無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「ああ・・・」

「我ら以外の神座が目を覚ますか」

「歴代の者共よ」

「ああ、これこそが正に」

演説・水銀の蛇


第十六劇 我が渇望こそが原初の荘厳

臨海学校当日、それぞれの組がバスに乗り、宿泊予定の旅館へと向かっていた。

 

その中で、一組を乗せたバスは盛り上がりを見せている。

 

「じゃあ!歌います!Einsatz!」

 

バス内でのカラオケで女生徒達が盛り上がっている中、更に加速するような歌が始まった。

 

「・・・・・」

 

「へえ、良い曲だな」

 

フォルは目を閉じたまま到着を待っており、サタナはカラオケを聴いている。

 

「海よ!!」

 

ルサルカの声に全員が窓の外の景色を一斉に見る。そこには広大に広がる海原が広がっている。

 

「海ですか、日本の海は綺麗ですね」

 

「お姉ちゃんはずっと軍属だから海なんて行かなかったものね」

 

「海か、楽しみだ」

 

 

各々が楽しみを口にする中、バスは宿泊予定の旅館「花月荘」の駐車場に停車した。

 

バスから生徒達が下車し、整列する。

 

「ここが三日間お世話になる花月荘だ。従業員の方達に迷惑をかけないように!」

 

「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」

 

生徒達全員の挨拶が響く、それを見た旅館の女将らしき女性は笑顔を向けて会釈した。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね。あら?そのお顔は?」

 

「ちょっと怪我してしまいましてね」

 

職業柄、笑顔を絶やさず生徒達を見ていたが途中で千冬の顔の怪我、男性操縦者の二人に目を向けた。

 

「そうでしたか、ところで、こちらのお二人が噂の?」

 

「初めまして、フォル=ネウス・シュミットです。」

 

「サタナ=キア・ゲルリッツです。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にどうも、名前からしてドイツの方から?」

 

「はい、俺達は生まれは日本ですが、育ちはドイツです」

 

「そうでしたか。では、ご案内しますね」

 

女将の案内で、それぞれ割り当てられた部屋へと向かっていたが、男性二人だけは未だに部屋がわからなかった。

 

「ね、ね、ふぉるねーとサタサタの部屋はどこ?」

 

声をかけてきたのは布仏本音、通称のほほんさん。このように独特の愛称を付けて呼ぶらしく違和感があったが今では慣れたことだ。

 

「それが、俺達にもわからないんだ」

 

「俺は予想がつくけどな、どうせ教員と一緒じゃねえの?」

 

「その通りだ、着いてこい」

 

千冬に促され、着いていった先には「教員室」と書かれた紙が貼られた部屋の前だ。

 

個室で居たら女生徒達が流れ込んでくるのは目に見えた上での配慮だろう。

 

「さて、荷物を置いたら自由行動だ。好きに遊びに行くといい」

 

「んじゃ、遠慮なく行きますか。サタナ、先行ってるぜ?」

 

「ああ、俺も後から行く」

 

フォルは着替えの為に部屋を出て行き、サタナと千冬だけが残った。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

お互いに沈黙したままでいたが先に口を開いたのは千冬だった。

 

その目には後悔の色が宿っており、今一度戻ってきて欲しいという思いもある様子だ。

 

「一夏・・・戻れないのか?私達の所へは」

 

「その名前で呼ぶなよ。言ったはずだ、アンタは千雨しか見ていなかった。周りからも出来損ないの烙印を押され、誰も助けてくれなかった。そんな俺を受け入れてくれたのが相棒であり、聖槍十三騎士団の方々だ!」

 

「何故だ!?聖槍十三騎士団など・・危険な・・・っ!?」

 

「その先を口にしてみろ、ここでお前の首を飛ばすぞ?」

 

千冬はこの時に理解した。此処に居るのはもう自分の弟ではない、聖槍十三騎士団という魔人の騎士団の団員であることを。

 

手に届く領域には居ない、家族という枷から解き放たれた弟はもう人間ではないと。

 

「もう、あんたの所に戻る気は無い、俺はあの方の爪牙であり剣だ」

 

「・・・・」

 

「じゃあな、相棒が待ってる」

 

