Highschool of the Dead  ~比企谷八幡の選択~   作:隣の三下君

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衝動的に描きました。つまり不定期の投稿です。




1章「始まり」

ベッドの上で目を覚ますと今日もよく晴れているようで外から鳥の鳴き声が聞こえる。

だが俺の心は1週間前のあの日からずっと曇ったままだった。

 

1週間前に行った、生徒会主催のバレンタインデーイベント。それが終わった後葉山は雪ノ下に告白した。

そして今二人は付き合っている。

 

今思い返しても分からない。

雪ノ下は葉山隼人の事が嫌いだったはずだ。

雪ノ下は葉山隼人に対して特別な何かを抱いてはいなかったはずだ。

 

俺はあれ以来そんなことばかり考えている。

 

「なにやってるんだ俺は...」

 

重い体に問いかける。

答えは返ってこない。

 

「こんなこと考えても仕方ないのに...」

 

俺は雪ノ下が葉山と付き合っている事に不満があるのか?

答えは分からない。

 

「でも...」

 

奉仕部が無くなることは避けたかったんだと思う。

 

あの場所は俺にとって...きっとーーーー。

 

 

本物に近かった場所だと思うから。

 

 

 

俺が憧れ求めた物。

すぐ近くにあったときは否定して無理矢理離れようとした場所。

でも離れられずに俺とずっといてくれたあいつらと過ごしたあの場所は俺にとって...。

 

辞めよう。もう考えるのは、もう元には戻らないのだから。

 

あの日雪ノ下は俺と由比ヶ浜に言った。

 

《葉山君と付き合うことにしたからもうここにはこれないわ...》

 

由比ヶ浜は納得出来ないと言った感じで食い下がった。だがーーー。

 

《ごめんなさい》

 

それだけ言って雪ノ下は逃げるように帰った。

翌日から奉仕部には来ていない。

 

俺は雪ノ下が来なくなった翌日から生徒会の方に顔を出すようになった。

一色の生徒会の仕事を手伝うためという大義名分を振りかざし自分を偽ろうとしていた。

毎日のように放課後になると生徒会室に来る俺に一色は言った。

 

《先輩♪また来てくれたんですね~そんなにわたしに会いたかったですか?》

 

あざとい笑顔でいつもと変わらないように。でも一色だって気付いているだろう。雪ノ下が葉山と付き合っているというのは学校中に知れわたって今や知らぬ者はいないほどだ。

 

だが一色は、俺に何も聞いてこない。奉仕部で何があったなど聞きたいことは山ほどあるはずだ。でも一色は聞いてこない、まるで俺が聞いてほしくないことを分かっているように。

 

 

 

ーーーここは居心地が良かった。

 

だから俺は逃げ出した。奉仕部から雪ノ下から由比ヶ浜から。

 

でもしょうがないだろう。今の俺では出来ることは何も無いんだから。

 

昨日の出来事を思い出す。

今日体がやたら重いと感じてしまうほどの原因になった事。

 

いつも通り生徒会の手伝いが終わると一色は「わたし、サッカー部に顔を出して帰りますから先輩あとは大丈夫ですよ、また明日よろしくで~す♪」と、あざとく言った後俺は家に帰るため歩いていた。

 

すると....。

 

「あ!比企谷君だ!ひゃっはろ~」

 

会いたくない人と会ってしまった。

 

「・・・ども」

 

「やだな~そんなあからさまに嫌な顔しないでよ♪」

 

「それで...」

 

何か用ですか?とは聞けなかった。今の状況で俺が逃げ出したこの状況で何か用ですか?なんて陽乃さんに聞く勇気なんて俺には持ち合わせてない。

 

「それで?どうしたのかな比企谷君。君らしくもない」

 

「はあ...俺はいつもこんなもんじゃないですかね」

 

「うん!そうだね~わりとそんな感じ。でも」

陽乃さんの語尾が少しずつ低くなる。

 

「なんか“今の”比企谷君つまーんない」

 

