「本来、女神以外は興味はわかんのだが」
「話す価値がありそうなのでね」
「では、外演目としてはじめよう」
演説 水銀の蛇
スイスにある秘密研究所、そこでは一人の女性がコンピューターに向かっていた。
「ちーちゃんもさーちゃんも酷いよ、いっくんを放置なんて」
彼女の名は篠ノ之束。ISを開発した天才科学者である。
今の彼女は世界中にある監視カメラをハッキングし、織斑一夏の行方を探していた。
「いっくん、どこにいるのさ。この束さんが必死になっても見つからないなんて」
イライラがつのってきたのか、彼女は指で机を叩き始めた。
「彼はこの世界にはおらぬよ」
「!!???誰だ!?」
「織斑一夏を探しているのだろう?篠ノ之束」
すぐ後ろを振り向くとそこには外套姿のカール・クラフトが立っていた。
「誰だよ、お前。どこから来た」
束はすぐさま冷徹な表情を見せ、カールを睨んだ。
「サン・ジェルマン、パラケルスス、トリスメギストス、アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。あらゆる名はあるが、ここではカール・エルンスト・クラフトと名乗っておこう」
「ふざけてんの?その人物達は」
「ああ、確かに死んでいるがね。あれらも私なのだよ」
「(こいつ、一体何なのさ?まるで影のようにつかみにくい)」
束は警戒をますます強め、一歩引いて逃げられるようにした。
「織斑一夏に会いたいかね?」
「!!!なんでお前のような奴がいっくんの事を知ってるのさ!」
「彼は今、我らの城にいる。聖槍十三騎士団の城にね」
「なん・・・だと・・・?聖槍十三騎士団だって・・」
束はその名を聞いたと途端に冷や汗をかいた。
「そんな所にいっくんがいるはずが!」
「ない。とは言えんよ。彼は自分の意志で我らの元に来たのだから」
「そ、そんな・・・」
束は座り込み、絶望に打ちのめされた顔をしている。
「私は君に頼み事があって来たのだよ」
「束さんに頼み事・・・だと?」
メルクリウスは笑みを見せると歌うように話を始めた。
「ああ、織斑一夏ともう一人、彼と相反する者がいてね。彼らの専用機を作って欲しいのだよ」
「ふざけるなよ!束さんがお前の頼みなんか聞くわけないだろ!」
「織斑一夏はIS学園に入ることが確定していてもかね?」
「なっ!」
「君も知っているはずだ。男性二人がISを動かした事、そしてその人物が織斑一夏と似た人物であることを。その人物は紛れもなく織斑一夏だ」
メリクリウスの言葉が束の心に浸透していく、文字通り水銀を含んだ毒のように。
「いっくん、あれが・・・あれがいっくん・・・」
「私は命令はしていない。ただ、あの二人の為に頼んでいるだけに過ぎんよ」
「専用機を作ればいっくんに会えるの?」
「無論、私は約束は違えない。君が彼との再会を望むのなら必ず会えると約束しよう」
その言葉は悪魔の囁きだったが、束はそれに乗ることを決意した。
「わかったよ。いっくんともう一人の専用機を作ればいいんだね?」
「二人に代わって感謝しよう。それとこれが今の彼らの身体状態だ」
メルクリウスは手を軽く動かし直接、二人に関する記憶を束の脳に流し込んだ。
「!!??こんなの、ISが枷になる状態じゃないか!!」
「君ならばそれを超えられるだろう?この世界の超越者なのだから」
「っ・・癪な言い方だけどやってやろうじゃないか。この天才、束さんがさ!」
「くくくく・・・では、頼んだよ?私は君の事を二人へ伝えに行かねばならぬのでね」
メルクリウスはその存在を稀薄にし始めている。
「完成したらどうすればいい?」
「この世界に私の知り合いがいる。ベアトリスとマレウスといえば分かるはずだ。その二人に渡してくれたまえ」
「わかった、ちゃんといっくんと会わせてよ?」
「もちろんだとも」
そういってメルクリウスの存在がいつの間にか消えていた。
「聖槍十三騎士団・・・どうしてなの?いっくん・・・」
束は失ったと思っていた涙を流していた。
「でも、専用機を完成させれば再会出来るんだ!」
すぐに作業に取り掛かると、束は爪牙に耐えられるISの開発に取り掛かった。
◇
「束さんに頼んできた!?」
「よくできたなぁ」
知らせを受けた二人は驚愕の声を上げていた。
「君達の為に骨を折ったのだがね。一週間後は入学の日だ、準備するべきではないかな?」
「ちっ・・」
「しょうがねぇな」
一本取られたと言いたげに二人はその場を離れ、入学の準備に向かった。
これはちょうど入学の一週間前の出来事である。
「如何かな?」
「これはもう既に私にとっては既知なのだがね」
「君達にとっては未知となるのかな?」
「では本劇に戻るとしよう」
水銀の蛇