サタナも部屋を出て行き、千冬が一人残された。しばらく呆然としていたが洗面台へと行き、鏡の前でフォルにつけられた顔の火傷に手で触れた。

 

痛みはないが胸が苦しくなった。胸元を掴んで意味を理解する、これは後悔の痛みだ、何事もこなしていた千雨だけを見ていて、もう一人の家族を見ていなかった深い悔恨。

 

「ぐ・・・・ううううう!」

 

どんなに後悔しようともそのように接していたのは自分自身だ、今ならフォルが言い放った言葉の意味が分かる。

 

自分はブリュンヒルデという栄光に縋っていただけなのだと、名誉ばかりを求めて大切なモノに目を向けなかったのだと。

 

「確かに皮肉だな、ブリュンヒルデ(世界最強)(つみ)に焼かれて罪状に気づくとは、な」

 

苦笑しながら自分を持ち直すと教師としての仕事に取り掛かるため、自分も部屋を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相棒・・・コイツは」

 

「ああ、間違いないな」

 

サタナとフォルは目の前に生えている物に注目していた。よく見れば「引っこ抜いて下さい」と書いてある。

 

「どうするよ?」

 

「どうするって言われてもな・・・」

 

二人は少し考え込むとウサ耳を引っこ抜いた。手応えが軽いと感じた為にただの布石だったのだろう。

 

「何もなかったな?」

 

「ああ、でも束さんの事だから絶対に現れるだろ、とりあえず海に行こうぜ」

 

「そうだな」

 

二人は向かい側にある障子に視線を移した後、海水浴が許可されている海原へ向かった。

 

「ここで驚かそうと思ったけど、なるべくなら大勢いた方が面白いもんね」

 

部屋の中潜んでいた束は二人が海岸へ向かったのを確認するとフワリと居なくなった。

 

さながらそれはメルクリウスのような消え方で、陽炎のように姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海へ向かった男性二人が見たもの、並の男ならばパラダイスと言える光景だろう。

 

見渡す限りの水着、水着、水着、水着を来た女生徒だらけなのだ。

 

「はぁ、この光景は辛いな・・・」

 

「全くだ、これじゃあ俺達が場違いすぎるっての」

 

フォルは濡れても平気なノースリーブを羽織っており、サタナも同じだが帽子を被っている。

 

ベンチがある所へ向かい、羽織っていたノースリーブと帽子を脱いで水着姿になった。

 

周りではクラスメート達が泳いだり、日光浴をしたりと海を満喫している。

 

 

「わ!ミカってば胸おっきい!また育った?」

 

「きゃあ!揉まないでよ!もう!」

 

「ティナは水着大胆だねー!」

 

「そう?アメリカなら普通よ?」

 

二人は海原へ近づこうと砂浜を歩いていく、女生徒達は二人が近づいてくるのを見かけると視線を向けた。

 

「あ、フォル君とサタナ君だ!」

 

「わあ、細身なのに鍛えられてる。二人共すごい・・・」

 

「私の水着、変じゃないよね!?」

 

それぞれ自分の水着を見たり、男性二人の肉体に見惚れていたり様々な反応を見せている。

 

しばらく見回していると、後ろから誰かが近づいて来る。それは水着に着替えたベアトリス、櫻井、ルサルカ、シャルロット、セシリア、鈴だ。

 

ラウラも居るようだが、他のメンバーの後ろに隠れてしまっている。

 

「え、こんなにレベル高かったのかよ・・・」

 

「すごいな・・・」

 

「なんですか?じーっと私達を見て」

 

「変かな、私はあまり」

 

「あらあら?私達の水着姿に見惚れてるの?」

 

騎士団のメンバーはまさに見惚れると言えるレベルの貴重な水着姿だ。

 

ベアトリスは水色に近い色のビキニタイプで、ブロンドの髪と相まって美しさを強調していた。

 

櫻井は紅色のビキニだが、釣り目と黒髪が相成って情熱的な色香が漂っている。

 

ルサルカも薄い赤のビキニで、パレオをタンクトップ代わりにして小さな体型に釣り合わない大きめの双丘を強調し境界線となって可愛さと色気を演出していた。

 

