「黒兎は轍となるか、刃を突き刺すか」
「私からも余興を差し込むとしよう」
「悪いようにはせんよ」
演説・水銀の蛇
「
凶獣となったフォルは元となった詠唱を叫びながらラウラへ攻撃を仕掛け続けている。
それはまるで獣が獲物をいたぶる様子と酷似していた。
「がっ!ぐああ!!おの・・・れ!!!」
ラウラは己の身体能力を全開にしてフォルを追うが、全くと言っていいほど追う事ができない。相手は光速以上の早さを持つ凶獣であり、生半可な照準では捉えることは出来ない。
「
「く・・なぜ、捉えられない?どんなに速くても捉えられるはずだ!」
ラウラはワイヤーブレードによる攻防一体の戦術に切り替えた。接近してくるならブレードによるカウンターが勝算が高いと考えたのだ。
「
「ただ突撃するしか脳がないか!くらえ!!」
ラウラはワイヤーブレードを中距離限定で動かすことで反撃を可能にしているが、当たっていようがいまいが、今のフォルは外界の刺激に関して何も感じず、感じようともしない状態だ。
「当たっても突撃し続けるか・・・やはりここで消去する!!」
「!!!!GUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
一撃が掠り、それに気付いたか気づかないかは分からず、着地するとフォルは咆哮を上げる。その咆哮を聞いた一般の生徒は気絶していく、生半可な精神状態で凶獣の咆哮を聞けば当てられるのは当然のことだ。
「速度でこのシュヴァルツェア・レーゲンに!!があっ!!何!?」
「
「がはっ!!あっ!」
「
「な・・・速度が!ぐああああ!!があああ!」
「
「く・・・くそぉ!!まだ!うああああ!!?」
「
ラウラは速度を上げて勝負をかけるが、凶獣は相手の速度が上がれば上がるほどその速さ以上の速度で反撃してくるのだ。触れるな、触るなと叫びながら攻撃を仕掛け続けている。
ラウラ自身は防御機能によって傷は浅く済んでいるが、エネルギーシールドのエネルギーは削られてきている。
「がはっ・・・く・・・く・・・そぉ・・・」
「GUFUUUUUUUUU・・・・・」
フォルの攻撃を受け続けたシュヴァルツェア・レーゲンはスパークを発し始め、大破に近い。そんな様子を嘲笑うかのようにフォルは唸りを上げ、間合いを開いた状態で見ている。
「・・・・・・・Auf Wiederseh´n・・・!GAAAAAAAAAAAA!!!」
凶獣は止めと言わんばかりにラウラへと突撃していった。屍しか見ない獣は本気でラウラを轍に変えようと牙を、爪を向けていく。
◇
その横では箒と螢が攻防を続けていたが、徐々に箒が劣勢になっていた。
「はぁ・・はぁ・・くそっ!私は負ける訳には!」
「勢いだけは認めてあげる。でもね、貴女は弱い」
「何故そう言い切れる!?はあああ!!」
箒の唐竹割りを受け流し、螢は太刀となっている緋々色金の横薙ぎの一撃に遠心力を加えて振り抜いた。
「ぐああああ!」
「貴女は型に拘り過ぎているのよ、そんな事では届かない」
螢は太刀を一度振ると倒れている箒の近くへ赴き、刃を向けた。
「私は確かに刀を使っている。でもね?私はあらゆる要素を取り入れた剣術、貴女は型を重んじる剣道。柔軟性が違いすぎるの」
「貴様、剣道を侮辱しているのか!?」
「侮辱なんてしていないわ。剣道には剣道の良さがあるのも知ってる。けれど実戦でそんなことが言えるの?殺し合いの中でも剣道に拘ると言い切れる?」
「っ!?」
「ISは競技用でもあるけど兵器でもあるっていう事を忘れてない?私はベアトリスお姉ちゃんから特訓と戦場の心構えを教えてもらって、殺し合いを少しだけ経験してるの」
