#1 Idol meets car ~高峯のあの場合~
「プロデューサー」
「ん、おはよう。どうした」
数多くのアイドルが所属する美城プロダクションには、もちろんそれだけの個性的なアイドルがいるわけだが、その中でも『孤高』タイプ(と俺が勝手に分類してる)のアイドルで一番ミステリアスで謎が多いのが高峯のあだろう。
765プロの四条貴音と並んで「月から来た」とか「未来人」とか様々な言葉で形容される彼女は最近、自分の中でのアイドル像を固めてきたらしく、メキメキと実力を伸ばしている。
「車を、買った。お昼にでも見てほしい」
「そうか、なんでまた俺なんだ?」
「美世も呼んである。一度、見て」
「お、おう」
また来る、と何処かに行ってしまった彼女を見送り、早急に美世にLINE。
『おいおいおい、のあが車を見に来いってさ』
『あたしのとこにも来ました! どうしましょう』
『行くしかねえけど、唐突すぎんだろ』
『のあさんとはまともに喋ったことすら無いんですよ!?』
そして昼過ぎ。俺はまだ業務が片付かず、PCとにらめっこだ。
明確な昼休みと言うものがいまいち決まっていない仕事故に、ふと時計を見て初めて時間に気づくことのほうが多い。今日は少し違ったが。
「プロデューサー」
「へぅっ!?」
なんの気配もなくいきなり真後ろから声をかけられて、思わず変な声が出た。
ちひろさんはクスクス笑ってるし、ソファで寝てたフレデリカが飛び起きてキョロキョロしている。
「来た。忙しいようなら、改める」
「びっくりさせるなよ…… 悪いが、このとおりだ。終わったら俺が行くよ」
「了解。待ってる」
気がつけば夕暮れ。仕事も片付けて事務所の中でのあを探す。
事務所のソファで本を読んでいることもあれば、中庭でぼけーっとしていることもある。今日は後者に近いようだ。
「のあにゃんはみくで遊んでるだけにゃ!」
「ニェット、のあも悪気があるわけじゃありませんから、ね?」
「そうね。コレあげるから機嫌直して」
「これ魚肉ソーセージにゃぁぁぁ!!!」
なんとも賑やかなにゃんにゃんにゃんの3人。たまにこうして3人でいるのを見かけるが、みくはいじられ要員らしいな。
魚ネタでいじられてもまだ猫キャラが崩れてないからそこまででもないってことだろ。前に夏樹から聞いた話だと(夏樹もだりーから聞いたそうだが)みくはキレると黙るタイプらしい。前にだりーが夕飯に魚尽くしを出したら黙って泣いたことがあったとか。
「プロデューサー。珍しいですね」
「私が呼んだ。行きましょ。美世は仕事だって」
「ダー。ドライブ、楽しみですね」
「のあにゃんの運転…… 安心できるような不安なような……」
「ドライブって、聞いてねぇぞ」
「2人を送って帰るだけ」
そういうのあに連れられて向かった駐車場で待っていたのはシルバーのセダン。
全体的にヌメッとしたシルエット。黒いタービンブレードのようなホイールと、真っ白い内装が目につく。のあが近づくと解錠音がして、ドアが開く。そう、ドアが勝手に開く。
ドアを開けた瞬間から目に飛び込む真っ白い革の内装は少し目に痛いほど美しい。助手席に乗り込むと、なおさら目を引くのがセンターに鎮座する馬鹿でかいモニター。
「すごいにゃ、タブレットがついてるにゃ!」
「インチェレースナ、面白いですね」
「やっぱ、なんど見てもなれねぇな」
「日比谷Pはのあにゃんの車に乗ったことあるの?」
「いや、コレとおんなじ車にな」
