相模南の奉仕活動日誌   作:ぶーちゃん☆

4 / 16


どうも。ゲーム・俺ガイル続で折本がBAD END扱いと聞いて

「おいおいそこはさがみんだろ。BADEND扱いなんてそんな美味しい役回り、普通に考えたらさがみん一択だろアホか」

と猛り狂ったどうも錯者です。



今回からはこの作品中最もどうでもいいストーリー、奉仕活動に入ります。
(タイトルェ……)

前回まではただたださがみんが浮かれてるだけのお話だった為、このままだと奉仕活動中も八幡をポ〜っと眺めてウヘヘするだけで終わってしまいそうだったので、今回はちょっと趣向を変えてみました(・ω・)





vol.4 千佐早智は思っていたよりもずっと小物である

 

 

 

 あたしは今日もこの教室に存在しない、憐れで惨めな女の子。

 登校してから帰りのHRが終わったこの瞬間まで、誰ひとりとしてあたし 千佐早智に視線を向けてきたクラスメイトなんて居ない。

 

 

 ……こんなはずじゃ無かった。あたしはルックスだっていいし勉強だって出来る。

 ノリがよくて明るくて、優しく親切なクラスの人気者だったはずなのに……人気者で居られるはずだったのに……

 

 

 ──なんで? なんでこんなんなっちゃったの……?──

 

 

 昨日までのあたしはそう嘆く事しか出来なかった。そこで思考を停止させてしまってた。

 ……でも今日からは少しだけ違う。あたしは昨日、ほんの少し縋れそうな希望を手に入れたから。

 

 だからあたしはHR終了と共に立ち上がる。

 ううん? 今までだって毎日HRの終わりと共に立ち上がっていた。クラスでひとり弾かれている自分が……放課後になっても誰一人として目も止めてくれない自分が、惨めで仕方なかったから。

 

 でも今日立ち上がったのは、この教室から早く逃げ出したいからじゃない。もうここから逃げ出さずに済む為に、あの教室に……特別棟にひっそりと存在するあの教室に向かう為。

 

 あの人たちならなんとかしてくれる。あんな凄い人たちならあたしを救けてくれる。

 ……そう願いを込めて。

 

 

 

 

 ──ほんの二十分ほど前まで抱いていたそんな幻想は、あっさりと、無残にも崩れさった。

 あたしの目の前に座る美女の口から放たれたこの言葉によって……

 

 

「千佐早智さん。貴女は些か勘違いしているようなのだけれど、ここは貴女の求めているような便利屋ではないの。ここは奉仕部。悩める生徒の自主性を促し、自らの足で歩きだせるように少しだけ手を貸す部活。なんとかして欲しいと願うだけなら、神様にでもお祈りしていなさい」

 

 

× × ×

 

 

 あたしは早く救けて欲しくて……早くなんとかして欲しくて、HR終了と共にこの教室へと走った。平塚先生に紹介してもらった奉仕部の部室へ。

 

 

 あたしがこの部室に到着してから十分ほど、ようやく部員さん達が集まり、昨日はこの部活を訪れたのが遅かった為に時間的になんの説明も出来なかった依頼内容を皆さんに話したのだ。

 

「……あ、あの……改めてまして……い、一年A組の、千佐……さ、早智と……も、申します」

 

 正直はじめはビビってた。なぜならこの教室内に居る人たちは異質すぎるから。

 

「い、依頼内容は……その……あたしがクラスでハブられてるのを……なんとかして欲しくって」

 

 まず何よりも異質な人物、雪ノ下雪乃先輩。総武高校一の有名人。

 

 眉目秀麗学業優秀なこの才女はあたしたち一年の間でも当然の如く有名で、美しさと優秀さ、そしてその有名さとは相反する謎多き美女。

 あまりにも有名なのに高嶺の花すぎて近寄りがたく、会話どころか声さえも聞いた事が無いという生徒が殆んどと言われているミステリアス性が、余計にその神秘的を増しているという評判だ。

 ……まさかあの雪ノ下雪乃先輩が部長を務める部活だったなんて……

 

 

 そしてその隣にぴったりとくっついている可愛らしい女子生徒、確か由比ヶ浜結衣先輩。

 

 そんな謎多き雪ノ下先輩の唯一の親友でもあり、また、雪ノ下先輩に並ぶ程の美人で有名人の三浦先輩の親友でもある彼女。

 その可愛いさと人当たりの良さで、三浦先輩とこれまた有名人の葉山先輩と共に、総武高校トップグループを形成するメンバーのひとりでもある由比ヶ浜先輩は、あたしたち一年の間でも当然有名だ。

