もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
最近忙しいというか、帰ってきたら寝ちゃうんですよね
夜書く派にあるまじき行動です……
「ほらマシュも、あーん」
アルトリアをひとしきり弄った後、今度はマシュに向かってチーズケーキを差し出す。
「い、いいんですか……?」
震える声で言うマシュは、いつの間にか涙目だった。
(ありゃりゃ、ちょっとイジメ過ぎちゃったかなぁ……)
心の中で反省しつつ、立香はゆっくりと頷く。
「うん、いいよ。はい、あーん」
「………!! い、いただきます!」
心底嬉しそうに、マシュはチーズケーキを頬張る。
「おいしい?」
「はい……おいしいです……!」
ゆるっゆるの表情でチーズケーキを咀嚼するマシュは、同じくゆるっゆるの声で答える。
立香からしたら、可愛くて仕方ない。
この場で抱きつきたくもなるが、どうにかこうにか堪え、立香は話を次に進める。
「で、まあ、さっきの説明通り、ここは仮想ゲーム空間なわけ。
ってことで、とりあえずクエストを受けてみようと思うんだ」
「「……なんですか?それは」」
「とうとう考えるの面倒になってきてるし……」
元々が古代の王であるアルトリアはもちろん、魔術師であるマシュも、科学の産物であるゲームに関してはどうやら疎いようだ。
投げやりなリアクションに、立香はついついに苦笑いになってしまった。
「クエストっていうのは、ゲーム内で一定の条件を達成することを目標に行動して、クリアできたら報酬がもらえるっていう……まあ、任務的な?ゲームの中のミニゲーム的な?」
「最後が酷く曖昧ですが……わかりました。マスターがそう言うなら、やってみましょう」
「もちろん私もやります、先輩」
「そうこなくちゃ。じゃ、行こうか!」
そう言い、超高速でチーズケーキを片付け、立香は立ち上がる。
それはもはや、消えたようにしか見えないレベルだった。
「レッツゴー!」
───── 数分後 ──────
「さてさて!やってきました森の中!」
「元の森に戻っただけですよ!先輩!」
今までの経験からどうにか立香がクエストを受け、メニュー画面でパーティーを組んだ後に、三人は指定された場所にやって(もとい戻って)来た。
クエストは『怒号の衆』。
内容は狼型モンスターの群れの討伐。
一体一体は大して強くないが数が多く、さらに群れの長はかなり強いらしい。
(まあ、ダメならダメで撤退戦だ。今まで何度もやってきたし、逃げるだけならどうにかなるでしょ)
一応、ピンチになった時のことも考えている。
色々とふざけてはいるが、根はしっかり考えを持ったマスターなのだ。
「さて、クエストの情報によると、この辺なんだけど……」
「……!! マシュ!マスターを頼みます!」
「!? りょ、了解です!」
画面を見ながら呟いた立香を庇うように、アルトリアとマシュが並び立つ。
直後、前方から黒い狼が大挙して押し寄せてくる。
「どうやら、探す手間が省けたようです」
「うーん、ゲームだから殺気とかないはずなんだけど……何このリアルさ」
立香は苦笑いをしながら呟く。
脳に情報を送り込んでいるのだから当たり前のことだが、ゲームとは思えないほどに、狼の雰囲気は異質で恐ろしかった。
「ま、ゲームなら大丈夫か……。数だけは多いし、試せるだけ試そう!」
「「はい!」」
立香の言葉に、アルトリアとマシュは迎撃体勢をとった。