「・・・」

 

俺はこの人が苦手だ。何も話していないのに全てを見透かしているように俺を見てくる。

 

「君はもう少し面白い子だと思ったんだけどなー」

 

「面白かったらボッチなんてやってませんよ...」

 

「ふふ、そういう所はやっぱり好きよ?」

 

 

 

そう、“今の”俺には何も出来ないんだ。

 

 

俺はようやくベッドから起き上がりリビングまで行くと朝食と書き置きが置いてあるのに気付いた。

 

<お兄ちゃんが中々起きないので小町は先に学校に行ってるねー♪あ!朝御飯こまち腕になんとかをかけたから味わって食べるんだよ!>

 

腕によりだろ...あいつ入試大丈夫か?

そんなことを考えながらも冷めているであろう、朝食をレンジに入れ温め直す。

 

「温まるまでTVでも見るか...」

 

俺は適当にチャンネルを回していくと、ニュースに目を奪われた。

 

「な、なんだ...これ」

自然と口から溢れていた。あまりに衝撃的な状況がTVに写っていた。

 

場所は俺の家からも近い千葉駅だった。人であろう所にはモザイクがかかり地面には大量の血が付いている。

ニュースキャスターが。

「ただいま入った情報によりますと、全国各地でこのような殺害事件と思われる被害が多数行われており大変危険となっています。どうか外出するのは控えてーー」

 

俺はそこまで聞くと小町に電話をかけた。

何度鳴らしても繋がらない。最悪の事態を考えた。次に由比ヶ浜と一色にもかけたが繋がらない。

 

「くそっ!」

俺は慌てて立ち上がり玄関の扉を開けようと手を伸ばすーーーが。

俺の行動は外から扉を叩く音により阻まれた。

 

ドン、ドン、、ドン。ドンドンドン。

明らかに複数人で叩いている。それに何かが可笑しい。家に入りたいならチャイムを押せばいいし、叩きかたが不規則すぎる。家に入れてもらおうとしているのではなく家に入ろうとしているが壁があって入れないためその壁を多人数で叩いているという感じだ。

 

俺は先程まで頭に血がのぼっていたが一瞬で血の気が引いた。そして先程のTVでの内容を思い出す。

 

《殺害事件と思われる被害が多数行われており大変危険となっています》

 

「まさか...犯人が家まで来たのか?」

だが分からない。何故俺は狙われているんだ?

 

「今はそんなことよりも...」

落ち着いた頭でこの状況の打破を考えるが分からないことがいくつかあった。

 

仮に殺人事件の犯人だとして何で無理にでも入ってこないんだ?俺の家の玄関の扉は、別に戦車の弾でも大丈夫みたいな扉ではない。至って普通の扉だ。それにーーーー。

 

 

 

さっきから匂ってくるこの異臭.... 。

 

俺は嫌な予感がしたので玄関から離れて階段を登り2階にある自分の部屋に入って閉まっていたカーテンを開けた。

 

「・・・嘘だろ...」

そこは地獄絵図と化していた。

 

人が人を食べている。あまりの光景に見間違いだと脳が否定するが何度見てもその光景は変わらなかった。しかも食べている何人かは近所の知り合いだった。

 

「人が人を食ってる...はは」

冗談だろ?と渇いた笑みが溢れる。

俺はその光景を見ていてあることに気付いた。

 

「襲われて食われたやつが...今度は人を襲ってる?」

誰から見ても死んだと思えるほど重症を負わされて(食われて)倒れて他の奴等も群がって食べて暫くすると離れていく。食われた奴は動かなくなって血も大量に出ている。

 

生きているはずがない。

肉を裂かれ腸を抉り出され喉を抉られた者もいる。

だがーーーーー。

 

そいつらは立ち上がり、そしてゆっくり歩き始める。まるで餌を探すように。

 

