無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「遂に守護者となったか」

「だが、これでは足りんな」

「あのような事は決して繰り返してはならぬのだ」

「そう、あの出来事だけは」

演説・???


第二十劇 相克の覇道

流出に至った二人は千雨と対峙していた。

 

本来、流出に至った覇道神が複数現れた場合、互いの理によるせめぎ合いが発生してしまう。

 

 

この二人の流出は次代の覇道神が当代の覇道神を支えるという、座の機構そのものから逸脱している。

 

 

流出へ至る覇道神は本来、当代の座に挑む為に理を流すが、この覇道神達は当代を護る為に座へ至る事を放棄したのだ。

 

 

その為に一人は当代の座の容量を増やし守護する存在となり、一人は当代を初めとする覇道神達を支える支柱の存在となった。

 

 

「なんなのよ、ナンナノヨ!!アンタ達はァああああああ!!」

 

千雨は覇道の神となった二人へ突撃し剣を振り下ろした。

 

その剣には自分が得た力を収束させた一撃で自信を持っていた。

 

「哀れだな、千雨」

 

その一撃を受け止めたのはサタナだ。剣で受け止めたのではなく腕で防御したのだ、その一撃を受け止めなければならないと自分に言い聞かせたかのように。

 

「く!くそぉ!!」

 

「哀れだ、哀れすぎてこちらが泣けてくる」

 

サタナはそのまま千雨の頬に平手打ちをした。それだけでも人間の域を超えており、千雨は体制を崩した。

 

「劣等種のくせに・・劣等種である男の癖になんで私の先にいるのよ!ふざけるなあああ!!」

 

自分よりも先へ行くことを許さない。それを聞いたサタナとフォルは城で初めて友好を深めた時のルサルカを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時のルサルカには珍しくアルコールが入っており、泥酔していた。

 

話を聞いてくれる二人に自分の思いを愚痴と共に全て吐き出した。

 

『私!怖かったのよ、置いていかれるのが!嫌なのよ、抜かされるのが!歩くの遅いから!追いつけないなら停めてやろうって、・・・そう思ったのよ! 文句ある!?』

 

『『ありませんよ』』

 

『私、追いつきたい人がいるの、とても大切で・・・愛・・・すぴー』

 

酔いが回りすぎたのかテーブルに突っ伏した状態でルサルカは眠ってしまった。

 

『寝ちまったな、ルサルカさん』

 

『とりあえず、毛布くらいはかけておかないと』

 

ルサルカが追いつきたい理由、それは自分が愛した人の隣へ行き共に歩んで行きたかった純粋な思いなのだろう。

 

サタナは毛布をルサルカにかけながら思った。

 

この人は寂しがり屋なだけじゃないのかと。掴み所がなく、鋭いところを見せる時もあるがきっとそうなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他人を思っているようでその実、利用できるかしか考えていない。今のお前は道化だ、千雨」

 

サタナは二度目の平手打ちした後、自分の獲物であるバスターソードを形成し、突きつける。

 

「うるさい!もう私は私だけあればいい!!」

 

天眼の模様が赤くなり、宿った力が更に増大する。

 

「お前はそんなにも自分しか見ないのか」

 

繰り出される刃の雨に対し竜剣で弾く。

 

斬撃を弾くたびに分かる、コイツは力を得てはしゃいでいる子供だ。

 

思い通りにならないからと癇癪を起こし八つ当たりしているだけ。

 

「お前は止めなきゃならねえわな」

 

千雨の頭上から声が聞こえる、その声は哀れみではなく敵としか認識していない。

 

 

「共にありし六つの杯を満たす、円舞曲を踊ろう。我は蒼き雫なり」

 

 

フォルが口にしたのは存在している意志の詠唱。

 

 

「今こそ舞うがいい――blau Gerinnsel」

 

 

形となって現れ、六つのビットが千雨を襲う。

 

「ビットなんか今更!!」

 

千雨は回避しているが避ければ避けるほど、精度が上がっていく。

 

 

「うああっ!!」

 

ついには千雨を捉えるが牽制として使っているように見える。

 

その中でセシリアは呼び出された武装を見ていた。

 

「ブルー・ティアーズ・・・ですの?」

 

自分の記憶が正しければ、現れたビットは間違いなくブルー・ティアーズの武装そのもの。

 

その間にもサタナと千雨の戦いは続いている。

 

「もう、お前の創造は俺達には通用しないぞ?」

 

剣舞を続ける中、たった一言が千雨に対して深く突き刺さる。

 

「なんですって!?」

 

「俺達は更に上へと至った。お前も分かってるはずだぜ?俺達に勝てないと」

 

自分自身でも気づいていた。

 

斬撃を繰り出しき続けていても追いつけない領域に二人は立っている。

 

