無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

28 / 31
「君たちが何故、必要か」

「その答えを垣間見るといい」

「正体を確かめ、憤怒するといい」

「さぁ、別次元を見せよう」


演説 水銀の蛇


第二十一劇 覇道の共存

二人が壮絶な喧嘩の後、現実では気を失ったままだが、魂は別の世界に来ていた。

 

自分達の居る世界と似て非なる世界、所謂、並行世界に魂を引き寄せられたのだ。

 

「ここは?(まさかあの時に見た夢と同じ?)」

 

「相棒、ここ宇宙だよな?」

 

「そうだ、宇宙だ。て事はまたなんか見せられるって事だな」

 

サタナの疑問にフォルは飄々と答える。既知に近いものを感じるのにどこか違っている。

 

まるで、この世界の分岐は最悪な方向へ向かっている。直感ではあるはずなのにそれに確信が持ててしまう。

 

二人は得体の知れない不安が、己の中で湧き出てくるのを抑えられなかった。

 

移動を始め、目の前に蓮の花を背にした座る玉座のようなものが見えてくる。ある世界では地平線の果てにある理想郷の玉座。ある世界では曼荼羅と呼ばれ、その中心が主神となって宇宙を表す物となる。

 

そう、それこそが"座"と呼ばれる宇宙の中心。世界をその手に出来るただ一人の覇道神が座る事を許される神座であった。

 

「またって・・・ん?あれが・・・座なのか?」

 

「ああ、あれが座、本来なら流出位階に至った俺達が来なくてはならない場所だ」

 

二人は座の闘争から降りてしまっている。紅蓮の地獄を司る永遠の刹那、永劫の回帰を司る水銀の蛇、至高の修羅達を率いる黄金の獣、それらが争い、輪廻と転生へ導く黄昏の女神を座へと押し上げられた。自分達の世界と同じく、女神が統治した世界が出来上がり、争った三神は守護者となっている。

 

別世界の二神であるサタナとフォルは守護者を支え、座の容量を増やすという意志を女神に捧げている。それ故に決して座へと至る事はない。

 

座の中心に座っている黄昏の女神に見惚れていた時、それは飛来してきた。ただ真っ直ぐに向けられた殺意という名の刃が黄昏の女神の腹部を切り裂いた。

 

「きゃああああああ!は・・・う・・・く・・ぅ・・・いた・・い」

 

「な・・・に!?」

 

「今のはなんだ!?」

 

『コイツが俺に触っているから俺は永劫一人になれない!滅尽滅相!!』

 

輪廻転生の理の色である黄色の覇道が侵食されるように彩られていく。その色は黒。だが、宇宙のように星という星を受け入れる美しい闇ではなく、血と糞尿を混ぜ合わせたかの如く吐き気を催すをいられない程に醜悪な黒であった。

 

『くくくく・・・ふふふ・・・アーッハハハハハハハハ!!』

 

その邪悪の根源は禅を組んでいるよな姿で座へと迫っている。誰にでもある自己愛を極限にまで極めた存在。渇望からして求道であるはずが覇道の性質を持っており、己自身を唯一無二として譲らない姿勢によって完成している。

 

「な・・なんだよ。アレは?」

 

「あれは■■■■■、最強にして最悪のクソ野郎だ!」

 

吐き捨てるようにフォルは怒りを露わにし、醜悪な黒へ向かって叫ぶ。それは自分のいる世界において欠片が現れていたからだ。

 

「マリィ!!」

 

叫んだと同時に永遠の刹那が黄昏の女神を抱きとめる。傷は神格を破壊するには至っていないが弱っている事には変わりはない。それ見ている自己愛の化身はただただ嘲笑っている。

 

「おい、相棒!あれってまずくないか?女神が攻撃された事で座の機構が崩れてる!」

 

サタナが座における最もあってはならない事に気づくが、自分達は何も手出しする事が出来ない。邪神の驚異から守られている反面、手出ししない事が守られている条件なのだ。故に邪神も座に居る黄昏の女神も自分達を知覚出来ていない。

 

「やはりに座に来る者が現れたか、手を貸そう。我が愚息よ」

 

「相変わらず女には甘いのだな、カールよ」

 

