無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「己というものは己自身がわかるというが」

「本当に分かっているのは」

「誰一人としていないだろう」

「それが理解出来た時こそ」

「異能者となるのだから」


演説・水銀の蛇


第十一劇 多重

機械人形の襲撃から二日が経ち、重傷だったとはいえISの防御機能によって守られていた影響か織斑千雨は退院し、学園に出席している。

 

サタナは箒をはじめとするセシリア、鈴に振り回されており、そんな様子を相棒であるフォルはルサルカ、ベアトリスと共に楽しく見ている。

 

「はーい、皆さん。席についてください」

 

授業が始まる時刻となり、担任の織斑千冬と副担任の山田真耶先生が教室に入ってくる。

 

「さて、HRを始める。だがその前に山田先生」

 

「はい。この度、三人の転校生が来ることになりました」

 

転校生と聞いた瞬間にクラス中が騒然となった。

 

「静かにしろ!馬鹿者共!」

 

火傷の傷が出来てからの千冬の威圧は出来る前よりも増しており、一気に静かになった。

 

「それでは入って来てください」

 

山田先生の合図で三人の生徒が入ってくる。

 

一人は男性っぽく、金髪で正に貴公子という言葉が似合うだろう。

 

「シャルル・デュノアです!至らない所もありますがよろしくお願いしますね!」

 

シャルルと名乗った青年はにこやかな笑顔で挨拶すると一気に教室が揺れた。

 

「キャアアアアアアアア!!」

 

「男子!三人目の男子よ!」

 

「しかも守ってあげたくなる系の!!

 

「地球に生まれてよかったあああ!!!」

 

あまりの絶叫に教室が震え揺れており、それだけで相当な威力だ。

 

「すげぇ・・・な」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

耳を塞いでいた男性二人はその威力に目を回している。

 

「えっと、次お願いしますね?」

 

「はい」

 

一歩前に出たのは黒髪の少女だ。箒とは違いを結っておらず、墨のように黒く美しい髪をそのまま流している。

 

「櫻井螢と言います。日本でIS適性が出た為に転校してきました。よろしくお願いします」

 

名前を聞いた瞬間に声を上げた者がいた。

 

「螢?螢なの!?」

 

それはベアトリスであり、その声を聞いた櫻井螢も同じように驚きを隠せないでいる。

 

「え・・・?べ、ベアトリスお姉ちゃん!?」

 

「え?お姉ちゃん・・・って」

 

「ベアトリスさんに妹!?」

 

クラス中がざわつくが二人にとっては関係ない様子だ。しかし、それを止めたのは意外な人物だった。

 

「あの、再会を喜ぶのはいいですけど、まだ自己紹介が残っていますので」

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

山田先生の注意に螢は取り乱しながらも元の位置に戻った。

 

「それでは次の方ですね」

 

「・・・・」

 

「あの・・」

 

真耶が声を掛けるが銀髪の少女は答えない。仕草が軍属であることが伺える。

 

「ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい・・教官・・っ!?」

 

銀髪の少女は千冬を見た瞬間、目を見開き驚愕している。無理もないだろう今の千冬の顔の左半分は火傷の跡が残っているままだからだ。

 

「どうした?挨拶しろ」

 

「は、はい」

 

クラス全員方へ向き直り、銀髪の少女は口を開いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あ、あの、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

ラウラと名だけを名乗った少女は目を伏せたがすぐに開いた。視線の先にはフォルが映った。

 

フォル自身は笑っており、気まぐれで唇を動かした。

 

『織斑先生の火傷の原因はここだぜ?』

 

「!!!」

 

読唇術によって言葉の意味を理解したのかラウラは怒りに顔を歪ませたが、行動することができなかった。その原因は。

 

『相棒に手を出すな』

 

『遊びたいのかしらね~?』

 

『手を出そうとするなら容赦しませんよ?』

 

黒円卓所属の三人がラウラへと視線だけで殺気を集中させていた為だった。

 

ベアトリスは別として、サタナとルサルカは飢えている。ここ最近、魂の補給をしていないために殺人欲求が出てきているのだ。

 

「っ・・・・」

 

ラウラは気持ちを抑え込み、空いてる席へと座った。

 

「(面白くなりそうだな・・・くくく。はっ!?)」

 

フォル自身も殺人欲求が出てきている、自覚があるのはまだ理性がある証拠で耐えられる領域だ。

 

「フォル!サタナ!同じ男子だろう、面倒を見てやれ。次の授業は第二アリーナだ!遅れないように!」

 

そう言って千冬と真耶は教室を出て行った。

 

「はぁ・・この後の目当てはシャルルだな?質問攻めになる」

 

「そうなるな」

 

「君達がフォル君とサタナ君?初めまして、僕はっ!?」

 

「捕まってろ、急いでいく」

 

「え?ちょっと、ここって二階じゃ!?」

 

「相棒、こっちも支えたから問題ないぞ」

 

