#1 Idol meets car ~東郷あいの場合~
「日比谷くん、ちょっといいかい?」
「なんですか?」
「いや、この前留美さんのM4に乗って新車が欲しくなってね」
「ほう」
「ものは相談なんだが、今度車選びに付き合ってくれないか?」
「別に構わないけど…… そうだ、しばらく先になるけど、美世の番組であいさんの車選び、やってみますか」
「別に構わないが……」
あいさんに気になる車を聞いてから番組プロデューサーに掛け合ってみれば、あっさりとオーケーが出たのですぐに広報車の手配に移る。あいさんの希望はやはりというべきか、BMW。なのでお台場にあるショールームを取材で使わせてくれないかとBMWの広報の方に聞いてみると、オープンから日も経って落ち着いてきたのでオーケーとのこと。逆に希望車種はあるかと聞かれてしまったのでお言葉に甘えてあいさんからの希望と、そのあたりのレンジで見繕うようにお願いすると「おまかせください」と力強い返事を頂いた。
美世の番組も始めて半年経ち、イベントなどにも出るようになると自然と業界でのコネはできるが、今回はそれが生きた形だ。
そしてホストである美世と、ゲストのあいさんのスケジュールを確保してあとは当人たちに報告を兼ねて軽い打ち合わせ。細かいのは追々ということで……
「というわけで、お台場のショールームにお邪魔することになりました」
「おぉー!」
「早かったね。そんな簡単に進むことなのかい?」
「ちょうど企画の切れ目だったからな。うまくねじ込めた」
「あいさんの新車購入ですか。前々からアイドルに車買わせるのをやろうとは言ってましたけど、初回はあいさんですか。それにBMWなんて、いきなりハードル高めですね」
「初回から1000万が動くな」
「まだ買うとは決めてないからね?」
なんやかんやで収録日。流石にポルシェでBMWに乗り付けるわけにも行かず、留美と車を交換してショールームに向かうと、今回の企画のために用意してくださったと思しき車がズラッと並んでいる。ズラッと並ぶほどに多いってことだ。正直3台位だろ、とか思ってたけど、これは想像以上だわ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「日比谷さん、お待ちしてましたよ。今日はポルシェじゃないんですね」
現場に一番乗りの俺を出迎えてくれたのはBMW広報さん。各メーカーの広報さんの中でもポルシェの広報さんと並んで仲がいい方だ。プライベートで飲みに行くくらいには。
以前3人で飲みに行ったときには延々とドイツ車トークを繰り広げていた。
「流石にBMWにポルシェ持ってくるほど肝座ってないですよ」
「お気遣い恐れ入ります」
「いえいえ。それにしても、あそこに並んでるの全部そうですか?」
「ええ、それと、普段からおいてある試乗車も使っていただいて結構ですので」
「うごっ。ホントですか」
「"お客様"のためですから」
爽やかスマイルは広報の必須技能なのだろうか? そんなことを考えているとプロダクションの機材車やらが入ってきて目立たないところに車を止め、最後に美世とあいさんがやってきて全員集合だ。改めて今日の流れを確認して撮影が始まる。
後ろではスキッドパッドに水が張られ始めてるし、ショールームのスタッフさんも動き始めたところだ。今日は通常営業だもんね。
「というわけで美世のDrive Week、始まりました。実を言うと先週分で企画段階で決まっていた内容をこなしてしまったので内心シーズン2な感じがしているんですが、いつもどおり、週末更新でーす! さて、予定外のレギュラーメンバー化してしまった日比谷プロデューサー。今日のセットアップをお願いします」
「はい、改めましておはようございます。346プロダクション、プロデューサーの日比谷です。今日はですね、上手いタイミングで入ってきた車購入企画です。実は、前々から話はあったんですけど、やっぱり車買う人なんてそうそういなかったんですよね。ですが、今回は車の購入を検討しているアイドルがいるということで、お台場にあるBMWTokyoBayに来ています」
「では早速ですが、今日のゲストに登場していただきましょう。お願いします!」
