「故にこのような趣向を凝らした」
「退屈かね?だが
「さぁ・・盛り上がらせるといい。万雷の歓声を持って」
演説 水銀の蛇
ピットへ戻ると三人が出迎えてきたが、ベアトリスだけは怒り顔だ。
「もう!ベイの創造を模倣するなんて聞いてませんでしたよ!?」
「ごめんなさい許してくださいお願いですから
「まぁまぁ、相棒もまさかの展開だったんだと思いますよ?」
「それ、フォローになってないわよ?本人だってノリノリだったんだから」
珍しくルサルカが呆れ顔になっている。無理もない、黒円卓の中でも危険性が高すぎる創造を模倣したのだから。
「まぁ、観客に影響は無かったので良しとしましょう」
そう言いつつ、ベアトリスは
「さぁ、相棒。次はお前の出番だぜ?」
「ああ」
「あの女は俺の獲物だが、遠慮なく行きな」
「無論だ」
次の試合はセシリアVSサタナの予定が組まれている。
サタナの殺意はかつての妹に向けられておりセシリアなど眼中に無く、フォルはセシリアを狙っている。
「行ってらっしゃ~い!」
「気をつけてくださいね」
「行ってこいや」
それぞれの声援を受けてサタナはISを展開し、アリーナへと飛び出していった。
アリーナの地に着地すると向かい側ではライフルを持ったセシリアが待っていた。
「ようやく来ましたわね」
「展開に少し戸惑ってな、慣れない事だからよ」
「ふん、やはり男は男ですわね。わたくしは慈悲深いので最後のチャンスをあげますわ!」
セシリアはサタナを蔑んだ目で見ると笑みを浮かべながら口を開いた。
自分の方が格上なのだということを示さんとするかのように。
「チャンスだと?」
「そう、わたくしの勝利は確定しています。ここで頭を下げて許しを請えば許して差し上げますわよ?」
「クッ・・・ハハハハ!アーッハハハハ!!」
その言葉を聞いた瞬間にサタナは片手で顔を覆い、盛大に笑い始めた。
「な、何がおかしいんですの!?」
「調子に乗るなよ?勝利ってのはそんな簡単には手に入らないんだよ」
指の間から見えるサタナの瞳からは明確な殺意が溢れている。
お前ごときが勝利を語るな、軽々しく口にするなとその目が訴えていた。
「お前は勝てないならどうする?一度で勝てないなら百回繰り返し戦う、百で勝てないなら千回繰り返し戦う、千で勝てないなら万回繰り返し戦う。未来永劫勝つまで戦い続ける!それが出来るのか?」
「そ、そんな事!」
サタナの演説めいた言葉にセシリアは恐怖を抱き始めていた。
彼は死ぬことを恐れていない。否、死は無いものと考えている。
勝てないのなら何度も何度も戦い続けるという思考こそが狂っているのだ。
「試合が始まるな」
「っ!」
試合が開始され、サタナはIS用の標準ブレードを手に持った。
「来い、お前には勝利を勝ち取ることの難しさを教えてやる」
「減らず口を!!」
セシリアはライフルを構え、サタナに照準を合わせ銃撃を放った。
自信のある攻撃なのだろう、セシリアは薄らと笑みを浮かべている。
「遅いな。ザミエル卿の砲撃やシュライバー卿の射撃の方が正確だ」
サタナは身体を逸らすだけでセシリアの銃撃を回避した。
「なっ!?」
「どうした、何を驚いているんだよ?俺は避けただけだぞ」
サタナはブレードを手にしたままやれやれと仕草をしていた。
「くっ!行きなさい!ティアーズ!!」
ライフルが躱されるならば機体の最大の特徴を出す他ないとビットを展開した。
「全方位からの空間攻撃が可能な兵器か」
特徴を見抜くがサタナは反撃せず、ただただ攻撃を避けるのみ。
本来の意図に気づかないセシリアは攻撃が当たらないことに焦りを感じ始めていた。
「何故、どうして当たらないんですの!?」
「時間だな」
「え?」
ビットの舞から抜け出すと同時にサタナのISが変化する。
その姿は騎士であり戦士ではあるが禍々しさと美しさを併せ持った雰囲気を醸し出している。
「ま、まさか!これは
「コイツはもう要らないな」
標準ブレードを投げ捨て、無手となったがサタナから溢れる重圧は一向に下がらない。
それを見ているフォル達は真剣な表情で試合を見ていた。
「おお?相棒もやる気か?」
「彼の形成も見れるなんてね、これはラッキーだわ」
「彼は剣の筋が良いので特訓しましたが、どうなるか」
フォルは楽しそうに、ルサルカは笑みを見せ興味深そうに、ベアトリスは師としての目線でサタナを見ている。
◇
それ以外でもサタナに注目しているのが教員用の部屋に居た。
「あの癖、やはり一夏か・・。ようやく戻ってきたのだな」
「織斑先生?」
「いや。それよりあの二人のISのデータは?」
「それが・・おかしいんです。専用機として登録はされているのですが」
真耶は不安を募らせているような表情で報告している。
「なんだ?」
「あんな赤い夜を発現させる技なんてないんです」