 

 

 さらにその二人とは長机の反対側に座る美少女、言わずと知れた我が校の生徒会長、一色いろは先輩。

 

 どうやら総武高創設以来、初となる一年生生徒会長だったらしい一色先輩は、その可愛らしさと愛らしさからは考えられないくらい豪碗な方らしく、生徒会長就任からこの八ヶ月ほど、その小悪魔的な可愛らしさと豪碗さで、この学校をもり立ててきたとかこないとか。なんかその裏には陰の生徒会長が居て、一色先輩はその陰の生徒会長に頼りまくってるなんて話も聞こえてきてるけど。

 ちなみにあたしたちの新入生歓迎会での生徒会長からの挨拶で、男子たちから歓びの声が上がりまくって、調子に乗った生徒数名と生徒会長が生徒指導室送りになったという事件も記憶に新しい。

 ……なんでその生徒会長がこの部活に居るのかは不明。

 

 

 そしてもうひとりの女子生徒。

 他の三人と違ってこの人だけは知らないから、そんなに有名な人ではないんだろう。だから何年生かも先輩なのか同学年なのかも分からない。

 

 でも、明るいショートカットにピアス姿の垢抜けた感じのこの女子も、知らないながらもやっぱり有名人さん達に負けず劣らず綺麗な人……いや、さすがに超有名人な三人には劣るけど。

 

 

 もうひとり……一色先輩とショートカットの女子に挟まれる格好で座っている人は…………うん、この人はオマケかなんかなのかな。顔こそ結構整ってるけど、髪はボサボサだし猫背だし地味そうだし、何よりも目がどよんとしてて、とてもじゃないけどこの異質な空間に相応しい人物とは思えない。

 まぁこの美女ぞろいの部活に男子がひとりだけ居るってとこが、一番異質といえば異質ではあるけど。

 

 

 

 そのオマケの男子はともかくとして、あたしはこんな美女ぞろいのこの教室に気圧されている。昨日なんてあと一歩で逃げ出すとこだったし。

 

 それでもなんとか逃げ出さずに踏ん張ったのは、この凄いメンツなら、なんとかしてくれるんじゃないかって思ったから。

 

 

「……あ、あたしがクラスでハブられてるのは、確かに最初調子に乗ってしまったのが悪いとは思うんですけど……でも……それよりも多分、クラスで一番モテてたあたしへの嫉妬とかもあるんじゃないかと……」

 

 だからあたしは話した。昨日依頼した時には言えなかったけど、今までずっとあいつらに吐き捨ててやりたかった本音を……恨み言を……

 

「……だって、そうじゃないですか……ちょっと調子に乗ったくらいで女子から総スカンにされて……次第に男子もあたしには寄り付かない方が得策とか思うようになったみたいで避け始めて……」

 

 ずっと溜めてたから……ずっと誰かに言いたくても誰にも話せなかったから……、あたしは最初の緊張も忘れて、思うままに話した。

 

「……その中でも、特にあのグループが原因です。間違いないです……あたしを落とした事で自分たちがクラスの中心になったあいつら……」

 

 だから気が付かなかった……夢中になりすぎて気付かなかった。

 

「あたしはそこまで悪くないと思うんです……! だからお願いします……! 先輩方のお力で、あのグループの子たちをなんとかしてください! ……あたし、また中学の頃みたいに……クラスの中心で居たい……です……!」

 

 あたしが話せば話すほど……奉仕部の皆さんの目が……特に雪ノ下先輩の視線が、とても冷たくなっていった事に……

 

 

 ──そしてあのセリフを浴びせられる事となったのだ。あたしの希望を打ち砕く……雪ノ下先輩のあのセリフを……

 

 

× × ×

 

 

「ゆ、ゆきのん……! さすがにそれはちょっと厳しいって……!」

 

 味方になってくれるものだとばかり思っていた学校一の有名人に、冷たい言葉を投げ付けられて呆然とするあたしに、由比ヶ浜先輩が助け船を出してくれた。

 でも……

 

「あら、そうかしら。“そうなってしまった原因”を理解はしていながらも、それでもなお他者にのみ責任を求め、尚且つそれを第三者になんとかしてもらって、自身はなにもせず考えも改めず、また人気者になりたいと泣き付いてくるだけの人間には、これでもまだ足りないと思うのだけれど」

 

「……うん、それはそうなんだけどー……」

 

 フォローしてくれたのはあくまでも物言いがキツ過ぎた事に対してで、どうやらあたしの依頼に関しては由比ヶ浜先輩も同意見のようだ。

 

 

 ──なんで……? あたし、そんなに変なこと言った……?

