麻雀を長時間打つというのは意外に疲れる。ハンドボール部に所属してので体力には自身があったけど、思った以上に体に負担が来る。
腰とか肩とか。途中でツモるのが辛くなるほどには。
そんな事情もあり、姉さんの発案で俺達は練習後にはマッサージをするのが決まりごとになっていた。
楽しくもしんどい特訓の後、各自それぞれが風呂に入り、三階の多目的ルームにいた。(ちなみに、うちは四人家族なのに三階建ての一戸建てでかなり部屋が余っている)
「悪いな、美穂姉。先にやってもらって」
「いいのよ。お姉ちゃんだもの。気にしないで」
「じゃあ、遠慮なく」
服を脱いでマットの上に寝転がると、美穂姉はふくらはぎに手を添えた。ひんやりとした冷たさが気持ちいい。
「本気でいくからね」
意気込むようにちいさな力こぶを作ると姉さんは閉じていた目を開眼させる。
姉さんの眼は流れを読むのに長けている。
それで流れが悪いところもわかるのだとかなんとか。
「……ここなんかどうかしら?」
太ももの内側をなぞるようにしてこする美穂姉。
あ、あかん! そ、そこはあかんって!
変な電流が走る。押し寄せる快感の波。
「ふふっ、効いているみたいね。次はここっ」
「あふっ!」
「そのままここなんかもいじっちゃったりして」
「んんっ!? ね、姉さん! そこは」
「ふふっ。どうかしら?」
美穂姉の手は徐々に上半身に上っていき、脇腹から胸板へと移る。スッと指圧している指が内側へと入り込んできた。
「つんつーん」
「美穂姉!? 本格的にそこは不味いぞ!?」
「大丈夫よ。ただのスキンシップだもの……!」
「荒い!? 息が荒いから!?」
「さぁ。お姉ちゃんに任せて?」
「んあ――――っ!?」
この後、めちゃくちゃに弄ばれた。
◆◇◆
「……私は今、幸せの絶頂にいるのかもしれないわ」
――須賀美穂子はそわそわしていた。
他人が見たら怪しまれるくらいには落ち着きがなかった。
ちなみに一週間ぶりもう何回目かもわからない回数をこなしているにも関わらず、彼女は未だに緊張している。
へ、変なところはないかしら……?
これでシャワーを浴びてから五度目の身だしなみチェック。
パジャマも水玉模様で、ボタンもしっかり留めている。髪もちゃんと梳かしている。汗もかいていない。変な匂いもしない。
……し、下着も気合いを入れてきましたっ。
気合十分。一線越えるつもり満々。
もしかしたら! もしかしたらがあるかもしれませんから!
「えへ、えへへへへ」
「美穂姉。準備できたよ」
「あ、はーい」
「じゃあ、いつも通りこれを首に巻いて」
「ええ、わかったわ。貸してくれる?」
京太郎は中学までハンドボール部だったので体のケアには気を使っていた。なので、マッサージの腕もそれなりにあった。
彼は美穂子の横に膝をつくと温水に浸したタオルを絞って渡す。
「これで5分くらい温めてくれ」
「ええ。わかりました」
美穂子はそれを手に取り、髪をかき上げて言われた通りにしようとしたところで気が付いた。京太郎の視線が集中している。
「……京太郎?」
「……えっ、どうかした?」
「い、いや、そのなんでこっちのことをジッと見てるのかなーって。あ! き、気のせいだったらごめんね?」
「……あー、その、言いにくいことなんだけど……」
ポリポリと頬をかいて、彼は目をそらす。そして、ぽつぽつと言葉を漏らし始めた。
「その……美穂姉の髪をかきあげる仕草が艶めかしいというか……魅力的だったから」
魅力的だったから、魅力的だったから、魅力的だったから……。
頭の中で何度も反芻されて、染み込んでいく。
「京太郎」
「ん? なに?」
「お姉ちゃんも京太郎はかっこいいと思っているわ」
「……お、おう。ありがとう……?」
「ふふっ。どういたしまして」
「……」
「…………」
『………………』
互いに赤面して、うつむく。
どこか気まずい雰囲気になり、静寂が訪れる。カチコチと秒針が進む音が大きく聞こえた。
