Idol meets cars   作:卯月ゆう

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今更ですが、サザエさん時空です
そして、専務はアイドルやPを仕事的にも、個人的にも悪く思ってないのでCPの部屋は30Fです。


ep7

 #1 Idol meets cars 〜和久井留美の場合〜

 

 美世の新番組の撮影から数日、今日は久しぶりに武内さんがシンデレラプロジェクトのオフィスに俺を呼び出した。こういう時はたいてい新人をスカウトしてきたと学んだ。最初の頃こそ、先輩に怒られる、武内さんやべえ恐えとか思ったものだが、何回か呼び出されたびに新人アイドルを紹介されると「ああ、武内さんがここに呼び出す時はアイドル連れてきたんだな」とわかるようになった。

 それに、武内さんに怒られる時は、怒られると言うより説得、説明されている感じが強いから、怒られてる感がない。あの人、人に怒鳴るとか絶対できないと思うんだよね……

 

 

「おはようございます、スカウトした方が本契約にサインして下さったの紹介を」

「…………」

「…………」

 

 と言うわけで、オフィス棟30F、シンデレラプロジェクトのプロジェクトルーム(と言う名のアイドル部門事務所)に来てみれば、あら不思議、見知った顔が俺のこと見て驚いてる。俺も驚いてる。武内さんは右手を首筋に当ててるから困惑してるんだろうな。

 

 

「る、留美、だろ?」

「ひさしぶりね、悠。まさかここに勤めてたなんて知らなかったわ」

「言う必要もなかっただろ、まさかと思うけど……」

「武内さんからスカウトされちゃったのは私。で、彼の言う担当プロデューサーっていうのは」

「俺だな、間違いなく」

「嘘でしょ……」

「あの、お二人は……」

「「大学の同期です」」

「そうですか。自己紹介の必要もなさそうですね。日比谷さん、和久井さんに館内を案内して差し上げてください」

「ええ、わかりました」

 

 自然に彼女の手を取ってしまったのがこの時の俺の過ちだったが、それに気づいたときには遅かったのは言うまでもない。

 エレベーターの中はどこか気まずい雰囲気で、なのにどこか懐かしいような。

 

 

「会社勤めしてたって聞いたけど、どうしたんだ」

「飽きたの。なんとなく、違うことがやりたくなってふらっとやめたらすんなり。」

「どうするつもりだったんだ?」

「なんにも考えてなかったわ。そんなときに武内さんに『アイドルに興味はありませんか』って声をかけられたのよ。ちょうどカフェで求人誌読んでるときだったかしら」

「それでトントンと」

「そうね、悠も変わらないみたいでなによりだわ。それに……」

 

 留美は繋っぱなしの左手に視線を移すと、少し悪い笑みを浮かべた。学生の頃に気味悪がられていた笑みだ。まぁ、目つきが少しキツイからだが、そこもまた俺が惚れた理由でもある。

 

 

「結婚はできなかったみたいね」

「お前と別れてからは女っ気がゼロでね」

「やり直したくなった?」

「まぁ、な」

 

 エレベーターが最上階に着くと、ゆっくりとドアが開いて廊下へと続く。

 最上階は展望室っぽい部屋(名前がないから仕方ない)と重役の部屋があるだけだ。常務の部屋もここにある。社長室はシンデレラ城(本館)だ。

 

 

「いい眺め」

「休憩時間はここか中庭だな。んじゃ下るぞ」

「もっとゆっくりさせてよ」

「自分の時間に頼むよ、和久井さん」

「はいはい」

 

 またエレベーターで今度は一気に3階まで下る。本館との連絡橋があるのはこのフロア。途中のフロアは各部門ごとに数階層を割り当てられており、最大級の規模を誇るアクター部門はまるっと7フロアを占有している。

 我らがアイドル部門はもともと10フロアあったアクター部門から下側3フロアをぶん取った、もとい分けてもらったと今西部長から聞いた。持て余し気味だったらしいし、ちょうどよかったらしい。

 

 

