もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
個人的には凛推しなので引かずにはいられないです
あと、どうせならこの流れでルヴィアも来てほしいです
ギャオォォォォォォォォ!!?
何度目になるかわからない、狼の悲鳴のような鳴き声が響く。
戦況はこれ以上にないほど一方的だった。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
下から上への切り払い。
その軌道に沿って、閃光を放つ風が放たれる。
それは狼の下顎を捉え、巨体を上空に跳ねあげる。
「そこです!」
すかさずマシュが盾を振りかぶり、身体の真横を殴打して木に叩きつける。
しかし、狼はどうにか体勢を立て直して着地し、強靭な脚をフル稼働させてマシュに飛びかかる。
爪と盾が衝突する甲高い音が鳴るが、マシュはまるで地面に縫い付けられたように微動だにしない。
むしろ攻撃した狼の方が弾かれるほどだ。
「今です!アルトリアさん!」
「お任せを!」
アルトリアは魔力放出で加速。
飛ぶように狼との距離を詰め、躊躇なくその横腹に剣を突き立てる。
剣は鍔まで突き刺さり、まるで血のように赤いポリゴンの破片(立香しか知らない)が溢れ出す。
だが、これでは終わらない。
「風よ……舞い上がれ────!」
今回の戦闘で幾度も繰り返された詠唱。
決定的に違うのは、風の発生源である剣が体内にあるということだ。
ボンッ──────!!!
と、火薬の爆発のような音を轟かせ、狼の半身が吹き飛ぶ。
最後は悲鳴をあげることすら出来ず、狼は爆発四散した。
戦闘を眺めていた立香は、苦笑いを通り越して呆れ顔で、
「……なんだろこれ?無双ゲーかな?」
と再び言った。
「ふぅ……片付きましたね」
「マスター、お怪我はありませんか?」
「うん、ゲームだから怪我しないよ。
お疲れ様、二人とも」
言いながら立香は木から飛び降り、二人の頭をよしよしと言いながら撫でる。
マシュは少し恥ずかしそうに、アルトリアはかなり恥ずかしそうにしながらも、立香に身を任せる。
微笑ましいその光景を充分に楽しんでから、立香は二人の頭から手を離して踵を返す。
「さて、クエスト達成報酬でも受け取りに行こうか?」
そう言って歩き出す立香に、マシュとアルトリアは同時に頷き、後を追った。
──── 数分後 ────
「…………何これ」
「お金……ですよね……?」
3人の前にあるのは、机の上に積まれたコルの入った袋だ。
パッと見だけで10を超える数の。
「あのクエストって……そんなに難易度高かったんだ……」
それもそのはず、あのクエストは現在のトッププレイヤーでも敬遠するような難易度なのだ。
母体であるボスを中心に、ほぼ延々と狼型モンスターが湧き続けるため、最初は余裕でも後から酷い目にあう。
それこそ、魔法でもなければ突破不可能だ。
「ま、まあ、報酬は多いに越したことないし?とりあえずいいんじゃない?」
「そ、そうですね!先輩の言う通りです!ね、アルトリアさん!」
何か裏があるのではという懸念をかき消すため、立香とマシュは慌ててまくし立てる。
しかし、アルトリアはそれには答えない。
「……? どしたの、アルトリア」
「マスター……非常に申しあげにくいのですが……」
直後、アルトリアのお腹から、
キュゥゥゥ…………
と音がした。
「……お腹空いた?」
「はい」
即答だった。
そんなアルトリアに苦笑しつつ、立香は視界の時計を見る。
時刻は午後6時30分。
クエストを始めたのが4時だったため、三人はなんだかんだ2時間以上戦っていたのだ。
遠くから指示を出していただけの立香はともかく、主に戦闘を行っていた二人は間違いなく空腹だろう。
「うん。時間もちょうどいいし、途端にかなりの金額を稼げたし、ご飯にしよっか?」
「賛成です」
「マスターならそうおっしゃると思いました」
「アルトリア、ヨダレ垂れてる」
「はっ!?」
立香の指摘に慌てて口を拭うアルトリアに、二人はついつい吹き出してしまったのだった。