結局、5分経つまで、彼らが喋ることはなかった。
「あ、5分経った」
「もう外していいかしら?」
「おう。じゃあ、美穂姉はそのまま楽にしていてくれ」
「寝転ばなくて大丈夫だったかしら?」
「今日はもう夜遅いし、肩だけだからな。座ったままでいいよ」
「そう言うなら、先生の言うことに従いましょうか」
「先生って大げさな……まぁ、いくよ。痛いところがあったら言ってくれ」
「京太郎はいつも優しくしてくれるから心配していないわ」
「なら、よかった」
美穂子の言葉もあり、まず京太郎はほとんどゼロの力で彼女の肩周りを撫でまわす。こうやって徐々に力を入れていき、凝っている箇所を探すのだ。
「っう、あっ……」
「ごめん? 痛かった?」
「あ、ううん。気にしないで……」
美穂子は思わず声をあげてしまった。自分の意中の相手に体を触られるのにわずかながら緊張があったからだ。
だけど、あんなこと言っておいて、ここでやめてとは言えない。
「京太郎も……服の上からやったらわかりにくいでしょう? だから、その……ほら」
そこまで言うと美穂子は突然、第一ボタンを外した。そうして肩口の部分だけ繊細な肌を露出させる。
「直接……お願い?」
「わ、わかった……」
頬を朱に染めた美穂子と同じくらいに顔を真っ赤にさせた京太郎。それもそのはず。
ボタンを外したせいで美穂子のはだけた襟元が見えるのだ。
白い首筋の肌。浮き出した鎖骨と窪み。その先の大きな膨らみに続く。風呂上がりで上気しているせいで、魅力が何倍にも増している。
さらに欲望を呼び寄せるのは肩にかかる黒いヒモ。これはもしかしなくてもブラジャーのもの。
「(く、黒!? 黒なのか、美穂姉!?)」
「んっ……どうしたの、京太郎? 続けて?」
「お、おう」
そうは言うもののこんなにも女の子として意識してはやりにくい。
だけど、ここで変に動きを止めてやましいことを考えているとバレたくもない。
無心でやろう。そう決意した京太郎は両手を動かす。
「んっ、あっ……そこ、もうちょっと強く……っっ!」
京太郎がマッサージを再開した途端、美穂子の体に電流が走った。
生とではこんな違いがあるのか、と彼女は心底後悔していた。
快感が違う。さっきまでとは大きく異なる。急に体温がポカポカと温まってきた。
そんな状態になっているとも気づかず彼は手を動かし続ける。
「これなんかっ……どうだ?」
ぐにぐにとほぐしてから、肩全体に覆い被さるように手を置くと、一気に掴み上げる。女子特有のやわらかい肌が吸い付くように引っ張られ、固まった筋肉を揉み解いていく。
「あぁっ! くぅ……んんっ!!」
甘い声を出して美穂子は椅子にもたれかかった。意識ここにあらずと、うっとりした表情だ。
赤く染まった目元が色っぽい。ほつれた後ろ毛や、うっすら涙を滲ませた瞳が普段の彼女とは違った魅力を与えているようで。
無心無心無心無心!
もう我慢の限界だった京太郎は一気に攻める。確実に美穂子のツボを指で押していく。
肩の端から首の根元まで徐々に移動していき、優しく、それでいて的確に美穂子の弱い部分を突いていく。
「ひゃっ、ぁ……ぁ……!」
「もうちょっとで終わるからな、美穂姉!」
「う、うん、がんばりゅっ!? んぁ、ひゃうぅぅっっっん!!」
ビクンと体をのけぞらせて跳ねる美穂子。だらしなく開けた口からは透明な液体が垂れていた。服も乱れ、あと少しでも捲れてしまえば、ツンと尖った桃色の突起が露わになってしまうだろう。
だ、だめ……。気持ちよすぎて、もう何も考えられない……。今もこんな格好で……でも、嫌じゃない不思議な感覚。
「はぁ……はぁ……。どうだ、美穂姉。良かっただろ?」
ニコリと笑って自信ありげに感想を求めてくる京太郎。
ちょっと頭を回してから、経過を思い出し、彼女は答えた。
「う、うん。また……また今度もお願いするわね」