セシリアは青色のビキニと下半身にはパレオを纏っており、モデル並の肢体を惜しげもなく披露している。

 

シャルロットは黄色に近い色のビキニで弾けるような明るさを強調しそれが魅力となっている。

 

鈴はオレンジ色のビキニを着ているがこちらは健康的な肢体が小悪魔的魅力を引き出している。

 

「仕方ないですわね、これだけ囲まれていては」

 

「ベアトリスさんも螢さんもすごいな・・・女の視点から見ても見惚れちゃうよ」

 

「うー、なんでルサルカはそんなにあるのよー!」

 

「ふふーん、私の勝ちね?リン」

 

ウガー!と格差社会を見せつけられた鈴は騒いでいた。

 

「ほら、ラウラ。二人に見せるんでしょ?」

 

「うう・・」

 

シャルロットに強引に引っ張り出されたラウラはタオルを身体に巻いて俯いている。

 

「ええーい!笑いたければ笑え!」

 

ヤケクソに近い言葉を吐きながらラウラは巻いていたタオルを取った。

 

そこにはフリルの付いた黒色ビキニタイプの水着を着たラウラがいた。銀髪に映えておりとても似合っている。

 

「うん、全員レベル高えわ。こりゃあ、舐めてましたごめんなさい」

 

「だな、すごいって」

 

男性二人が感想を述べているとベアトリスが話しかけてきた。

 

「二人共、申し訳ないですけど、パラソル立ててくれません?私達じゃ上手く立てられなくて」

 

「お安い御用だ、相棒!手を貸してくれや」

 

「ああ、わかった。手伝うよ」

 

二人は手際よくパラソルを立て、シートを広げ全員が座れるようにした。

 

「手際がいいな?慣れているのか?」

 

さらに声をかけて来たのは担任である千冬だ。メリハリの付いた肢体にラウラとは違う黒のビキニを着ている。

 

顔の傷が威圧感を醸し出しているがそれが強さを引き立たせる物になっており、女傑という言葉がぴったりだ。

 

「これくらいは出来ないとな」

 

「そうだな、昼食を取ってくるといい」

 

「わかった、行くか!みんな」

 

フォル達は昼食を取る為に一度、宿の方へと戻っていった。

 

「隠れてないで出てきたらどうだ?千雨」

 

「バレてたの?千冬お姉ちゃん」

 

「私と話がしたい時は、決まってお前は隠れる癖があるからな」

 

「お姉ちゃん、単刀直入に聞くわ。あの二人を倒したくないの!?」

 

「ああ、今の私にそんな気持ちは微塵もない。むしろ感謝すべきだと思っている」

 

「なんでなの!?アイツ等に感謝することなんて!」

 

「騒ぐな!それにお前もいつまで立ち止まってるつもりだ!?」

 

「っ!?」

 

姉からの厳しい叱咤と威圧に千雨は驚きを隠せなかった。自分のやってきた事は全て褒められ、受け入れてもらえた。

 

しかし、今は違う。姉は自分のやってきた事に初めて否定をしてきたのだ。千雨にとって全く有り得ない事だ。

 

「どうして!?お姉ちゃんどうしてよ!?」

 

「私はサタナにやってしまった事を後悔している。だが、償いはしていくつもりだ。ゼロからのスタートだがな」

 

「そ、そんな・・・」

 

「話は終わりか?それなら戻れ」

 

千冬が去ると千雨は拳を強く握り締めた。最も信頼していた姉までがあの二人に影響されている。

 

どうして自分だけが孤立していってしまうのか。どうして自分の行動を否定されるのか、その答えが分からないのだ。

 

「いいわ、だったら私があの二人を始末するまでよ・・・そうすればまた私は返り咲く事が出来るもの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて行き、夜となった。夕食は海鮮料理で本わさを使っている高級なものだ。

 

「久々の海鮮料理だ、コイツは最高すぎるぜ!」

 

「ああ、全くだ」

 

「お刺身なんて私も久しぶりに食べたわね」

 

「うー、ワサビは苦手なのよ~」

 

螢とルサルカも海鮮料理に舌鼓を打っている。ルサルカにいたってはワサビが苦手なようだ。

 

フォルは食べる前に刺身に少しだけ乗せて食べるのだと教えている。

 