「食われた奴は奴等になるってことか...」

どこのB級映画だよ!って突っ込みたいがそれどころではない。先程頭に血が昇ったままで、もし、外に出ていたら...そう考えると背筋に冷たいものが伝い落ちてくる。

震える右手を無理矢理止めようと左手で掴むが両方の手が震えてしまう。

 

“恐怖”を感じてしまった俺は足も震えてしまいその場で腰を抜かしてしまう。

その場で動けなくなると何かが階段を上がってくる音が聞こえた。

 

まさか...と頭で理解して立ち上がろうとするが体が言うことを聞いてくれない。

少しずつ近くなってくる音に自分の心臓の音も大きさを増していく。

逃げないとと分かっているが足はまるで金縛りにあっているかのように動こうとしない。俺は腕だけでなんとか部屋の端まで匍匐前進のように移動して部屋の入り口から目が離せなくる。

 

そしてーーー。

 

 

「にゃー」

入ってきたのは我が家の愛猫のかまくらだった。

 

「か、かまくら...」

俺は緊張が抜けて一気に体の力が抜けその場に崩れ落ちる。

 

「にゃー」と言いながらかまくらは普段絶対しないのに俺の顔を舐めてくる。

 

「かま...くら.... 俺情けない、な」

 

「にゃー」

かまくらは俺に返事を返すように鳴いてくれる。不思議と恐怖心も無くなり体を少しずつ起こす。

 

俺はかまくらの頭を撫でようと手を伸ばすとーーー。

 

「にゃっ!」と鳴かれて噛まれた。勿論甘噛みだが。

 

「・・・はは」

そんないつものような状況に自然と笑いが溢れる。先程の渇いた笑いではない。

 

俺は小町や学校のあいつらが心配になり助けに行くことを決める。

クローゼットを開き俺の捨てるに捨てられなかった黒歴史の遺産である木刀を取り出した。

中学の時修学旅行のお土産屋で売っていたのでつい買ってしまった品だ。これの使い道は...黒歴史に触れるので辞めておこう。

 

「こんなところで役に立つなんてな...さてあとは」

 

「俺はその他に手頃な鞄を用意して空のペットボトルに水を入れて5本ほど鞄に詰め缶詰をあるだけいれた」

 

今のところ鞄に入っているのは、500mlのペットボトル5本(水道水)。缶詰め10個。缶切り。

 

「んで」

 

俺はかまくらを持ち上げて鞄の中にかまくらを入れる。

 

「よし!」

 

「にゃー!!」

盛大に怒ってらっしゃる...。

 

俺は1度かまくらを出すと冷蔵庫に向かって歩きだす。その後を着いていくと猫の缶詰めがあった。

 

うん成る程。忘れてた。

鞄に猫の缶詰めも5個入れて予想以上に重くなった鞄にかまくらを入れようとしたが既に入っていた。

 

「にゃー」と鳴いている辺り準備万端らしい。

ちょっとうちの猫凄くない?と自慢したくなるが自慢できる友達いないなと思いながら重くなった鞄を改めて背負う。

 

「ヨイショ....重っ」 

うん、予想より重かった。でも必要な物だし今日くらいならなんとか持つだろと木刀を手に取り...。

 

「肩に鞄が引っ掛かって木刀振れなくね?」

 

・・・どうしよう。

 

なんとなるか...と冷蔵庫から最後の1本のマッカンを取り出して一気飲みする。

 

「ふぅ....行くか」

 

ーーー時刻は9時。

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜side

 

朝のHRが始まったけどヒッキー来てないな?どうしたんだろう...この頃よく話せてないし、よし次あったらちゃんと話そう!

決意を込めていると外が少し騒がしい事に気付いた。

先生も「なんだ?」と言って窓から外見てるし。何かあったのかな?