心地よいエキゾーストノートを伴って真っ赤なBMWが入ってくると、いつも通りにカメラの目の前で止まってあいさんが降りてくる。
いつも通りのマニッシュなスタイルだが、あいさんはもちろん、車のキャラクターにもあっているからいいものだ。やはりアイドルは自分に合うものを選ぶのがうまいような気がする。
「やあ、東郷あいだ。この番組の車購入者第一号、かな?」
「キャー! あいさーん!」
「今日のゲストは東郷あいさん。マニッシュなスタイルとルックス通りのクールなキャラクターが人気ですね」
「男性ファンより女性ファンが多いとかって噂もありますよね。そのあたりの話も追々…… 今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく」
「それでは参りましょう」
「美世のDrive Week」
「「「スタートユアエンジン!」」」
監督から「ありがとござまーす」と声がかかるとほっと力を抜いてビデオチェック。まぁ、特に問題はなさそうだからこのまま次のトークコーナーの撮影に入るだろう。
美世は早くも展示車に釣られてるし、あいさんもどことなくそわそわしているようにみえる。スタッフが次のコーナーの準備を整えるとコーヒーと紅茶を出してトークスタートだ。
「改めて、美世のDriveWeek ナビゲーターの原田美世です」
「プロデューサーの日比谷です」
「そして、今日のゲスト!」
「東郷あいだ、改めてよろしく頼むよ」
もう何十回とこなしたやり取り。美世も慣れてそつなく進む。トークコーナー自体はおおよそ15分目安だが、番組の尺が"大体"1時間ということもあり、短くなることはなくとも、伸びることはある。ちなみに、今までの最長記録はレーサーの西崎さんにお越しいただいた30分。OAの時間でコレで、収録自体は1時間近くにもなった。
今回はあいさんの車選びがメインということもあって、あまり長引かせないよう言ってあるし、トークから自然につながると思う。
「ふーん、やっぱりストレートシックスにはこだわりがあるんですか?」
「そうだね。やっぱりV型にはない音があると思うんだ。欲を言えばNAがいいけれど、最近はターボが主流だろう? 車としていいのかもしれないけれど、少し味気ないと思うね」
「やっぱり音なんですねぇ。よく『官能的』とか言われますけど、私にはよくわかんないんですよね」
「好みや感性は人それぞれ。別にそれを否定したりはしないさ。ただ、言葉でうまく言い表せない何かがあるものは素晴らしいと思うね」
話は思った以上に広がり、尺も十二分と言ったところでうまいこと切り上げていよいよ本題だ。
今回用意していただいたのは6シリーズをメインに4シリーズ、5シリーズの各種グレードだ。特に前もって6シリーズを押しておいただけあって、6シリーズだけで4台用意して頂いた。まさかエンジン違いのクーペ2台とグランクーペ、M6もとは……
あとはモデルチェンジしたばかりの新型5シリーズからエンジン違いで2台、4シリーズはクーペの直6搭載モデルだ。
ちなみに7台で総額……いや、貧乏くさいから計算しないでおこう。少なくとも家が数軒建ちそうだ。
「あいさん、まずはどれにしますか?」
「ははっ、これだけ用意してもらえるなんてね…… 迷うな」
「基本的には事前に聞いたとおり、直6モデルをメインに用意していただいてる。今乗ってるのが6の系統だから6シリーズは4台だ」
「なるほど。だけど、まずは440から行こうかな」
「美味しいものは最後に取っておくんですか?」
「そんなところさ」
カメラを車に設置すると、キーを受け取ったあいさんが運転席に。隣には美世が乗り込んで黒いクーペは走り出した。
その間暇になるかと言われればそんなことはない。先程のビデオを手分けしてチェック。特に乱れ等は見つからなかったので一安心。これで俺らの休み時間というわけだ。
「日比谷さん、コレ見てくださいよ」
スタッフみんな車好きなこの番組だ。こんな車たちに囲まれて暇を持て余したスタッフ共が黙っているわけがない。好き勝手に覗いたり座ったり。ハンドル握って嘆息するやつまでいる始末だ。まぁ、気持ちはわからんでもないが。