「ふざけるな、男なんて男なんて全て塵芥くせに!」

 

何度も言葉を紡ぐが、フォルは千雨に対し無駄だと悟った。

 

 

「・・お仕置きだ。キツイのいくぞ?」

 

手のひらに風が集まっていく、見えない弾丸が生成されていき、それを圧し固めている。

 

「天を泳ぎ、吹き荒ぶ風は爪の如く。我は龍の咆哮」

 

「全てを押し返す――Methyl Drache」

 

 

圧し固められた空気が千雨に向かい、吹き飛ばす。

 

「わあああ!?」

 

その一撃は衝撃砲に似ており、気付いたのは鈴だ。

 

「甲龍・・・よね?」

 

 

自分のISは確かに身に纏っている。

 

なぜフォルがそれを使えるのかと鈴は疑問を持たずにいられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百式・春雨はもはや空中戦の為の機械となり戦闘用の意味をなしていない。

 

流出に至った二人には聞こえていた。自分を開放して欲しいと。

 

その願いに応えるため、二人は同時に頷く。

 

 

 

「相棒」

 

「ああ・・・分かってる」

 

サタナとフォルは散開し、サタナが前から追い込む。

 

「なんで、なんで私だけがいつもーーーーー!!」」

 

千雨にとって最も屈辱的な事は自らの名誉を傷つけられるのだと知っていた。

 

ゆえに見せてやろう。他の男に雪片(おんな)が抱かれるというものを。

 

 

 

 

「ああ、麗しき雪の欠片よ。輝きこそが道標。我は白き夜の刃」

 

「斬り開くがいい――Verstreute weiße Nacht」

 

その手には初期装備のブレードが握られている。

 

ブレードの刀身がエネルギー状に変化し、零落白夜を発動した状態で千雨へと向かっていく。

 

「なんで、なんでアンタが千冬お姉ちゃんの技を使ってるのよォー!!」

 

激昂と共にフォルへ向かって行き、零落白夜を発動させ刃を振り下ろす。

 

それを待っていたかのようにフォルは横薙ぎの一閃で千雨を斬った。

 

「他の人間に家族との繋がりを使われた気分はどうだった?これが奪われるという事だ」

 

その目は黄金の獣が相手を見つめるものに似ている。

 

王としての風格では叶わないが、それでも人間を恐怖させる事は可能だ。

 

「取り戻したいか?もっとも、他の(使い手)に抱かれた雪片(おんな)を許容できる度量がお前にあれば、な?」

 

 

「く・・・・」

 

千雨は気絶し、額にある点眼の模様も消えていた。

 

創造の使徒となり、ISを使って仲間内での戦闘で罰則は免れないだろう。

 

その時には千冬も動くだろうが、二人にとってはそちらが問題だ。

 

「作戦終了・・・だが」

 

「ああ、俺達は」

 

戦闘がは終わったが二人は浮かない顔をして空を見上げている。

 

この臨海学校が終われば、城に戻らねばならないと二人の中で確信めいたものがあった。

 

「サタナ!」

 

「フォルさん!!」

 

箒とセシリアを筆頭に代表候補生達が近づいて来る。

 

涙を堪えたり、泣きながら悪態をついたりするが無事なのを喜んでいる。

 

「悪いがコイツを旅館まで運んでくれ」

 

気絶した千雨を代表候補生達に預け、フォルはサタナの隣へと並ぶ。

 

「アンタ達はどうするの?」

 

鈴が何かを察しているかのように二人を見て話しかけていた。

 

「俺達にはまだ用があってな、後から帰るさ」

 

「すぐに帰ってきてね?」

 

「・・・・待っているぞ」

 

シャルロットとラウラも察したように旅館へと撤退していき、箒、セシリア、鈴は気絶した千雨を抱えてシャルロット達へと続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と・・・俺の用は一つだけだな」

 

「・・・・相棒、お前」

 

フォルの様子がいつもと違う、冷静なようでバカ言ってる顔じゃない。

 

途中で止められた喧嘩を再開しに来た。そんな雰囲気だ。

 

 

「ああ、そうだ。俺はお前とケリを着けなきゃならねぇんだよ」

 

「なんでだよ、なんで俺と相棒が!」

 

「分かってねえのか?いや、おぼろげに分かってるはずだよな?」

 

言いたい事は一つだけ、自分達の力だろう。味方を引き込むことで増大していく性質をお互い持っている。

 

「覇道神同士は本来、仲良くできねぇんだよ。みんなで仲良く友情パワーなんざ無理だ」

 

「っ・・・!」

 

「だったら、俺がアイツ等を全員取り込んでやる。そうすりゃあ女神を守れる力にはなるだろうよ」

 

「ざけんな・・・・・ふざけんじゃねえぞ!!」

 