「お前ら・・・」

 

女神が攻撃された事で守護者の全てが現れる。だが、フォルはこの三人が邪神に勝てない事を信じたくはないが確信してしまっていた。

 

「ああ、そうだ。女神の機構が崩れた事で三人が覇道の食い合いを始めている!」

 

覇道神は己の理で世界を塗り替える神。座に付ける者はその中でたった一人である。

 

女神の特異性は全てを抱きしめるという渇望から発生した覇道共存だ。本来は共存が不可能のであるはずの覇道神を、食い合いさせることなく存在させる特異性。

 

女神の加護とも言えるこの共存を崩された今、三神はお互いを潰し合いながら戦いを挑むに等しい。

 

「ダメだ・・・ハイドリヒ卿!副首領閣下!!戦っちゃダメだーー!!」

 

サタナは叫ぶがその声は聞こえず、届く事もない。真っ先に向かって行くのが、黄金の獣たるラインハルト・ハイドリヒ。

 

彼は森羅万象、ありとあらゆる物を分け隔てなく愛している。その愛は破壊という形でしか表せない。故に敬意を持って相手を破壊する。

 

Gladsheimr(至高天)――― Longinus Dreizehn Orden(聖槍十三騎士団)!」

 

自らの旗に集った愛すべき英雄達と共に突撃する。その手にある槍はかつて聖人と呼ばれた人物を貫き、星の隕鉄から鍛えられた神殺しを体現するもの。

 

『なんだ?塵芥が集まった所で所詮は塵芥は塵芥だろうが!』

 

まるで虫を追い払うような動作で、黄金の獣の軍勢の突撃を吹き飛ばしてしまった。

 

残ったのは大隊長の三人と自身のみ。白騎士が向かっていくが、その牙が届く前に質量に押し潰され、霧散してしまった。

 

「おのれ、燃え尽きろぉ!!」

 

赤騎士が邪神へ向けて特大の炎を放つ。波の覇道神ならば一瞬で焼き尽くされるであろう熱量が向かっていく。

 

Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)

 

合わせるように黒騎士が幕引きの一撃を繰り出す。二つの攻撃は確実に邪神を捉えた。

 

『何だァ?ぬる湯でも出てきたかぁ?臭いんだよ』

 

蝋燭の火を吹き消すかのように赤騎士の炎を消し去り、黒騎士を虫でも潰し殺すかのように圧殺した。

 

黄金の光を帯びた聖槍が迫っていく。邪神は意にも返さず、邪魔な物を叩き落すように槍を落とし、黄金の獣に圧力をかけていく。

 

「ぐ・・・ぬううう!!」

 

「ハイドリヒ!!」

 

水銀が叫ぶが上下左右、四方から圧力をかけられている黄金の獣の身体に罅が入る。

 

「卿ら、私は・・・ここまで・・・だ」

 

「ラインハルト!」

 

黄金の獣は邪神の圧力によって砕かれてしまった。神殺しの槍の穂先を遺して。

 

『集まった所で糞は所詮糞だなぁ?』

 

「う・・おおおおおお!下種が、貴様は誰を踏みしめている!!」

 

水銀は怒りに狂い、その手に暗黒物質を凝縮させていく。それは、宇宙に関する書物を読んだ事があるのならば誰もが知っている現象。

 

Spem metus sequitur(恐れは望みの後ろからついてくる) Disce libens(喜んで学べ)

 

暗黒天体創造。水銀がありとあらゆる宇宙から暗黒物質をかき集め、重力崩壊を起こすブラックホールを作り上げ、相手に放つ占星術の一つだ。

 

水銀は自滅因子たるラインハルトとは違い、占星術などの咒によって座を掴んだ咒法の神なのだ。

 

だが、邪神は。

 

「ああ?うるさいぞ?耳元で騒ぐな」

 

赤ん坊が初めて親の指を掴むような仕草で暗黒天体創造を握りつぶしてしまった。

 

「何だよ・・・これ。ハイドリヒ卿と副首領が全力で戦って負けるなんて」

 

「ありえねえ・・・俺達、聖槍十三騎士団黒円卓の双首領閣下が」

 

