あとがきのソレはデレステのイベコミュ見たらなんとなく書きたくなった。
あすらん尊い
#1 Producers meet car ~プロデューサー達の場合~
「日比谷さん、木曜日の夜、車を出していただけませんか」
「構いませんけど、マークXの回収ですか?」
「ええ、まぁ、そんなところです」
武内さんから「車を出してくれ」という珍しい頼みごとをされたと思ったら、さらに歯切れの悪い返答になんとなく不信感を覚えつつ、木曜日の予定をリマインダーに入れておく。
しかし、あの武内さんが理由を濁すとはよほどのことか…… うーん、今西部長に聞いてみるか。
「ああ、その事か。聞いてるよ。僕も呼ばれてるからね」
「なにかあったんですかね」
「そんなに深刻な顔をするんじゃない。なに、仕事のことじゃないさ。彼が言わなかったのなら僕からも言うべきじゃないだろうけど」
「そう、ですか」
「木曜日、楽しみにしているといいよ」
今西部長からも良いようにはぐらかされた木曜日、早めに仕事を切り上げ、武内さんと合流すると911の隣へご案内。武内さんの指示通りにナビを設定。横浜の駅から少し離れた辺りだ。
「日比谷さんには不安な思いをさせてしまっていたようですね。今西部長から日比谷さんが話を聞きに来たと伺っています」
「心配することはない、って言われましたけど、本当ですか?」
「ええ、決して私の進退に関わることではありません。その、日比谷さんの給料リミッターの遠因といいますか、原因といいますか…… できれば見てのお楽しみということに」
「はぁ……」
ナビに従って高速で30分、下道でまた暫く行くと立派なカーディーラーが見えてきた。シックな外観のショールームにはフェラーリやランボルギーニ、ロールスロイスと言ったお高いクルマ達が並んでいる。
駐車場は在庫車か顧客の車か、4桁万クラスの車がズラリ。細心の注意を払って車を停めると、中から出てきた営業さんに武内さんが会釈していた。
「今日は車を取りに来たんです。そろそろ今西部長も来ると思うのですが……」
「武内さん、車買ったんですか?」
「いえ、修理に出していた、と言うべきでしょうか。ここは販売以外にも面倒を見てもらえるので」
ふかふかのソファに座りながらコーヒーを啜っていると、駐車場に藍色のクーペが入ってきたのが見えた。見たことない車だな、となんとなく観察していると、降りてきたのは今西部長だった。S30以外にも車を持っているとは思ってたが、なんだアレ。
俺ら2人を見つけると、軽く手を挙げた。慌てて軽く頭を下げておく。
「だいぶ待たせたみたいで済まないね」
「いえ、それほどは」
「ふふっ、そういうことにしておこうか。さて、待ちきれないみたいだね」
空気を読んでそばに来た営業さんの案内で店の裏にあるピットまで歩くと、カバーに覆われた低いシルエット。80年代から90年代くらいのスーパーカーを彷彿とさせる直線的なボディがなんとなくわかる。
リアには大きなスポイラーがついているようで、カバーでも隠しきれない存在感を発していた。
武内さんが一声かけると、メカニックと営業の方2人でフロントからゆっくりとカバーを捲りあげていく。すぐに目に入ったのは白いフロントバンパー。車検に通るのか怪しいほどに下げられたエアロはスッキリとしたデザインで、今みたいなゴテゴテ感がない。
そのままボンネットを露わにすると、フロントに付けられた黄色いエンブレムが目に入る。
「これが、私のフェラーリ512TRです」
「本当に長かったね」
「そうですね。3,4年はかかりましたから。本当に、良かったです」
カバーも完全に剥がされて姿を表したフェラーリは白いボディにゴールドの太いスポークのホイールを履き、そして、何よりもデカかった。
テスタロッサの系譜である512がでかい車なのは知っていたが、ここまでとは。
「この車が何かわかるかい」
「512と言うのは聞きましたけど、すごい派手なエアロですね」
「ふふっ、流石に今の若い子はわからないか」
