識で非常識が常識で……
ああマズい。矢継ぎ早に一気に押し寄せてくる膨大な情報や単語量、そして長文待ったなしな少女の考察に頭がオーバーヒートして爆発しそうになってきた。
俺は推理小説とか非科学的なことが苦手なんだ。誰か早く俺にこの推理パートの
「そこでもう二点目の疑問、それはこの寒い時期に似合わぬその格好とその格好で一人で道端に居たというもっと単純で明快な事実だ。仮に幻想郷の話を抜きにしたとしても、その点についてはもう他に話さずとも普通ではなく……」
「……詳しく考察してもらっている所すまないが、俺もこの状況が普通で無いことは分かっている。だからこそ俺はその普通じゃないこと、つまり彼女や、その幻想郷についての正体や見解を聞きたいんだ」
「……では早速結論に移ると、ここまで話の輪を広げておいて言うのもなんだが、正直僕にもこの話の真相が見えてこない、という結論だ。話を聞いてみると僕の方も驚きの連続で、思っていた以上に難解で、僕の手には余る物だった」
「……そうか、そういうことならしかたない。まあでもこの記事を見れただけでも情報としてはそこそこ充分なものだ。俺としては全く何も知らない状況よりかは色々と助けになった」
「どうやらあまり力になれなかった様ですまない。だが見た所かなり困っている様子だったのでね。仮にほんの少しでもキミ達の力になれたのであれば僕としては幸いだ」
「いやいや、実際君が居たからこうして話がある程度まとまって見えてきたんだ。それに謝るとしたら無関係の君を話に巻き込んでしまったむしろこっちの方だ」
「なるほど、そう言ってもらえるなら良かった」
と、少女はスマートフォンの画面を覗きこむと何かを考え込むかのように独り言を言い始めた。
「しかし、それでは幻想郷について更に詳しく知っている人物は居ないものか……一層の事ネットの更に深層に赴き有識者に聴き込んでみるか? それなら、あるいはあの人物が居るとするならば何かを知っている可能性が……」
「あの人物……?」
「ああいや、すまない。ちょっとした独り言さ」
俺はそんな飛鳥の独り言に疑問を抱きつつコーヒーを一杯飲もうとしたところ、何やら横から視線を感じた。
視線の方向を向くと心配そうな表情をしたフランの姿があった。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「ん? どうした」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんはさっきから怖い顔して、何難しいことを話しているの? もしかして私が二人に迷惑をかけちゃってる……?」
「ああ、悪い悪い。ごめんね、話を置いてきぼりにしちゃって。別に迷惑だなんてしてないよ」
「そう、なら良いけど……でもフランはもう置いてきぼりも独りもイヤだから……」
どうやら知らず知らずのうちに彼女を不安がらせてしまった様だ。
幻想郷みたいなあるかどうかもわからない話に盛り上がるのも良いが、まずは目の前に居る一人ぼっちの彼女のことを考える方が先約かもしれない。
一旦この話は打ち切ろう。
「なんだか色々すまなかったな。いや、君が言うその幻想郷という場所についてしらべていてね」
「調べる……ここには図書館も、本も、何も無いのに?」
「ん? 君はもしかしてスマートフォンを知らないのか?」
「すまーとふぉん?」
フランはスマートフォンという言葉を聞いて首を傾げる。
まあそりゃそうか、この歳位の子ならスマートフォンを知らなくてもそう不思議なことではないか。
「あー……まあなんだ、例えるならどこでも調べ物ができたりする、便利な魔法のアイテムみたいなものかな?」
「魔法の……アイテム?」
フランは魔法という言葉を聞いて目の色を変える。
やはり、その辺りはどこの子供も共通なんだな。
「どこに居ても調べ物ができるだなんて凄い……パチェにプレゼントしたら凄く喜びそう……!!」
「たしか、パチェってのはさっき言っていた魔法使いの子だっけか?」
「そうだよ! 何でも知ってて、すっごい魔法も使える魔法使いなんだ!」
「魔法、ね……」
もう何も驚かなくなってきた。
