「我が女神と出会った時に感じたのを私は忘れはしない」
「あれだけが唯一無二の美しい既知だ」
「さぁ、次の幕を開けるとしよう」
「今回は私にも獣殿にも退屈な日常だがね」
演説・水銀の蛇
清掃期間を終え、普段の学園生活へと戻る。
それは刹那のように過ぎ去っていく、それこそが至高なのだ。
教室内ではスイーツの話題や山田先生が生徒にからかわれているなど平穏な日常が広がっている。
そんな中、朝のHRが始まった。だが山田先生一人しかいない。織斑千冬は本日退院するということは言われているが学園には遅れてくるというだけのことだ。
「代表は・・・セシリア・オルコットさんに決まりました。フォル君とサタナ君は辞退して、千雨さんは重傷により入院中ですので」
「わかりましたわ。ですが代表になるにあたって皆様に申したいことがありますのでよろしいですか?山田先生」
「え?はい。どうぞ」
発言の為に教員の許可を貰ったセシリアは同時に床に足を着けてクラス全員に頭を下げた。
「皆様、このセシリア・オルコット。この度クラス代表になる前に一人の人間として皆様に不愉快な思いをさせてしまった事をこの場を借りて謝罪致します」
今までの自分を恥じている事と反省の色を見せているセシリアは頭を下げたまま謝り続けていた。
「もう良いですよ、セシリアさん。自分のした過ちをしっかり認めたんですから」
そう声をかけたのはベアトリスだった。その声を聞いたクラスメートはセシリアの謝罪を受け入れていた。
「うん、ベアトリスさんの言う通りだよ」
「こうして謝ってくれたんだし、何も文句はないわ」
「だから、これからも仲良くしてね?オルコットさん」
「皆さん、ありがとうございます!」
顔を上げたセシリアの目には涙が浮かんでいたがそれをこらえて気品に振舞う。
今のセシリアに女尊男卑の考えは一切ない。己の過ちを認めたことで彼女自身も変わったのだ。
皆がセシリアを許し和やかになった雰囲気の中、サタナが席を立ちセシリアに近づいた。
「相棒から伝言だ。[あの時の約束を果たしに来た]だってさ」
「これは!」
そう、彼女のISであるブルー・ティアーズ。それをサタナ代わりに皆へわからないよう巧妙に隠して待機状態で返却したのだ。
「詳細は後でな?」
「はい」
「じゃあ、HRを終わりにして授業を始めますよ」
そう言って授業が始まった。それがひとつの平穏であるという事をサタナは噛み締めていた。
◇
「やっと終わったぜ。あー織斑先生はもう退院して現場復帰してんのか」
「女性の顔に火傷を負わせるなんて!まぁ、色々医療が発達してるみたいですから関係ないみたいですけど」
職員室にて報告を終えたフォルは席に座り、ベアトリスはその隣に座った。
「そういえば。二人共、転校生が来るって話題が持ち切りよ」
「転校生か。どこから来るのやら」
「中国って聞いたわよ」
「中国か・・・」
中国と聞き、サタナは少しだけ顔を曇らした。かつての名を捨てた自分の中に燻るものがありそれが解消しきれていないのだろう。
「どうした?相棒、中国に知り合いでもいるのか?」
「ああ、、あぁ・・まぁな」
「そうかい、詳しくは聞きやしねーよ」
二人の会話は本当に仲の良い親友同士の会話であり、踏み込むことは許されない雰囲気を醸し出している。
「あの・・」
「ん?ああ・・セシリアか?」
「ええ、中国の代表者が来ると聞いたので」
「セシリア、頑張れよ?スイーツ券や皆のためにな」
「はい!サタナさん!」
「相棒に惚れたなこりゃあ」
そんな会話をしていると突如、教室の扉が開かれた。
「ふーん、ここにいたんだ?アンタ達が噂の男性操縦者?」
「そうよ~。この二人がそう」
勝手に紹介を始めたルサルカに男性二人は注意を目でしながら入ってきた少女に目を向ける。
「私は中国代表生、凰 鈴音(ファン リンイン)アンタは?」
名前を名乗った少女はフォルに視線を向けていた。
「俺か?俺はフォル=ネウス・シュミットってんだ」
「俺はサタナ=キア・ゲルリッツだ」
「フォルにサタナね。覚えたわ(サタナ・・アンタもしかして?)」
「私はルサルカ・シュヴェーゲリンよ。よろしくね?リン」
