もしもセイバーのマスターがソードアートオンラインに異世界転移したら? 作:雪希絵
課題の多さに絶賛絶望中の雪希絵です
それでも更新日は気合いと根性で守りますけどね!
さて、前回のボス戦決着のシーン、お楽しみ頂けましたでしょうか?
今回はそんなボス戦のあとのお話しです
それでは、ごゆっくりどうぞ!
ボスが砕け散ったのを見届けても、部屋は沈黙に包まれていた。
勝利の喜びも、亡くなった者を悼むこともない。
ただただその視線は、部屋の中央に立つ三人に注がれていた。
一撃で隊列を壊滅状態にしたブレスをたった一人で防ぎ、ゲージほぼ一本分のHPをたった一人でいとも簡単に削り取った。
今までのSAOプレイヤーとは、決定的に何かが違う。
誰もがそれを理解して、動くどころか一言発することさえできなかった。
やがて、右手や身体を確認するように動かしていた立香が、
「行くよ。アルトリア、マシュ」
と言って踵を返し、出口に向かう。
当然、近くにいたアスナの方に向かって歩くことになる。
「あ……」
止めなくては。
聞きたいことが山ほどあるのだから。
そう思うが、先程の光景が目に焼き付いて離れない。
頼もしい、心強い、いい戦力になる。
そんな感情より、真っ先に思うのは、恐怖。
SAOに存在してはいけないレベルの力。
ゲームバランスなど真っ向から無視した、規格外の一撃。
そして、それがもし自分に向いたとしたら。
有り得ないとはわかっていても、想像してしまうのだった。
そんな硬直するアスナの横を、立香は通り過ぎて行く。
その途中のことだった。
「……待ってるから」
ボソリと、アスナの耳元で呟いた。
「えっ……?」
意味を問うより早く、立香たちは入り口を出ていってしまった。
まるで、もう役目は果たしたと言わんばかりに。
アスナは急に不安に駆られた。
もしかしたら、このまま三人はいなくなってしまうのではないだろうか。
もう二度と、顔を見せることはないのではないかと。
胸を抑え、不安そうにしているアスナ。
そこへ、キリトが近寄る。
「アスナ」
「あ……キリト君……」
「どうした?っていうか、リツカになんて言われたんだ?」
どうやら、アスナの横を通り過ぎる時に、その口元が動いていたことに気がついたらしい。
さすがに、いい目をしている。
「……うん。実はね、リツカちゃんに『待ってる』って言われたんだ」
「待ってる……?」
「それを聞いたら、なんだか三人が遠く行っちゃうような気がして……。だから、私、行かないといけない」
キリトに話している間も、不安は募る。
もうとっくに、三人の背中は見えない。
もしかすると、すでに転移結晶か何かですでに遠くに飛んでいるかもしれない。
だから、今すぐに三人を追いかけたい。
アスナは、そう思っていた。
「……わかった。じゃあ、行こう」
「えっ?」
「俺も一緒に行こう。聞きたいことが山ほどあるしな」
「……うん!」
「クライン!転移門の起動は任せた!」
「なぁ、ちょっ、おい!キリト!」
馴染みのプレイヤーに仕上げを任せ、キリトとアスナは駆け出す。
迷宮区を抜け、外へ。
少々ガタガタとしている森の道を二人並んで駆け抜ける。
やがて、開けた場所に出た。
細かく草の生えた河原で、キリトが昼寝をするのに使っているようなのどかな場所。
そこに、三人はいた。
立香は寝そべり、マシュはその隣に座り、アルトリアは立って、ただ遠くを見つめていた。
「……リツカちゃん」
近づき、話しかける。
知らず知らず、声はかすれていた。
「……来てくれると思ったよ。二人とも」
振り返りもせず、立香はそう言う。
「あそこじゃ、ちょっと話しにくいからね。ここまで呼んだってわけ。びっくりした?」
「……! うん、びっくりした。ただ事じゃなさそうな顔してたから」
安心しながら、アスナは立香の隣、マシュとは反対側に座る。
キリトもその隣に座った。
「マシュー。膝枕してー」
「はい。まったく、仕方ない人ですね。先輩」
二人が座ったことを確認すると、立香はマシュに膝枕をねだる。
いつものことなので、ため息をつきながらもマシュはそれを了承した。
「んふふー」
立香はご満悦である。
そして、しばらく無言。
爽やかな風が、五人の間を流れ、髪がさわさわと揺れる。
先程の戦闘などなかったかのような、優しい風景だった。
「なあ、リツカ」
そんな雰囲気を名残惜しく思いながらも、キリトが口を開く。
聞かなければいけないことは、たくさんある。
「三人は、一体何者なんだ?」
至極当然の問い。
今までゲームバランスを崩壊させていると言われて来た『ユニークスキル』すら優に超えるその強さ。
反面、まるでつい最近やってきたかのように、SAOについて何も知らない。
疑問に思うのは当然だった。
「……そうだね。二人には話した方がいいかな」
言いながら身体を起こし、実に軽やかな身のこなしで立ち上がる。
「それじゃあ、改めて名乗ろうか。私は『人理継続保障機関カルデア』所属のマスター。ここの定礎を復元するために、異世界からやってきたんだ」
「……えっ?」
「はい?」
訳が分からず、二人は気の抜けた声を出してしまうのだった。
うわぁ、ギリギリ!
あと、今回ちょっと短くてすみません!
次回の説明が長いので、こうなってしまいました!
それでは、また来週お会いしましょう!