時間による慣れというのは早くて怖いものだな。
「で、その……すまーとふぉん? って言うのはどうやったら手に入るの?」
「スマートフォンを手に入れる方法か……」
本当なら携帯ショップに行って本体を買って契約やら何やらをしないと使えない物、と説明したい所だが何も知らない少女相手にそこまで力説する必要は無いか。それに実際俺自身スマートフォンについてそこまで詳しくないし。
とりあえず俺は適当に言って誤魔化すことにした。
「あー……このスマートフォンと言うのはな、街中に居る魔法使いのお店に行って契約をしないと貰えない凄い貴重なものなんだ……」
「魔法使いのお店……契約!!」
フランは目を輝かせて話に食いついてくる。
なんだかその純粋な反応を見て、嘘を言ったことが申し訳なくなってきた。
「ねえねえ! その魔法使いのお店ってどこにあるの!? フラン行ってみたい!!」
「あー……ざ、残念だけどそのお店の魔法使いは旅をするのが趣味でね〜……もう多分この辺りには居ないんじゃないかな? はは、ははは……」
「そうなの? ちょっと残念……まあいいや」
俺はとりあえず適当に思いついた嘘を言って誤魔化していく。
再びフランが笑顔になってくれたのは良かったが、これ以上話を膨らませ過ぎて本来の話が収集つかなくなるのも本末転倒だし、とりあえずこの話もここまでだ。
「……そ、そうだ。ところで少し話は変わるが、先程から気になっていたのだが君はなぜこんな時間にこのカフェにいたんだ? 見た所君も未成年だろう」
「ん? 僕についてかい?」
「ああ。差支えがなかったら聞いても良いかなと」
俺は話の対象を少女の方に移す。
というか普通に気になっていたことだった。
このエクステを着けた謎の少女も雰囲気や口調こそ大人びた感じだが、良く見てみると背格好もフランより少し大きい程度で、まだどことなく幼い感じだった。年齢や学年もそこまで高くはないだろう。
「久しぶりの東京の雪があまりにも綺麗だったから、少し夜景と共に魅入られていこうかと。まあ本来ならそう格好よく言いたいところだけど、実際は雪で電車が止まり帰れなくなってしまっていただけだ」
おいおい嘘だろ。俺は彼女の話を聞き初めて電車が止まっていることを知った。
どうやらどちらにしろ迷子の少女こと、フランの一連のことが解決しようとしまいと今日中に家に帰ることは絶望的そうだ。
「そんなキミもこんな夜遅くまでプロダクションに居るとは。仕事熱心なのも良いが体調には気をつけたまえよ?」
「いや、今日は残業でさ。いつもならとっくに帰っている時間なんだけど、元々今日は帰りが遅かった。それに、最終的にこの子を見つけてしまったからなんかもう帰ろうにも帰れなくなってしまったんだ」
「見知らぬ少女の為にこうして色々してあげるとは、かなりのお人好しなんだなキミは」
「まあ、俺はもう何も残っていない身でさ。時間も、夢も、気力も。だから誰かの為になることなんてこれ位しかできないんだよ……」
「どうやらキミの方にも色々複雑な事情がある様で、察するよ」
そういうと少女はスマホをしまう。
「さて、長話をしておいて何も頼まないというのも店に悪い気がするし、とりあえず一旦僕も何か頼むとしようか」
「それなら色々情報を教えてくれた君に一杯おごらせてくれ」
「なるほど。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうとして、コーヒーを一杯頼んでは貰えないだろうか。ちなみにあまり苦みが強い物は好みで無いから避けて貰えると有難い」
「あいよ、了解」
俺は店員を呼ぶ。すると先ほどのウサ耳を着けたメイドさんの様な店員が走って駆け付けてきた。
俺はその店員にコーヒーを自分用のおかわりと合わせて二杯注文する。注文を聞いた店員は走って再びカウンターの中の方へと走って行く。
「それにしても、何気にここでこうやって職場の人間以外と深く話した人間は君が初めてだ。せめて、名前だけでも聞かせてもらえないか?」
「僕はアスカ、二宮飛鳥だ。一応ここのプロダクションでアイドルをしている。今後とも宜しく頼もう。キミとは良い話ができそうだ」