 

「な、な....」

先生は外を見ると急に口をぱくぱくさせている。気になったあたしも席から立ち上がり外を見るとその光景に驚いた。

 

教室の窓から見えるいつもの景色は夢だったのかと思えるくらいに悲惨だった。建物からは煙が出てグラウンドにいる生徒は何故か知らない人に追われて、そして....食べられていた。

 

「ひっ...」

あたしはあまりの恐怖に声をあげてその場に倒れる。

 

「ゆ、結衣!?どした?」

優美子があたしを支えながら聞いてくる。でもこんな光景答えられない...だからあたしは窓の外を指した。

 

あたしが窓を指す前に何人かの生徒は既に窓からあの光景を見たようで泣き出す子も中にはいた。

 

「・・・なに、これ...ありえないし」

優美子も光景を見てその場で立ち尽くしている。

あたし達が誰も動けないでいると校内放送がかかった。

 

「ぜ、全校生徒に報告します!現在校内で傷害事件と思われる事案が発生。生徒は先生の指示に従って速やか、な、何だね君は!...や、やめろ、よせ!グァ、ヴァアアア」

 

静寂。そして...。

 

「「「うわぁあああああ!!」」」

 

「「「殺される!早く外に!!」」」

 

クラスにいた生徒は我先にと逃げ出す、友達だった相手の髪の毛を掴んで引っ張り自分が先にいこうとする。

あたしは崩れ落ちながらその光景にーーーー。

 

 

 

ただ黙って見ることしか出来なかった。

 

 

 

「あ!あそこにいるのって....確かヒキオの」

ヒキオ、その言葉であたしは我に返り立ち上がると優美子が見ている方を見る。

そこには....。

 

血だらけになったあたしの友達に追いかけられている小町ちゃんの姿だった。

 

「ど、どうして...皆が」

 

「結衣!しっかりしな!」

また崩れ落ちそうになるあたしの頬を叩く優美子。

あたしの頬を叩いた優美子の目からは涙が溢れている。

 

「優美、子...」

 

「結衣、あーしはあの子を助けに行く」

え?どうして優美子が小町ちゃんを...。

 

「あいつには借りがあるし」

そう言うと優美子はいつも通りの笑顔で笑った。

 

強いな優美子は....。

 

「優美子が行くなら私も行こうかな?」

 

「姫菜!あんたどうして...」

 

「いやー二人が逃げないから私もここにいようかなって」

 

「いやそっちじゃないし!」

思わず突っ込んでしまった...。

 

「冗談だよ~。でも結衣がいつもみたいに戻って良かったよ」

 

「・・・姫菜」

 

「でも海老名、あの子を助けに行くって事は死ぬかも知れないの分かってる?」

優美子は目を鋭くして姫菜に聞く。

 

「私もさ....借りがあるんだよ」

あたしはその内容を知っていた。あの日...修学旅行でのヒッキーがやったこと。

 

「あっそ」

それだけ言って優美子はあたしの方に目を向ける。

 

「結衣はどうする?」

あたしは...か。あたしはどうしたいんだろう。確かに助けたい。でも怖い、怖くて怖くてさっきから足が震えている、そんなあたしが行っても足手まといになるだけ、なら.....。

違う。違う違う!そんなのあたしの感情を殺してるのと一緒。前までの他人に合わせてきたあたしと何も変わってない!

 

「勿論行くよ!小町ちゃんは絶対に助けるし!」

 

二人は笑ってあたしに手を差し出してくれた。

 

 

ーーー時刻は9時20分。

 

 

 

 

一色side

 

この頃先輩に会うと胸が痛くなる時があります。葉山先輩と雪ノ下先輩が付き合ったのは知ってます有名ですし。

でもわたしは何で彼女が“葉山先輩”を選んだのかが理解

出来ませんでした。

 

それじゃあまるで、あの日私が偶然先輩が泣いてしまっているときに聞いたあの言葉。

 

 

《俺は、本物が欲しい》

 

 

わたしはこの言葉を聞いて先輩を見る目が変わってしまった。いや少し違いますね...わたし自身が先輩によって変えられてしまった、の方が正しい気がします。

 

わたしにとって葉山先輩は“偽物”でした。そして雪ノ下先輩にとってもそれは同じだと思ってました。

それにあの二人は絶対に上手くいかない、とわたしは確信をもって言えます。

 

