「だけど死人で出来た道などは照らしたくない!」
「後輩や、他の子達を照らす閃光になりたい」
「だから私は!今此処にいるんです!!」
演説 戦乙女
平凡な日常が過ぎていき、とうとう学年別トーナメント開催の日となった。
一回戦から二組代表である鈴と四組の代表であるセシリアがアリーナにおいて向かい合っている。
「てっきりサタナかフォルが代表だと思ってたんだけど」
「あの二人は強すぎるということで自ら辞退したのです。わたくしでは役不足ですか?」
「そんなことないわ。イギリスの代表候補生の実力、見せてもらうわよ」
「そのお言葉、そっくりお返ししますわ!」
試合開始と同時に両者がぶつかり合う。二人の男性操縦者がいないアリーナで。
◇
「ザミエル卿。なんで急に帰還命令が?」
「ハイドリヒ卿のご命令ですか?」
トーナメントの最中、サタナとフォルはグラズヘイムへの帰還命令を出され、城へと戻っていた。
「ああ、だが副首領閣下が貴様等に御用があるとのことで、私はハイドリヒ卿から命を受けたに過ぎん」
ザミエルは細葉巻に火を点け、城の通路を歩いていく。
「私はここまでだ。ここから先は貴様等だけで来いとの命令だ」
用は果たしたと言わんばかりにザミエルは背を向けて去っていく。
「行くか、相棒」
「ああ、緊張するけどな」
扉を開けるとそこは大きく広い宮殿のような場所だった。
そこには玉座があり、ハイドリヒが王としての風格を見せながら座っている。
「よくぞ戻った、若き英雄達よ」
「「はっ!」」
「話題に入ろう。我が友がな、卿等に是非とも会わせたい人物がいるそうだ」
「俺達に会わせたい人?」
「誰だ一体?」
二人が思案しようとした瞬間、玉座の部屋の天井から何かが降ってくる。
「いっくーーーーーーーん!!」
「避けろ!相棒!!」
「いや、大丈夫だ!」
降ってきた何かをキャッチすると見せかけ、流れるようにそのまま地に叩きつけた。
「あぐっ!?随分と激しい挨拶だね!」
「束さん、抱きつこうとしないでください。それ以前になんでグラズヘイムにいるんですか?」
「え?このウサ耳アリスのコスプレしたこの人が篠ノ之束だとぉ!?」
「ぐはっ!?当たりすぎてるだけにものすごく心に刺さったよ!?」
そう、グラズヘイムにて再会したのは篠ノ之箒の姉でありIS開発者の天才科学者である篠ノ之束だったのだ。
「あの詐欺師から聞いてるよ。君がいっくんの相克の存在なんだね?」
「・・・捨てた名で名乗るべきか。鏡月正次だ」
ここで初めてフォルは自らが捨てた名を束に名乗ったのだ。本当の名はフォル自身が口にするのも嫌悪しているためにありえない事だった。
「うーん、じゃあ・・まーくん。うん!まーくんだね!」
束のあだ名にフォルが苦笑している中、ハイドリヒ卿の隣に揺らめく影が現れ形となる。
「どうだね?久々の再会は?」
「!来たのかよ、詐欺師」
「そう睨まないでやってくれないか?我が友は卿との約束を果たしたであろう?」
「ぐっ・・・アンタに言われると納得しなきゃいけないよね」
ハイドリヒとカール・クラフトの二人を前にして怯まず会話できている束を見て、サタナとフォルは驚いている。
「卿は渇望を持たぬ身で我が城に趣いた。それは賞賛すべきことだろう」
「彼女はこの世界の超越者の身なればこそ、グラズヘイムにおいて魂を飲まれないのでありましょう。獣殿」
双首領が揃った事により爪牙である二人はいつの間にか膝を着き、頭を垂れている。
「!!いっくん・・・まーくん!?どうして?」
「俺達はハイドリヒ卿の爪牙だからだよ」
「そうです束さん。俺達は爪牙・・・そしてハイドリヒ卿の刃」
束自身は二人の忠義の姿に疑問を持っているようだが、それは束自身がこの世界の超越者ゆえである。
「事実だと言ったはずだがね?篠ノ之束」
メルクリウスの言葉に束は殺気を込めた目で睨むがどこ吹く風で流されている。
それを止めようとする二人の爪牙も立ち上がった。
「卿等は手を出すな。彼女の怒りは私が愛さねばならんからな」
「っ・・・!」
黄金の獣たるハイドリヒは穏やかに笑みを束に見せるが、それは王者としての余裕さが表れていることにほかならない。