のあが買ったのはテスラModel S P100Dだった。モデルSの最新にして最強のモデル。何と言っても、2.3トンの巨体にもかかわらず、0-100km/h加速を2.7秒でこなす瞬速っぷりだ。それでいて、ヨーロッパ複合サイクル600kmを超える航続距離。普通にエアコンを使っても400kmは走れるらしいから大したものだ。
「ベルト締めた? 行くわよ」
「うにゃっ、電気自動車にゃ!」
「んじゃ、着いたら起こしてくれ」
「プロデューサー、寝ちゃダメですよ?」
本当に静かな車で、ラジオもかけずにいると本当に眠くなってくる。
3人の会話も程よく姦しく、いい感じに眠気を誘う。事務所にバッグ置きっぱだし、車もあるのに……
「2人とも、どこかに掴まって」
「う、うん?」
「掴まりましたけど……」
「おうっ!?」
気がついたら内蔵を置いてけぼりにするような加速Gが体を襲っていた。
後ろの2人はゲラゲラ笑ってるし……
「プロデューサー、すごい声でしたね」
「『おうっ』って! にゃははは!!」
「プロデューサー、目、覚めた?」
「最悪の目覚めだよ……」
真ん中のモニターには、スマホの設定画面と同じように車両設定の画面が開かれ、パフォーマンスと書かれたタブが『Ludicrous』にセットしてあり、すべてを悟った。
これが2.7秒の加速かと。覚悟を決めてないと俺みたいにすごい気持ち悪さが襲うだろうし、普通の生活で使うことなどないはずだ。うわぁ……
「プロデューサー、寝ちゃ、ダメ」
「へいへい」
「あー、面白い。真顔でいられるのあにゃんもすごいけど、あーにゃんも大概だにゃ。みくもちょっと顔が引きつりかけたし」
「ダニェッ、私も結構辛かったですよ。でも、楽しかったです」
「楽しんでくれてなにより。プロデューサーも、楽しかった」
「その言い方、俺"が"面白いってニュアンスですよね」
「当たり前だにゃ!」
騒がしい2人を尞まで送ると、帰りは俺がハンドルを握ることになった。電気じかけの車も慣れてきたつもりではいたが、オール電化ともなるとやはり違和感は拭えない。
普通にブレーキを離すとクリープで進み始め、アクセルにそっと足を置けば蹴り出されるような加速ではなく、自然に速度が乗る。
大通りで少し踏み込めば中途半端な速度からの加速でもガツンと力強い加速を御見舞してくれるし、シグナルグランプリでLUDICROUSモードを使えばバイクを置き去りにだってできた。
しかも、タイヤが鳴ったりすること無く、モーターの『クオーン』と言う音だけで加速していくから恐ろしい。水平にフリーフォールなんて試乗記も見たが、まさにその通り。エンジンのように人間に速度を意識させるものが希薄なせいでワープしているような感覚すら得られる。
「楽しいでしょう?」
「ああ。でもやっぱり、俺はエンジンがついてる車がいいよ」
「でしょうね。貴方は先を見据えている割に、現在に執着しているもの」
「スイッチ入ったか」
「……そういうところ、嫌いよ」
流石に車庫入れは恐ろしいから代わってくれ、といえばモニターをポチポチしたのあ。
車列スキャン、なんて語句が並ぶモニターの指示に従ってクリープで駐車場を進む。
「オートパーキングか。初めてだから少し緊張するな。それも、隣は俺の車だし……」
「大丈夫。車を信じて。いざとなれば貴方が止めればいい」
「とはわかってても限界まで機械に頼ってみたいクルマ好きの性が……!」
駐車スペースと自車は直角。モニターの「オートパーキング開始」をタップ。ブレーキを離すとゆっくりと後退を始めた。そして、いきなりハンドルが回り出す。車が動くことよりもこっちのほうが少し驚いた。
だが、一回では曲がりきれずに俺のポルシェに一直線。運転席で冷や汗をかきながらいつでもブレーキを踏む用意はしておく。
