ギロチンに注ごう 飲み物を
ギロチンの渇きを癒すため・・・
欲しいのは 血 血 血
歌・黄昏の女神
[推奨BGM Dies iraeより『Thrud Walkure』]
千雨と騎士団メンバーの戦いは千雨へと優勢が傾いていた。螢、ルサルカの体力は限界に達し、ベアトリスはISのエネルギーが尽きかけていた。
「いい加減に倒れろおおおお!!」
「っう!」
ベアトリスは千雨からの攻撃を捌き続けていた。剣術においてはベアトリスの経験が優っている。
「私だって負けず嫌いですからね!おまけに妹の前で倒れるわけにはいかないんです!」
「どうして、追い込んでるのは私のはずなのに!!」
「『戦場を照らす閃光になりたい』それが私の渇望、後輩達が迷わないよう行き先を指し示す閃光になりたい!」
ベアトリスは無意識に自分の決意を口にしていた、それは死すら覚悟したという事である。
「笑っちゃうわ!みんな私に従ってればいいのに」
「ふざけないで!お姉ちゃんを殺させはしないわ!!」
螢はベアトリスを馬鹿にされた怒りで、千雨に突撃し、得意の斬撃を繰り出すが防がれてしまう。
「私は絶対に認めない!!」
◇
「(ああ、サタナは向かったのか。かなり遠い場所に居たもんな、ちょうど真上で戦ってやがる。俺も行くか)」
フォルは意識を覚醒させ、新たな創造を模倣する。時間が止まればいいと、今が永遠に続いて欲しいと、この日常が終わって欲しくない、いつかは終わってしまうと分かっていても、愛しい刹那が永遠にあって欲しいと願い、神へと至った青年の渇望を己と同化させる。
「もう、これ以上、俺の大切な
◇
「終わりよ!ベアトリス!!」
「お姉ちゃん!!」
千雨の刃がベアトリスへと襲いかかった。それは確実に必殺の一撃で回避する事は不可能であった。
「ATEH MALKUTH VE-GEBURAH VE-GEDULAH LE-OLAM AMEN」
「
「
「
「
その詠唱は歌声のように紡がれている。しかし、騎士団達が使う詠唱とは全くかけ離れておりこの世界では神域に近いものだ。
「アクセス、マスター!!モード“エノク”より、サハリエル実行!!」
その詠唱の力が解放され、黄金の鎖が千雨へと向かい束縛した。
「ぐっ!?何よ!この鎖は!?」
「よかった!間に合ったみたいだね!」
「シャ、シャルロットさん!?」
千雨を束縛した鎖を使っている詠唱者の正体はシャルロットだった。愛機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムIIのスラスターには、天使を思わせるようなエネルギーの翼が形成されている。
「ギリギリだったか!」
「よかったわ、三人とも無事で!」
「三人は早く補給へ戻ってくれ!!」
「ここはわたくし達が引き止めますわ!」
シャルロットは皮切りにラウラ、鈴、箒、セシリアの四人も次々と合流し、騎士団メンバーを守るように自分たちの後ろへ待機させた。
「で、でも」
「一時撤退よ、このままじゃエネルギーが足りないわ」
「お姉ちゃん、今は任せよう?後から戻ってくれば大丈夫だから」
「っ!四人とも、お願いしますね!」
ベアトリスはルサルカを支え、螢はベアトリスを支えて自分達の機体のバーニアを全開にし、補給へと戻っていった。
「うあああああああ!!」
千雨は手にしたクレイモアで黄金の鎖を断ち切り、その身を開放した。その目には怒りが宿っている。
「邪魔をするの?・・・貴女達まで」
「今のアンタは好きになれないのよ」
「フォルさん、サタナさんを撃墜して、ベアトリスさん達まで殺そうとしたのですから」
「撃墜してでもお前を止める」
「危険だよ、今の千雨は」
四人の言葉を聞いた瞬間、千雨は突撃し斬りかかってくるが四人はそれぞれ散開して回避した。
「思い通りにならないなら、みんな消えろォォォ!!」
子供の癇癪のように箒へと向かい、斬りかかり箒はそれを雨月で受け止めた。
「私が一番技量が低い事を知った上での攻撃か!」
「そうよォ!一番弱い奴を狙うのは基本じゃないの!!」
箒が千雨と刀でぶつかり合っている最中、ラウラは眼帯を外し己が最も共鳴した力を紡ぐ詠唱を口にした。
「アクセス、我が