「なんだと?」
その言葉に千冬は驚愕した。自分の愛しい妹を痛めつけた相手の技がISによるものではないと断言されたのだ。
「(あの二機、解析せねばなるまいな。千雨の為にも)」
千冬の思考は妹を最強という玩具を持たせなければならないという考えを巡らせていた。
◇
「相棒とは違う
「
セシリアが疑問を浮かべ、観客が見ている中。サタナは自分の手のひらを見つめると
「
「
「
「
その手に握られているのは剣。形状はバスターソードのようだが刀身の下半分や鍔にあたる部分には小さな刀身が何本も突き出ている。主である巨大な刀身は輝いているが小さな刀身は血をよこせと言わんばかりの赤黒い色を発している。
持ち主はこの男しか認めない。それが剣から伝わってくる。敵に要求するのは血と魂、そして存在そのものである命だ。
「な、なんですの!その剣!」
セシリアの驚きも当然だろう。自身の体格以上の剣をサタナは小枝のように軽々しく持ち上げて何度も試し振りをしている。
ダースレヴ、それは生き血を浴びない限り刀身を納めることが出来ない剣の名称が訛ったものだ。
「ここからは反撃させてもらうぜ?」
そういってサタナは間合いを詰め、血に飢えた剣を振るってくる。
「な!くっ・・!!」
セシリアは回避行動を取るが髪に当たり、数本以上のブロンドの髪が地に落ちる。
本来なら激怒する所だろう。しかし、それが出来なかった。
あの剣は両手で小枝のように振るっていたと思っていた。しかしそれを覆される事実を見てしまったのだ。
「か、片手であの大剣を振るって」
「攻撃してこないのか?」
「!!行きなさい!ティアーズ!!」
再びビットを繰り出し、ライフルを放ち始める。恐怖から逃れんとするために。
「このわたくし。セシリア・オルコットの奏でる
「
ビットの射撃をかわし、間合いを詰めることで剣撃を繰り出す。
「この距離では、わたくしの引きの照準が合せられない・・!」
だが突然、サタナは間合いを取り、大剣を足元に突き刺した。
「あら?諦めたんですの?」
「いや」
剣に光が灯る、しかしそれは周りの小さな刀身が放っている赤黒い光だ。
「俺も、もっと
その歌はフォルとは違い、苦悩を持った騎士の
孤独に生き続ける一人の騎士の嘆き。
「
「
「
「
「
「
「
「
サタナ自身の創造。それは己自身も刃となり戦うもので、形成の剣すらも自分の身体となった。
「さぁ、血まみれになっても踊れよ?」
地に突き刺した大剣を引き抜き、セシリアへと向かっていく。
「!まだ戦えますわ!」
セシリアもライフルを持ち銃撃を仕掛けるが、自分の頬に違和感を感じていた。
「なんですの?・・・え?」
それは鮮血、自らの内に流れる血であった。
本来IS操縦者は絶対防御機能によって守られている。しかし、フォル、サタナはそれを突破し操縦者にダメージを与えてきている。
「俺は動きによって生じる空気の流れすら刃に出来る。それから」
「!!!」
セシリアにとってそれは最も信じがたい事が目に映った。
真空によって出来た刃ではなく、手刀によってISの装甲を切り裂いたのだ。
「今の俺は身体すらも刃になっている。だから切り刻んでやるよォ!!」
「ひっ!」
大剣と刃になった身体を振るい、セシリアを追い詰めていく。
回避行動をしても速度で勝てず、とうとうサタナの剣撃が当たってしまう。
「ああああっ!!」
「舞えよ。鮮血に彩られてその名の如く涙を流しながらな!!」
高速の剣舞、それを終えて再び大剣をアリーナの地に突き刺す。
「ごほっ!?・・・・が・・・は!」
地から伝わったその衝撃によってセシリアは吹き飛び、気絶した。
致命傷に至っていない無数の細かい切り傷によって紅い
「
地に伏したセシリアへ向けた言葉をサタナは無表情のまま口にしていた。
◇
あまりに壮絶な戦いに観客は静まり返り、それを背に受けサタナはピットへ戻っていった。
次の試合は一時間後とアナウンスが入る。無理もない二人の男性が強烈な印象を残さずをえない力で蹂躙したのだから。
「次は」
「ああ、次は」
「「本気で潰す相手だ!」」
フォルとサタナはもはや次の獲物しか見えていない。そんな二人を見ているのは戦乙女と魔女の二人だけ。
「本当に熱くなりやすいんですから、この二人は」
「若いっていうのも考えものね」
愚痴りながらも二人はどこかで対戦相手であった二人の少女の許せない部分もあったのだろう。
まだ、戦いは続く。闘争を剥き出しにした模倣者と刃が鞘に納まるまで。
それは祝福のようでいて呪いとも言うべき一言を。
『
「第二幕が終わったようだね」
「この戦いは後二幕で終了する」
「目の前に獲物がいる時に獣はどうなるか楽しみだ」
「私からも祝福を送ったが」
「彼らには聞こえていなかったようだ」
「さぁ、再び舞うがいい道化達よ」
演説 水銀の蛇