「ケーニッヒスペシャルというチューナーのコンプリートカーをモチーフにしてるんですよ」
なんでも、バブル全盛期に流行ったドイツのチューナーだそうで、大きなオーバーフェンダーに太いタイヤという派手なスタイルで流行したそうだ。と言ってもフェラーリは数少なく、殆どがベンツのSLだったそうだが。
武内さんの車はテスタロッサ向けのエアロパーツを型取りし、512TR向けに修正したものをワンオフで作成、エンジンルームにもワンオフパーツが嫌というほど入っている。
機械式の燃料噴射システムは最新の電子制御に交換。変えてしまったほうがランニングコストは下がるんだとか。さらにパフォーマンスも安定するという。
それからいい色に焼けたエキゾーストはもちろん、エンジン本体もオーバーホールしてレーシングカー並の精度で調整したもの。トランスミッションも上がったエンジンパワーに合わせてギア比をロングになっている。
ボディだってホワイトボディからやり直したガチガチ仕様。ロールケージも入ってるそうだが、内装で上手く隠しているんだとか。
「武内君が入ったばかりのときにこの車を買ってね。最初は大人しくノーマルで乗っていたんだよ。けれど一回エンジンがダメになったときに、こうすることを思い立ったらしいね」
「まさか……」
「ああ、ほぼ全財産投げた。給料はこの車のために使ってたね。だから君が入ったときには彼のようなことをしないよう、ごくごく平均的な給料で、まずは様子を見ようと思ったのさ。今は形無しだけどね」
リミッターがなくなった途端にポルシェを買った事を言ってるのだろう。
反省はしていない。
ポルシェ増車したりしたけど、家族のためだから! 無理だな。留美も車持ってるし。
「武内さん、なんか子供みたいですね」
「それも仕方ないだろう。子供の頃の夢を形にしたんだ。君にはそういう思い出の車とか、無いのかい?」
「そうですねぇ、やっぱりR34のGT-Rとかですかね。今でも少し欲しいですし」
「うーん、これもジェネレーションギャップ、かな?」
どことなくにやけているようにも見える武内さんがキーを受け取って、大きなドアを開けると、シートに体を滑り込ませた。外から見ると意外と狭そう……
スマホで写真を撮っていると、ドアが閉められた。年式の割に短いクランキングの後、爆音とも言うのがふさわしい轟音がピットに響き渡った。
エンジンを掛けた本人が一番驚いているような気がしなくもないが、何回か空ぶかしすると、ギアを入れたようで、回転数がグッと下がる。
しばらく待っているとフロントの車高が上がり、そのまま段切りして出ていくと、店舗の駐車場の方へ消えていった。
店舗に戻ると駐車場で車をメカニックの方と一緒に見て回る武内さんが見えた。納車前の最終チェックと言ったところだろう。
しかし、ああやって人の車がいじってあんの見ると、自分の車も……と思ってしまう。まぁ、やったら間違いなく留美に怒られるだろう。
「よろしければこちらのパンフレットご覧になりますか」
「え? あぁ、お願いします」
とっさに受け取ってしまったのはテックアートのカタログ。うひゃぁ、かっけぇ。
「ほどほどにね」
「アレはいじれませんよ。今は財布の紐握られちゃってますし」
「そうだったね」
ただ、このリアリッド一体型のリアスポイラーはめっちゃほしいぞ! そうするとエアロキット一式も無いとバランスが…… お値段は200万円コース。うん、無理だな。
「さて、彼の用も済んだみたいだ。ひとっ走り、行こうじゃないか」
「最初からそのつもりでしたよね。車もいつものZじゃないですし」
今日の今西部長の車は俺も見たことない車だ。インフィニティのマークが付いたクーペ。Q60のエンブレムが付いている。
V37になってから消えてしまったスカイラインクーペの系譜にある車のはずで、日本未導入。なんでも、エンジンもVR30なんてGT-Rそっくりなものを乗せたびっくりモデルがトップに居たりする。というのをネットで見ただけだが、コレはどのグレードだろうか? Q60S?