かくいう俺も新型5シリーズに興味津々。形式がFからGに移った新型は以前に増してスッキリとしたデザインになっているようにみえる。
「カッケーなぁ」
「でしょう? ツーリングを一台どうです?」
「ははっ、駐車場が足りませんよ」
「駐車場さえ確保できれば買う、みたいな言い草ですね」
広報さんがカタログを手にヌッと出てきて早速営業にかかる。周りを見れば他のスタッフも見事に営業の方々に捕まっている。
さて、何人口車に乗せられるかね。
「実際、一番荷物積めるのが
「新型はテールゲートも2分割で開いたり、だいぶユーザビリティ上がってるんですよ?」
「なんと言われようと無理です。車庫証明取れないんで」
「そうですか、残念です。仕方ないんで緒賀幡さん(ポルシェの広報さんだ)に推しますかね」
「ポルシェもパナメーラのシューティングブレーク出すらしいじゃないですか」
「価格帯が違うので直接バッティングするレンジはないんですけどね。アレはメルセデスとかぶるんですよ」
その後も業界裏話を含めた雑談をしばらくしていると黒い4シリが戻ってきた。スタッフも慌てて持ち場に戻るとホクホク顔なのは助手席の美世だけ。あいさんはどうもお気に召さなかったらしい。
「うーん、コレならM4のほうがいいね。次はディーゼルの5だ」
「はい、かしこまりました」
「いいとおもうけどなー」と漏らす美世はおいておいて、次は大柄な4ドアセダンだ。広報さんと俺も含めた4人で行こう。カメラをセッティングして、あいさんにキーを託すと俺は広い後部座席に乗り込んだ。
「おや」
「どうしました?」
エンジンを掛けた瞬間、あいさんが不意に声を上げた。
美世が不思議そうに声をかける。
「いや、ディーゼルってもっとうるさかったり、振動があるものだと思っていたから、意外でね」
「最近のディーゼルはこんな感じだとおもうぞ。ほんと、一昔前のディーゼルとは大違いだよ」
「それに、下からトルクがあるから本当に2リッターなのか疑いたくなるね」
少し気合を入れた踏み方もしていて内心ヒヤヒヤしていたが、本人は先程の440iよりもだいぶ感触がいいようで、心なしか口元が緩んでいる。
しかし、カメラを回してるのにあいさんはあまりしゃべらない。美世も時折感想を述べる程度。後部座席の男二人が車についてあーだこーだと話している。
そうしている間にまたショールームに帰還。3リッター直6の530iに乗って少しつまらなそうな顔をしたあと、6シリーズのV8エンジンを積んだクーペに乗り、V8のグランクーペにも乗ってから最後に一番期待していた直6の640iクーペの前に立った。
「このエンジンはさっきまでのアレとは違うんだろう?」
「ああ、他のより一世代古い」
なるほど、と言ってそのまま乗り込むとシートポジションをあわせるあいさん。俺も隣に乗ると「行くよ」と一言告げてから車は走り出した。そしてすぐに止まった。
「ダメだね。私の求めるものじゃない」
「辛口だ」
「日比谷くん、留美さんのM4を貸してくれないか。最後にM6で締めよう」
「おう、分かった」
タイヤのひと転がしで車を止めたあいさん。助手席から降りた俺に注がれる目線は「何かしでかしたのか」という声を含んでいた。
そんな目線に晒されながらポケットからキーを取り出して駐車場から車を持ってくると640は元あった場所に止め直されていた。
「ほれ、キーだ。美世を隣に乗せてやってくれ」
「ああ、分かってる」
白いM4が出たのを確認すると、広報さんが俺のもとに駆け寄ってきた。タイヤひと転がしで車から降りられてみろ、絶対にやっちまったとしか思えないだろう。
「日比谷さん」
「正直、俺にもわからないですね。落胆か、はたまた満足か……」
「そうですか……」
「最後にM6、お願いします」
「はい、キーお持ちしますね」
ショールームのスタッフの方々が試乗車を片付けるのを見ながら、制作サイドはこのあとの計画を再度検討していた。
あいさんが車を買った場合、買わなかった場合それぞれのシナリオはあるものの、まさかこのような「冷める」シナリオは用意していなかったからだ。
それも、原因がわからないからとても困る。