ピピッ、と音がして車は停まった。20cmまで寄せていたらしく、俺はもうブレーキに乗せた足に力を入れようとしていたところだ。
ギアを入れ替えたりすること無く今度は前進。完全に自動で切り返しまでやってくれるというわけだ。こりゃすげぇ。
「私は自分で車庫入れはやるけど、センサーが優秀だからミラーを見るよりもきっちり止められる」
「なるほどなぁ。止まったけど、サイドブレーキとかは引かなくていいのか?」
「人間が降りられる状態までやってくれる。スイッチもないからあとは本当に降りるだけ」
車から降りて少し離れるとライトが消え、施錠された。
なんとも不思議な車だった。乗る分には普通の電気自動車だが、それを取り巻くシステムはやはり一歩二歩先を行っていると思うね。
「貴重な体験だったよ、ありがとう」
「誘ったのは私。美世は悔しがってた」
「そりゃ、こんないい車なら悔しいわ。また機会があったら乗せてやってくれ」
「そうね。またみんなでドライブに行けたらいいわ」
#2 Idols meet car ~向井拓海の場合~
「マジか、拓海のやつ、四輪取れたんだ」
「手が足に変わるだけだからね。この前夏樹と3人で更新してきたよ」
「車欲しいとか騒いでんだろうなぁ」
「早速美世さんと相談してるよ。行きつけの廃車置場で掘り出し物を見つけたらしい」
涼と事務所でコンビニ弁当をつついていると拓海が四輪の免許を取ったという話を聞いた。早速車に乗りたくて仕方ないらしい。
まぁ、アイツのことだから美世に車を貸してくれとか言って断られたんだろうな。流石に美世もロドスタに初心者は乗せたくないだろうし。
「拓海のセンスってなんつうか、一昔前のガキっぽいんだよな。バイクもゼファーだろ? 車も90年代後半くらいのスポーツカーとか言い出しそうだ」
「よくわかってるじゃん。ポンコツのサバンナRX-7って言ってたかな。それを引っ張ってきて美世サンのガレージで直してもらってるよ。なんでも『5万だぜ、ロータリーターボがよ!』って言ってたけど、多分拓海のことだから変なもん掴まされたんだろうね」
「5万って、エンジンは間違いなく死んでるし、ボディもやれてんだろ。そんなん怖くて乗りたくねぇわ」
という話をした翌日、早速と言うべきか、拓海と少し疲れ気味の美世に絡まれた。拓海だと"絡まれた"って表現がしっくり来るな。
「なぁなぁ! プロデューサー! 免許取ったんだぜ!」
「そうか、面取り食らうと辛かっただろ。何キロオーバーだ?」
「ちげーよ! 四輪取ったんだよ、四輪! 車も買っちまったしな!」
「ほーん」
俺のボケにやかましいツッコミを入れるほどテンションが上っているらしい。こんなのを武内さんはよくコントロールしてるよなぁ。
俺は大人組がメインで、未成年の子もクールなおとなしい……わけでもないか、とりあえず物分りのいい子ばかりだから困りはしないが、小学生からヤンキーまでプロデュースする武内さんはとんでもない人だわ。
「んだよ、シケてんなぁ」
「この前涼から聞いたからな。FCだって?」
「おう! 美世ンとこで少しずつ直してもらってるよ。正直、買って1週間で車体の10倍使っちまった……」
「ははっ! 安物買いのなんとやら、ってな。でもまぁ、そうやって手かけた方が愛着も湧くだろ」
「だよな! っつってもアタシはクルマはさっぱりだから美世に教えてもらいながら、だけどな」
けど、バイクがいじれるなら車もそう難しくはないだろ。最近のハイテク満載の車ならまだしも、90年代前半の車ならそこまで厳しいことはない。俺も自力でターボ載せ替えたり、メーター足したりしたもんだ。
