Idol meets cars   作:卯月ゆう

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オリPのイメージはぷちますの間島Pに近いです。Pヘッドではありませんが


ep1

 Prologue

 

 

「はぁ……」

 

 昼休みはコンビニ飯を食ってから紅茶を飲みつつ、買ってきた雑誌を読むのが習慣になっている。

 こんなため息をつきたくなるのは、俺がコレを読み終わるのを目を輝かせて待っているのが目の前に居るからだ。

 俺が読んでいるのは月刊「Sporting/Driving」という自動車雑誌で、「スポドラ」なんて略称で呼ばれている。内容はほとんどの自動車雑誌と変わらず、新車の試乗記や新パーツのレビューなど。特徴的な部分といえば、タイトル通り、スポーツドライビングを楽しむためのイロハとしてプロのレーシングドライバーが月替りで自己流の「走りのコツ」を書くコーナーがあることだろう。

 現役のドライバーはもちろん、引退したレジェンドドライバーや時には海外のドライバーすら走りの心得であったり、少し踏み込んだ内容であったりを好きなように説いている。

 俺はこのコーナー目当てでスポドラを購読していると言っても過言ではない。試乗記なら「カーグラ」、チューニングなら「オプション」、もっと踏み込んだドライビングテクニックなら「レブスピード」に任せればいい。

 他にも様々な自動車雑誌を読むが、スポドラの「公道をいかに安全に気持ちよく走るか」と言うコンセプトは一般ピープルである俺にはとても良くあっているように思えるのだ。

 長々と語ってしまったが、目の前に居るコイツにも触れておかないといけないだろう。

 さっきから頬杖ついてニヨニヨと笑いながら尻尾振ってる(ように見える)のは原田美世。職業はアイドル。アイドルだぞ? デコに拭ったオイルの跡が残っててもアイドルだ。そして、俺はそんな彼女のプロデューサーなのだ。

 もちろん、担当は彼女だけではないが、彼女には特に懐かれている気がする。もちろん、繋がりはクルマだ。

 

 

「美世、そんなに見てても読み終わらんし、誰も貸してやるなんて言ってないぞ」

「とか言いつつ、毎回読み終わったらテーブルの上に置きっぱなしじゃないですか。それに、そろそろ最後の方の広告なんで読み飛ばすでしょ?」

 

 確かに、美世の言うとおり、俺は最後のコラムを読み終えて広告がひしめくページに入っていた。だが、ここで終わるいつも通りの俺ではない。スポドラを閉じ、顔を輝かせた美世を横目にそれをカバンに仕舞うと、代わりにとある本を取り出した。

 

 

「殺生なぁぁ」

「ふふん、そう甘くねぇんだよ」

 

 俺が次に広げたのは、週間「アイドルジェネレーション」

 アイジェネ、と呼ばれるこの雑誌は今をときめくアイドルたちのインタビュー、新番組紹介、ライブ、グッズ情報などなど、アイドルに関して知りたければテレビやネットよりもずっと正確で細かい事が書いてある。

 手頃な値段も幸いし、若者を中心に人気の高い雑誌だ。

 

 

「スポドラ、スポドラを私に……!」

「プロデューサーさん、やっぱりここに居ましたか。サンテレの方からお電話です。それと、そろそろ休憩終わりますよ? 美世ちゃんもあんまりプロデューサーさんを困らせないでくださいね?」

「ありがとうございます。ほれよ、読んだら戻しておけ。千川さん、アイジェネ最新号テーブルに置いておきますね」

 

 カバンからスポドラを取り出して美世に投げ、アイジェネはそのままテーブルの上に置いておく。さてさて、午後の仕事を始めようかねぇ。

 

 

#1 Producers meets cars〜プロデューサー達の場合〜

 

 

 一日の仕事を終えて駐車場に向かうといつもの場所(と俺が勝手に呼んでいる)に白いスポーツカーが止めてある。ドアハンドルのボタンを押して解錠すると、スポーツカー特有の前後に少し長いドアを開けて運転席についた。

 助手席にカバンをおいてスーツのボタンも開けるとクラッチとブレーキを踏みながらギアをニュートラルに入れ、スタートスイッチを押した。

 ブロロッと少し野太い音が聞こえると、それもつかの間、車内はほんの少しのエキゾーストノートと、担当アイドルの一人、神谷奈緒の歌声に包まれた。

 俺が乗るのは日産フェアレディZ nismo。日産の誇るスポーツカーだ。とは言いつつ、年々大きくなるボディとエンジンに「スポーツカーではなく、GTカーだ」なんて意見もあるが、俺個人としては子供の頃に読んだマンガや実際のレースでの活躍もあり、日産のスポーツカーといえばスカイラインGT-RかフェアレディZと今でも思っている。

 社会人になって初めて買った車でもある。と言っても買ったのは去年の事だが。今ではローンに維持費にと家計は火の車だ。

 そんな自慢の愛車を走らせ、高速道路に入るととあるPAに向かう。車好きのメッカ、大黒PAだ。

 一般道のスピードレンジでは少し重鈍に感じるこの車も、高速道路に入ると水を得た魚ではないが、気持ちよく走らせられる。

 346プロ最寄りの料金所から15分ほど走るとナビに現れるひときわ目立つぐるぐる。大黒ジャンクションだ。ここの中心に大黒PAはある。

 一昔前は夜な夜なデカいスピーカー積んだ車が寄ってたかってどんちゃん騒ぎを起こしていたせいで良く閉鎖されていたらしいが、今は車は集まるものの、チューニングの方向がグラフィックチューンなど、見た目や中身に移ったのもあって人のざわめきの方がよく聞こえる。