「おお、グロオリア。我らいざ征き征きて王冠の座へ駆け上がり、愚昧な神を引きずり下ろさん。堕ちろ。堕ちろ。堕ちろ。堕ちろ!!Fuck off foolish God!!」
ラウラが最も共鳴した力、それは原初の罪と呼ばれる黒き力。力を欲した己が罪を力に変えたいという思いが共鳴に至ったのだろう。彼女自身は原初の罪という他に惑星の祝福を受けている事にも気づいていない。
「主が彼の父祖の悪をお忘れにならぬよう。母の罪も消されることのないよう
その悪と罪は常に主の御前に留められ、その名は地上から断たれるように」
「彼は慈しみの業を行うことを心に留めず、貧しく乏しい人々、心の挫けた人々を死に追いやった」
「彼は呪うことを好んだのだから、呪いは彼自身に返るように。祝福することを望まなかったのだから、祝福は彼を遠ざかるように」
「呪いを衣として身に纏え。呪いが水ように腑へ、油のように骨髄へ、纏いし呪いは、汝を縊る帯となれ。ゾット・ペウラット・ソテナイ・メエット・アドナイ・ヴェハドヴェリーム・ラア・アル・ナフシー!レェェスト・イィィン!!」
詠唱後にラウラはシュヴァルツェア・レーゲンに装備されている大口径レールカノン
を使い、放ったのは罪そのものを帯びた黒い光球だった。
「!!」
「くらう訳にいかないわ!」
紙一重で箒と千雨は同時に避けたが、着弾した海上はまるで抉り取られたかのようにクレーターができ、海水がそれを覆い隠した。
「っ・・これほどの威力とは!原初の罪とは制御できないものなのだな」
発射した反動と共に自分がどれだけ強力な力を得たのかを改めて認識したラウラはレールガンとベルゼバブの光球を交互に撃ち、牽制し始めた。
◇
「どういう事!?福音が居た時まではこんな力はなかったはずなのに!!」
「力を得たのはお二人だけではありません!千雨さん、今の貴女は女性の英雄でしょう。それなら、わたくしは貴女に反逆しますわ!」
「まさか、セシリアも!?」
千雨が距離を開けた先にはセシリアがレイピアを両手に持ち、構えてしていた。
「天墜せよ我が守護星、鋼の
セシリアが紡ぎ始めるその詠唱は惑星の輝きを覆い隠す冥王の影。敗者が英雄へと反逆するという敗者が掲げる狼煙。
「毒蛇に愛を奪われて、悲哀の雫が頬を伝う。眩きかつての幸福は闇の底へと消え去った」
「ああ、雄弁なる
「嘆きの琴と、慟哭さけびの詩を、涙と共に奏でよう。死神さえも魅了して吟遊詩人は黄泉を降る」
「だから願う、愛しい人よ。どうか
「光で焼き尽くされぬよう優しく無明へ沈めてほしい。煌く思い出は、決して嘘ではないのだから」
「ならばこそ、呪えよ冥王。目覚めの時は訪れた。怨みの叫びよ、天へ轟け。輝く銀河を喰らうのだ」
「これが、我らの
「
それは本来、民に恩恵をもたらし、英雄を生み出した別世界の力であり星を消滅させる力。セシリアは英雄を生み出す恩恵そのものを無効化する反逆の蒼黒い輝きを得ている。
この世界においては強者へ対する逆襲の力となっており、相手が強者であろうとすればするほどにセシリアは力を増すのだ。
惑星の力を発現したブルー・プラネットの背後にはセシリアを守るように金髪の女性が立っていた。どこかセシリアに似ており、気品と優しさ溢れる顔でセシリアを見守っているようにも見える。
「今度はわたくしが相手でしてよ!千雨さん!!」
「付け焼刃の剣術で私に勝てるかぁ!!」
剣術で自分に勝てるものはいない。そう自負している千雨は驚愕した。接近戦を苦手とするはずのセシリアが剣術で渡り合ってきている。
「どうして!?私の方が強いはずなのに!?」
「わたくしは敗者ですわ・・・それでも強者に逆襲する事を決意したのです!!」
「っ!剣がぶつかる度に力が抜ける!?」
「この冥王星の力は強者に対して力を削いでいくのですわ!」
セシリアの言葉を聞いたと同時に千雨は後退する。力を削がれては直感的に危険だと悟り、セシリアから距離を取ったのだ。
◇
「逃がすと思ってんの?千雨!」
「鈴!?」
「アンタを一発殴らなきゃ気が済まないのよ!最初から飛ばしていくわよ!」
鈴は武装を展開せず、次々に印を結んでいく。それは力を得る為にある男の試練を乗り越えた時と同じように。
本来、鈴が得た力は激戦を繰り広げた夢界でしか使う事が出来ない。しかし、後押ししてくれる何かが邯鄲の夢を現実で必要だと感じるこの時に使うことができる。
