Highschool of the Dead  ~比企谷八幡の選択~   作:隣の三下君

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かなり遅れました。長めに書いたので許してください。


1章-20「再会」

目が覚めた私は、一瞬先程までの光景が夢なのか現実なのか分からなかった。体だけ起こすと隣では折本が静かに寝息をたてて寝ている。

 

耳をすませば時折聞こえてくる、ねちゃっという音に不快感を覚えながら背中が冷や汗で濡れていることに気付いてタンスから着替えを出して着替えることにした。

 

服を着替え、眠れなくなってしまった体で外を見ると、まだ薄暗く月が出ていた。町には日頃から見ていた灯りはなく、あるのは月の光と星の輝きだけ。これで奴等さえいなければ、と思うと、また夢の内容が、映像が鮮明に頭をよぎる。

 

もしかしたら。比企谷や雪ノ下や由比ヶ浜が奴等になっているのかもしれない。そんなことを思うとどんどん良くない方に考えが浮かんできてしまう。ポケットに入っていた、最後の一本の少し萎れた煙草にライターで火を付ける。

 

ふぅー。とまるで今まで焦っていた気持ちが消えて落ち着く。

 

「会ってみなければ分からない、か。もし奴等になった姿で会ってしまったらその時は」

 

自分も奴等になろう。そう思いながら平塚静の夜は更けていく。

 

 

「-----!」

 

「ん....?」

 

いつの間にか寝てしまっていたのか覚醒しきっていない頭に声が響いてくる。

 

「平塚先生!」

 

「折本?」

 

「はい、そのすいません。寝ていたのに」

 

「いや構わないよ。....私も寝過ぎてしまったようだ」

 

部屋にある時計を確認すると午前10時を指していた。どうやら一度起きてから7時間もの間寝てしまったようだ。

 

「そのこれからどうしようかなって...」

 

折本は聞いてくる。気のせいか、昨日よりもやつれている気がする。顔色があまり良くない。

 

「勿論、比企谷達を探しにいくさ」

 

「で、でも...既に奴等になっていたら。...すいません、こんなことを。でも夢で見てしまって...」

 

「そうか...」

 

折本も見てしまっていたんだな。私と同じような夢を。

 

「折本。夢は夢でしかないよ。人が夢を見ることを儚いと言うそうだ。つまり夢で見ることって言うのは、ある程度叶うことがないことと言う意味なのだよ」

 

そう。そういう意味だ。だから納得してくれ...そうすればきっと私も納得することが出来るから。

 

「なんか比企谷みたいな事言うんですね」

 

「そうかな?」

 

そうかもしれない。私自身が一番その夢をただの夢として見たかっただけなのかもしれない。

 

「でもなんだか落ちついちゃいました。ありがとうございます」

 

「いや、落ち着いたなら良かったよ。さて...昼には出発したいから荷物の仕度をしたらお昼御飯にしようか」

 

「はい!」

 

それから私と折本は、幾つかの鞄に食料に水。缶切りやライターに鍋をを詰めてから昨日同様に火を起こして米を暖めて缶詰を開けてご飯にした。

 

白いご飯は、心に染みてとても美味しく力も湧いてくる。だがこれからは、次いつ安心してご飯を食べることができるのか分からない。普段当たり前のように食べてきたもの、当たり前のようにあった安心感を噛み締めながら無言のままご飯を食べ終えた。

 

「さて、それじゃそろそろ行くとするか」

 

「はい」

 

重くなったのは荷物を持ったからだけではないだろう。部屋から出る。ただそれだけのことでこれほどまで緊張して手が震えてしまう。ドアノブにのせられた私の手は力が入らず、ドアノブを捻ることが出来ない。

 

「先生...」

 

折本が優しく手を重ねてくれる。暖かい、人の温もりが僅だが私の震えを止めてくれる。

 

「一緒に回しましょう」

 

その言葉に頷いて少しずつ回り始めるドアノブ、だけどもう私の手が震えることはなかった。私は一人ではないと分かったのだから。

 

 

外に出た私達は、何時もと変わらない太陽と変わってしまった日常に言葉を呑み込んでいた。地面に付着している赤い液体。所々黒く変色しているのは時間が経っているからだろう。遠くから見ても血であることがわかる。昨晩見たときよりも血の量は一層数を増やし、割れた窓ガラスや壊れた車で道路は地獄画図と化していた。