「本館だけは職場感がないわね」

「慣れると憂鬱になるぞ。よっぽどのことがないと用ないしな」

 

 本館は本当に事務仕事とかでもない限り用がないので、アイドルならなおさらだろう。そのまま3階を通り抜けて中庭へ。今日は平日だけあって学生アイドルの姿はない。ベンチで伸びてるウサミミには触れないでおこう。

 

 

「ねぇ、あの人は……」

「アイドルの先輩だぞ。今度見かけたら挨拶しとけ」

「わ、わかった」

 

 俺の言外の「触れるな」を理解してくれたらしく、そのまま中庭を通り抜けて別館へ。フロアが互い違いに並ぶ不思議な構造をしているから、見た目は4階建てだが、地表8フロアある。

 ここには主にレッスンルームやスタジオ、エステに大浴場、ジムやらエトセトラエトセトラ。福利厚生と番組制作が同居してる感じだ。アイドルと俺らプロデューサーは主にこことオフィスを往復することになる。

 余談だが、茜は毎日30階にあるオフィスまで階段を登ってきているらしい。本当なら尊敬の念と、その強靭な肉体を是非別の方向に活かしてもらいたい。

 

 

「ここかレッスンルーム。最初のうちはほぼ毎日ココだな。ちょうど誰かいるし、覗いてくか。日比谷です、新人の見学で来たんですけど、よろしいですか?」

 

 軽くノックしてから部屋に入るのは基本中の基本だ。特に返事のないうちに入るのは御法度。一度、名前は伏せるが着替えに出くわして本人に1週間口を聞いてもらえなかった事があるために気をつけている。

 

 

「構わない、入ってくれ」

「失礼しまーす」

「失礼します」

 

 今日は運がいいやら悪いやら、ベテトレこと聖さんの担当日らしい。ちょうど居るのは…… 川島さんと片桐さん、兵藤さんと篠原さんの4人がちょうどダンスレッスンの最中のようだった。

 

 

「和久井留美と申します、よろしくお願いします」

「おー、新人だー!」

「あらあら」

「いらっしゃーい」

「ちょっとキツイ目が美人さんだね」

「ほら、気を抜くな。新人の前でイイトコ見せろ」

 

 聖さんが手を打つと一瞬で空気が切り替わる。メトロノームに合わせて乱れなく動く4人。特に篠原さんは社交ダンスの講師をやっていただけあって体の動きとリズムを合わせることが上手い。

 

 

「やってることはシンプルだけど――」

「シンプルなことをこなせないとそれ以上は望めないからな。試しに混ざってみろ」

「は、はいっ!?」

「おうおう、どうせ明日からやるんだ、少しくらい変わらん」

「でも、ジーンズだし」

「「いいからやれ」」

「はい!」

 

 留美のぎこちない動きをしばらく見てから部屋を抜け出し、自販機でスポーツドリンクを6本買って戻ると、案の定へばった留美と、それを見て肩を竦める聖さん。そして、過去の自分を見ているであろう4人。

 

 

「おつかれ様、ほれ」

「ありがと」

「みなさんも、聖さんも」

「ありがとう、日比谷君。今度は君も武内君と、どうだい? どうせ車ばっかりで動いてないだろ」

「その日の業務止まっちゃいますよ。まぁ、機会があれば」

「その言葉になんど煙に巻かれたことか。期待せずに待ってるよ」

「そうしてください。留美、立てるか?」

「なんとか。突然お邪魔してすみませんでした」

「いいのいいの、またレッスンとか一緒になるかもしれないし、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 部屋を出るとバッグからタオルを取り出して渡す。ハンドタオルしかないが、仕方ないだろう。

 

 

「ほれ」

「何から何まで、ごめんね」

「これが仕事さ。一旦戻るけど、シャワー浴びてくか?」

「着替えもないし、今はいいわ」

「早めに帰すように武内さんに言っておくよ。聖さんに扱かれた、って言えば理解してくれるさ。それに、今日は契約だけだろ?」

「ええ、こんなことになるなんて」

 