「へえ、風味が良くなって美味しい!」

 

「だろ?これが最高なんだよ!って・・・セシリア、足は大丈夫か?痺れてるなら無理するなよ?」

 

「だ、大丈夫ですわ」

 

「背を伸ばして足の甲を八の字になるよう、しっかり重ねてゆっくり座ってみな」

 

「うう・・やってみますわ」

 

セシリアはアドバイスされた通りに座ると痺れが少しずつ取れてきたのか辛そうな表情が消えた。

 

「あら?平気になってきましたわ」

 

「無茶な座り方してりゃあ、そらあ痺れるさ」

 

その後、食事は楽しく続き、それぞれが部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事後の自由行動、フォルは許可をもらって宿の外に居た。たまには夜風に当たりたい気分になったからだ。

 

「おそらく、明日だろうな。束さんが来るのは」

 

フォルは直感的に嫌な予感がしていた。恐らくという感じでこの臨海学校で悪い事が起こるだろうと。

 

「フォル君」

 

「ん?櫻井か、どうしたんだ?」

 

「見かけたから声をかけたのよ。何を考えてたの?」

 

「明日の事さ。ちょいと嫌な予感がするからよ」

 

「嫌な予感って」

 

「それより、浴衣似合ってるじゃねえか」

 

「!き、急に変なこと言わないでよ!//」

 

「思った事を言っただけだぞ?」

 

「時と場合を考えなさいよ!バカ!!」

 

恥ずかしさを隠す為に螢は真っ赤になりながらフォルを責めた。

 

「俺は戻るが、櫻井はどうする?」

 

「私も戻るわ、皆が待ってるし」

 

「じゃあ、明日な?」

 

「ええ」

 

フォルと螢は宿の中へ入り、それぞれの部屋へと戻っていった。この時、櫻井の顔が残念そうに見えたのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿二日目、専用機持ちである男性操縦者二人、織斑千雨、代表候補生の4人、何故か騎士団所属の三人と専用機を持たない篠ノ之箒が集められていた。

 

「質問いいか?織斑センセ」

 

「フォルか、一体何だ?」

 

「俺や相棒、織斑千雨。それに代表候補生達はわかるが何故、ベアトリスさん達や代表候補生でもない篠ノ之箒までいるんだ?」

 

「その理由はこれからわかる」

 

千冬がつぶやくと同時に空中から人影が迫ってきた。というよりものすごい速さで落下してきている。

 

「ちーーーーーーちゃあああああああん!!」

 

声が聞こえる。聞き覚えのある声だが、千冬は落下の速度を利用してその声の主を叩きつけた。

 

「がふっ!相変わらずの反射神経だね!!」

 

「お前こそ一段と丈夫になったみたいじゃないか?束」

 

そりゃあそうだろと騎士団に所属している男性二人は同じ事を思って口にしなかった。

 

「やあ!」

 

「お久しぶりです・・・」

 

再会した篠ノ之姉妹はどこかお互いに一歩引いている雰囲気だ。だが、それを崩したのは束の方だった。

 

「本当に会うのは何年ぶりかな!?箒ちゃんが立派に成長してて嬉しいよ!特におっぱいが」

 

ガンッ!と鈍い音が響いた。普通の人間ならば本気で大怪我になりかねないくらいの良い音だ。

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言ったー!しかも木刀の柄で!箒ちゃんひどいよー!!」

 

「束、周りが困惑している。自己紹介ぐらいしろ」

 

「そうだった。篠ノ之束=アリス・カタストローフェです。宜しくね」

 

束の自己紹介に思いっきり反応した面々がいる。聖槍十三騎士団所属のメンバー達だ。

 

「た、束さん!どういうことだ!?なんで聖槍十三騎士団みたいに名乗ってんだよ!!」

 

「そ、そうですよ!所属しないって束さん言ってたじゃないですか!!」

 

「フォーくんにサーくんだ!まぁ二人が食いつくのは当然だよね!」

 

二人の慌てた様子も楽しんでるかのように笑顔のままだ。二人を落ち着かせ、束は事情を話し始めた。

 