 

臭いと光景に吐き気に襲われたが、唯一の救いは死体が無いことと奴等が見える範囲にはいなかったことだろう。

 

隣を見ると折本も口元に手を当てている。顔色は優れていない。むしろ蒼白している。

 

「折本..やはりもう少ししてから」

 

「いえ大丈夫です。すいません、だけどもう大丈夫ですから」

 

折本は強い女の子だ。私自身、本当は外に出たくはないのかもしれない。まだ分からない現実を、見てしまえば誤魔化すことすら出来なくなってしまうから。

 

「そうか...それじゃあ行こうか。総武校に」

 

私達は車に乗り込み深呼吸をしてから車を走らせる。車の音に集まってきた奴等を牽いたりかわしたりしながら走ること30分。とても長かった道のりは終わりを告げて変わり果てた総武高校の目の前まで来ていた。

 

隣から嗚咽を帯びた声が聞こえてくる。私も校庭で蠢いている、奴等になってしまった生徒や教師の姿を見て内心叫びたい気持ちでいっぱいだった。どこか楽観視していたのだ。

 

この高校は大丈夫。きっと皆力を合わせて生き延びている、と。だが来てみれば現実を突き付けられる。ナイフで心を抉られるような痛みが胸を襲い涙がツーと瞳から流れてくる。涙は止まることを知らず溢れ出す、目の前がボヤけてくるなか、私は折本を自身の胸に抱き寄せた。

 

「せん、せい?...」

 

「大丈夫だ、折本。私が付いている」

 

「...あ...ううう」

 

胸の中で泣いている折本の頭を優しく撫でながら変わり果てた校舎を見る。私は泣くのは最後にしよう、折本を守る。そう決意して。

 

 

 

落ち着いて来たところで校舎には行かずに別の場所に移動することになった。奴等のあの数では、校舎に入ることさえ厳しいと判断しからだ。ハンドルを握る手の力が少しずつ強くなる。

 

比企谷達は、きっと既に脱出したんだ。そう思いながら。

 

「さてどこに向かったものか...」

 

「その平塚先生一度警察署に行ってみませんか?」

 

「警察署?....今更のような気もするが」

 

「いえ、助けを求めるんじゃなくて...何て言えば良いのかな。警察署なら武器とかあると思うし、やっぱり頼りたいから集まると思うんですよ」

 

「ふむ」

 

折本に言われて確かにと思う。武器庫に入れるかどうかは兎も角として。人間の心理を考えれば警察署に集まる、か。比企谷達ももしかしたら警察署にいるかもしれないな。

 

一握りの希望を胸に抱いて車を走らせる。せめてこの目で確かめるまでは真実にはならないと目をそむけながら。

 

 

何分走り続けただろうか。

 

違和感に気付いてくる。それは、折本も同じなのだろう、震えているのが分かる。今日になって、まだ私達は生きている人間にまだ出会っていなかった。

 

昨日までは、逃げている人でごった返していた道路が今では奴等か乗り捨てられた車があるだけ。まるでゴーストタウンを徘徊しているようで気味が悪くなってくる。動いている人を見付けたと思ったら奴等の繰り返し。これでは正直精神がやられてしまう。

 

楽しかった日の出来事を思い出そうとすると今朝の夢がフラッシュバックされてしまう。ここで大声を上げて狂うことが許されるならどれ程楽になれるか、だが折本に私は言った。

 

守る。と。

 

一度言葉にしたら最後まで責任を持つのが教師というものだ。ある意味折本と出会わなければ私は、とっくに奴等になっていただろう。

 

「折本」

 

「どうしたんですか?」

 

「その、折本が居てくれて助かるよ。私一人では、どうも心細くてな」

 

「先生...それはあたしも同じです。先生に会うことが出来たからあたしは、今生きていられるんです」

 

「そうか...」

 

エンジン音が響くこの世界は何処か異質で煙が立ち込もっていても違和感すら感じなくなっている日常に気付かぬうちに慣れ始めている。

 

 

 

 

「先生!!」

 

「っ!」

 

キィーという激しいブレーキ音の後に車体を横にすることでぶつかることは無かったが目の前の景色では絶望しか無かった。

 