「うん!ルサルカ!で・・・その隣にいるポニーテールの人は?」
「私はベアトリス・キルヒアイゼンと言います。よろしくお願いしますね」
「ベアトリスね。よろしく!」
各々が自己紹介を終えるとチャイムが鳴り、次の授業が始まる事を伝え始めた。
「!鳴っちゃったか!じゃあお昼に食堂でね!」
自分のクラスへと戻っていく鈴を見てサタナだけが複雑な思いを自分の中に抱いていた。
「相棒、お前はもう織斑一夏じゃねぇんだ」
「ああ、未練がないといえば嘘になるけどよ。やっぱり辛いな」
「だろうな」
一夏だった時の自分はもういない、それはサタナ自身もわかっていることだ。
わかっていても黒円卓のメンバーと比べればまだまだ若輩の身。
迷うことがあって当然なのだ。
そんな蟠りを持ちながら授業は開始され進んでいく。
◇
「待ってたわよ!四人とも!!」
そう言って近づいて来たのは鈴だ、その手にはラーメンの乗ったお盆が持たれている。
「リン、そこにいられると食券が買えないわよ」
「う、わ・・わかってるわよ。ルサルカ」
ルサルカの言葉に鈴はバツが悪そうに離れた。
それぞれが食事を持つと席を確保していた鈴が手を振っている。
それぞれが着席し、食事を始めようとした時。
「わたくしもよろしいですか?」
「ん?ああ・・セシリアじゃねーか。俺の隣しか空いてないが良いか?」
「ええ、もちろんですわ」
フォルの隣に座るとセシリアも一緒に食事を始めた。
「えっと・・後から来たアンタは?」
「わたくしはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットと言います」
「そう、私は中国の代表候補生の凰 鈴音よ。よろしくね?」
「ええ」
セシリアの態度は初めて出会った時のプライドの高いお嬢様という感じが無くなり、今は淑女という言葉が合うほどに落ち着いた様子でしゃべっている。
「そうなの~、鈴ってば一途ね~」
「からかわないでよ!ルサルカ!!////」
小柄な体型同士、気が合うのか鈴とルサルカはすぐに仲良くなり、恋愛話で盛り上がっている。
「でも、アイツは行方不明って聞いてるから・・・」
「大丈夫、きっと再会できるわよ(目の前にいるんだからね)」
「ありがと、ルサルカ」
そんな会話をしながらの食事はあっという間に終わった。
◇
その後、セシリアが自らフォルとサタナに特訓を申し込んできていた。
「どうしてもダメなのですか?」
「俺は射撃はマシンガンくらいしか扱えねえぞ?後はハンドガン位か」
「俺は知ってのとおりだしな」
そう、フォルはISの武装でも戦えないことはないが狙撃ではなく牽制を兼ねた弾幕展開型の銃を使っている。
サタナは標準ブレードや形成による大剣のみではあるが速すぎるためにセシリアにとっては相性が悪すぎるのだ。
「なら、いっそのことベアトリスさんに特訓してもらえばどうだ?」
「あの方にですか?」
「馬鹿にするなよ?あの人はああ見えて軍人だし、俺達の剣術の師匠でもあるんだ」
「決闘の時もおっしゃってましたが、意外過ぎますわ!」
セシリアの反応は尤もだろう。人懐っこい笑顔を見せ、明るく話してくれるベアトリスが軍人でしかもサタナとフォルの剣術の師である事を知れば当然の事だ。
「軍人だから訓練は厳しいぞ?その分、指導は的確だ」
「お願いしてみますわ、わたくしも強くありたいですから」
そう言ってセシリアはベアトリスのもとへと向かっていった。
「セシリア、変わったな」
「そりゃあ、惚れた男が近くにいるから仕方ねーんじゃねーの?」
「?それって相棒の事か?」
「アホか。鈍感野郎!」
「なっ!?なんだと!!」
「やるか?」
「来いよ!叩きのめす!」
「上等だァ!」
二人は創造を発動させ、喧嘩を始めてしまった。
この後、グラズヘイムに一時帰還する事を伝えに来たエレオノーレによって両成敗されたのは言うまでもない。
「あまりに退屈な日常の歌劇だったが」
「これも流れというものだ」
「私は舞台装置を用意するといった」
「この世界ではこの世界の最も強力な武器を使うとしよう」
「人に在らざるモノを使ってね」
演説・水銀の蛇