「彼女、どうしたんだ?」
「さぁ? エンジンかけてブレーキから足離しただけですよ」
「よほど気に食わなかったか……」
「じゃないといいんですけど」
さてさて、どうしたものか。と問答をしている間に2人が乗ったM4が戻ってくると、特に変わった様子のない美世とが真っ先に降りてきて、それから先程とは違い、特に不満でものなさそうな顔のあいさん。
M6を見るとすこし笑ってからこちらにやってきた。
「ありがとう、楽しかったよ。さて、最後の車だね」
「ええ、そうですね」
オレンジとも赤とも言い難いサキールオレンジに塗られたクーペに近づくと、周りを一周歩いてから左側のドライバーズシートに収まった。M4ほど"ヤル気"に満ちているわけではなく、あくまで大人のクーペな感じがする、というのが俺の感想だが、身も蓋もないことを言ってしまうと、標準グレードからあまり代わり映えしないと言った感じ。
もちろん、シートやステアリングホイールなど、目に見える変化はあるが、それを感じさせない。大きいドアを閉めると、シートベルトを締めた。
「いい音だ。V8だったね」
「ええ。4.4リッターのツインターボみたいです」
「さっき640に乗ったとき、正直期待はずれだったんだ。エンジンを掛けてもピンとこない。エンジンは主張しないし、650と正直そんなに変わらない。けど、コレはそれなりにエンジンが主張してくる。アクセルに足をおいただけでちゃんと音がして進む」
「ほう」
「エンジン付きの乗り物に乗っている感じがするよ」
道路に出ると、一気に加速する。徐行から50km/hまでがあっという間に過ぎるが、その間にスポーツカーらしい力強い音が聞こえた。
確かに、最近の高級車は静粛性だのなんだのと音をカットしがちに思う。それこそ、電気自動車と変わらない静けさを車内にもたらしてくれる程に。だけど、あいさんはそれでは車に乗っている感じが薄いと思うのだろう。俺も同じ考えだ。信号待ちのたびに訪れる静寂すら悲しい。
それが時代の流れだと言われれば仕方ないが、こうしてエンジンが吠える音がする瞬間こそ、"ああ、俺は車に乗ってるんだ"と思わせてくれる瞬間ではないだろうか。
「いいね。気に入った。ただね、リア周りの野暮ったさは気に食わないね」
「また不満ですか」
「まぁ、そうだね。決めたよ、M6 グランクーペ、お買上げだ」
「グランクーペの方を?」
「デザイン的に整っている様に見えるからね。さっき言ったリア周りの野暮ったさがない」
「なるほど」
「それに、オプションでチタンマフラーがあるんだろう? それ込みでなかなか良さそうじゃないか」
ショールームに戻るとすぐさま商談のテーブルに付いたあいさん。流石にそこを撮るほど無粋なスタッフたちではなく、早めに片付けを始めて早く仕事を終える準備を始めた。
「プロデューサー」
「どした、美世」
「私も、車を買い替えようかな、って」
「あいさん見ててほしくなったか」
「そういうわけじゃないんですけど、ロドスタもそろそろガタがごまかせなくて……」
美世のロードスターはもう25年以上が経った老体だ。それにターボ突っ込んで普段から乗っていればそれなりにガタが出るだろう。
ただ、本人は企画のつもりで聞いてきているのだろうが、流石に2連続でそれも面白くない……
「流石に番組に使うのは無理だが、見に行くときには付き合うよ。どうせ順当にNDとか言うんだろ?」
「うぐっ。よくわかりましたね……」
「番組で色んな車に乗ってきたが、なんだかんだで一番楽しそうにしてたのはNDロドスタの回だったからな。開発の方もお呼びできたし、お前のテンションおかしかったろ」
「アハハ…… スーパーカーとか、色んな車に乗れるのは嬉しいんですけど、やっぱり身の丈に合わないというか……」
「初めてのポルシェなんか乗ってるときすごい顔してたもんな」
「言わないでくださいよ!」
美世のディーラーめぐりに付き合うことを決め、片付けを手伝ってなお時間が余ったのであいさんの様子を見に行くことにした。
テーブルでカタログとにらめっこする姿を見ると、相当悩んでらっしゃるようだ。
「どうです、決まりました?」
「いや、オプションをどうするか悩んでいてね。もうしばらくかかりそうだよ」