「飛鳥か……分かった。こちらこそありがとうな、飛鳥」
「礼を言うにはまだ早い。とりあえず僕個人としてもこの話については色々興味が湧いてきたし、もし許してもらえるなら今後も協力させてはもらえないだろうか」
「そう言ってもらえると心強い。恐らく今以上に色々と面倒なことになるかもしれないが、それでも良いならよろしく頼む」
「フッ、どうやら契約成立のようだな」
と、フランの方を見るとフランはなに言いたげな様子でチラチラと飛鳥の方を向いていた。
「ん? どうかしたか」
「えーっと……その……あすか……アスカ! フランともお友達になって!」
「僕が……君とかい?」
フランの突然の申し出に飛鳥は一瞬戸惑った様な顔をした。
その様子の飛鳥を見たフランは悲しげな顔をする。
「だめ……?」
だが飛鳥はすぐに表情を緩め、フランに対して笑みを浮かべた。
「いやすまない、いきなりの事に少々驚いてしまってね。本来吸血鬼は高潔な生き物で友となる生き物を選ぶと呼ばれていたからさ。まさかそんな吸血鬼の方から友になろうと言われるとは、僕としても実に光栄だ。こちらこそよろしく」
そうして飛鳥は手を差し出す。フランはすぐにその手の意味に気が付いたのか、その差し出された飛鳥の手を握りしめる。
「ありがとう! アスカ!」
「礼には及ばないよ。僕としても自称とはいえ、初めての吸血鬼の知り合いができて胸が湧く思いだ」
なんだかその二人が手を握りあい笑みを浮かべている姿を見て、ここに一旦フランを連れてきたのはあながち間違いではなかったのかもしれないと思った。
不思議と俺も面倒ごとに巻き込まれたという気分では無く、むしろ幼少期の時に感じた未知の世界への心の高鳴りの様なものを感じる。
ある意味、フランをここに連れてきたのは俺にとっても後悔も何も無い一番の答えだったのかもしれない。
「さて、それでは早速だが盟友フランドール、今度はキミの方からこの世界……ここに来た経緯などを教えてもらえると助かるのだが。僕に分かる範囲の知識でなら君たちに少しは力になれるかもしれない」
「ここに来た経緯……わかった!」
こうしてフランの口から語られた経緯は俺達現代社会の人間にとっては理解し難い驚きの物だった。
あらゆる現代科学の定理が壊れてもおかしくないほどの超次元的、非日常的な話の数々がそこにはある。
それはまるでおとぎ話か、夢物語か、それともただの幻か。
自称吸血鬼の少女フランドール、謎多き異世界幻想郷、失われし十枚のカード、そして古びた絵本とシンデレラ。
日常と幻想の交差する先で、果たして俺達には何が待ち受けているのだろうか。
Q遅かったじゃあないか……
Aこっちは作者の気まぐれ作品だからまあ多少はね?
Q というかTwitterで本編更新すると言っておいてなんで本編じゃなくこっち投稿した
A (本編を投稿するとは言ってない)
Qそれにしてもなんか本編のroute幸子と雰囲気違うな
Aあっちはシリアルこっちはシリアス(そしてネタが切れて結局シリアルになるまでがテンプレ)
Qなんでフランのプロデューサーへの呼び方がお兄ちゃん? あと精神年齢低くなーい?
Aお兄様呼びはなんか違和感があったから。フランが様をつけて呼ぶのはレミリアお姉様くらいじゃないかなと勝手に判断したから。まあどちらにしろすぐにプロデューサー呼びになるから……
あと精神年齢については意図的に多少幼くしてあります。これについては結構ストーリー的に重要だからなぁ……あまり詳しくは(言え)ないです。
Q都市伝説……もしかして菫子とか出てきたり……?
A君のような勘の良い読者は嫌いだよ
というわけでお久しぶりな新話です。
作者はこの空白期間の間に社会人になりました。その影響で色々と遅くなったというか……
大丈夫です、こっちの作品も忘れてませんから。
Qで、幸子は?
Aチョイ役で出ます。
それにしても飛鳥が出ると本当に長文になってしまうな……そこも彼女の良さ? なのだろうか。
では次回、フラン視点でのどうやって日本に来たのかのお話です。
投稿は不定期ですのでまた気長に待って……?
あと皆さん、総選挙は幸子に投票して(キュート5位だゾ)