「確かに私は聖槍十三騎士団には所属してないよ。騎士団の魔名って言うのかな?それが気に入ったから束さんも自分で名乗ってるだけだよ♪」

 

束の回答に二人は頭を抱えそうになったが、自分で名乗ってるだけだと言うのなら問題ないだろうと割り切った。

 

「姉さん、頼んでいた物は」

 

「箒ちゃん、少しだけ待ってて貰えるかな?」

 

「?はい」

 

そう言って束は騎士団所属の3人へと近づいていった。3人からすれば初対面だが束は気にしていない様子だ。

 

「詐欺師から名前は聞いてるよ。ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンだからベアちゃん、ルサルカ・シュヴェーゲリンだからルカちゃん、最後に櫻井螢ちゃんだからけーちゃんだね!」

 

三人はいきなりの呼ばれ方に困惑したが、男性二人が似たように呼ばれているのを見ていた為、黙っていた。

 

「君達の特性に合わせたISを持ってきたんだ。待機状態だけどね」

 

束はベアトリスに剣のペンダントを渡し、ルサルカには杖のペンダントを、螢には日本刀のようなペンダントを渡した。

 

「ベアちゃんは戦乙女、ルカちゃんは拷問城の魔女、けーちゃんは獅子心って名前だよ」

 

「これが・・・」

 

「私達のIS?」

 

「でも、どうして?」

 

「あくまで空中戦闘を行える物だと思ってくれていいよ。君達にとってISは枷になっちゃうからね」

 

ISが枷になっている、この言葉は千冬を含め代表候補生達にも衝撃を与えていた。

 

「ふぉー君とさーくんの機体も調整済みだよ。出来るだけ動きやすくしたつもりだから」

 

束は待機状態となっている二人のISをフォルとサタナに渡した後、箒に近づいていった。

 

「待たせたね、箒ちゃん!さぁ、空をご覧あれ!」

 

指を鳴らすとニンジン型のロケットが地面に突き刺さる形で着陸し、中にはISが1機、展開状態で収納されていた。

 

「これが箒ちゃんの専用機、『紅椿』現行ISを上回るIS!だったんだけどね・・・」

 

「何か問題でもあるのか?束」

 

少しだけ気落ちしている束に千冬は声をかける、それを聞いた束はしっかり答えようと顔を上げた。

 

「箒ちゃんがね、紅椿に枷を付けてくれって頼んできたんだよ!束さんも嬉しびっくりだったね!!」

 

束は楽しそうに答えているが千冬は更なる驚きを隠せない、力に溺れやすい束の妹が自ら枷を望んだのだと断言されたからだ。

 

「だから、本来第4世代であるはずの紅椿は第3世代までの力しか出せない。もっとも箒ちゃんが成長すればリミッターが解除されていくようにはしてあるけどね!」

 

「姉さん、ごめんなさい。ISを縛るような事を頼んで」

 

「ううん、箒ちゃんがIS一緒に成長したいと言った時には感動したんだよ?さ、紅椿のフィッテイングとパーソナライズを始めよう!あ、渡した三人もね!」

 

そう言われてベアトリス、ルサルカ、螢の三人もISを展開した。束のサポートもあり、数分で終わったが紅椿の飛行運転も始めた。

 

「どう?箒ちゃん」

 

「私には、この枷がぴったりです。これでもまだ機体に振り回されてる感じがありますから」

 

箒の謙遜な言葉に束は改めて成長を感じていた。自分の意見こそが正しいと考えていた妹が変わったのだと。

 

「リミッターはかけたけど、特訓を続ければ紅椿は第4世代の領域に入るからね?」

 

「はい、姉さん」

 

 

束は直ぐに騎士団の三人のもとへ向かい、サポートへと回った。

 

「確かに学園で使ってる機体よりは動きやすいですけど」

 

「使っちゃても大丈夫なのかしらね~?」

 

「お姉ちゃんと私は特にね」

 

束は三人にプライベートチャンネルを開き、会話できるようにした。突然の事で三人は少し驚いたが順応力が高い為、すぐに持ち直した。

 

「大丈夫だよ。その3機はふぉー君やさー君の機体と同じように創造に耐えられるようにしてあるから!!」

 

「「「!!!!!!!!」」」

 

 