「そうですか、ゆっくり悩んでくださいね」
「すまないね」
というわけで、テーブルで悩むあいさんをバックにエンディングを撮ると、片付けの後解散ということになった。今日は俺もこのまま帰れる。
時間もそんなに遅くないし、美世の車を見に行くか、と思い誘うことにした。
#2 Idol meets car ~原田美世の場合~
「美世、時間あるし、車見に行くか」
「えっ、そんな急に言われても……」
「なら仕方ねえな。んじゃ、また見に行くときは言ってくれ」
「そ、そういうわけじゃないです。行きましょう!」
というわけでプロデューサーさんに誘われ、夕方にマツダのディーラーに入ると、店員さんが飛び出してきて、要件を聞いてきた。
「ロードスターを見たいんですけど」
そう伝えると後ろに止めた私の車をチラリと見てから中に案内してくれた。
案内されたテーブルで待つと、カタログではなく、キーを持って店員さんが帰ってきた。
「今もロードスターにお乗りのようですし、まずは試してみてください。絶対に気に入りますから」
「は、はぁ……」
試乗車として用意されていたのは上から2番目のグレード、Sスペシャルパッケージのマニュアル。コースの説明を受けると早速走り出した。
NAに最も近い、なんて言われるNDロードスター。ロードスター史上2番目に軽く、1番に剛性のあるボディ。
絶対的なパワーは2番目に低く、2番目に大柄なボディ(と言っても幅広なだけだけど)。
そんな濃密なド真ん中を狙ったクルマだ。楽しくないワケがない。
気がついたら口車に載せられて試乗コースを2周してたりしたけど、やっぱりロードスターが欲しい!
「おかえり。どうだった?」
「もちろん、最高ですよ」
テーブルでアテンザのカタログを眺めているプロデューサーさんに満面の笑みを返すと、ふっ、と鼻で笑われたので、軽く背中を小突いてからテーブルに着いた。
戻ってきた店員さんは今度こそカタログを持って現れ、グレードと装備のページを開いたところで私が先に口を開いた。
「ソウルレッドのレザーパッケージにナビとETC、デイライトでお願いします」
「はい、ただいま見積もりをお持ちします。いまお乗りの車は下取りでよろしいですか?」
「はい」
食い気味だな、と笑うプロデューサーさんに「前から欲しかったんですよ」と返すと暖かい笑みを向けられた。少しイラッとしたが、我慢した。
「お待たせいたしました。ロードスター Sレザーパッケージに特別塗装、フロアマット、ナビゲーションSDカード、ETC2.0車載器とVICSビーコンでこちらのお値段になります。あとはこれだけ頑張らせて頂いて、下取りもお車を見ていないのでなんとも言えませんが、コレは約束させていただきます」
「ほほぅ……」
「へぇ、意外と下がるな」
「マツダユーザーの有名人ですし、多少は、です」
こっそり耳打ちしてくれた店員さんに内心感謝感激雨あられを送りつつ、これだけ下がるのなら……と欲がでる。
「RFのオプションであるブレンボ、あれって……」
「うーん、お気持ちはわかるんですけど……」
「ですよねぇ。じゃ、その仕様で」
そそくさと銀行に行き、全額をキャッシュで支払う。正直手が震えた。こんな大金を持つなんて……
店員さんに苦笑いで迎えられると、こんな話を切り出された。
「ほぼ同じ仕様の試乗車落ちがあるんですけど、どうですか? 1週間で納車できます」
「となると、値段も変わりますよね。車検の残りは?」
「2年と9ヶ月、2年後の8月ですね。お値段は、頑張ります」
「なるほど。ほぼ同じ、というのは?」
「ETCが無いんです。それはディーラーオプションで対応できます。お見積がこんな感じで……」
「なるほど。うーん……」
大いに悩んでから新車を買うことに決め、書類を受け取るとプロデューサーと分かれてディーラーを出た。
すっかり日もくれてしまったが、都心に近いだけあって街路灯以外の明るさが目立つ。
近くのICから高速に乗ると、いつもよりひっぱり気味に回してみる。
ペラペラな幌は風切り音はもちろん、環境音も拾ってくる。限りなく生に近い音がする。