「んで、原田センセ、彼女の車は?」
「ボディはそれほど歪んでなかったので事故車とかじゃないんですけど……」
そして手招き。そっと顔を寄せると耳打ち。
「内装を引剥したらなんか見ちゃいけなさそうなシミとか色々あって……」
「Oh...」
「拓海ちゃんの知らないところでお祓いしてもらって、こっそり御札を……」
「絶対秘密だな」
「はい、お願いします」
拓海が二人でコソコソ何言ってんだ、という声で顔を上げると、お前の車が値段なりのヤバさだった、と言ってごまかしてやる。
拓海も値段的に、どこかしらやばいと理解しているようで、しゃーねぇだろ、訳ありなんだよ、きっと。と言っているからいいだろう。
「エンジンは年式なりだったので、オーバーホールして、ついでにライトチューン。駆動系も内装もボディも全部やり直して2シーターで車検を取り直そうかと」
「そりゃ大掛かりだな。ショップに頼んだら300万じゃすまねぇだろ」
「さんびゃっ……」
「オーバーホールは外注しましたけど、それ以外は自分たちでやるので部品代しかかかりませんよ。50万って言うのはエンジンと補機類ですね。社外で揃えたので結構しましたけど」
拓海の希望と美世の技術、それから資金を勘案するとエンジン系は外注、駆動系はリビルト品を買ってきて、ボディはロールケージを入れて内装は作るらしい。なんでも、ボロボロの今の内装を元にして"レーシー"に仕上げるとか。拓海のお母様に協力してもらえるそうだ。
外装はもちろんオールペン。エアロはRE雨宮で揃えるらしい。なんでも、受注生産やってくれるのがもうそれくらいしかないとか。
「それでも150万くらいか? まぁ、走れる中古買って来て、まともにするのと変わらんかすこし安いくらいだな」
「お仕事の合間にすすめるので結構長い目で見てますよ」
「プロデューサーも暇な時手伝ってくれよ。昔は車いじって遊んでたんだろ?」
「まぁな。その時は連絡するさ」
そう約束したのが仇になるとは、俺も学習しないやつだ。
拓海から『美世のガレージ集合、動きやすいカッコで』とメールを受けとり、オフの日の朝から留美に『美世と拓海とクルマいじりしてる。暇なら来い』と書き置きしてから家を出る。
記憶を頼りに美世のガレージにたどり着けば既に2人がリフトに上げられたきれいなFCを中心にして忙しなく動いていた。
「いよーっす。差し入れ持ってきたぞ」
「待ってたぜ。昨日の夜、エンジン積んだんだ。今からエキゾースト入れるから手伝ってくれよ」
「せっかちなやつだな」
「エキゾーストさえ組んじゃえばあとは駆動系は終わりですからね。あとは内装と足回り、外装を仕上げれば……」
「ほとんどじゃねぇか」
とは言いつつ、パーツは向井家に発注した内装以外は届いているそうで、拓海曰く、「久しぶりにおふくろが本気出してるから今月中にはできる」そうだ。
きっとグレた娘からの頼み事が嬉しかったんだろうなぁ…… あ、でも根はいい子な拓海だから家でもいい子か……?
「差し入れは人間用とクルマ用、両方あるけどどっちから見たい?」
「「クルマ用で!」」
「へいへい。じゃーん。追加メーター3点セットとコントロールユニット。ハンドル、それからシフトノブ」
「おいおい、こりゃ…… なんか使い込んだカンジがするんだが……?」
「そりゃ、俺のお下がりだからな」
「はぁ……」
ため息はないだろ! ド定番のMOMO COMPETITIONだけどさ!
追加メーター3点セットだって安心と信頼の日本製だぞ!