 そんな中であまり目立たない端の方、トイレなどから離れた位置に黒のセダンと赤いオープンカーが止まっていたのでその隣に止めた。

 

 

「お疲れ様です、武内さん」

「日比谷さんも、お疲れ様です。午後からテレビ局に行っていたそうで」

「いきなり呼ばれてしまったものですから。んで、なんで美世までいるんだ?」

「い、いやっ、ね? イカしたマークXが346から出ていったから付いてったら武内Pでさ」

「と言うわけなので、原田さんは……」

「はぁ…… ま、たまにはいいか、こんなのも」

 

 武内さんの黒いマークXは100台限定のGRMNだ。専用のエアロパーツはもちろん、マークXなのにカーボンルーフ、そして6速MT。武内さんがこんなマニアックな車に乗っていることに驚いたが、本人曰く本当ならもっと派手なスポーツカーが欲しいが、仕事柄そういうのは選べないからこうなった。との事だ。

 確かに、テレビ局や出版社など、取引先から直帰の場合は自分の車で出向くため、あまり派手な車は印象が悪くなる。俺も今西部長から気をつけるように言われていたからなんにもイジらず(金もないし……)におとなしく乗っている。

 だが、時と場合によってはそれが吉と出ることもある。とある出版社にZで乗り付けたときの事だ、担当さんと話を終えて駐車場に戻ると車を見て回る男が居たので、声をかけると同じ出版社の自動車雑誌、「アウトモデリスタ」の編集長さんだったのだ。そこからの縁で美世に表紙のグラビアを頼んで、それがレース関係者の目に止まりレースクイーン、回り回って今では自動車評論家まがいの仕事まで来るようになってしまったから恐ろしい。

 

 

「先程まで原田さんと車談義をしていたのですが……」

 

 武内さんの目線が美世のロードスターに向く。真っ赤な初代NAロードスターだ。キレイに乗られていて、特に派手にいじってあるわけでは無いのが意外だ。

 

 

「原田さんのロードスターを見ると学生時代を思い出しまして。友人が乗っていたものですから」

「俺の友達も乗ってましたね。ボロボロのやっすいロードスター」

「ええ、そうです。ですが、車を何よりも楽しんでいそうに見えて羨ましかったですね。当時、私は親の車を時々乗る程度でしたから」

 

 ロードスター、世界一売れたオープンカー。1トンほどの車重のちいさなボディと程よいパワー。構成要素ほ驚くほどシンプルで、だからこそユーザーが思い思いのカスタムを施して自分好みの1台を作ることができるのも魅力の一つだろう。

 だが、何よりも楽しいのそのシンプルさからくるドライビングの楽しさだ。絶対的に早い訳では無いが、乗っていて楽しくなるのだ。俺や武内さんが羨むくらいには。おそらく武内さんも隣に乗せてもらったりしたはずだ。だからこそ鮮烈に記憶に残っているのだろう。

 

 

「だが、美世がどノーマルのロドスタなんて意外だな」

「チューンドカーも好きですけど、こういうクルマって、素で出来上がってるじゃないですか? だから下手にいじりたくなくて」

「素で出来上がってる。確かに、ロードスターはそういうクルマだと思います。個性のあるチューンドも良いですが、オリジナルを保っているのもいいものですね」

「オリジナルの良さねぇ。確かに、若い頃はシャコタンにフルエアロがカッコイイ、って思ってたけど、今は身の丈にあったカッコよさ、ってのが良いって思えるようになってきた感じはあるな」

「ええ。女性がチューンドカーに乗っているのも良いですが、可愛らしさのあるロードスターというのが、原田さんにお似合いで素敵ですね」

「そんな、照れちゃいますよ。プロデューサーさんだってダンディな武内Pがちょいワルセダンで、若いのに仕事のできる日比谷PがZ。いいじゃないですか」

「おうおう、褒めても何も出ねぇぞ。そうだ、ちょっと中見せてくれよ」

「えっ、ちょっと……!」

 

 美世の制止より早くオープンレバーを引き、武内さんがロックを外してボンネットを開けると……

 

 

「これは……」

「おいおい、見た目と大違いじゃねぇか」

 

 毒キノコ(エアフィルター)が生えてたり、タワーバーが入ってるのはまぁわかる。だが、どうして存在するはずのない悪目立ちするパイプがあったり、隙間を覗くと居るはずのないカタツムリ(ターボ)が見えるのだろうか? オリジナルの良さ云々はどこへ行った。

 

 

「武内さん……」

「ターボチューン、ですか……」

「あんな話の後だから見られたくなかったんですよぉ」

「んじゃ、そのレー探みたいなのも」

「マルチメーターです…… 最近いろんなお仕事頂いて、貯金ができたのでつい」

「「はぁ……」」

 

 おっさん(というほど俺も武内さんも年食ってはないが)2人を嘆息させた美世のロードスターターボは可愛らしい見た目に180馬力と言うパワーを秘めた(数だけ見てショボいと思ったら大間違いだぞ?)バケモノだったわけだ。

 少し下がったテンションを相殺させるかどうかは別として、もう一人の客人が遅刻して駐車場に入ってきた。




雑誌名は思いつきと、実在するものと、ゲームのタイトルなどなどから。
Pの車は完璧に勝手なイメージです。武内Pは明らかにスポーツカーのキャラではないので、セダンだけどちょっと違うやつ、と思ってコレ
美世は赤いスポーツカー! というのは決めてましたが、20歳の女性が乗ってるスポーツカーってなんだ、と思ってNAロドスタです。

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