改めてあいさんの言っていた"音"に耳をすませば、少し減ってきたスポーツタイヤのロードノイズや丸いボディが空気を切り裂く音、3000rpmで回るテンロクはステンレスのエキゾーストを通って爆発音を響かせる。
追い越しの時にギアを下げて踏み込めば、より多くの空気を吸い込む音がするし、アクセルを離せばバックタービンの音がする。
そんな音の継ぎ目を埋めるようにシフトレバーのリンケージが動き、クラッチを繋げば少しだけ回転数が落ちる。
「やっぱりロードスター、好きだなぁ」
あと1ヶ月弱、今まで以上に愛そう。初めての相棒と悔いなく別れたいから。
#ex Idol meets newcars 〜原田美世の場合〜
「プロデューサーさん、こっちです!」
さて、美世がロードスターを買い替えてから1ヶ月が経った。先週の半ばには納車されたと言っていたし、実際に事務所への通勤にも使っているのを見ている。両生類顔のロードスターが駐車場に止まっているのはなかなかかっこいい。
そして、久しぶりのオフだというのに朝から美世に電話で呼び出され、ポルシェ転がしてメールで送られてきた場所に向かうと、そこは一件の貸しガレージだった。
ご丁寧に「汚れてもいい服で」と言ってきた理由を察した俺はガレージの前で手を振る美世にバレないよう、車内でため息を付いた。
「おはようございます、プロデューサーさん!」
「まさか、そこに転がってる箱、全部こいつのパーツか?」
「もちろんです! エアロに足周り、ホイールとタイヤ、ボディ系、吸排気、一式揃えたので!」
プチプチに包まれたエアロパーツはバンパーまるごと変えるタイプではなく、リップスポイラーのような、下に付け足すタイプのものだった。そしておそらくエキゾースト一式と思われる鉄パイプも転がっている。
マツダの純正部品の管理番号が貼られた箱の中身はブレーキで、クルマをオーダーするときに言っていたRFのオプションで用意されているブレンボだ。
他にもビルなんちゃらとか、ボルクなんちゃらとか、色々書かれた箱が所狭しと転がっていた。
「よくこんなに運んでこれたな。置かせてもらってたのか?」
「はい、昔から通いつめてたのでこの一角は月極契約なんですよ」
貸しガレージを月極で借りるなんて、世界広しといえどそんなに多くないだろう。自分んチにリフター備え付けガレージとかならあるかもしれんが……
「というわけで、目標は今日中に全部組み付けです! プロデューサーはエキゾーストをお願いします」
「へいへい……」
きれいに使われた工具は美世が買い寄せたものらしく、キャビネットに整理整頓されて収まっている。そこからレンチをねじサイズにアタリを付けて数本持っていくとエキゾーストを取り外しにかかった。
と言っても、最近の車にありがちな、底一面に整流用の板がついていたりするわけではないので作業は楽だ。以前、ポルシェのメンテでジャッキアップされたのを見たときにはアンダーパネルで底が真っ平らになっていたから驚いた。そりゃ工賃も高いわけだ。
一番重いタイコ部分は広い面積のタイプで、凹凸が付いているからコレ自体がディフューザーの役割をするのかもしれない、と思いつつ、メインパイプも外していき、あとはマニホールドだ。
「美世、エキマニ変えるのか?」
「はい。下から届きますか?」
「無理だな。上からネジ外して下から抜かなきゃ」
「やっぱりそうですか。一度おろしますね」
慣れた手つきでリフトを操作する美世。もはやここは家同然なのかもしれない。そう思っていたら片隅にどこぞのビバンダム君のぬいぐるみが座るソファがあったから間違いなくここに住んでるだろう。
その後も、ネジを緩めたり締めたり、バネをくっつけたりして最後にディフューザーでフタをするだけだったので特に難しい作業はなかった。
足回りをいじっていた美世もなんの迷いもなくサス一式を外して、代わりの黄色いダンパーを組み込んでいた。
なんの指示もないが、なにもしないのも嫌なので、ボディ補強パーツの説明書を読んでいると早速フロントタワーバーの取り付け指令が出た。
途中、休憩をはさみつつも日が暮れる前にはほぼすべてのパーツを組み終え、残すところホイールにタイヤを組み、エアロパーツを貼り付けて細かいセッティングをするだけとなった。