サタナ・ゲルリッツという仮面が剥がされ、今のサタナは織斑一夏という存在に戻ってしまっていた。

 

「お前に渡してたまるか!箒も、鈴も、セシリアも、シャルも、ラウラも渡さねえ!!アイツ等は人間だろうが!!」

 

「はっ!まだ目を背けようとすんのか?アイツ等はもう異能者だ。人間じゃねえんだよ!」

 

「なっ!」

 

今のフォルもフォル=ネウス・シュミットという仮面が剥がれ、相克である鏡月正次

という存在に戻っている。

 

異能者とはその力を発現した時点で人間という殻を自覚なしに破っている。

 

気づくべき事に気づけと言葉で発している。

 

「俺の仲間を譲ってたまるか!!お前がそれを取り込むいうなら俺はそれを止めさせる!」

 

「やってみろよ?見捨てられたとか言っときながら、自分が可哀想だと騒いでるようにしか聞こえねえんだよ!この、タコが!!」

 

 

 

開始の合図を知っていたかのようにフォルは拳を不意打ちで撃ち込んだ。

 

 

「がはっ!?て・・めえ」

 

「怒ったか?来いよ、超絶天然ジゴロ野郎。俺はいい加減にイラついてたんだからよ!!」

 

「うおあああああ!!」

 

拳を握り、仕返しといわんばかりにフォルの頬を捉え殴りつける。

 

「ぐあっ!は・・・どうした?腰が入ってもいねえじゃねえか・・・・!」

 

サタナの胸倉を掴み、左アッパーで顎を殴り続ける。

 

「がァッ!?ぐは!っああああ!!」

 

フォルが拳を振り上げる一瞬を見切り頭突きで額を捉える。

 

「げぁあ!」

 

「うおらあああああ!」

 

サタナはフォルの頭を掴むと同時に頭突きを止めようとしない。

 

「ぐっ・・げはあ!」

 

腹部へと蹴りを打ち込み、サタナを引き剥がす。

 

「ごはっ!?・・・・う・・・ぐ」

 

「はぁ・・はぁ・・宣言してても・・、何もしてねえ・・・だろう・・が・・・!」

 

「なんだ・・と?」

 

「そう・・だろうが!俺がお膳立てしてやってようやく動く、それがてめえだろう!」

 

互いに胸倉を掴んだまま殴るのを止めようとはしない。

 

「ぐがああ!てめ・・ぇ!!」

 

「ごはっ!は・・・ようやく・・やる気出した・・・かよ、寝てんじゃねえぞ!!」

 

右ストレートを打ち込まれながらも、左フックで更に殴り返していく。

 

「なぁ・・一夏、お前はやっぱり、てめえで考え・・・てねえ・・・だろ」

 

「その名前で・・・呼ぶんじゃねえぇ!」

 

「吼えるだけじゃなくちったあ、こっちの質問に答えてみろや!!」

 

クロスカウンター気味にフォルの拳がサタナを捉え、殴り倒される。

 

「が・・・あ・・!俺は・・・支えてくれた人を守るんだ!だから剣になる!」

 

「お笑い種じゃねぇか・・・ハイドリヒ卿に忠誠を誓った時点で守るも何もねえんだよ!脳味噌退行させてんじゃねえぞ!」

 

「なんだよ!お前は違うってのか!!」

 

「ああ、そうだ。流出に至っちまったが俺はハイドリヒ卿の爪牙である事を捨てる気は・・・ねえ!」

 

左ストレートの一撃がサタナに撃ち込まれ呻く。弱っているとはいえど力は十分にある。

 

「フォ・・・ル・・・お・・・前・・!!」

 

「どうした・・・よ?力を得て鞍替えか?自分一人でやろうってか?ざけてんじゃねえぞ!」

 

サタナはフォルを睨む。お前は役目から逃げようとしているのだと。

 

「おうああああああああ!正次ゥゥゥ!」

 

何も言えない、ただ目の前の奴を殴る。お互いに思うからこそ止まらない。

 

「ぐぶぅっ・・・く・・効いたぁ・・おまけに・・・一番呼ばれたくねえ・・名前で呼びや・・・がって」

 

「お前も・・呼んでただろう・・が!」

 

「はっ・・お互い様ってか?」

 

握力も無くなり、呼吸も荒い。体力も削られており殴り合っていれば当然と言える状態だ。

 

「ち・・だが、俺は狙い続けるぜ?俺は・・なァ!」

 

「させねえよォォ!!」

 

お互いの拳が顔面に炸裂し、互いに一つの島へ落下した。




「これが再び見ることが叶うとは」

「歓喜した既知を再び見よう」

「流れというものに感謝せねばなるまい」

「これこそが望んでいたものだ」


演説・???

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