 ハブられてる……ううん? 虐められてる人間として、当然の主張をしただけじゃないの……?

 

「……まぁなんにせよ…………申し訳ないのだけれど、貴女の望むような結果を得るのは不可能だという事だけは覚悟しておきなさい。……少なくとも、中学の頃のようにクラスの中心になりたいという依頼であるならば、奉仕部としては受けかねるわ」

 

「……そん、な……依頼、受けてくれるって言ったじゃないですか……」

 

「そうね、私とした事が早計だったと反省しているわ。きちんと依頼内容の説明も受けないままに……千佐さんの口からきちんと聞かないままに……一時の感情だけで依頼受諾を決めてしまったのだから。……つい最近、同じような案件で頑張って自らの足で歩きだした依頼者の姿を、貴女に重ねてしまったのかもしれないわね……」

 

 そう冷たく言い放つ雪ノ下先輩を眺めつつ思う。

 

 ……最近、同じような依頼を受けたんだ、この部活……だったらなんであたしのはダメなの……?

 なんかショートカットの女子がもじもじと悶えてるのが視界に入ってくるんだけど、今はそれどころじゃない……目の前が真っ暗になってるから。

 

「まぁ待て、雪ノ下。気持ちは分からんでもないが、一旦落ち着け」

 

「……ええ、ごめんなさい」

 

 滲んだ視界のままうなだれていると、先ほどオマケかと思っていた一人の男子が口を挟んできた。

 雪ノ下先輩を呼び捨てにしているという事は、この人も三年生なのだろう。

 

「……あー、千佐。俺たちは、何も知らないくせに訳知り顔で意見するどこぞのコメンテーターのように『虐められる側にも問題がある』だの、どこぞの教育評論家のように『虐められる子にはなんの責任もない。虐めた側の子だって初めはみんないい子だった。責任があるのはそのような事態を招いてしまった大人にこそある』なんて綺麗事を宣うつもりもない」

 

「……」

 

「……言うつもりは無いが……だがそれは時と場合による。今回の場合に関しては、原因はお前のその性格にあんのかもな。もちろんクラス一丸となってハブってる連中は、総じてクソで間違いないが」

 

「……はあ」

 

 ……なに言ってんのこの人……? あいつらが一方的に悪いに決まってんでしょ。

 そんなの、されたこと無い人間に、あたしの辛さなんて分かるわけないじゃん。オマケのクセして偉そうに口出ししてこないでよ……

 

「まぁ……不満なのは分かる。大方お前なんかになにが分かんだよって感じだろ? だがな、幸なんだか不幸なんだか、ここはそういうのの経験者に溢れててな、だからみんな、お前の気持ちも分かれば、お前にどう問題があるのかも分かっちまうんだよ」

 

 ……は? なに? そういうのの経験者に溢れてるって。どう見てもここでそんな経験してんのあんただけじゃん。

 

「……はあ」

 

 

 先ほどまでは学校一の有名人に呆れたような物言いをされて落ち込んでたあたしだけど、このどう見てもオマケにしか見えない三年に偉そうに言われてイラッとしたあたしは、連続で不満たらたらの気のない返事をしてしまった。

 

「……チッ」

 

 しかしそれがいけなかったらしい。そんなあたしの態度に……というかオマケの三年生を軽く見てたから……? ついに堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。

 

「……ねぇねぇ、ちゃんと先輩の話聞いてんの……? 千佐ちゃんってさ、考え甘すぎだよねー」

 

 ……生徒会長の……

 

「……え」

 

 あたしはその怒った顔にこの上なくビビる。なにせ相手は有名生徒会長一色先輩。オマケの男子とは違うのだ。

 雪ノ下先輩に続いて一色先輩にまで敵意を向けられてしまっては、それこそあたしはこの学校で生きていけないから。

 

「生徒会長のわたしがこんなこと言うのもアレだけど、調子に乗るなら調子に乗るで、それなりの覚悟がなきゃダメでしょ。だって千佐さんは自分が調子に乗ったからハブられたってゆー自覚はあるんでしょ?」

 

「……は、い」

 

「別に調子に乗るのはいいと思うよ? それだけ自分に自信があるんだろーし。……でも調子に乗るならさー、始めっから同性に嫌われたりハブられたりするくらいの覚悟しなきゃでしょ。調子には乗ります! でも嫌われたくないです! って、さすがに都合よすぎじゃない? ……女子の世界ってそんな甘くないでしょ。……それに、地味で冴えない人の話は舐めて聞いてるのに、雪ノ下先輩とかわたしの話はそんなに畏まるとか、そこら辺からしてちょっと甘くない……?」

 

「……」

 

 

 ……どうしよう……恐いよ……

 あたしはただ救けてもらいたかったからここに来たのに、なんでこんな有名人達にこんなに責められなくちゃなんないの……?