仕方ないから差し入れと思って買ってきたプリンは俺のもんだ。
「確かに、メーターはうれしいですけど、ハンドルはもう、ねぇ?」
「イカしたのを選んでもらってんだ。わりぃな」
「そうか。そりゃ残念。シフトノブ要るか?」
「それはありがたくいただくぜ。レザーか。良さそうだ」
「良さそう、じゃなくて良いもんだ。素手でもグローブしててもしっくり来るからな」
口を動かしてから手も動かして、エキゾーストをつなげると初めてエンジンを始動することに。
適当なバッテリーを持ってきてセルに直接繋いで回すと少し長いクランキングの後、ロータリーらしい歯切れのよい音が響いた。いい音だ。車遊びしてた頃にヒーローだったヤツを思い出す。
「かかった!」
「うぉぉぉぉ! 良い音だァァ!!!」
「ホントにな。ロータリーなのに結構静かだな」
「こだわりのパーツですからね。あんまり回しっぱなしもまずいんで止めますか」
エンジンが止まると拓海のテンションも少しダウン。
だが、それ以上に上がったテンションの方が大きかったらしく、差し入れのプリンを一瞬で流し込むとできることはなんでもやります、と言わんばかりに動き出した。
美世は美世でそれなりにヤル気が出たのか、拓海と俺をうまい具合に使って作業を進めている。例えば、足回りを一通り拓海にまかせて、その間に俺はエアロパーツの現物合わせをやるとか。
前に美世に呼ばれたときもこんなことやったな、なんて思いながらボディと同じく赤に塗られた大きなバンパーにライトキットをあてがう。古いパーツだけあってチリが合わないから削ったり曲げたりしながら合わせて……
「美世、足回り組み終わったから見てくれ」
「うん、ばっちりですね! プロデューサーさん、そっちはどうです?」
「ああ、いま左のライトを合わせてる」
「えぇ、まだやってるんですか……?」
「じゃぁお前やってみろ!」
なんて楽しく作業をすればいつかのように飯も忘れて気づけば夕方。
リアスポイラーのビス止めをしているとチタンエキゾーストの乾いた音を引き連れて誰かがやってきた。
「まるで大学生の頃みたい」
呆れた、と言わんばかりにため息混じりのセリフを吐くのは一人しかいない。
「ホント、この歳になって車遊びなんて」
「留美さん、こんばんはぁ」
「楽しそうね、美世ちゃん。向井さんも」
「姉御!」
「その呼び方は…… どうせお昼もまともなもの食べてないんでしょ? 夕飯前だから軽いものだけど、買ってきたからつまんで」
なぜか知らんが、拓海は留美を姉御呼びするんだよな。何をしたのか知らないけど、流石にシメたりはしてないだろ。
でも、ヤンキーが姉御呼びってなぁ、絶対やばいやつだろ。
「あざっす! ありがたく頂きます!」
「ありがとうございます、頂きます」
「ほら、悠も」
「おう、ありがとな」
留美の差し入れも食べて回復すると、エアロパーツを仕上げてチリ合わせも完璧に。美世も「フェラーリ、いえ、ポルシェクォリティですね!」と太鼓判。拓海も「すげぇ、職人技かよ……」と素直な感想を漏らしたので大満足だ。
伊達に学生時代にビンボーチューンしてたわけじゃねぇからな。自家塗装と組付けならおまかせだ。シルエイティをやれば鍛えられるぞ。
「タイヤは、まぁ、妥当だな」
「ガチガチにサーキット走るわけでもねぇし、程々のを見繕ってもらったんだ」
「RE003です。よくスポーツグレードのクルマが履いてますよね」
「どうしてもKカーのタイヤ、ってイメージもあるけどな」
おふくろが乗ってたワゴンR RRもこいつを標準装備してたしな。
けど、POTENZAらしく、入力にしっかりついてくる剛性感もあっていいタイヤだ。何より安いしな。
絶対的なグリップはSタイヤ相当のRE-71Rには敵わないし、静粛性じゃフェラーリに採用されるようなS001には敵わない。けど、程よいお手頃感と、ちょっとやそっとじゃヘコタレないタフさを兼ね備えたいいタイヤだったな。
「ホイールも良いのはいてんじゃん」
「それは編集部の方のツテで紹介してもらったお店で。私と拓海ちゃんのサインと写真で半値近くに……」
「マジかよ」
「大マジだぜ。アイドルっていいもんだな」
なんやかんやありつつもたくみん7は完成まであと一歩。向井家のお母様が仕上げた内装を入れて電装品を仕上げ、片隅にに積んであるセミバケを入れれば後は車検を取るだけだ。
ほぼフルレストアとも言える作業量をこなしてたわけだが、拓海はいい顔をするし、美世も楽しそうだからいいもんだ。
やっぱクルマいじりはプロに任せるのもいいが、できるところは自分でやってこそだな。
「そうだ、この光景、ずっと生放送してたんですけど、今日はすごいですよ」
「はぁ!?」
「聞いてなかったのか? 美世の番組のサイトで生放送してんだってよ」
「ってことは、なんだ。今まで全部見られてたのか」
「筒抜けですね。留美さんとのイチャイチャも」
「ッーー!!」
「姉御、顔真っ赤だぜ?」