警察署に向かうにはこの道を通らなくてはならない。だが道は逃げようとして集まってきた車で車では通れなくなっていた。今まで通れていたことが不思議だったのかもしれない。だが道を塞ぐように乗り捨てられた車は確実に私達の心を抉っていく。

 

車から降りて向かうか?そんな考えが頭をよぎると途端に体が震えてしまう。情けない。車の中だから大丈夫という安心感にすがっていたようだ。今のブレーキ音で奴等も集まってきている。行動するなら早くしないと手遅れになるだろう。それに幸か不幸か警察署までは、ここからかなり近い。歩いても普段なら10分もあれば着くだろう。

 

「折本。荷物を持てるだけ持って外に出よう。このままではどのみち食べられて奴等になってしまう」

 

「...無理ですよ、もう。あたし...もう無理です!外になんて出たくありません!!」

 

「折本...」

 

「先生...もう無理ですよ..もうあたし達...奴等に」

 

折本が言う前に私は折本を抱き締めた。震える体を優しく撫でながら。

 

「折本、あと少しじゃないか。あと少しで警察署だ。確かに外は危険だ。でも中だって安全という訳でもない。それに、言っただろ?君は私が守ると」

 

「せん...せい」

 

「行けるね?」

 

抱き締めていた折本を少し離して問いかける。瞳には涙をためながら、コクンと折本は頷いてくれた。

 

持ってきていた荷物の6割りは諦めて食べられるものと飲み物だけをもって車から出る。折本に2つあったうちの拳銃を1つ渡して私も構える。進む方向からは奴等の姿は見えないが後ろからは道を埋め尽くすほどの奴等が迫っていた。

 

「先生...」

 

不安そうな折本の肩を抱き寄せる。

 

「大丈夫だ。安心したまえ」

 

私は拳銃を構えて車の燃料が入っているところに撃ち込んだ。車は爆発し、周りの車も巻き込み拡がっていく。その光景に立ち尽くしていた折本の手を引いて私は走り出す。警察署に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡side

 

 

 

警察署に入って左側の通路を進んできた俺達は綺麗なままの会議室を見付けて鍵もしまっていなかったので全員で集まっていた。

 

安堵の表情をしている姿を見て集中力が切れていくのが分かる。かなり疲労感が溜まっているのか瞼が重い。

 

会議室には鍵を閉めたし、中に置いてあった長机や椅子、ロープを使って簡単にバリケードを作ってあるので簡単には入ってこれないだろう。囲まれた場合は外からも逃げられるように消火栓の中に入っていたホースを窓際に置いてある。

 

そんな時だった。

 

外から爆発音ににた大きな音が聞こえたのは。

 

 

切れていた緊張が一気に高まり慌てて窓から外を見る。少し離れた場所から炎と煙が立ち込めている。

 

火事?一瞬そんな気がしたがそれは無いと頭が判断する。火事は自然災害ではない。人間が起こすことによって起こる災害だ。だが火は立ち上ぼりユラユラと燃えている。人がいるのは間違いない。でも何もなくて火をつけたりはしないだろう。

 

奴等から逃げている?

 

そう思った瞬間隣にいた陽乃さんと目があって御互いに頷いた。何人かは異常事態に慌てているがこれからの事を考えなくてはならない。

 

「陽乃さん。あれ人が近くにいるって事ですよね?」

 

「だろうね。あんな爆発奴等じゃ起こせないし、仮に奴等があんな爆発を起こせるだけの知性があるなら私達はとっくに、奴等になってるよ」

 

ですよね。と笑えない冗談に苦笑いで返す。

 

「姉さん、比企谷君。これからどうする?」

 

「ここで様子を見る。それで良いですかね、陽乃さん」

 

「一応理由を聞いても良いかな?」

 

「この場所からならよく見えますし遮蔽物もあります。それに今日は移動できるだけの体力も気力も残ってませんから」

 

「うん、そうだね!お姉さんも賛成」

 

「そう。それなら私は皆に伝えてくるわね」

 

「悪いな、雪ノ下」

 

「別に構わないわ。それと...」

 

「ん?」

 

「私の事は雪乃って呼びなさい」

 

それだけ言って雪ノ下は、皆に知らせに行く。

 

「ありゃりゃー比企谷君。モテモテだねぇ~。お姉さん、妬いちゃうなぁ~」

 