 またエレベーターに長時間乗って事務所に戻ると、どこか萎れた留美を見て察したちひろさんが濡れタオルと乾いたタオルを持って来てくれたり、さり気なくスタドリを勧めたりしていたが、それには触れずに武内さんのデスクに行けば要件はなんとなくわかっているようだった。

 

 

「初日から災難でしたね……」

「武内さんも今度どうかとお誘いを」

「私は遠慮しておきましょう。和久井さんはもう帰らせて構いませんので。日比谷さんも、ですね」

「はい?」

「今日の業務はもう終わっているようですし、積もる話もあるでしょう」

「すみません、ありがとうございます」

「いえ。では、お疲れ様でした」

「はい、お先に失礼します」

 

 ちひろさんのホットタオル処刑(あまりの気持ちよさに、疲れてるとホントに数分で落ちる)を執行されている留美をギリギリこの世に繋ぎ止め、軽く机を整理してから事務所を出て、今日何度目かのエレベーターだ。

 

 

「どうする、送るぞ」

「車だから平気。でも、まだこんな時間だしうち来る?」

「行くよ。後でメールしてくれ」

「アドレス変えてない?」

「ああ」

 

 駐車場まで歩くと見慣れないアルピンホワイトのM4が止まっていた。社外品のカーボンエアロに程よく落とした車高。軽そうなホイールの奥にはオプションのカーボンセラミックブレーキが見える。

 

 

「留美の車か」

「そうよ。いいでしょ?」

「金かけてんなあ」

「なに、人の車みて真っ先にそれ?」

「いや、高そうなパーツばっかだしさ」

「ま、お金をかけたのは否定しないわ。ほんと、どこの誰に似たんだか」

「俺の車はどノーマルだぞ?」

「嘘言わないで。デート代まで車に突っ込んでた人間がそんな車に乗れるわけ無いわ」

「いや、ホントだって。仕事柄派手な車に乗れねぇからな」

 

 かわいそ、と言うやいなや車に乗るとエンジンをかけた。見た目によらず、音も綺麗にうるさい。チタンマフラー特有のハリのある音だ。

 俺に流し目を送ってから出ていくと、俺もまた駐車場を歩き、あと少しの付き合いとなった愛車に乗り込んだ。

 留美がどこに住んでるかなんてわからなかったから、ファミレスでコーヒーゼリーをつついていると、プライベート用のスマホが震えた。

 

 

『そろそろ帰るから来ていいわ。あなたのことだから事務所の近くで潰してるんでしょ』

 

 それに続いてここから車で30分ほどの住所が書かれていた。会計を済ませてまた車に乗ると、ナビに言われた住所を打って、車を出した。

 

 

 #2 Idol meets car 〜川島瑞樹の場合〜

 

 日比谷くんが新人を連れてレッスンを見に来た。和久井留美、と自己紹介された、クールな目が素敵な子。彼女も聖さんの餌食にされ、一緒にレッスン、そこまでは良かった。そこまでは。

 終わってすぐに、タイミングを見計らったかのように日比谷くんがスポーツドリンクを差し入れてくれたときだ。なんの違和感もなく、ごく自然に彼女の手を取った。この行動もまぁ、私も新人時代にされたことがあるから、特別変ではないのだけど、どこかこう、慣れすぎている感じがした。彼ではなく、彼女に。

 初対面の異性に手を出されて、なんの疑問も、遠慮とか、そういう感情も持たずにその手を取れるのか。普通は多少なりとも遠慮とか、恥ずかしいような感じが出るはずなのに、彼女にはそれが見られない。まるでそれが当たり前のことのように。

 そして、一番の疑問。

 

 

「どーしてあの子、日比谷くんに名前で呼ばれてるの!?」

「んなもん知らないよー。直接聞いてくればいいじゃん」

「日比谷さんなら、もう帰ったって。武内さんが」

「このあとは…… フリー。早苗、行くわよ」

「え? え? なんで私まで……」

 

 2人に見送られ、早苗ちゃんを有無を言わさず連行。着替えてプロジェクトルームに戻ると日比谷くんは数分前に出ていったばかりらしい。すぐさまエレベーターで降りて駐車場に出ると見かけないBMWの前で2人が話しているのが見えた。