「私はね、空想上の生物だけど四神が大好きなのよ。その他の四霊もね?」
「それがどうしたのよ!」
「終段・顕象!!」
「左青龍避万兵、右白虎避不祥、前朱雀避口舌、後玄武避万鬼!!四神四霊!」
「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」
「青龍・白虎・朱雀・玄武・応龍・麒麟・霊亀・鳳凰!」
鈴が思い描いたのは四神及び四霊を使役する事ではなく、協同することだ。今まで出会った友人、仲間、そして自分の乗機である甲龍との絆を四神と四霊に置き換えることで自分は仲間や想い人によって支えられ、それが己自身の力だと気付いた。
「伝説上の生物を呼ぶなんて生意気なのよォ!!」
「
鈴がフォルを応龍と置き換えているのは人間としての自分を犠牲にし、人間外の存在になっている事に起因する。
鈴がフォルから見出した力は『鏡面』であった。模倣するという点に注目していた鈴は彼には洞察力と観察力があるのではと考えていた。
「鏡ならアンタへの攻撃が逆方向へ返るでしょ!!」
「あぐっ!?私の攻撃の逆方向から攻撃が!」
鈴の手に武器は無い。ただISを展開している状態のままであり、その拳で殴っただけだ。
「どいつもこいつも!!私を舐めるな!!」
次に狙いを定めたのは力の制御が出来ていないラウラだ。原罪の力は他の力と違い、清い物ではなく、むしろ忌み嫌う類のものだろう。忌み嫌っていようとも己自身が認めない限り制御は出来ない。
「ラウラ!!」
「貰ったわ!落ちろォ!!」
「なっ!?」
千雨の剣が目前へと迫り、ラウラは死を覚悟した。急速な斬撃に防御も回避も不可能ゆえ抵抗することが出来ない。
「させん!!天魔覆滅!」
「うあ!?ほ・・・箒!?アンタ!!」
千雨を捉えたのは刀の鋒を模した黄金の光だ。撃ったのは紅椿を駆り、その手にはもう一つの武装である雨月で剣の刺突の動作をしたのだと一目でわかる。
「私の仲間を傷つけさせない!」
箒の目には明らかに見て取れるほどの怒りが宿っていた。信じていたからでもない、幼なじみであるからでもない、一人の人間として許せないといった感情が湧き上がっている。
箒が別世界で得た力。天魔覆滅は相手の弱体化と特攻を持つ一撃を放つ力である。しかし、今の箒には未だ足りない資質があるため本来の威力まで至ってはいなかった。
「一番弱小の癖に歯向かうなぁ!!」
「く!私は確かに弱い!それでも私は先へと成長していくと決めたんだ!!」
千雨の攻撃を受け返し始めるが、箒が訓練してきたのは剣術ではなく剣道であるために柔軟な動きと発想ができず、追い詰められていく。
◇
「間に合ってくれよ!」
ISのスラスターを最大出力で代表候補生達の元へ向かっているのはサタナだった。彼は千雨に剣を突き立てられたと同時に吹き飛ばされ、かなりの距離を離れていたのだ。
「相棒・・・起きててくれよ!」
サタナは相克の存在を思い浮かべながら先へ先へと進んでいった。剣戟は二次移行を果たしており、剣戟・後光という名に変わっている。
流出位階となり、理を流れ出しているがサタナは「座」へと至るつもりはないと自ら神域闘争から降りた。
神になろうとも自分は自分、爪牙であり女神を守る守護者。その決意を胸に仲間のもとへと急いだ。
◇
代表候補生達は千雨を追い詰めていた。原初の罪、天魔を滅する光、邯鄲の夢、天使の御技、星を滅する黒い惑星。その全てが千雨に襲いかかっていたからだ。
「はぁ・・はぁ・・負けない!負けたくない!!私の願いを叶えろ!!聖遺物!!」
千雨が聖遺物に願いを願った瞬間、千雨は光に包まれその額には天眼のような紋様が現れていた。
「塵芥共が・・・私以外消えてなくなれ」
さっきまでの子供のような癇癪が無くなり、明確な殺意だけが千雨から放たれている。だが、それ以上に自己愛が極端に強くなり、己自身しか知覚出来ていない。
あらゆる可能性の世界からの力を得た代表候補生達であったが、その弊害が千雨の力となって現れてしまった。
その力の正体に真っ先に気付いたのは箒だった。その影響で箒は歯をガチガチと鳴らし、その顔は恐怖で歪んでいた。
「どうしたの!?箒」
「あれは・・あれだけはダメだ・・あれだけは・・」
「しっかりなさいませ!」
