もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
二日連続でお肉の食べ放題に行ってた若干胃もたれになってる雪希絵です
皆様はゴールデンウィークを謳歌しておりますでしょうか
私は残念ながらぶつ切りゴールデンウィークですが……精一杯楽しみたいと思います
それでは、ごゆっくりどうぞ
「ちぇいさー!」
気の抜けた気合と共に、立香は拳を振るう。
ヒースクリフとの距離はそれなりに空いているが、立香は拳の速度を緩めない。
何かくる、そう判断したヒースクリフが油断なく盾を構える。
次の瞬間、立香の拳がライトエフェクトに包まれる。
それはまるでロケットエンジンの噴射のように後方へと伸び、猛烈な加速力を生み出す。
ヒースクリフはそれに合わせ、同じくライトエフェクトを纏った盾を突き出す。
辺りに大音響が轟く。
(まずい、拮抗してたら押し負ける……!)
直感でそう考えた立香は、ヒースクリフの押す力に逆らわずに利用し、ぐるりと回転する。
左脚を軸にし、右脚で後ろ回し蹴り。
ヒースクリフはそれをしゃがんで回避し、膝を伸ばして勢いをつけながら右手の十字剣を突き込む。
「あっ────ぶっ……!」
紙一重でそれを回転するが、胸の部分に僅かにヒットする。
赤いポリゴンの破片がキラキラと飛び散る。
「こんのっ……!」
片足で器用に地面を蹴り、距離を取る。
体勢の乱れたその瞬間を、ヒースクリフが逃すはずがない。
地面を蹴り、盾を正面に構えたまま猛烈な勢いで突進する。
「………『太閣』」
その時、立香の全身が淡くライトエフェクトに包み込まれる。
時間にして、ほんの瞬き程の一瞬。
それがちょうど、ヒースクリフの突進が直撃した瞬間と重なる。
特大の鉄球二つが衝突したかのように、一際壮絶な音が響く。
「……っ……だぁぁぁぁぁぁっ!」
「むぅ………!」
僅かな拮抗の後、気合いと共に強引に腕を押し出す立香。
押し返され、体勢を乱すヒースクリフ。
ユニークスキル『太鳳拳』の中には、ダメージを完全に無効にするスキルまである。
だが、その当たり判定は極々限られた時間しかない。
その上、使用したあとは、少しの間被ダメージが上昇する。
(だったら、当たらなければどうということはない────!)
両手両足、さらには頭にまで炎のライトエフェクトが着火する。
ヒースクリフはそれを見て、なお後退はしない。
巨大な盾が光り輝き、立香のコンボを次々と受ける。
その堅牢さは、1ドットも減少していないHPバーが物語っている。
最後に頭突きを叩き込むが、それすらも盾で防がれる。
現実世界だったら猛烈な痛みが立香を襲っているだろうが、今は若干酔うような感覚があるだけだ。
(そんなことより、回避……!)
反撃に転じるヒースクリフの剣が、立香の首を両断せんばかりに襲いかかる。
全力で背を仰け反らせ、顎を上げてギリギリで回避。
あと数ミリ前にいたら、間違いなくヒットしていただろう。
「このぉ……!」
片脚を無理やり持ち上げて、ヒースクリフの盾を狙って蹴る。
防御のために込められた力を利用し、大きく距離を空ける。
(被ダメージ増加の時間は過ぎた。……よし)
呼吸を整え、立香は再びヒースクリフの懐に向かって飛び込んだ。
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「……弱点……って?」
一方、観客席は歓声に埋め尽くされていた。
そんな中でのキリトの呟きを、アスナが拾い上げた。
『……まずいな、弱点をつかれてる』と。
「……ああ。立香のスキル、たぶん格闘系のユニークスキルだろうけど……威力もスピードもあるし、コンボなんかもあって確かに強力ではあるんだけど……。それでも弱点が一つ」
一拍おき、キリトは腕を組んで続ける。
「拳って特性上、どうしても射程が短いんだ。それに合わせて、ヒースクリフは攻撃の瞬間に後退しながら受けてる」
「そっか、伸びきった腕だと大きな威力は出せないから……」
「うん。圧倒的に受けやすくなる。今、立香がやられてるのはそれだ」
(このままだと負けるぞ。どうする、立香……)
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「はぁ……はぁ……」
残り時間は、あと僅か。
HPは、ヒースクリフの方が少々上回っている。
というのも、立香の攻撃が通らなくなってきているからだ。
ヒースクリフのカウンターも回避してはいるが、限界がある。
(このままだと確実に負ける……)
だからこそ、立香は勝負をかけることにした。
「……よし」
構え、見事な歩法でヒースクリフへと肉迫する。
右手がライトエフェクトを纏い、スキルが発動する。
先程までと同じように、後退して威力を減衰させながら盾で防御。
そして、反撃。
真正面から顔に向かって、恐ろしい速度の突き攻撃が繰り出される。
「……それを待ってた」
口の両端を釣り上げる立香。
直後、立香の顔面に剣が直撃する。
だが、HPバーは減少しない。
「……ぐっ……ぎぃ……!」
なんと、立香は横向きに飛来してきた剣の先を、噛むことで防いだのだ。
ギリギリと軋むような音がし、ヒースクリフの動きが止まる。
その隙を逃さず、回し蹴りを側頭部に叩き込む。
ヒースクリフのHPがグリーンギリギリまで減少する。
同時、立香が噛んだ剣が真横に振るわれる。
グリーンギリギリまで減少するHP。
次の瞬間、音ともに目の前に『Draw』の文字。
見れば、タイマーは既にゼロだった。
全く同数字のHPで、時間経過。
結果、勝負は引き分けとなった。
お読み頂きありがとうございました
実際SAOにドローがあるのかは分かりませんが、こういう終わり方にさせて頂きました
それでは、また来週お会いしましょう