刃を向けたまま螢は表情を変えずに淡々と箒へ話しかけている。その姿はまるで男性操縦者の二人と似ていた。
「型だけに拘っていると命取りになるの、剣道は決して悪くないわ。けどね、どんな戦いでも、相手が自分の得意な事を使ってくるのは当たり前だと認識したほうがいいわ。皆が皆、あなたと同じ戦い方をする訳じゃない」
「ぐっ・・・」
それはあまりの正論だった。剣ばかりにこだわっても射撃を練習する場合もある。自分と同じ戦い方をしろといっても相手が聞き入れる訳がないのだ。
「剣道に拘る貴女の戦い方を否定はしない。私から言えるのはもっと柔軟性を持つべきだってことだけよ」
そういって螢は刃を振り下ろし、箒の打鉄のエネルギーを0にした。
「教えてくれ、なぜそんなに強い?フォルもお前も」
「強くなれたのは特訓や周りの人達のおかげよ。貴女にだって居たんでしょ?でも、自分から目を背けてしまった。違う?」
「っ・・・そう、だ」
箒は倒れたままの姿で、俯くように横へ顔を逸らした。螢の顔も見れないと言いたげに。
「ならまず、目を背けるのを止めることよ。背けても結局は自分に付き纏っている。それなら逃げずに受け止めて向き合うことが第一歩になるから」
そう箒に言葉をかけた後、肩を貸し、ピット近くまで運ぶと螢はアリーナへと戻っていった。
「受け止めて、向き合う・・・か」
箒は螢にかけられた言葉をしっかりと受け止め、考えていた。自分は強くなれるのかと、認めてくれるのかと。考えたところで答えが出るはずもなく試合を観戦することに専念しようと立ち上がった。
◇
「く!私は・・・負けない!負ける事など許されないのに!」
目の前には最速の凶獣を模倣した鏡の化身が迫りつつある。だが、機体は大破に近い状態で満足に動かない。もはや喰われるだけかという状態だ。
『願うか?汝、自らの変革を望み、より強い力を欲するか?』
「よこせ!何者にも負けない唯一無二の絶対的な力を!!」
それはまるで
Damage Level・・・D
Mind Condition・・・Uplift
Certification・・・All Clear
《Valkyrie Trace System》・・・・Boot
「うああああああああああああ!!!!」
その声に従った瞬間にラウラのISであるシュヴァルツェア・レーゲンが形を崩し、ラウラを飲み込んである人物の姿を複製していた。
「GU・・・・?」
本能的に危険を察知したのか、フォルは突撃を止め、間合いを開いた。それと同時にフォルの髪が元の色に戻っていく、それは凶獣に成り続ける限界が来たという意味だ。
「く・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・時間切れ・・かよ」
「フォル君!」
「櫻井・・・か?」
螢がフォルの近くへ来て彼を支えた。自力で立ててはいるが疲労しているのは明らかだ。
「あれ、さっきまで戦っていたのと違うわよ」
「ありゃあ、ブリュンヒルデの現役時代の姿・・か?映像で見た事はある」
二人の目の前にいるのは織斑千冬の現役時代の姿だ。それは複製された姿と能力を持っている。
「櫻井、
「できるけど、勝算はあるの?中に囚われているあの子を助けて、織斑先生のコピー品を倒すなんて」
「あれは囚われてるのを引き剥がせば勝ちだろう?シンプルじゃねえか」
螢の隣に立ち、先程まで展開されていた装甲である白い肩がけが黒い肩がけに変わっている。
それは黒騎士が己の力を使う事を許可している状態だという事だ。
『「
『「
黒騎士の鋼鉄をその腕に宿したフォルは拳を握る。だが、白騎士の真創造を使った影響と黒騎士の創造を展開した状態は負荷が跳ね上がっている状態に等しい。