「タイヤ組んだことはないから任せるよ」
「じゃあ、リップスポイラーをお願いします。ズラしちゃダメですからね」
「わーってるわ」
まずは説明書を読む。超大事。そして仮合わせ。カーボン製のリップスポイラーは出来がいいみたいで、一発でフィットした。コレなら無理やり曲げたりしなくてもいい。場所をマスキングテープでマーキングして、それからそれから……? 両面テープではっつける。なるほど。
下地処理のためにパーツクリーナーで脱脂するわけだが、こいつが塗装面を痛ませるからバンパーの貼付け部以外を新聞紙やら余ってたプチプチやらで覆ってからきれいなタオルにパーツクリーナーを軽く吹く。そして、接着面を拭いてやる。プライマーは使わないでリップスポイラーに業務用の超強力両面テープを何箇所か貼り付け、そっとフィルムを剥がしたら迷いなくマーキングしたところを合わせて貼り付けた。
「おぉ、久しぶりすぎてめっちゃ緊張した……」
「バッチリですね。それにしても、マスキング雑すぎません? 覆えてるからいいんですけど」
「お前だって新聞紙きっちり貼ったりしないだろ」
結果良ければ全て良し、なのだよ。
それからリアスポイラーも同じように貼り付け、冷や汗を拭うとちょうど4本目のタイヤを組み終わったようだった。
ここから先は慣れたもん、とさっさと新品タイヤを傷一つないクルマに履かせると、やっと完成形が見えてきた。剥がし忘れていたタイヤの銘柄ステッカーを剥がして、トルクレンチで締め込むとついにリフトから下ろすときが来た。
3センチダウンの車高調とは言っていたが、個体差やホイールとのフィッティングもあるだろうから慎重だ。タイヤハウスとキスするのは避けたい。
「降り、ました、ね?」
「ああ、ジャッキポイントから腕が離れた」
「おお! カッコいい!」
納車から1週間ですっかり化けてしまった美世のロードスター。見た目は派手じゃないが、リップスポイラーとリアスポイラー、下がった車高に一回り大きなホイール。
もう一度リフトで上げると、今度はアライメントをいじるために4輪を台に載せる。それからレーザーでアライメント測定をして潜ってねじ回して…… なんてことをやるのは美世だが、慣れすぎてないか? 今度から車検前に美世に見てもらってからユーザー車検でいいかな……
「これでひとまずは完成ですね……」
「達成感はある。久しぶりに車いじれて楽しかったしな。だけどさ、やっぱり」
「「疲れた……」」
ヘロヘロになりながらも美世のロードスターの隣に乗るとそのままファミレスへ。流石にこ汚いツナギの美世とダサいTシャツにジーンズの俺ならまぁ、バレねーべ、と思っていたらあっさりファンバレして駐車場で写真を撮ったりすることはあったが、無言で昼夜兼用の飯を済ませると再びガレージに戻った。
「私はここで寝ます……」
「またこっから1時間も運転しないと……」
「お疲れ様でーす」
「明日、撮影だからな、遅刻すんなよ」
「えへへ~、お目見えですね~。スタッフさんもまだロードスター買ったひとはいませんし」
マツダ乗りの某氏がNDを検討していたが、美世に譲ると言ってRX-8のスピリットRを買ったことは彼女には秘密にすることを心に決めつつ、俺も明日早いから、とガレージを出た。
ほっといたら一晩中クルマを眺めていそうだが、そのときはその時だろう。
デレステのイベント、シンデレラキャラバンの限定のあさんが言葉にできない美しさなんですが。
落ちなかったのでコインで交換して一人お迎えしましたよ、ええ。
声つかないかなー(チラッチラッ
声といえば美玲に声がついたこともあってANSWERのボーダーは高かったですね。恐ろしい……
そして、CINDERELLA MASTER 046~048買いましたよ。5thの先行目当てですが。
乙倉くん、めちゃ可愛いですね。よしのんはとろけそうになりますね、ええ。涼はイケメンで、素晴らしいです(小並感
涼は本作に出たこともありましたけど、乙倉くんとよしのんは、少し厳しいかな?(年齢的に……
そしてシンデレラフェスも来ましたね。10連3回でSR5人(新規3人)でした。本当にありがとうございました。
限定奏欲しかったです。