箒は顔色を青くし、何かに怯えるように震え続けている。その正体が分からないシャルロット達は混乱していた。
「滅尽滅相ォォ!!!」
「「「「「きゃああああああああ!!」」」」」
咆哮を上げるような声で叫び、代表候補生達は発生した衝撃波でISのエネルギーを大幅に削られ、力を削がれた。
「このままじゃ・・」
「塵芥同士は塵芥同士喰らいあって消えろォォォ!!」
◇
「(身体・・・動かねえのかよ・・・)」
「[情けないぞ?許可してやるから早くお前の宝石達を助けろ。魂に関してはギリギリだが耐えられるはずだ]」
フォルは懐中で自分の内にある声と会話していた。その声の主は藤井蓮、永遠の刹那とも言われる覇道の神であり、黄昏の女神を護る守護者の一人。
「(アンタは・・・ああ、そうか)」
「[刹那を愛するなら使えるだろ?それに邪神の残滓が来てるぞ]」
「(分かってる、アイツ等を失ってたまるか。奴は倒す!)」
「(・・・行きますよ!マスター!)」
ISの意志である鏡花自身も己の身体の変化に気づいていない。その翼が断頭台の刃となり、処刑の器具の一部となっている事に。
『わたしが、全部包むから』
女神の声が聞こえたフォルは無償の愛を感じていた。成長し親類全てからは感じられなかった大きく包み込む愛、それこそが女神の抱擁だ。即ち、神の恩恵を受け、更なる高みへ昇ることが出来るのだ。
◇
千雨が代表候補生達を手にかけようとした、その瞬間に海面から水柱が昇る。水柱が海面へと戻り、そこから現れたのは人の形をした黒い異形の姿。頭髪、目は鮮血のように赤く、肌は黒炭のように黒く、背中には赤と黒に変わったISのスラスターらしき部分が刃のように変わり、更にはカドゥケウスのような紋様が左右の腕に浮かび上がっている。
「!?また塵芥が増えたの?」
「『時よ、止まれ――お前は美しい』」
その黒い異形は周りを分かっている様子はなく、詠唱を始めた。その詠唱は刹那を愛し、全てを停止させる理を持った地獄の主の力。
「
「
「
」
詠唱に込められたものは優しさも慈しみも愛も無い。ただどこまでも続く憎悪と殺意を込めて唱われる憤怒の独唱。
「
「
女神の抱擁、永遠の刹那による承認という形で模倣し、人間という殻を破ることで自らを変化させていく。
敵対する者の視点からすれば存在する全てを巻き込む最悪の異世界。
「
「
「
地獄には二つの最も大きなイメージがある。熱量により焼き尽くす炎のイメージ、もう一つが万象のあらゆるもの全てを氷結させる氷のイメージだ。
「
フォルが模倣したのは氷の地獄。存在する全てを凍てつかせ、凍結させる停止の世界だった。
「
「おおおおおおおおおおおおォォォ!!!!!」
発現と同時に鏡に映った氷結地獄を支配する仮の主が血涙を流しながら咆哮する。その雄叫びによって代表候補生達は黒い異形の正体に気付いた。
「あれは・・」
「間違いない、あの声は」
「フォル君・・・だよね?」
「ええ、確かにフォルさんですわ!ですが・・・」
「なんなのよ、あの姿・・・怖い」
それぞれがフォルが無事であったことを安堵する以上に恐怖を抱いた。今の彼には人間としての光が無いからだ。それぞれが思考している刹那にフォルは千雨へと向かっていく。
「塵芥の男がこっちに来るなァ!!」
残滓として得た力によって千雨は衝撃波をフォルへと放つ。その力の根源は自己愛、己だけを愛する心が強ければ相手を軽々と吹き飛ばしてしまう。
だが――
衝撃波がフォルの目の前で止まる。正確には少しずつだが目に見えない遅さで迫っているが遅すぎて止まっているようにしか見えない。
それをすり抜け、背中の刃が千雨を襲う。一本一本が神の首さえ落とせる神殺しを体現する斬撃、捌ききれずに吹き飛ばされるが千雨は僅かに間合いを開く事で致命傷を避けていた。
「がぁああああッ」
致命傷を避け、ISの損傷も最小限にした彼女の技量は間違いなく上がっている。
持ち直すと同時に相手を強く睨む。
「調子に乗るな!塵芥の集まり共!!私が全て駆逐してやる!!」
その瞬間、停止の模倣によって束縛している鎖を弾き飛ばした。
どれだけ停滞させようと、どれだけ早く動こうとも所詮は創造。
同じ位階ならば鬩ぎ合いは可能となってしまう。
地獄の体現者が未だ流出位階へと至れない要因、それは半身であるサタナとの合流だ。