創造という言葉を聞いて三人は警戒を強めた。束はどこまで騎士団の事を知っているのかと。

 

「安心して、詐欺師の魔術には及ばなくてね癪だけど手伝って貰ったんだ」

 

「ああ、そういう事だったのね」

 

「なら、納得できますね」

 

「驚いちゃったわ、本当に」

 

三人は安堵したのか軽くため息をついた。

 

「それで、どう?ISの感じは」

 

「やっぱり枷になってしまうと言われた通り動きにくいですね」

 

「まるで足と手に枷をはめられてる感覚だわ~」

 

「こんな状態であの二人は戦ってたのね」

 

それぞれが動いたり、飛行したりした後、すぐにISを待機状態にして首にかけた。

 

そんな中で納得いかない顔をしていた人物が一人居た。織斑千雨である。

 

第4世代という機体を貰っておきながら第3世代の力しか出せないように頼んでいるという点が彼女を苛立たせた。

 

「束さん!私にも強化を!」

 

「あ?さーちゃん?いや、織斑千雨。あんたのISは強化できないよ」

 

「ど、どうしてですか!?だったら、あの第4世代の機体を私に!」

 

「ふざけた事言うなよ、箒ちゃんは確かに私に頼んでISをもらった。この時点でIS学園の奴らは不平等だって言うだろうよ。だけど有史以来、平等なんて一度も無いんだ」

 

束は不機嫌と怒りが篭った声で千雨に言葉の弾丸を浴びせ続ける。

 

「自分勝手だという事を自分で認めたからこそ、私は箒ちゃんにISを渡した。それに枷まで要求してね」

 

「そ、それでも私は!」

 

「ちーちゃんの妹だからって調子に乗るなよ?」

 

束がハッキリと拒絶の意思を示した事に千雨はショックを受けて立ち尽くした。

 

「箒ちゃんは自ら成長していく事を明確にしたんだ。自分の立場を自分で理解した上でね。紅椿は私から箒ちゃんへの信頼の証だよ」

 

「姉さん・・・」

 

信頼、この言葉が束から出てくることは非常に珍しい。篠ノ之束という人物は気に入った相手としかコミュニケーションを取ろうとしない。

 

だが、聖槍十三騎士団の城にて魔人となった者達と話をすることで、自分以外にも恐ろしい存在が居るのだと学んだ結果だ。

 

「だから、今のお前に強化してもらえる資格はないんだよ。織斑千雨」

 

 

千冬も妹への言葉を止めようとしたその時に真耶が走ってきた。

 

「お、織斑先生!大変です!!」

 

真耶の声にフォルは顔をしかめた。自分の勘が当たってしまったことに。

 

千冬と真耶がしばらく話した後に千冬は生徒全員に向けて声を上げた。

 

「これよりIS学園は特殊行動作戦に移る!テスト中止、ISを片付け、一般生徒は室内にて待機!部屋から出て来た者はこちらで身柄を拘束するものとする!!以上!」

 

女生徒達はなにがあったのかわからないまま、ざわついている。

 

「とっと戻らんか!バカ者共!!」

 

「は、はいいいい!!」

 

無理もない、今の千冬に一喝されれば誰でも従ってしまう。それほどの威圧感があることも事実だ。

 

「専用機持ちは全員集合だ!直ちに来い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が返事を返し、急遽、作戦会議室となった大広間にて現状説明が開始された。

 

女子全員。特にベアトリス、ルサルカ、螢の三人は軍人のように起立の状態で待機しその他のメンバーは正座で聞いている。

 

男性操縦者の二人は厳しい表情で座っている。

 

「では、現状を説明する二時間ほど前にアメリカ・イスラエルで共同開発された軍用IS「銀の福音」が暴走し監視空域を離脱したとの事だ」

 

千冬の説明を聞いたと同時にフォルが悪態を付くように口を開いた。

 

「つまり、制御を離れて自衛隊のISが間に合わないので俺達でなんとかしろって事だろ?やれやれ、なんで上の連中ってのはこう後手にばっかり回るのやら」

 

その言葉は誰もが思っていながら口にしなかった言葉だ、だがフォルはあえて口にすることで対応の遅さなどに対し苦言していた。

 