「櫻井、この一発が勝負だ。本気でラストの一発になってっからよ」
「それなら私が助け出すわ。その後に貴方が止めを刺して」
「わかった」
「ベアトリスお姉ちゃん、見てて・・・私もあれから強くなったんだから!」
緋々色金を構えると螢も内にある
「・・・・」
VTSによって現役時代の力が再現されているが、所詮は機械による複製であり行動が的確過ぎている。螢はその中から隙を見つけながら中心を切り裂いた。
「いい加減に出てきなさい!貴女は貴女!織斑先生にはなれないのよ!!」
複製の雪片によって螢は胸元を貫かれるが、本人は一切、意に介していなかった。ベアトリスの透過能力、雷と炎の違いはあれど性質が似ているために使えた能力である。彼女の精神もベアトリスという姉の存在が大きく、ある程度安定してる為、動揺が少ないのも強みだ。
「そこにいるのね!!」
引き裂いた複写の千冬の奥から螢はラウラを引きずり出すと、フォルへ合図を送った。
「フォル君!!今よ!」
「ああ!!ハアアアアアアア!!」
フォルは終焉の拳を模倣した一撃を撃ち込み、操縦者のいなくなったシュヴァルツェア・レーゲンを停止させた。
「やったわね!この子も無事よ」
螢の腕の中にいるラウラはまるで安らいでいるかの表情を見せたまま、気を失っていた。それを確認したフォルも膝を折った。
「ああ、そうだな・・・悪い。櫻井・・・俺・・・も・・・限・・界だ・・・」
「フォル君!?」
螢に謝ると同時にフォルは倒れてしまった。気を失った訳ではなく寝息を立てている所を考えれば疲労困憊によるものであった。
「なんだ、眠ってるだけか。脅かさないでよ、もう」
螢は呆れながらも担架を用意してくれるよう千冬に頼み込み、ラウラとフォルは保健室へと運ばれていった。
◇
「うう・・・はっ!?」
「気が付いた?」
「お前は・・・櫻井螢か」
ラウラが目を覚ますとそこには螢が隣に座っていた。その奥にはフォルが眠っている。
「動かないほうがいいわよ。全身の筋肉が無理な負荷で疲労してるって先生が言ってたから」
「そうか、すまないが教えてくれ。あいつと戦ってる時、私に何があったのだ?」
ラウラは隣のフォルに視線を移した後に、真剣に自分にあった出来事が知りたいと訴えている。
「織斑先生から口止めされてたんだけど、本人から聞きたいと言われたなら伝えろって言われてたから言うわね?VTシステムってわかる?」
「正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・モンド・グロッソの優勝者の動きをトレースするシステムだったはずだ」
ラウラの答えに螢は頷くと再び口を開く。
「流石は軍属ね。そのシステムが貴女のISに搭載されてたみたいよ」
「・・・・そう、か」
「さてと、目が覚めるまで居ろって言われてたから、私はもう行くわね?」
「ああ・・・」
「それと一つだけ言っといてあげる」
「?」
「貴女は貴女。どんなに憧れて望んでも、憧れてる人間にはなれないわよ。限りなく近付く事は出来ても、ね」
「!」
そんな言葉を残し、螢は保健室を出て行った。
「私は・・私。教官ではない・・・か」
ラウラは螢の言葉を噛み締めながら隣で眠り続けるフォルを見ていた。自分は自分で憧れている人間にはなれないと。
「何故・・・お前は強いのだ・・・・フォル=ネウス・シュミット」
「強くなんかねぇよ」
「!!?起きてたのか?」
「今さっきな?お前と同じで起きられる状態じゃねえけどな」
フォルは軽く寝返りをうつとラウラの方へ向いた。
「お前はブリュンヒルデの凛々しさと強さしか見なかったんだろ?」
「っ・・・」
「どんな人間にも裏の顔がある。お前一人の理想を押し付けるなよ。それは自分を殺してるのと同じだぜ?」