「...勘弁してくださいよ。俺は本来ならそんな人間じゃ無いんですから。こんな状況になってなければ、ボッチのままでしたよ」

 

「それはどうだろうね~!っ比企谷君!」

 

「陽乃さん!?」

 

普段からは予想も出来ない、陽乃さんの声で慌てて外を見ると見知った人が奴等から逃げていた。

 

その人は俺の恩人であり、奉仕部の顧問でもある。平塚先生だった。そしてもう一人。

 

「平塚先生!と..あれは、折本?」

 

何故か中学の時の同級生だった折本が一緒にいた。

 

「ひ、ヒッキー!今平塚先生って!」

 

俺と陽乃さんの声が聞こえたのか由比ヶ浜が慌てて此方に来る。

 

だが説明している暇はない。奴等に追いかけられている。それも10人はいるだろうか。最悪な事に警察署の入口は入るときに鍵を閉めてしまっているからこのままでは、二人が危険だ。

 

俺は声のボリュームを考えずに叫ぶ。

 

「陽乃さんと雪ノs...雪乃は射撃で援護してくれ。俺は下に降りて奴等を倒してくる」

 

「ヒッキーが行くならあたしも!!」

 

「駄目だ!俺一人で行く」

 

「ヒッキー...」

 

「ぬはははは。八幡よ!!我は共に行くぞ!」

 

「材木座...いやお前も残ってくれないと男手が」

 

「心配はいらぬ。その為に戸塚氏を残して行くのだからな!」

 

「材木座君が行くよりボクが行った方が!」

 

「いや戸塚氏では、奴等と相対するのはまだ厳しいと我は思う。この戦場は、我に任せよ!それに...八幡よ。死にに行く訳ではないのであろう?」

 

「材木座君...」

 

「うぬ」

 

「頼むぞ、材木座!」

 

「あい分かった!!剣豪将軍材木座義輝!八幡大菩薩の相棒として、そして我の親友としてこの命散らそうではないか!」

 

「馬鹿野郎、散らせるわけねーだろうが」

 

さんきゅーな、材木座。

 

「せ、先輩!これ持っていってください!」

 

一色からあの時と同じく拳銃を渡される。

 

「きっと!あの時みたいに先輩を守ってくれます!」

 

「ありがとな一色!」

 

ズボンのポケットにベレッタ92をいれる。

 

「比企谷君」

 

「陽乃さん」

 

「止めても行くんだよね?」

 

「勿論です」

 

もう平塚先生と折本は警察署の入口まで来ていて扉の前で身構えている。迷っている時間はない。

 

「これ、持っていって」

 

「これ...」

 

「私の愛刀。きっと守ってくれると思うから...死なないでね」

 

「はい」

 

「ヒッキー...平塚先生をお願いね」

 

「ああ」

 

「お兄ちゃん...」

 

「小町。後でかまくらのご飯買いにいこうな」

 

「....うん!」

 

俺は託された想いを胸に消火栓のホースを使って二階の窓から一階まで降りていく。

 

「ひ、比企谷!?」

 

「比企谷!!」

 

「あんまり嬉しくない再開の仕方で涙も出ませんよ。平塚先生。もう少しなんとかならなかったんですか?」

 

「馬鹿者。ここまで来るので精一杯だったのだ。でもそうか...無事だったか...」

 

「比企谷ぁぁ...」

 

「折本が平塚先生と一緒にいるのには驚いたが、泣いてる場合じゃないからな。上からの援護にも限界がある。泣くのは助かってからにしてくれ」

 

「うん...」

 

「ぬははは。剣豪ぐへっ」

 

「馬鹿野郎。大きな声出すんじゃねえよ。集まってくるだろうが!」

 

「比企谷...君の声の方が大きいよ」

 

「あっ...」

 

雪乃と陽乃さんの呆れた表情が目に浮かびながら一色に借りたベレッタ92を平塚先生に渡して、俺は刀を構える。刀の使い方なんて分からない。でも陽乃さんを近くで見てきたからか何となくだが落ち着いている自分がいた。材木座はグロック17とリボルバータイプのピースメーカーを構えていた。

 

10人近くいた奴等は5人に減っていた。上からの援護射撃によるものだ。だがまだ5人もいる。

 

