もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
やっぱり書いてて楽しいですね
イチャイチャシーンの次に
敵の姿を確認したアルトリアは、不可視の剣を静かに構える。
腰を落とし、後ろ足を踏み込んで加速。
同時、後ろ脚から大気を揺るがす轟音が響く。
「はっ─────!」
大上段に剣を振り下ろし、剣の進行方向と逆に噴射。
二重の加速を乗せた必殺の一撃を、狼の真正面から叩き込む。
大した音も鳴らず、狼はいとも簡単に真っ二つに切り裂かれ、硝子を砕いたような音を鳴らして散った。
「相変わらずいい切れ味だこと……。『魔力放出』様々だねー」
そう、これこそがアルトリアを最強の騎士王にした無敵の能力。
魔力の塊を、さながらロケットエンジンのごとく噴射し、移動速度と攻撃力を劇的に上昇させる。
莫大な魔力と、針に糸を通すような繊細な魔力操作技術があってこその能力だ。
「次!」
アルトリアは右側から迫る狼に魔力放出で振り返り、剣にも魔力放出を使って加速をかける。
神速のスピードを得た剣は、まるですり抜けように狼の身体を切り裂く。
さらに勢いを利用して一回転。
一斉に飛びかかって来た三体を薙ぎ払う。
「風よ……舞い上がれ────!」
水平に剣を構えたアルトリアは、高らかに詠唱する。
直後、眩い光とともに、一陣の風が剣から解き放たれる。
竜巻のごとく吹き荒れる風は、必殺の一撃となって三体の狼を飲みこんで消し飛ばした。
一方、マシュも負けてはいない。
その身体能力を生かして上空に飛び上がり、両手で持った盾を狼に叩きつける。
それだけで狼はいとも簡単に砕け散る。
着地と同時に両脚を強く踏み込み、正面に体当たり。
巨大な鉄球でも衝突したかのように、狼は悲鳴のような鳴き声を上げて弾き飛ばされる。
さらに盾を逆手に持って振り回し、十字架のような突起を利用して次々と薙ぎ払っていく。
そんな二人の様子を、立香は少し離れた位置から眺めていた。
右を向けば、眩い閃光と轟音とともに消え去る狼たち。
左を向けば、あっちこっちに吹き飛ぶ狼たちが見える。
「……なんだろこれ?無双ゲーかな?」
無茶苦茶な強さを見せつけるアルトリアとマシュを見て、立香は苦笑いでそう呟いた。
それから数十分後。
暇になりだした立香がとうとう花占いを始めたころ、ようやく音と光がやみ、狼が飛んでこなくなった。
決して手を抜いていたわけではないが、無駄に数が多かったために時間がかかったのだ。
「さて、これで残りは……」
「あと一体……ですね」
言いながらアルトリアは剣を構え直し、マシュは盾を両手で持って地面に突き立て、警戒体勢をとる。
二人の視線の先にいるのは、一体の狼。
ただし、体格は先程までの狼とは比にならないほど大きい。
鋭い牙を隠そうともせずに荒い息を吐き、鋭い眼光でこちらを睨む。
「マスターの言っていた、この群れのボスですね」
「黒くなった『もの〇け姫』のモ〇みたい」
「もう少し空気を読んでください、マスター!」
そんなこんなで、騒ぎながらもクエスト最後の戦闘が始まった。