サタナとフォルは目の前で起こっている事が信じられずにいた。自分達を認め、破壊の愛という厳しくとも導く愛を示してくれた黄金が。

 

聖槍十三騎士団黒円卓の人員として洗礼を施し、魔名を名づけてくれた魔術の師が倒されていく。

 

そして、自分達は何も出来ないもどかしさだけが募り、届かない声を叫ぶ。

 

「ぐ・・・ぬ・・・・マルグ・・・リット・・すまない・・・」

 

平手打ちの動作で繰り出された衝撃が、水銀の蛇を硝子細工を割るかのように砕かれてしまった。

 

「カリオストロォ―――――!!!」

 

「てんめぇーーーーー!」

 

「あああ・・・鬱陶しいぞ!」

 

「ぐわあああああ!」

 

向かっていった永遠の刹那をまるで、ゴミを投げるように特異点から吹き飛ばした。

 

今や守護者はすべて消滅し、負傷し座に残った黄昏の女神がいるのみ。

 

「お前だ、お前がいるから俺は一人になれない」

 

「痛い!やめ・・・てえ」

 

邪神は女神の髪を掴み、座に叩きつけその足で何度も何度も踏む始めた。

 

「お前がお前が俺に触る!鬱陶しいんだよ!触るな消えてなくなれ!」

 

「ぎゃあ!あっ!がぁっ!ぎゃう!!」

 

踏まれるたびに黄昏の女神の身体は崩壊していく、彼女を守ろうとする魂も砕かれていき遂には流血に近い現象が起こる。

 

「ごぼっ!い・・た・・ぶふっ!」

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「マリィさああああああああああああん!」

 

二人が叫びを上げるが、邪神は女神を踏み砕く寸前になるとその身の上に座り、消滅させた。

 

「あ・・ああああっ」

 

「マリィさんが・・・俺達が守護すべき・・・・黄昏の女神が」

 

『これで邪魔者はいなくなった。清々したなぁ・・・塵芥掃除ができて気分がいい』

 

邪神は気づいていなかった。壊した黄昏の中に己が塵芥と断ずるものが入っていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを見届けた二人は意識が覚醒し、自分達の世界で墜落した島の砂浜で目を覚ました。

 

「うう・・・」

 

「あ、相棒?」

 

二人は起き上がると海に向かい、吐いてしまった。胃液しか出てこないが二人にとって守るべき存在の黄昏の女神が、一つの並行世界であれほどまでに残忍極まる殺され方を目撃した事による拒絶感からくるものであった。

 

「うぐううう!うえええ!」

 

「ゲホッ!ゴボッ!!」

 

機体の方は木々に墜落したおかげか損傷は軽微だが、二人で協力しなければ飛行は不可能。

 

「決着は後回しだな・・・サタナ」

 

「ああ、そうだな。相棒」

 

落ち着くと同時に二人の機体へ雑音混じりの通信が入った。それを急いで受信し応答する。

 

「応答・・・し・・・フォ・・・く」

 

声の主はどうやら櫻井のようで必死なようだ。それに応えるため大声でフォルは声を聞かせる。

 

「櫻井!俺達は無事だ!みんなにも伝えてくれ!」

 

「・・・わ・・・!ならず・・・もど・・・!」

 

通信が切れ、フォルは軽くため息をつくと相棒であるサタナに振り向いた。

 

「恐らくだが、お前の妹が覇道の理で攻めて来るかもしれねえな」

 

「!!アイツみたいになってか?」

 

「ああ、だからこそ。勝負はおあずけだ。アイツ等にだって協力してもらう時が来る」

 

「そうか・・・」

 

二人は期待を同時に展開すると互いに支え合うような格好で飛行を開始した。

 

「とにかく、帰ろうぜ?山田先生のお説教が待ってるからな」

 

「勘弁してくれよ・・・全く」

 

座標を確認しながら戻っていく。この後にラインハルトが気まぐれで降りてくるのをふたりは知る由もなかった。




マリィイイイイイイイイイイイイイ!

邪神に殺されるシーンは独自解釈してますのでご了承を。

あのキャラは吐き気を催す邪悪系としては最高峰だと思います。

矛盾を利用した力というのもまたいい味かと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。