平塚先生は何処で覚えたのかヘッドショットを二発決めて二人倒した。材木座は...うん俺と変わらないな。距離が近いため当たってはいるが腕やら足に当たるだけで頭には当たっていなかった。

 

「材木座、後は大丈夫だ」

 

上からの援護で残り二人となった奴等に向けて俺は斬りかかった。目は閉じずに両手でしっかりと握りただ首だけを狙って左から右に、そして刀をかえして右から左に。奴等二人の頭は宙を舞っていた。

 

刀についた血を刀を少し強めに振ることで落として鞘に戻す。

 

「ふう」

 

一安心して緊張が解れると手が震えているのが分かる。陽乃さんは、毎回こんな気持ちになっていたのかと思うと陽乃さんだからと頼って来たことが改めて分かった。

 

「比企谷、生きていてくれて本当に嬉しいよ。....雪ノ下や由比ヶ浜も元気か?」

 

「俺もです、平塚先生。大丈夫ですよ、あいつらも無事です。それで折本と一緒だったのは?」

 

「良かった...。ああ、私が君達を探していたときに偶然な、折本は比企谷を探していたぞ?」

 

ん?折本がどうして俺を?

 

折本と再開したのは、確か一色主催のイベントの時か。別にその時に親しかった覚えも無いんだが。

 

「比企谷...自分でも分からないんだけど、逃げていたときにあんたの顔を思い出したんだ。あたし...昔あんなことしちゃって都合が良いのは分かってる.....でも」

 

「えーと。俺、お前に何かされたっけ?」

 

「....え?」

 

「俺が告ってフラれた。ただそれだけだろ?別に折本が気にするような事は無かったし。それよりも早く逃げるぞ。奴等はすぐに集まってくるからな」

 

「許してくれるの?...」

 

「許すもなにもないだろ。それに生徒会の時は、あれだよ。折本がいてくれて助かったしな」

 

「....」

 

「なんだよ...」

 

「なんか比企谷じゃないみたい。優しいし、なんかウケるし」

 

「いやウケねーから」

 

「八幡よ。お主やはりボッチでは無かったであろう...」

 

材木座の言葉を無視して俺は、二階から降ろされたホースを掴む。材木座が降りてこられたんだ、体重的に問題ないだろう。問題があるとすれば。

 

「どうして折本、スカートなんだよ....」

 

そう、折本は制服だった。

 

「い、いや下着はしっかり着替えてるからねっ!!」

 

そんなに慌てて言わなくても聞いてねーし。てかよく着替えられたな。

 

材木座と俺のどちらかは最後まで残って安全を確認してなければならない。別に見るつもりはない。見るつもりはないのだが、折本からすれば見られる可能性がある。というだけでも嫌な事だろう。まだ好意を寄せている相手ならまだしも俺と材木座だしな...。

 

考えている間にホースが上から軽く引かれる。早くしろ。という事だろう。というか上は女子しかいないが材木座を上げられるのか?...無理だな。俺がいたところで上げられるかどうか怪しいところだ。

 

「一番最初に平塚先生を上げましょう。その次に折本。次に俺。最後に材木座だ....材木座」

 

「八幡よ、何も言わなくても良いであろう。我とお主との間に言葉など不要なのだ!」

 

「そうか...なら一つだけ言わせてくれ」

 

「聞こうではないか」

 

「次こんな事態になるまでに痩せてくれ」

 

「ふぉぅおうっ!?」

 

「ちょっと比企谷...いくらなんでも、言い過ぎじゃ」

 

「折本。それはこいつを上げてから言ってくれ」

 

少し問題もあったが平塚先生の腰にホースを巻き付けてホースを引くと少しずつ上に上げられる。半分まで過ぎた所で一度止まり、少しずつ下がってきたのは、見なかった事にした。

 

そして問題の時が来た。消火栓に入っているホースは、かなり固い。自分で巻くとか男じゃないと、ほぼ不可能だろう。

 

「ん..ちょ、キツいし」

 

「我慢してくれ...あと頼むから声も我慢してくれ」

 

折本からの希望で俺が巻くことになった。それはいい。だが時折、折本が発する「ん...」やら「あ、ん...そこキツい...」などの声を聞きながら結ぶのは色々と限界があった。頬を染めて言っていることから、分かっていてやっている伏しもある。

 

材木座なんてパトロールしてきます!とか言ってこっちすら向いていない。

 

「さて、これくらいで良いだろ」

 

「うん...そのありがとね」

 

「なんに対する感謝なのか分からんが、そうだな。受け取っとく」

 

「比企谷が素直に!?」

 

この言いぐさ、慣れつつあるけど酷くない?八幡泣いちゃうよ?

