無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「我が友が再び動き出したようだ」

「私も友の考えていることは解らんよ」

「あれはあれで独自に動いている」

「さぁ、楽しませろ」


演説・黄金の獣


外演目 千の雨と水銀の毒

某病院内

 

PM0:30

 

 

病院の個室のベッド、そこには一人の少女が横になっている。彼女は織斑千雨、IS学園の生徒で第二の織斑千冬と持て囃されている少女である。

 

「なんで・・・あんな・・・劣等種に私が負けたのよ・・」

 

彼女は病室の天井を見つめたまま、己が負けた理由を考え続けてきた。自分も鍛えてきた、知識もつけた。姉のようにはなれなくても隣に歩いて恥ずかしくない実力をつけたはずだった。

 

しかし、突然現れた男性操縦者の二人。一人は己の兄だったサタナ=キア・ゲルリッツ(織斑一夏)。そして常に傍らで彼を支えるもう一人の男性操縦者フォル=ネウス・シュミット(鏡月正次)

 

二人は自分の実力で楽に勝てる相手だと思っていた。だが実際はその逆、フォルには己の力が届かずに何度も地に叩きつけられるという無様な敗北を味合わされた。

 

己の兄であったサタナには己の得意とする剣での戦闘で徹底的に実力の差を思い知らされ、血を見せつけられてしまうという最も恐怖する敗北をした。

 

自分は姉である織斑千冬と同等だと言われていた。それに相応しい実力を身につけたし、周りもそう言ってくれていたからだ。

 

「許さない・・・私に泥を塗ったあの二人を!!」

 

己自身ではなく男性操縦者の二人に対する復讐心を燃え上がらせ、その目には怒りだけが宿っている。

 

『・・・そうまでして彼らを倒したいのかね?』

 

「誰!?」

 

その声は自分しかいない病室から聞こえている。確かに自分しかいないのに声が聞こえた。その声に千雨は混乱している。

 

「これはこれは失礼した。姿を見せないのは無粋極まること、謝罪の言葉を述べよう」

 

「!!!」

 

突如、その場に現れた男が現れた。その印象は影、実体が掴めないというのが素直に思うことだろう。外套で全身を包んでいるがその姿は陽炎のように儚いものであると千雨は思った。

 

「だ、誰よ!アンタ!!」

 

「私かね?では・・カール・クラフトと名乗ろうか。名はまだまだ沢山あるがね」

 

「い、一体私に何の用なの!?」

 

千雨は全身を震わせていた。突然現れたからではなく、カールから放たれている得体の知れない雰囲気と威圧が千雨に向けられている。

 

「そうまで恐れなくとも構わんよ。君に打開の力を与えようと言うのだ」

 

「!!!私に力を?」

 

「くくくく・・・彼らに君は負けた。その事が許せず覆したい、違うかね?」

 

「ぐっ・・・なんでアンタがその事を知ってるのよ!!」

 

「私も観戦していたのだよ。荒事は苦手だが、観戦は好きな方なのでね」

 

笑いながらもその目には虚無しか宿っていない。力を与えると言いながらも何かを企む詐欺師、それこそがカール・クラフトであり、メルクリウスの本質なのだ。

 

女神の治世である世界とは言え、彼女は排斥や攻勢といったものを持たない。それゆえ守護する者達がいる、だが守護者はあくまで女神を守護する者であり、現世に干渉することは可能だ。

 

「君にこれを与えよう。ある剣の欠片だが君なら使いこなせるはずだ」

 

カールが千雨に渡したその欠片からは禍々しさと神々しさを併せ持った輝きを放っている、我を手に取れと言わんばかりに欠片の輝きは増していた。

 

「これがあれば・・アイツ等を倒せるの?」

 

「無論だ。受け取るかね?ただし君自身に何が起こるかは君自身が確かめねばならない。この欠片はそれほどの力を秘めている」

 

「受け取るわ!あいつらを倒せるなら、受け取ってやるわ!」

 