そんなハイドリヒを見つめたまま束は動かない。いや、動けずにいる。超越者といえど相手は幾万もの魂を喰らってきた獣、一人の超越者の力は微々たるものでしかない。
「礼は言うよ。二人に会えたしね・・・それに」
「それに?何だね?」
「ここでなら二人のISを強化できるからね。枷であることは変わらないけど動きやすくする事ぐらいは出来るから」
束の言葉に笑みを深くしたハイドリヒは意外な事を口にした。
「ならば客人として迎えよう。なに、これでも私は客人を無下にはせんよ」
「獣殿、貴方が彼女に興味を持たれるとは」
「客人は迎えいれるのものだ」
やはりこの二人は何を考えているかわからない。まるで娯楽に興じているかのような会話の仕方だ。
「サタナ、フォル。客人の案内は卿等に任せる。案内を終えた後に速やかにIS学園へと戻るといい」
「「jawohl!Mein Herr!」」
二人に誘導され、束はそれに着いて行く。双首領は姿が消えるまで三人を見ていた。
「女神の治世でなかったならスワスチカを開いていたところだな?カールよ」
「獣殿、この地では魂が足りずシャンバラとしての機能もない。仮にも女神の治世でなくとも貴方を現世に行かせる事は出来ますまい」
二人だけの会話の中には儀式の事が含まれていた。かつて成功させる寸前までいった最大級の儀式、スワスチカ。
それはラインハルトを現世に呼び戻す黄金錬成。修羅の世界の侵食、それが完成した時こそ終焉の歌劇が始まる。
しかしそれは最早、意味を成さない。女神によって統治されているこの世界を守護すると決めた黄金の獣は反面である水銀の蛇とともに守護者となっているからだ。
「ですが、スワスチカを開かずとも現世には行けましょう。我らが女神の加護によって」
「ああ、そうだな。だが、この世界は私にとって目で愛でる物だ。此処にいるとしよう」
「では、ご随意に」
二人の会話は互いに笑みを浮かべ合い、まるでチェスに興じるプレイヤーのような感じだ。
それはこの二人が心から楽しんでいるという事でもある。女神による統治されていようとも人が争いを続ける限り、
◇
IS学園に戻った二人はちょうど鈴とセシリアが接戦を繰り広げている所にタイミングよく現れた。
「おお、やってるやってる」
「鈴とセシリアの戦いか、これは観ないとな」
二人はアリーナの通路から二人の試合を観戦し始めた。
「っ・・!セシリア・・私、アンタの事ナメてたわ。ごめん」
「?急にどうしました?」
「アンタの目、すごい決意がありそうだから」
「それはサタナさんとフォルさんのおかげですわ」
「え?」
二人は試合中にかかわらず間合いをとったまま話を始めた。
「お二人はこうおっしゃっていましたわ。一で勝てないのなら百、百で勝てないなら千、千で勝てないなら万、何回でも戦い続けると。それは諦めたくないという気持ちだということを」
「でも、そんな事!出来るわけが!!」
「わたくしは一度、専用機を失った身ですわ・・・。帰ってきたとはいえ敗北したことは事実。その事実からもう逃げたくはありません!」
「セシリア・・・あんた」
「だからこそ、全力で戦うのです!勝利を掴むまで!!」
「そう、なら私も全力全開で行くわ!」
「望むところでしてよ!」
二人が戦いを再開しようとした矢先、突如としてアリーナの闘技場のバリアが破壊され、機械的な人形がその場で佇んでいた。
「なによ、あれ」
「無粋ですわね・・」
戦いを邪魔された二人は怒りが湧いてくるが理性で抑え込んでいる。
「相棒!」
「ああ、俺達も行くとしようぜ!」
アリーナで観戦していた二人もISを展開し、闘技場へ乗り込む。
「サタナ!」
「フォルさんまで!」
銀と灰色のISが並び立ち、蒼い雫と龍を守らんとする。
「機械のようだな・・・相棒」
「ああ・・・(我が
「「行くぞぉ!!」」
IS戦ということもあり、サタナとフォルは形成を発動し各々が得意とする剣と爪で機械人形へと迫る。
「!!!!!!」
「何っ!?」
「なぁ!?」
二人は驚愕した。形成状態の二人を機械人形は軽々しくあしらい、吹き飛ばしたのだ。