「フォルの言葉も一理あるが今は議論を交わす場ではない。作戦会議を始める。意見のある者は挙手しろ」

 

「はい、目標ISのスペックデータを要求します」

 

「わかった。だが、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外しないように。情報が漏洩した場合、諸君らには最低でも二年の監視と査問委員会による裁判がある」

 

「了解しました」

 

セシリアの要求は正当なものだろうスペックさえわかれば対策の立てようもあり、役割分担も考えやすい。

 

「広域殲滅に特化した特殊射撃型だな。コイツは接近戦メインの奴にはキツいぜ」

 

「相棒と同じ意見だ、特に俺達のメンツは中・近距離用が多い」

 

サタナとフォルの意見に全員が耳を傾けている。そんな中、ベアトリスも口を開いた。

 

「射撃型というだけで格闘性能もわかっていません。偵察はしたんですか?」

 

「私も同意見です」

 

ベアトリスの言葉にラウラも同じ事を考えていたようで言葉を発する。

 

「無理だな、この機体は現在も超音速飛行続けている。一回のアプローチが限界だろう。それとこれは私からの意見だが、フォル、サタナ、キルヒアイゼン、シュヴェーゲリン、櫻井。お前達の不思議な力は使えないのか?」

 

千冬の意見にルサルカが含み笑みを浮かべながら代表で答えた。

 

「使えない事はないわよ?た・だ・し、その軍用ISを壊しちゃうかもしれないわ。無人機ならともかく有人機だったら大惨事よ」

 

「む・・・それは流石にまずいな」

 

「でしょ~?だから、使うのはオススメしないわね」

 

ルサルカの説得力に千冬は惜しいと思いながらも創造を使わせる案を引っ込めた。

 

「だとすれば、頼りになるのは」

 

「私だけって事でしょ!私の零落白夜でなら一撃で落とせるもの!!」

 

千雨は嬉々として語っているが専用機持ちのメンバーは不安を覚えた。実戦だと言うのにこのような甘い考えで大丈夫なのかと。

 

「でもまぁ、ほかに方法がないのも事実だわな」

 

フォルの言葉に納得せざるを得ないと全員が思った。

 

「私のブルー・ティアーズの高機動パッケージ、ストライク・ガンナーへの換装も20分もあればなんとか」

 

「あれれ~?おかしいな?その子は私が手を加えたはずだから換装なんて必要ないはずだよ!」

 

天井から声が聞こえる、もちろんこの特徴的な声は束の他にいない。

 

「え?それは本当なのですか!?」

 

「うん、だってふぉー君が詐欺師を通じて持ってきたのを改修したのは他ならぬ私だもん!」

 

「はっ!」

 

セシリアには覚えがあった、自分がかつて挑んだ決闘の後、保健室でフォルに囁かれた事があった。

 

『お前のISは生まれ変わる』

 

そう言われて本当なのかと訪ねた時があった、まさかISの開発者自身が改修していたとは夢にも思わなかったのだ。

 

「だから、換装は必要ないよ。本来なら紅椿が運ぶのに適任なんだけど、今の現状ではブルー・ティアーズしか適任なのは居ないよ。展開時のお楽しみだけどね」

 

束の説明にセシリアは感謝の言葉を述べたかったがフォルに肩を掴まれており首を横に振っていた。余計な事はしないほうがいいということなのだろう。

 

その後、作戦を練り直し、明日の朝11時決行となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでアイツ等を始末できる!アイツ等さえ倒せば名誉も私の自信も戻るんだ!」

 

千雨は作戦前に歪んだ感情を誰もいないロビーで表に出していた。

 

形成を習得し、創造一歩手前までの位階まで到達しかけている千雨は狂気に支配されていた。

 

しかし、この時に彼女は気付かなかった。神をも処刑する処刑の刃と総てを凍てつかせる地獄の冷気。

 

そして、夢を現実とする使者が現れる事に。己の原罪を力に変える悪、天使や惑星の力を受け継ぐ者たちの覚醒すら促してしまう事に。

 

 




「罪は裁くものではない」

「すべては真なるツォアルへと還らねばならぬ」

「私はすべてを断罪せしめん」



演説・明けの明星

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