 

 クラスでは無視……学校を代表する人たちには目に見えた敵意を向けられる。

 もうあたし……ホントに学校来られなくなるかもしれない……

 

 

 でも、それは雪ノ下先輩と一色先輩からの冷たい視線に堪えられなくなったあたしが、黙って俯いていた時だった。

 

 

 

「……地味で冴えない人で悪かったな。……にしてもさすが同性嫌われ度No.1の一色が言うと違うわ。すげぇ説得力だな」

 

 またもやあのオマケ男子が割り込んできた。……いや、割り込んできて……くれた……の?

 

 

 

 すると……

 

「……むー、誰の為に怒ってると思ってんですかねー、この先輩は……。大体〜、そんなの学校一の嫌われ者、がっこういちのきらわれものー、にだけは言われたくないんですけど」

 

「うぐっ……! ちょ、一色さんさぁ……それ絶対こいつをディスる風に見せかけて、またうちをネチネチと責めてきてんでしょ……!」

 

「あっれー? 相模先輩居たんですかぁ? 存在感なさすぎて全然気付かなかったですー。ちょっと意識過剰すぎじゃないですかねー」

 

「あー……! ほんっとマジムカつく! こんの腹黒生徒会長! だいたい一色さん奉仕部じゃないんだから早く生徒会室いけ!」

 

「ふふんっ、言っときますけどここじゃわたしの方が先輩ですしー」

 

「だから部員じゃないでしょうが!」

 

 

 ……その瞬間から、一気に場の空気が変わった。

 ショートカットの女子──どうやら相模先輩というらしい──と一色先輩は犬猿の仲のらしく二人してぎゃあぎゃあやり合い始め、

 

「た、たはは……」

 

「……はぁ、まったく……」

 

 由比ヶ浜先輩は苦笑いを浮かべて二人を眺め、雪ノ下先輩はこめかみを押さえてやれやれと呆れ顔。

 

 

 ……なんていうか……あたしが作っちゃった淀んだ空気が、オマケ男子の一言でいつも通りの柔らかな空気に戻された……みたいな?

 

 

「おいお前ら依頼人を放置すんな。……つかあれだな。千佐って、小物っぷりが去年までの相模を見てるみたいで和むよな」

 

「うっさい!」

 

「ぐはっ……だ、だから暴力系ヒロインは需要ないとあれほど……」

 

 

 そしてあたし置いてきぼりのこの騒ぎは、相模先輩が放ったオマケ男子の横っ腹へのパンチで幕を閉じたのだ。

 

 

 

「……あの、雪ノ下さん」

 

 すると、その相模先輩がおずおずと遠慮がちに手を上げた。

 

「なにかしら、相模さん」

 

「……あの、さ……ちょっと千佐さん借りてもいいかな? ……うち、千佐さんと二人で話してみようかと思うんだ。……たぶん千佐さんの、この依頼の為には、それが一番いいような気がするんだよね」

 

 ……え?

 

「…………そう。……ええそうね、確かにあなたが話をするのが一番いいかもしれないわね。……少し辛い思いをさせてしまうかもしれないけれど、お願いしてしまっても構わないかしら」

 

「ん。うちから言い出したんだから」

 

 ……どういう事……?

 

「千佐さん、ちょっと部室出よっか」

 

「……え、あ……は、はい」

 

 

 

 どういう事なのかはさっぱり分からない。この相模先輩という人がどういう人なのかも全然分からない。

 

 分からないけれど……どうやらあたしはこの見知らぬ先輩と、二人っきりでお話をしなくちゃならないようです……

 

 

 

 

続く





誰得オリキャラ視点(しかも思ってたよりもダメ人間)なお話でしたがありがとうございました!
こんなのは誰も求めてないかも知れませんが、第三者から現在の奉仕部+オマケ一名を眺めてみるというのもたまにはいいかな?と思いましたし、前書きでも書いた通り、さがみん視点だと浮かれすぎてるってのもありまして笑

(にしても多人数のやりとりになると、やっぱどうしてもガハマさんが空気になってしまう……汗)


次のさがみんとオリキャラの会話回は、さがみん視点でやるかオリキャラ視点でやるかはまだ迷い中ではありますが、次回もよろしくお願いいたしますノシ




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。