 

 

「静かに」

「なんでこんな……」

『デート代まで車に突っ込んでた人間がそんな車に乗れるわけないわ』

『いや、ホントだって――』

「デート? なんで、まさか……」

「ほら、二人は付き合ってるんだよ、諦めて帰ろ? お酒なら付き合うからさ」

「いえ、聞き間違いだわ。和久井さんがくる、隠れて」

 

 白いBMWが前を通り過ぎると、日比谷くんも自分の車に向かったので私達も車に乗る。早苗ちゃんは電車通勤なので隣でも問題ない。

 

 

「さ、追いかけましょ。ちゃんと見ててよね」

「はいはい…… 菜々ちゃんにもLINEしておこ」

 

 そして追跡劇はわずか10分と持たずに終わった。ファミレスに入ったので向かいのコンビニに車を止めて雑誌を広げる。しばらく待つと窓を叩かれた。

 

 

「何してるんですか?」

「菜々ちゃん。聞かないで、聞いてるでしょうけど」

「はぁ、こういう時は日比谷プロデューサーがかわいそうですね。ファミレスの駐車場にBMWの改造車は止まってませんでしたから、瑞樹さんが考えてるようなことはないと思いますけど」

 

 ため息をひとつ。早苗ちゃんは隣で肉まんを頬張っている。

 

 

「菜々ちゃん、コレ」

「はい、ありがとうございます。じゃ、ナナはウサミン星に帰還しないと行けないので。お疲れ様でし――」

 

 報酬(エナドリ)を渡すと、去ろうとした菜々ちゃんの腕をつかむ。目だけで「少し付き合いなさい」と言うと、冷や汗をかきつつも頷いてくれた。

 決して先輩の威圧感なんて使ってない。いいわね?

 

 

「どうしてナナが……」

「ま、諦めな。こうなった瑞樹が手に負えないのは知ってるでしょ?」

「ふぇぇ、ストーカーですよ、止めなくていいんですか!?」

「私はもうおまわりさんじゃないもーん」

 

 なんだかんだ言いつつ、トボトボとファミレスに止めた車に戻る菜々ちゃんはいい子だ。それからまた待つこと十数分。菜々ちゃんから日比谷くんの車が出た、との一報が入ったので追跡を再開する。

 車は高速には乗らず、そのまま25分ほど走って県境に近い住宅街に入る。その中から立派なガレージ付きの家の前に止まると、ガレージのゲートが上がり、その中に車を止めた。

 菜々ちゃんの車を先頭に、少し距離をおいて追いかけていたからか、メールも来ないし、気づかれた様子は無い。

 

 

「どうすんの? 日比谷くんの家じゃないでしょ、ココ」

「とりあえず表札だけ見てきましょう。少し離れたところに車を止めればいいわ」

「はいはい。おまわりさん呼ばれないようにね」

「その時は家を買いに来た、とでも言えばいいのよ」

 

 ナビに映る公園の近くに路駐すると、早苗さんを連れて彼が車を入れた家の前に来た。表札は無いが、駐車場においてある車がここの主を明らかにしてくれた。

 

 

「白いBMW。和久井さんの車よね?」

「いじってあったしね。この車でしょ」

「んじゃ、あぶり出しましょうか」

 

 そう言って彼のZの後ろで菜々ちゃんのウサミミを振るとあっさり警報がなり始めたので即座に距離を取って帽子を被った。菜々ちゃんのウサミミはもちろん没収。

 

 

「来たわね」

「お母さんごめんなさい、ナナは悪い子になってしまったようです、うぅ……」

 

 家から出てきたのは日比谷くんと和久井さんの2人。道路に出て辺りを見回してから車の鍵を開け閉めして警報を止めた。

 

 

「クロ、ね」

「ね、じゃないですよ、もー! 日比谷プロデューサーが誰を選ぼうが自由じゃないですか! そんなことしてると本当に嫌われちゃいますよ!」

「ええ、そんなストーカーまがいのことまで始めるなんて、とてもガッカリです」

「そうですよ! いつものクールな瑞樹さんはどうした、もう、早苗さん、なんですか?」

 