信号待ちの間にググれば、それこそが件のVRエンジン搭載の化物グレード。そのパワーは400psオーバー。スカイラインクーペにしてはオーバーな気もするが……
「お待たせしました。シェイクダウンに付き合っていただけませんか」
「ふふっ、聞かなくてもわかるだろう?」
「もちろん、お供させていただきます」
「ありがとうございます」
武内さんのフェラーリを先頭に、3台連なって高速に入ると一つペースが上がる。向かう先は湾岸線方面なようだ。
トンネルで響くエキゾーストノートは堪ったもんじゃない。V12の甘美な響きだ。
高めのスピードレンジで流れに乗ると、分岐と合流を繰り返して湾岸線に突入。ここで合流から一気にペースが上がった。
甲高い音を伴ってフェラーリが飛び出していくとあっという間に視界から消える。俺は免許が惜しいから安全運転。今西部長も同じく。
それでもハイスピードと言われる速度で流れて適当なPAに入ると案の定、ひときわ目立つフェラーリが奥の方に止まっている。その隣につけると、武内さんが降りてきて、恥ずかしそうに首に手を当てた。
「少しはしゃぎすぎてしまいました」
「良いじゃないか、男はいつだって少年だからね」
「日比谷さん、お願いばかりで申し訳ないのですが……」
「はいはい、適当に写真撮って後で送ります」
「お願いします」
その後は都心部に進路を向け、アクションカムを頭につけた俺が撮影係に回ると抜きつ抜かれつでいい画を狙ってから流れ解散となった。
早々に降りていった今西さんは表参道とかそっちに住んでると伺ってるし、武内さんは逆戻りして横浜の山側だ。俺はこのまま北池袋で降りて下道で帰宅。なんだか大学生の頃とやってること変わんないぞ、コレ。
ガレージにドイツ車が並ぶガレージに車を停めるとすっかり慣れてしまった留美の家、もとい、我が家だ。
「おかえり。武内さん、どんな要件だったの?」
「フェラーリを引き取りに行って、そのまま首都高流してきた」
「ホント、呆れるわ…… ご飯は?」
「まだ」
「冷蔵庫にあるから、温めて。じゃ、先に寝てるから」
「ほーい、おやすみ」
#2 Idol meet car ~木村夏樹の場合~
「拓海ちゃんが車買ったから欲しくなっちゃった?」
「う~ん、だけど置くとこも無いからなぁ」
拓海ちゃんのセブンが車検を取ってからしばらく。運転にも慣れて炎陣のみんなが隣に乗ると、四輪の免許を持ってる3人はどうも車が欲しくなってきたらしい。亜季ちゃんは大きい四駆がほしいみたいで、雑誌を読んではアレがいいコレがいいと言っていた。涼ちゃんは現実的にコンパクトカー。そこそこ走れて燃費がいいの、と言っていた。
そして夏樹ちゃん。スポーツカーがほしいけど、色々と迷っているらしい。
だからこうして事務所の一角でプロデューサーの持ち込んだ自動車雑誌を広げながらおしゃべりをしているわけだ。
「美世のロードスターも良いんだけど、オープンカーって柄でも無いし、かと言って86やBRZは多すぎる。なんか、こう、個性がほしいよな」
「って言っても、個性とお金はトレードオフだし……」
「だよなぁ。外車は高いし、古いと維持費がかかる。なんか、いい感じのスポーツカー無いかな」
「それこそ、最近流行りのKスポーツとか。でも、全く荷物積めなかったりするし……」
アルトワークスは車両の安さもあってとても売れてるみたいですね。アフターマーケットパーツも増えて、カスタムベースとしてもバッチリ。軽くてターボでマニュアルで、4枚ドアで荷物も積めて、なおかつ燃費も悪くない。
字面だけならとってもいい車だと思います。
対抗馬はS660とコペン。車両価格がロードスターとほぼ変わらないS660。積載性は度外視で走りに極振り。その結果ビートの再来になりました。250万もするのにあっという間に売れて、今では中古車も出てきてますね。一度乗ってみたい車です。
コペンは、その…… 前から走る車ではなかったような気がします。スポーツカーとしてはとても良いんですけど、その先、サーキットなんかを見始めると電動メタルトップの重さがネックになって、楽しいけど速くない、みたいな。
丸くて可愛い見た目はキュートなんですけど、ほしいかと言われると微妙なラインにあったりします。
「そうなるとZとか? 川島さんが乗ってるし、日比谷Pも前に乗ってたよな」
「今は中古もそこそこ値段落ち着いてるし、33の最終型とかは? あとは外車になっちゃうね」
「うーん、別に国産車にこだわりがあるわけじゃないけど、やっぱり維持費とか高そうってイメージがあるんだよな」
「いっその事外車乗ってる人に聞いてみるとか」
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「はぁ、ナナが呼ばれたのはそういうわけですか」