「よし、大人しくしてな」

 

そう言ってシャルルを支えたフォルとサタナは二階から飛び降りた。

 

「「「「ああああ!逃げられた!」」」」

 

二人に支えられていたとはいえ、かなりの高さから急降下したシャルルは顔を青くしていた。

 

「ふ、二人共、かなり無茶するね」

 

「これくらい普通だが?」

 

「そうだな」

 

その後は走って授業に間に合わせ、第二アリーナにて実践講習が始まった。

 

講習前に山田先生と鈴、セシリアの戦いもあったが結果は山田先生の勝利だった。

 

授業は専用機持ちのIS操縦者がクラスメート達に操縦を教えた上で授業は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三アリーナにてフォル、サタナ、鈴、セシリア、ルサルカ、ベアトリス、シャルルそして螢の八人がISを使って訓練している。

 

「射撃武器って扱いにくいのよね。基本は刀で戦うから」

 

「最低限の射撃は出来る方がいいよ。戦術に幅が広がるしね」

 

「このメンツだと基本接近型が五人ね、中距離がセシリア、遠距離がシャルルかしら?」

 

「私も中距離だけどね~」

 

「使わないだけで銃くらいなら扱えますけど、剣の方が使いやすいですね」

 

「俺も剣がメインだな」

 

「わたくしは中距離、遠距離ですから近距離は得意ではありませんわ」

 

「俺も接近戦寄りだな。クローが使いやすいからな」

 

それぞれが武装や得意な距離、苦手な分野を分析し教え合っていた。

 

「セシリアはナイフ一本だものな。接近戦をするにも辛いんじゃないか?」

 

「ええ、その為にキルヒアイゼンさんから剣を教わっていますわ。ようやく振るうことを許されるようになりました」

 

「セシリアさんは剣を持たせたらフェンシングみたく構えましたからね。私の剣はフェンシングじゃないので一から教えましたよ」

 

「ベアトリスお姉ちゃんは剣に関しての指導は超一流だから」

 

「ものすごく厳しいけどな」

 

「同感ですわ・・」

 

「熱が入ると、つい・・・ですね」

 

バツが悪そうにベアトリスは苦笑していた。そんな様子を指導を受けた者たちも笑顔になっていた。

 

そんな中、突入してくるISのバーニアの音が響く。地に降りると同時に殺気を向けている。

 

「あれは・・ドイツの第三世代?」

 

「たしか、ラウラとか言った奴だったか?」

 

ラウラは八人の中でフォルに殺気をぶつけていた。だが、フォルからすればそんな殺気は子供が駄々を捏ねている程度のものでしかない。

 

「フォル=ネウス・シュミット。貴様も専用機持ちだそうだな?ちょうどいい、私と戦え」

 

「ほう?やるのは構わねぇが一般人を巻き込むのが現役軍人のやり方か?」

 

「ふん、今は関係ない。あの方に傷を負わせた貴様が許せん!!」

 

「なるほどな・・・。なら、お前にはこの服を着て名乗るべきだろうよ」

 

そう言ったフォルは量子化させていたある服を身に付けた。

 

「それ持ってたの?」

 

「まさか、それを持っていたなんて」

 

ルサルカとベアトリスはまさか?という反応を見せ、他のメンバーは驚愕していた。

 

「相棒・・・貰ってたのか」

 

「あれって・・ドイツの軍服?」

 

「腕章の模様が違いますわね・・・」

 

「彼は所属してたの・・・騎士団に」

 

それぞれが口を開く中、ラウラだけは顔を歪ませ怒りに満ちていた。その腕章はドイツ軍人ならば誰もが知る事になる組織の腕章を着けているからだ。

 

「貴様・・・その腕章の紋章は!」

 

「名乗っておこうかね、聖槍十三騎士団黒円卓第十四位!フォル=ネウス・シュミット!!その身が真に強者なら、その総てをかけてかかってきやがれ!」

 

そう、彼が身につけているのは黒円卓の軍服だった。ドイツの歴史の中で闇に消えていった幻の部隊。魔術や科学を主とした部隊であり、かの総統閣下も恐れていた部隊であったとも記録に残っている。

 

「貴様・・どこまで私を侮辱する!!」

 

「関係ねぇな、あのブリュンヒルデに(ローゲ)で傷を負わせたのは確かに俺だがな」

 

「貴様ァ!!」

 

ラウラはレールガンを放とうとするが首元に大剣が突きつけられていた。ラウラの背後には気づかない間にサタナが立っていたのだ。

 

「ここで相棒を撃つ気なら首を飛ばすぞ?」

 

サタナのISは速さに特化している。黒円卓によって強化された肉体とISのブーストを使えば間合いを一瞬で詰める事は可能なのだ。

 

「サタナ=キア・ゲルリッツ!貴様も!!」

 