 早苗ちゃんに肩を叩かれた菜々ちゃんが振り返り、私も視線を少し上げると口だけに笑みを浮かべた日比谷くん。それとなんとも困った顔をした和久井さんも後ろにいる。

 

 

「川島さん、どういうわけか、説明してくださいますよね? 聞くまでもありませんけど」

「あ、あはは……」

「な、ナナはコレで失礼――」

「させませんよ」

 

 ドナドナされる私と菜々ちゃん。それにカラカラ笑いながらついてくる早苗ちゃんと和久井さんの家に入ると、そこそこ雑にリビングに放られた。

 

 

「さて、俺の勘違いだといいんですけど、3人は俺と留美の関係を疑ってついてきた、間違いないですか?」

「「「…………」」」

「黙秘ですか。そうですか」

 

 スマホを少しいじると、何か曲が流れ始めた。これは、みりあちゃんのRomantic Nowのイントロ。だが、そこから聞こえたのは紛うことなく私の声だった。それも、かなりハイテンションでどこから出た声なのか私が聞きたいくらい甘い声で。

 

 

「これは情報提供者(高○楓)から譲っていただいた資料です。川島さんはこのような路線もアリなようで、今後この方向で売り出そうかと思うのですが、どうでしょう」

「それだけはやめてちょうだい」

「なら、答えてもらえますよね」

「そうよ、私は2人がどうなのか気になったからこんなことしたの、どう、見損なった?」

「まぁ、いつかやるだろうな、とは思いましたけど、まさかねぇ……」

「そこは『そんなことないよ』って言う場面でしょ!」

「いや、だって川島さんですし」

 

 いつの間にか菜々ちゃんは和久井さんと台所でお茶の用意をしてるし、早苗ちゃんは大きなソファに体を沈めてテレビを見ている。あの二人は早々に無罪放免らしい。

 

 

「で、どうなのよ」

「留美とは学生時代に付き合ってました。いまは、友達だと思いますよ」

「そう、なら――」

「悠、夕飯食べてくでしょ? 先輩方も」

「ああ、そうだな」

「ご相伴にあずかるわ。ありがとう。――後でゆっくり、聞かせてもらうわよ」

「はいはい」

 

 その夕食の席。車は家の前に移してから和久井さんと菜々ちゃんの作る夕飯に舌鼓を打った後、2人を前に私は堂々と切り出した。

 

 

「それで、2人はどういう関係?」

「さっきも言いましたけど――」

「大学時代の恋仲ですが、何か問題でも?」

「ちょ、そんな言い方は」

「いいの。川島さん、悠のこと好きなんでしょ? それも何度もフラれ、違わうわね。躱されてると言ったほうがいいかしら。そんな風に見えるわ」

「ええ、そうよ。彼には何度も言葉で逃げられて、やっと真面目に聞けるチャンスを掴んだ途端に現れたのが貴女」

「おやおや、このドラマよりあっちのほうがドロドロしてるぞ」

「早苗さん、そんな」

 

 ソファの背もたれから顔半分だして覗く2人を意に介さず、余裕の和久井さん。そしてあまり余裕のない私。

 日比谷くんはどちらの味方もしないスタンスでいるつもりのようだが、どちらかといえば和久井さんに寄っている気がする。

 

 

「ねぇ、悠。エレベーターで言ったこと、覚えてる?」

「ん? ああ」

「どう?」

「それは……」

「ねぇ、日比谷くん。約束、忘れてないわよね?」

「それはもちろん」

「「答えは?」」

「うひゃあ、あんな日比谷くん、初めて見た。すごいね」

「日比谷プロデューサーには申し訳ないですけど、面白くなってきましたね」

 

 窮地に追いやられた日比谷くんの一言は、正解かもしれないし、悪手とも言えたかとしれない。ただ、この場にいる4人からため息という名のブーイングを受けるものだった。

 




瑞樹さんの愛が重い

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