「ナナさんが一番マトモな外車乗ってるんだ」
「結構生々しく言っちゃって良いんですか?」
「そこを詳しく知りたいんだ」
ナナのアルファロメオは車がだいたい450万、タイヤとホイールで50万、保険が色々特約を付けて10万弱。ガソリンは、燃費がリッター10kmくらいなので、すごく悪いわけじゃないですよ。ハイオク指定ですけど……
外車だからって壊れるわけでもありませんし、ディーラーでの点検も前のノート君よりまぁ、少し高い程度ですね。車検はまだなのでわかりませんけど、重量税も自動車税も小さい車なのでべらぼーに高いことはないと思います。
保証もあるのでしばらくは部品代の心配も少ないですし、今のところお財布へのダメージはノート君とそう変わりません。
「ほほー。ハイオク指定なのは仕方ないね。外車もすごく高いわけじゃないんだ」
「はい。ナナも買う前はビクビクしてましたけど、買ってからはそれほど気になりませんね」
「あたしのロードスターとそんなに変わんないなぁ。保険は高いし燃費も悪いけど……」
美世ちゃんのロードスターは事故率とかで保険も高そうですね。
ジュリエッタくんはそもそもの数が少ないので保険料も抑えめです。車両保険も入れますし。
でも、やっぱり車はピンと来た車を買うのが一番ですね。前もって色々考えるのも楽しいですけど、実際に見て直感で買うのもいいと思います。ナナはジュリエッタを買って公開してませんし、この車が大好きですから。
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「ふうん、ナナさんの次は私にね。いいわよ、ついでに悠の車のことも教えてあげる」
「お願いします」
私のM4はあちこちいじり倒したから、だいたい2000万はかけたかしら。保険だって馬鹿にならないし、燃費もリッター8前後。給油のたびに1万円飛んでいってるわ。
タイヤ交換を半年に一回20万、オイルも3ヶ月に一度は変えろって言うから変えてるし、3台の維持費で給料の半分を飛ばしてるアホも居るしね。
ポルシェはいじってないしいじらせないから車代だけ。それでも気を失いそうな額だけど。パナメーラはエコカー減税も効いたらしいわよ。2トン以上あるんだから次からは馬鹿にならない額ね。911と合わせて20万ちょっと? 美世ちゃん、そんな顔しないの。
保険は詳しいことは知らないけど、彼のことだから車両保険とかもしっかり入れるところを探してるはずだから、30万は払ってるんじゃないかしら。1台あたりよ? 信じらんない。
家計の出費の半分は車関係ってくらい払ってるわね。
「ひぇっ……」
「す、すごいな……」
「だから小さい車に買い換えようって何度も言ってるのよ? なのに『もったいないからやめろ』って」
「留美さんが買い換えるより先に911を手放せば解決するんじゃ……」
「アイツが車を売ると思う?」
「「…………」」
でも、やっぱり国産車にはない魅力ってのがあるらしいわよ。私にはわからないけど。
それに、手のかかる子ほどカワイイらしいし。
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「極端すぎてわけがわからなくなってきた」
「と、とにかく何か車見に行ってみるってのはどう?」
「そうだな。それでナナさんみたいに出会いがあるかもしれないし」
この後の予定を確認して、雑用を押し付けられる前に夏樹ちゃんを隣に乗せて事務所を飛び出しました。さて、まずはどこに行くべきでしょうか?
「飛鳥、探したぞ」
「チッ、キミか。悪いがボクには行くべき場所があるんだ。邪魔しないでくれ」
「この雨だ、足がないと辛いだろ。隣乗れ」
「随分と周到じゃないか。まるでこうなるのが理解っていたようだ」
「それでも随分探したがな。雨予報なのに飛び出していったっきりだ。警察沙汰とか、他にも色々と不安にもなる」
「……怒らないのか」
「ああ、怒らない。十分に反省してるみたいだしな」
「さっきも言ったが、ボクには行くべき場所がある。蘭子の下へ、行かなきゃ行けないんだ」
「随分とお急ぎのようだな。腕によりをかけて飛ばさせてもらうよ」
「キミは、留美さんのことを理解っているかい?」
「なんだ、唐突に」
「人は理解り合えるものだと思うかい?」
「いんや、思わん。留美の半分もわかってるとは思わないしな。共有することとわかり合うことは違う。それに気づいたんだろ、飛鳥」
「…………」
「そうか」
「ありがとう、プロデューサー」
「急げよ、お前の片翼が待ってる」
「ああ、もちろんだ」
「おいおい、だからって車止まる前に降りるなっての。危ねえな……」