 

俺はホースを軽く引っ張り折本が上に上がっていく。平塚先生とは違い止まることもなくスムーズに上がっていく。うん気にしたら敗けだろ。見てないよ?音だけだから、シュルシュルっていう音だけだから!八幡嘘つかない。

 

「さて次は俺か」

 

降りてきたホースを腰に巻いていく。思ったよりも巻きづらく時間がかかる。仕方なく材木座を呼び腰に巻かせる。小声で男に巻いてもとか聞こえたが、そんなのはスルーだ、スルー。

 

俺も特に止まることなく上まで来ると、陽乃さんに抱き締められた。あまりの行動に呆然となるが材木座がまだなので腰に巻かれたホースをほどいて下に投げる。

 

器用なのか、力が強いのか。材木座の合図は早かった。だが...。

 

「なんだこれ....」

 

「先輩...重すぎて持ち上がらないです」

 

「う、予想以上だし...」

 

「だね..あはは」

 

「由比ヶ浜、笑ってる場合じゃないからな」

 

「ご、ごめん。でも...」

 

材木座は宙ぶらりんの状態で止まっている。全然上がらなくて内心驚いている。平塚先生いればなんとかなると思っていた自分を殴りたい。

 

「比企谷の言う通りだったね..これは」

 

「お兄ちゃん...小町手痺れて来ちゃったよ」

 

「八幡...もう無理」

 

「折本もう少し頑張ってくれ。小町と留美は、陽乃さんと雪ノ下と交代してくれ」

 

「「え?」」

 

姉妹揃ってハモらないでくれますかね?どんだけ仲良いんだよ。てかなんでお前ら引っ張ってないんだよ。

 

「ひ、比企谷君。確かに私も引っ張りたいとは思っているわ。でも本当に残念な事なのだけれど、奴等を狙撃出来なくなってしまうわ」

 

「そうだよ比企谷君。それは厳しいでしょ?」

 

「早く上げる方が先です」

 

それに、と俺は顔を真っ赤にしながらも頑張って引っ張っている、城廻先輩が健気すぎて泣きそうになっていた。

 

「城廻先輩も見張りをお願いします」

 

「え、でも...」

 

「中からも奴等が来るかもしれませんから。バリケードは張ってありますが警戒は必要です」

 

「ごめんね、皆...。分かったよ、奴等が来たらすぐに知らせるからね!」

 

「はい、お願いします」

 

「ひ、比企谷君。それなら私も見張りに」

 

「あ、そうですよ先輩。頑張った人には後で御褒美を下さい」

 

「御褒美?」

 

何お前、丸の内のOLなの?てか俺も結構頑張ってるんだけど俺にはないの?

 

「はい♪例えば~下の名前で呼ぶとか。あー勿論呼び捨てですよ?」

 

「なっ!一色さん、貴女....」

 

「さあー!皆頑張るよぉー!!」

 

「ね、姉さん...」

 

いつの間に移動したのか陽乃さんがホースを握っていた。この人ほんとに瞬間移動使えるんじゃないかって思ってくる。

 

「それじゃー雪乃ちゃんは、御褒美いらないみたいだから皆で頑張ろっか!」

 

「ま、待ちなさい!私も引っ張るわよ!」

 

「おほーお兄ちゃんモテモテだなぁ。ちゃっかり城廻さんも戻ってるし...小町も小町もー!」

 

「あ、...八幡。私も頑張る」

 

「ヒキオに名前呼ばれてもあんまし嬉しくないんだけど...」

 

「まぁまぁやる気になってますから」

 

「比企谷モテすぎ!まじウケる!」

 

いやウケねーから!かなり恥ずかしいんだぞ!

 

「あはは、皆凄いね。よーし!八幡!ボクも頑張るよ!」

 

「おう!彩加さんきゅーな!」

 

「「「「ズルイっ!」」」」

 

いやいや戸塚は、俺の天使だから。ん?小町?小町も天使に決まってるだろうが。

 

結局全員で引き上げることになり以外と簡単に材木座を上げることが出来た。


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