「ああ、俺は聖槍十三騎士団黒円卓第十五位、サタナ=キア・ゲルリッツ。この刃は黄金の牙だ」

 

この二人は帰還したその日に改めて洗礼を受け、所属ではなく序列を名乗ることを許されたのだ。しかし十三の数字以内ではなく十四と十五を名乗るのは二人がまだ完全な英雄(エインフェリア)となっておらず仮の序列である為だ。

 

「ぐ・・」

 

ラウラは悔しそうにレールガンを降ろし、ISを解除した。それを確認したサタナは大剣を首元から離し、メンバー達の所へ戻っていった。

 

「相応しい舞台が二週間後にあるだろう?そこで戦おうや」

 

「よかろう、今回は引き下がってやる」

 

ラウラはそのまま出てき、フォルも軍服を量子化させ元の服装に戻した。

 

「相棒、俺たちも危うくなってるのに気づいてるか?」

 

「ああ、そろそろ補給(・・)しないと学園中で喰い尽くしかねないな」

 

押さえ込んではいるが聖遺物からの飢えは抗いにくいものであり、理性で押さえ込めるだけの力を身につけなければならないが二人はそれをクリアしていた。

 

しかし、それも限界に来ており聖遺物が飢餓に耐えかねてきているのだ。

 

「なにか方法があればいいけどな」

 

「ああ、だな」

 

そう言いながらメンバーのもとへ戻り、特訓を切り上げて解散となった。

 

サタナはシャルルや鈴、セシリアとの特訓に付き合うことになり、螢はベアトリスと一緒に道場へ行きルサルカは先に寮へ戻っていった。

 

一人になったフォルは学園内を歩いていた。ほとんどがメンバーと一緒にいた為に一人の時間を満喫しようと散歩している。

 

「へぇ・・・学園ってのはこうなってたのか」

 

呑気に歩いていると何か言っている声が聞こえてきたために、フォルは気配を消し、近くの木に身を寄せた。

 

「何故ですか!なぜこのような所で教師を!」

 

「(あれはラウラか?それに向かい側にいるのはブリュンヒルデだな)」

 

どうやらラウラが何か意見しているらしく、フォルは二人の様子を見続けている。

 

「何度も言わせるな。私には私に役目がある、ただそれだけだ」

 

「このような極東の地でなんの役目があると言うのですか!!」

 

「お願いです教官!我がドイツで再びご指導を!ここではあなたの能力は半分も生かされません!!」

 

「この学園の生徒達はISをファッションか何かと勘違いしている。それに・・・教官にそのような傷を刻み込んだ者を野放しにしておくなど!!」

 

「そこまでにしておけよ?小娘が」

 

千冬の殺気を込めた睨みにラウラは身体を震わせた。顔にある火傷の痕によって更に威圧が増しており、並の者ならその場で失禁していてもおかしくないほどだ。

 

「少し見ない間に偉くなったものだな?たかが十五歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ・・私は。ですが教官!あの男、教官に傷を刻んだあの男だけは!!」

 

「黙れ、これは私が背負っていかなければならない罪の印だ。貴様が否定していいものではない。アイツを許せないならば戦って勝ってみろ」

 

「っ!」

 

「話は終わりだ、寮へ戻れ」

 

ラウラはその場から走り去り、千冬だけが残った。

 

「そこの男子、盗み聞きか?」

 

「偶然だっての、気配は消してた筈だがな?」

 

フォルがいた事に気づいていたらしく、観念したフォルは千冬の前に姿を現した。

 

「お前と対面すると火傷が疼くな。だがそれ以上に私の価値観を破壊してくれた事に礼を言いたいくらいだ」

 

「アンタが俺に礼とはな?己を破壊したのか?ブリュンヒルデさんよ」

 

「あの戦いがなければ、私はアイツを一人の人間として見る事はなかっただろう。都合のいい(にんぎょう)としてしか見ることが出来ないままな、気づいた代償は大きいが」

 

そう言って千冬は火傷に触れてフォルを見る。やはり敗北したという事が彼女の中で最も憤怒することなのだろう。

 

「はん、今更失った時間は取り返せねぇよ。自らを破壊(こわし)たなら相棒と話せるようになるんだな」

 

「ああ・・・わかっている」

 

「俺はもう行くぜ、散歩の途中だ」

 

フォルは千冬から離れ、後ろ姿が見えなくなるまで千冬はその背中を見続けていた。

 

「フォル・・いつか必ず私が勝つ」

 

ベアトリスとは性質の全く異なる戦闘に飢える戦乙女。その魂は倒すべき相手を見つけたことで輝き、彼女に生きがいを持たせていた。




「黒き雨に疾き風、そして獅子心剣」

「新たな三人の役者をここに配置した」

「この後にも舞踏は用意されている」

「楽しんでもらえると思うよ」

「私は新たな歌い手を用意しなければならぬのでね」

「失礼するよ。観客達よ」


演説・水銀の蛇

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