それは雪ノ下先輩はわたしと同じでーーーーが好きだから。

 

「まっ良いですけどね...ライバルは少ない方が」

私の独り言が聞こえてしまったのか隣の席の男の子が話しかけてくる。

 

「え?ライバル?」

あーめんどくさいです。先輩に話しかけられるとあんなにも心踊るのになんなんですかね...何で先輩は同じクラスじゃないんですか?ちょっとイライラしてきました。

後で何かしてもらいますか。

 

「何でもないですよ♪」

わたしはいつも通りに顔を作り男の子に返す。

はあ...めんどくさい。

 

「そ、そう?それならいいんだけど」

顔を赤くしてモジモジしだしましたけど、すいません貴方の事顔も性格も好みじゃないので諦めてください。そしてもう話しかけないでください。ごめんなさい。

 

「はあ...早く放課後にならないかな」

私が呟くと窓側の男子が急に騒ぎ出した。

 

「お、おい!皆あれヤバイぞ!!」

クラス全員が窓際に集まり何かを見ている、わたしも一人で座っているのは馬鹿らしいので合わせるために立ち上がり窓から外を見る。

 

 

そこはいつもの風景とは違っていた。

 

「な、な...」

言葉にならなかった。

 

「人が人を食ってる!?」

誰かが叫んだ。そう、その通りだと思った。でもやはり信じられない。

 

放送がいきなりかかった。

 

「「「うわぁあああああ!!」」」

 

「「「きゃぁあああーーー!」」」

 

放送時に何かがあったとしか思えない放送のあとクラスの皆は教室から一斉に逃げるように出ていった。

昔のわたしなら一緒に逃げていたかもしれない。でもわたしは外を見て追われてる女の子が目に入った。

 

「小町ちゃん...」

わたしは慌てて階段を降りようとしたがごった返してとても降りられるものではない。

 

小町ちゃんが危ない!早く早く行かなくちゃ!わたしは冷静にどうすれば早く外に出られるか考えていた。

 

「別館からなら!」

そう思うと階段を上がり別館に通じる渡り廊下を目指して走り出していた。

 

 

お願い間に合って!!

 

 

ーーー時刻は9時30分

 

 

 

小町side

 

「ゴミィちゃんが...」

いくら起こしても起きるようすないし朝御飯は用意したし、あとは小町知らない!

 

と出てきたのはいいけど気になる。お兄ちゃん起きれたかな?やっぱりもう少し頑張って起こせば良かったかな?あの寝かたじゃ絶対に遅刻するだろうし....。

 

「はぁ...」 

 

「何朝から溜め息はいてるんですか?比企谷さん」

顔を見て、あーとなりまた溜め息をはく。さあ誰でしょう?正解者は小町的にポイント高いよ!

 

「何で!俺の顔見てまたはくんすか!」

 

「それでー何かよう?えーとか、かわー河石さん?」

 

「それ誰っすか...川崎大志っすよ」  

 

「あーそうそう大志君だったねーそれで何か小町に用?」

 

「いや...何か困ってるみたいだったんで」

あーお兄ちゃんについて困ってるっていうのはポイント低いな~。

 

「何でもないよー」

 

「そ、そうっすか...」

肩を落として落ち込む大志君。正直大志君の気持ちには気付いてる。というかバレバレ、小町的には友達以上という感情はないからごめんねーって感じだけど。

 

「それにしても先生遅いっすね」

あーまだ自分の席に戻らないんだ...。お兄ちゃんもこれくらい積極的になれればいいのに...うん、ごめん無理だね。

 

「何かあったのかな?」

私が呟くとクラスの男子が窓から外を見てなにか叫んでいる。

 

「う、うわぁあああああ!!な、なんだあれ!」

え?オーバーリアクション?小町的には寒すぎてポイント低いよ?と思っていたけど窓から外を見たクラスメイトは皆同じようになっている。

 

「ちょっと見てくるっす」

そう言って大志君は外を見ると慌てて戻ってきて私の手を握ると走り出す。

 

「た、大志君?」

 

「急いで!それとお兄さんの高校に向かうのでメールだけ入れといて欲しいっす!無事ってことだけ伝えて!」

え?無事って?それよりも今から授業だよ?この状況...何? 