「ぐっ!あっ!」
「ゴフッ!!」
機械人形は装甲に傷が付いたものの、平然としている。
サタナとフォル飛ばされた衝撃で吐血し、倒れていた。
「このぉ!」
「お二人をよくも!!」
鈴とセシリアが臨戦態勢となり、機械人形へ向かっていく。そんな中、教師陣は我先にと逃げ出し、生徒の避難が遅れている。
「「やめろ!お前らじゃ無理だ!」」
二人の男がその言葉を発したが既に遅かった。機械人形は反撃の体勢を整えており、鈴とセシリアへ最大級のビームを放った。
「うああああ!」
「あああっ!!」
二人が同時にフォルとサタナの目の前に叩きつけられた。立ち上がろうとするが足が言う事を利かず、エネルギーシールドもほとんどが削られていた。
「コイツ・・・強い」
「なら・・!」
二人が創造を発動させようとしたその時、もう一人アリーナに飛び込んできた人物がいた。
「全く、見てられません!」
その人物はベアトリス・キルヒアイゼンその人だった。その身には量産型のISであるラファール・リヴァイヴを身にまとっている。
「ベ、ベアトリスさん!?」
「どうして・・!」
「貴方達が未熟だからですよ。それに、ちゃんと戦えるという所も代表者の二人にも見せておかないと」
しかし、ベラファール・リヴァイヴがベアトリスの動きについて行けたのが不思議であり、機体が軋みを上げていた。
「連れてきてくれてありがとう、ここからは私が戦うからゆっくり休んで」
ベアトリスは機体から降りると一本の宝剣を形成し取り出した。
その剣の名は
「相手が機械なら、私にとって相性がいい。サタナ、フォル、鈴さん、セシリアさん。今から私の力を見せますよ」
ベアトリスが剣を持ち、構えを取る。その構えには隙があるように見えて一切なく、凛々しさと美しさ、そして殺意が流れ出す。
彼女は戦乙女の名を持つ英雄の一人である。静かに目を閉じ、彼女は
「
「
「
「
ベアトリスが紡ぐ
『
『
『
「
「
「
その瞬間、ベアトリスは雷光に包まれる。この雷こそ彼女の力そのもの、それを見ていた四人は驚きを隠せない。
今、目の前にいるのは戦乙女としてのベアトリスであり、クラスメートのベアトリスではないからだ。
「雷・・・ベアトリスさんの力は閃光なのですね」
「ど、どうして平然としてられるのよ!人間が雷になったのに!!」
セシリアは平然としてベアトリスを見ており、鈴はパニックになっている。
「鈴、危険だ。こっちに来い!相棒、鈴を避難させないと」
「ああ、セシリアもこっちに」
「ええ」
「ちょ、ちょっと!サタナ!(あれ?この感じ・・懐かしい?)」
アリーナの入口へと避難し、ベアトリスだけが残る。機械人形と対峙しているベアトリスの目には相手を倒す意思がある。
「行きます!」
ベアトリスが一歩踏み出した瞬間、その間合いは一瞬で詰まり機械人形の腕を切り落としていた。
「鍛錬しておいて正解でしたね。まだまだ戦えます」
機械人形は標的をベアトリスに定め、ビームを放つ。だがそれは暴走している状態と似ており、ビームを撃ち続けている。
「ベアトリスさん!!」
「いや、あの人は」
爆煙が晴れた中に雷を纏ったままのベアトリスが立っていた。機械人形の攻撃は全てベアトリスの身体をすり抜けている。
彼女は元々部門に生まれ騎士の精神を持ち、精神状態が安定しているために能力の安定が凄まじい。
「舞踏は終わりです!!」
機械人形の四肢を切り落とし、一瞬で中心に刃を突き立て内部に雷を流し込んだ。
ベアトリスは一度、剣を振るうとそれを納めた。
「・・・・・」
「すごい・・一瞬で」
「あれが俺達の剣の師匠の実力だ」
「やっぱり叶わないな。ベアトリスさんには」
鈴はベアトリスの戦いに目を奪われていた。自分とは違い、力ではなく技術。剛ではなく柔の剣の流れ。それこそが鈴の中に影を落としていた。
「悔しい・・・・」
握り拳を作り、鈴は震えたまま唇を噛み締めていた。
「次の舞台は歌声が響いてくるやも知れぬ」
「その歌は天上の声か、地の響きか」
「次の戯曲は三人の役者の出演だ」
「楽しみにしていてくれたまえ」
演説 水銀の蛇