更には氷地獄の体現という創造を使っているために言葉を発せず、思考も理性もかなぐり捨てている。
「だったら・・・」
その目に倒さなくてはならない相手が映り込む、逃がさない逃がすものかと。
「お前が消えろ!■■■■■ッ!!」
フォルが誰かの名を呼んだようだが誰の耳にも聞こえない。それはこの世界に決して存在してはならない、最悪の邪神の名前だからだ。
「塵芥が塵芥が塵芥が塵芥がァ!!」
千雨の自己愛は極限に達していた。フォルの刃とぶつかり合う度に正気を失っていく。
自分は世界最強の妹、それに相応しい実力も身に付けた。
周りもそれを認めてくれている、出来損ないである劣等種の兄とは違う。
なのに何故、人が自分から離れていくのか?自分に従ってくれていた者すら居なくなった。
女だけの世界で頂点にいるはずが引きずり下ろされた。
男性操縦者、許せない。自分に泥を塗り、最強の称号を崩した奴らを。
「お前が・・お前らがいるから!!」
「おおおおお!!」
地獄の主に言葉は通じない、思考など捨て去っている。目の前の敵の影を目に映し、相手を追いかけるだけの足、相手を滅する腕と刃。それだけしかない。
しかし――
フォルの身体にも変化が起きていた、黒炭のように黒い身体に罅が出て来ている。
究極の創造である涅槃寂静・終曲は模倣は出来ても弊害が少しずつ現れたのだ。
その弊害とは、己が展開した地獄に蝕まれる事。本来の使い手である永遠の刹那は黄昏の女神との相性がよく、その魂によって処刑刃を使う事が可能だった。
模倣者であるフォルには黄昏の女神に匹敵する至高の魂など持ち合わせてはいない。
己の聖遺物に溜め込んだ魂のみがあるだけだ。これには女神の抱擁をもってしても抑えることができない。
身体の罅は自分の魂を使い始めている証拠だ。
◇
「お、あああああ!」
拮抗していた創造同士の戦いも傾きを見せていた。千雨は少しずつだが動きを取り戻し始めている。
「動け!私はこの状況からでも勝てるの!」
千雨の剣が動き始め、フォルが振るう刃に食い込ませていく。
代表候補生達は援護に向かいたくともフォルの創造によって動く事が出来ない。
求道であったはずの創造を覇道へと進化した状態で模倣した事により、自分以外の敵味方を停止させてしまう。
千雨は動ける時間を最大限に使い、フォルの首へと刃を振るった。
「死ねええええええ!!」
同時に何かが割って入った。停止の世界で動けるものなどいないはず。
「助けられてばっかりだったから、初めて助ける事が出来たな?相棒」
「お・・・・あ・・・」
その正体は二次移行と流出位階へと至ったサタナだ。流出を発現させているが神ではなく守護者として機能している。
そのため創造のルールの中を動く事は可能だ。彼の流出は神である自分を現神である黄昏の女神の容量として機能させている。
この流出によって女神の特性である覇道共存の容量が増え、あと一人の神を待ちわびている。
「相棒!お前はお前だろうが!人形じゃないだろう!!!」
「サタ・・ナ」
「邪魔をするな!劣等種の塵芥屑がああああああ!!」
「千雨、哀れだな」
サタナにはもう、かつての姉や妹に哀れみの感情しか持ち得なかった。
自分が力を手に入れたからではない。力を示し、崇拝者の偶像と成り続けなければならない。
それは確かに周りから見れば羨望と憧れを持つだろう。
だが、その人生は人形と同じだ。本人以外の人間は差別の対象となり、実力も成功した本人と同等に見られるだろう。
家族は持て囃されるだろうがそれを自分の実力だと自惚れていく。
その流れを己が身で味わってきたからこそ、サタナは余計に哀れみしか持てなかった。
◇
「(・・俺は・・・[総ての力を得て蹂躙し尽くしたい]と願った)」
「(この女神の抱擁を失いたくない、仲間と共に進んでいきたい!)」
二つの渇望を自覚したフォルは相克の存在として更なる高みへと昇る。
黄昏の女神を守護し支えとなる覇道神として、仲間を先導する先導者として。
「
「
「
「
「
「
「
「
「
相克の存在、もう一人の神が現れる。女神を支え、他の覇道の神々の支え柱となる神が。
「
「ああ・・・残滓だが現れたか」
「この世界においても奴だけは許されぬ」
「集うがいい守護者よ」
「■■を倒す刃となれ」
演説・???