 

小町が頭の中でオーバーフィート起こしそうになってると大志君に「送ったっすか!?」って聞かれて怒られる。むむ解せない...。

しょうがないから送ると既にグラウンドに出ていた。

 

私はグラウンドで起きていることを見て絶句した。

 

強烈な異臭。

人が人を食べている。それを見たときに私は急激な吐き気に襲われて吐いてしまった。

 

「うっ....うぇ....」

 

「比企谷さん!大丈夫っすか!」

大志君は汚いとも臭いとも言わないで私の背中を擦ってくれる。

 

私はただ吐いているのに大志君は私が少し落ち着くと「ここは危ないっす」って言って手を握って引っ張っていってくれる。

 

「お兄ちゃん以外の男の子と手を繋いだの初めてだなぁ...」

私はこんな状況で何故かこんなことを言っていた。それになんかさっきまで不安だったのに少し安心していた。その感情に気付くと恥ずかしくて顔が赤くなる。

 

「どうかしたっすか?」

どうやら大志君には聞かれていないみたいだ。

 

「何でもない...」

 

走って移動するのは危険だと判断した結果歩いて慎重に向かうことになった。すぐ近くではグチャグチャ、バリバリと人を食べている音が聞こえたり叫び声が聞こえたりしている。

 

少し歩きながらどうやら襲ってくる相手は視力がないらしく音に反応して襲ってくるようだ。その事を歩きながら見つけて大志君に言うと「流石っす!」って言って褒めてくれた。嬉しいけど今は静かにだよ!

 

時間は普段の倍の30分ほどかかってしまったけどなんとか辿り着くことが出来たが二人とも総武校の有り様を見て体が固まってしまう。

 

グラウンドでは逃げ遅れた人が食べられ、無謀にも戦いを挑んで取り囲まれて食べられ、教室の窓から自殺をする人もいた。

 

「こ、こんなのって...」

私は失念していた。奴等は音に反応して襲ってくるんだよ。私が言ったはずなのに私が見つけたはずなのに口に出してしまった。

 

あまりの状況の悲惨さに。

 

どこかで期待していた。

 

ここは大丈夫だと。

 

どこかで思っていた。

 

きっと明日には元に戻ってるって。

 

どこかで自分に言い聞かせていた。

 

自分は死なないって。

 

 

私は、後ろから急に現れた奴によって頭を掴まれる。

そしてーーー。

 

ブシュッ。

 

あれ?血が出た音がしてるのに....痛くない。

 

私は後ろを振り返ると大志君が私と私を噛もうとしてきたやつの間に入り腕を噛まれていた。

 

「う、うわぁあああ!」

あまりの痛さなのだろう。

悲痛の声が聞こえる。

 

大志君が噛まれている箇所はとても歯で噛まれているとは思えないほど歯がめり込んでおり血が溢れていた。

 

「い、嫌...いやぁあああああ!」

私は、声をあげてはいけないなんて忘れて大声で叫んでいた。

 

「・・・もう...いやぁ」

私の頬に何かがあたる。

 

「大丈夫っす...大丈夫っすから....」

大志君が私の頬に手を伸ばしてきていた。私は溢れる涙を抑えきれぬままその手を取り両手で包みながら頬にあてる。

 

「はは、やっと...比企谷さんの方から手を差し出してくれたっすね...ぐはぁ...」

大志君は喉から血を吐き出し手の力も無くなっていく。

 

「最後に...こ、れだけは聞いて欲しいっす」

 

「大志君、最後なんて「お願いっす...もうじ、かんがないっす」うん....」

 

「ありがとうっす....」

 