「気をつけたまえよ?その欠片はたった一度の願いしか叶えぬ。それが叶った瞬間に君は君の築き上げた物を失う事になるのだから」

 

「ふん!そんなの関係ない!」

 

千雨は欠片を奪うように手にすると己の願いを欠片に込めた。その瞬間、欠片は彼女の体内へと沈んでいった。

 

「あ、あああっ!うあああああああ!っ!」

 

聖遺物の意思の全てを受け入れた千雨は寝たきりの状態のまま笑みを浮かべていた。

 

「溢れそうなこの感じ・・・これならあの二人を殺せるわ!アハハハハ!!」

 

「どうやら受け入れたようだね。君の力なら形成位階まで楽に行けるだろう、あの二人と互角まで行くかもしれないね」

 

「感謝するわ!これで、これで私も!!」

 

カールは笑みを浮かべて千雨を見ている。余興として与えたものが成功した事で新たな未知を得られるのではないかと考えた事にほかならない。

 

「踊れよ。君は模倣者という土に潤いを与える存在であるのだから・・・」

 

「殺す・・・必ずこの手で」

 

千雨は力を得た実感に浸り、浮かれきっていた。その殺意は明確であり、聖遺物との相性もかなりものになっている。

 

「さぁ、相手は出来た・・・若き英雄達よ。その力を女神に示すがいい」

 

カールは薄く笑みを浮かべていた。新しき英雄である二人を女神に会わせねばならないという使命感からくるものだ。

 

「では、私は失礼するよ?その魔剣の力…存分に使うといい」

 

「ありがとう、寝たきりで燥いだら疲れたし眠るわ。じゃあね」

 

千雨は眠ってしまったが同時に気づくべきであった。未だその場にいる男が詐欺師であることに。

 

「やはり怨恨こそが動く糧となるか。ああ、しかしこれでも」

 

カールはどこか落胆している様子で軽くため息をついた。

 

「では、更なる試練を与えるとしよう。英雄であるからには乗り越えてもらわねばな」

 

そう呟くと同時にカールは陽炎が揺らめくかのように姿を消した。

 

彼は戦闘という名の試練を課す事によって新しいエインフェリアを育てようとしている。

 

それはある懸念から来るものであった。

 

並行世界という概念を生み出した彼はとある並行世界の一つで守護する女神が倒されるのを見てしまった。

 

その世界は史上最悪の外道に滅ぼされたのではなく、五人の少女達が座を塗り替えた世界だ。

 

少女達が抱いていた渇望は一つ、[愛する者とずっと共に居たい]という願い。

 

守護者に倒されようと一人でも座にたどり着き、当代の神を倒せば世界を変えられる。

 

その世界で少女達に座の存在を教え、彼女らの渇望を自覚させた者は不明であった。

 

しかし、それは純粋なモノではなく少女達の我侭に過ぎないものだ。塗り替えられた世界では愛こそが最も尊いという理により愛が暴走してしまった。

 

愛するが故に離れない、離したくない、離れることは許されない。自分だけを見て欲しいという思いが重りとなった。

 

それにより愛した相手が自分に振り向かなかれば所有してやるという歪んだ愛を理として発現しまった。

 

故に人々は殺し合い、開放を求め続ける世界へと流れていった。

 

しかしこれは数ある可能性の世界での話である。起こりうるからこそ、英雄を育てる理由となる。

 

女神の世界は決して壊すことなど許さない、それこそがカール・クラフトという男の行動理念である。

 

並行世界を見たといっても対策はある、深く笑みを零したカールは独り言のように呟いた。

 

『開放の時は近い。千の雨に打たれ磨かれるがいい。くくくく・・・』

 

その笑いは誰にも聞かれることなく消えていったが、新しい役者は出番を待ち続けている。

 

 

 

 




「さぁ、新しき台本が整った」

「いよいよ、我が息子と我が女神に会わせよう」

「その時こそ英雄となる」

演説・水銀の蛇

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