「ならば私はどうすればいい・・・私にはもう」
「お前はお前になればいいだろうよ。ラウラ・ボーデヴィッヒという一人の人間にな」
何故、こんなに饒舌に喋っているのかフォル自身も戸惑っていた。いや、誰かの代わりや誰かになりたいという部分を否定したかったのかもしれない。自分は自分でしかないと己に言い聞かせる為に。
「私が・・・・私に?」
「相棒が言ってたぜ?そんなに綺麗な眼をしてるのに勿体無いってな」
「な・・・!!」
「眠い、もう一度寝るわ。おやすみ」
「お、おい!」
声をかけたがフォルは既に眠りの中へ入っており、起きる気配がなかった。
「お前の相棒とは一体・・・」
ラウラも目を閉じ、身体を休ませようと再び眠りについた。
◇
翌日、眠りから覚め、フォルはサタナと共に再びグラズヘイムへと呼び戻された。今回はISを持ってくるよう命を受けた為、待機状態にして帰還した。
「やぁやぁ、二人共ようやく戻ってきたね」
二人を呼び出したのは篠ノ之束だった。あれから城に拠点を移し、サタナとフォルのISの調整をしている。本人曰く此処にいれば絶対に見つからないからという理由で城から出ないようだ。
束はこの世界の超越者である。その影響でグラズヘイムに魂を吸われず、刻印も打たれずレギオンになることもない。
「束さん何用ですか?」
「用がないなら戻らなきゃならねぇからよ。臨海学校も近いし」
「いっくんとまーくんはISを纏うと枷になっちゃうから動きやすくしようと思ってね、特にまーくんの鏡花は負担がすごいから一から整備しないとダメなんだよ」
そう、フォルのISである鏡花はラウラとの戦いでシュライバーの創造を模倣したことによりかなりの負荷がかかり、起動できるのが不思議なくらいの状態になっていた。
「私にとってISは夢の結晶であり娘でもあるからね。無茶はさせられないよ」
「ならば束さんに預けるとするわ。ISは第二の相棒でもあるからな」
「じゃあ・・俺も」
アクセサリーとなっている待機状態のISを束に預けると二人は椅子に腰掛けた。
「確かに預かったよ。それと一つだけ二人に伝えたいことがあるんだ」
束は真剣な目を二人に向け、待機状態となっている二人のISを胸元に当てた。
「二人のIS、剣戟と鏡花はいっくんとまーくんを追いかけてる状態なんだ」
「俺達を追いかけてる?」
「どういう事です?」
束の言葉の意味が不可解で二人は首を傾げた。ISが自分達を追いかけている?何故に自分達を追っているのだと。
「二人はもう、この城の主の爪牙で、ただの人間じゃなくなってるでしょ?そんな二人にとってISはずっと言ってるけど枷になってる。だからこそ、追いかけて、追いかけて・・・追いかけ続けてる。二人に追いついて力になろうとしてるんだ」
それを口にしている束はどこか悲しそうな顔を見せ、二人を見ていた。
「追いついた時には向かい入れてあげてね?」
「ああ、わかった」
「もちろんですよ」
「(ありがと・・・)」
束は聞こえないようにお礼を口にした。表立ってお礼を言うことは出来ない。この二人はこの城の騎士。未来永劫戦い続ける人間なのだから。
「追いかける側と先を行くもの」
「それはまるで互いに引き合う図面の欠片のようなものである」
「組み合わさった時がいかな結果を生むのか」
「ここまでは既知ではあるが、結果が変わることで新たな未知となりそうだ」
「では、主演ではないが女神にも舞台に上がってもらわねばなるまい」
「我が息子に模倣者を引き合わせる為に・・・・くくくく」
演説・水銀の蛇
※追伸
螢がベアトリスをお姉ちゃんと言っていますがこの小説では「姉妹のように仲が良く姉としてみている」というだけです