大志君はまるで噛まれていないような普段の笑顔で私に笑いかけてーーー。

 

「比企谷さん、僕は貴女のことがずっと好きだったっす」

 

私は涙が止まらなかった。早く返事を返さないとって思っても声が出ない。嗚咽も混じって何を言ってるのか自分でも分からない。

 

「わ、私は...大志君が好きになりました」

 

伝わっているのか分からない。でも大志君は笑顔で「良かったっす」と言って最後に。

 

「いき、てく、だ、、さい、、、、す」と言って目を閉じた。

 

私は泣きながら走っている、全速力で勿論お腹が痛くなってくるしこれだけ音をたててしまえば奴らも集まってくる。

 

私は最後の望みにかけて別館の扉に向かって走った。そしてーーー。

 

バン。

 

別館の扉には鍵がかかっていた。

 

「どうして...」

私は扉の前で座り込んでしまう。私を取り囲むようにして集まってくる奴等に私は成すすべがない。

 

「ごめんね...大志君。最後の言葉守れそうにないよ」

 

 

ーーー時刻は9時28分

 

 

由比ヶ浜side

 

小町ちゃんを助けるためにあたしと優美子と姫菜で急いで外に出るために階段を降りようとしたけど降りた方が危ないってくらい危険だと思った。

 

「ど、どうしよう!」

 

「結衣落ち着いて」

 

「で、でも姫菜このままじゃ...」

 

「二人とも別館に移動するよ」

 

「え?別館?」

 

「説明は後だし!ほら早く!」

あたし達は階段をあがり別館を目指して走る。

 

本館から別館に向かうところで見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 

「い、いろはちゃん!?」

あたしは思わず叫んでいた。

 

「ゆ、結衣先輩ですか!?」

いろはちゃんは、よほど急いでいるのか後ろを振り返らずにそのまま走っている。

 

「結衣、取り合えず目的は同じっぽいし、ついてくよ!」

 

「うん!」

 

「ふ、二人とも早いよ...」

姫菜意外と体力ないからなぁ....。

 

あたし達は階段を急いで降りる。するといろはちゃんは既に扉の鍵を開けて開こうとしていた。

 

「小町ちゃん!」

 

「い、いろはさん!」

 

「早く!」

 

「は、はい!」

 

扉を開けると小町ちゃんの周りを囲むように奴等はいた、小町ちゃんをいろはちゃんが引っ張って扉を閉めたが扉を叩いて中に入ろうとして来ていた。

 

「く、くぅ....」

いろはちゃんは苦しい顔をしながらも必死に体で扉を押している。

 

「結衣!海老名私達も行くよ!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

3人で勢いよくそのまま扉にぶつかり押し返したところで鍵を閉めた。

 

「ふぅ...危機一髪でした...ありがとうございました」

 

「いろはちゃんがいてくれなかったら、間に合わなかったよ....」

 

「やるじゃん、あんた」

 

「よかったーけど疲れた...」

 

「あはは、姫菜お疲れー」

 

「いろはさん、結衣さん...」

小町ちゃんはあたし達の前で泣いた。いままであったことを話ながら。

 

そっか...大志君が。

 

「わ、私何も出来なくて...それどころか大志君を私のせいで...」

 

「あんさー馬鹿なの?」

え、優美子!?

 

「え?... 」

 

「その大志君て子はさ命懸けであんたを守った。なのにあんたは自分の犠牲になったって言うの?」

 

「それは...」

 

「カッコいいじゃん、大志君。ならさあんたが侮辱するようなこと言ったらダメっしょ?」

 

「・・・はい」

 

「三浦先輩って実はいい人だったんですね...」

 

「ちょ!実はってなんだし!!」

 

「ふふふ♪」

 

「姫菜どした?」

 

「んーとねなんかこんな状況なのに楽しいなって」

 

「姫菜...うん、そうだね!楽しいね!」

 




※由比ヶ浜の一人称の変更7月20日。
1話済。

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