無限の成層によるDies irae   作:アマゾンズ

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「とうとう因縁が絡み合う」

「彼にとってはどれほどの演舞を見せてくれるのか?」

「私としても楽しみだ」


「爪牙の矜持、見せてもらおう」

「美々しく舞え」


演説 水銀の蛇、黄金の獣


第五劇 三部 決歌劇

一時間後、セシリアは目を覚まし手当てを終えていた。

 

千雨もISのエネルギーの補給を終えて機体のチェックをしていた。

 

「許さない・・・私を地につけたあの男!」

 

「・・・・」

 

千雨は憤怒が宿っており、セシリアはまるで熱が引いたような目で千雨を見ていた。

 

自分も一歩間違えればこうなっていたのではないのか?など思考がよぎる。

 

「わたくしは・・・」

 

黄金の爪牙に目をつけられたが故に逃れられない戦いにセシリアは絶望していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の戦いはセシリアVSフォルの組み合わせであった。

 

フォルはISを展開し、形成を済ませ、今か今かとセシリアを待っていた。

 

「お待たせしました」

 

セシリア戦意が多少落ちている様子でアリーナに出てきた。

 

「ん?相棒にやられて戦意が落ちたか?」

 

「っ・・・・」

 

「だが、俺は手加減はしねえ。お前が態度を改めれば強くなる方法を教えてやる」

 

「・・・・行きます」

 

試合開始のブザーが鳴り、戦いが始まった。

 

「ハアァァァ!!」

 

形成によって現れた手首の刃を使った接近戦でセシリアを追い詰めていく。

 

「強い・・強すぎますわ!この二人は!」

 

「余計な事を考えてる暇があんのかよォ!!」

 

「あぐっ!?」

 

フォルの拳がセシリアの腹部を捉え、その衝撃がセシリアを襲う。

 

その一撃一撃が戦いの恐怖、勝利への圧倒的な飢えを身に染み込ませてくる。

 

「!!ティアーズ!」

 

だが、自分も負けられない。負ける訳にはいかないと戦闘への意欲を見せた。

 

「そうだ、それでいい!」

 

「何を!」

 

「お前は恐らくISが全てなんだろ?なぁ!!」

 

「っ・・!!」

 

「取られたらそれはもう絶望だよなぁ!己の全てだものなァ!」

 

フォルは挑発を強める。その意図に気付かないセシリアは怒りを露わにしてくる。

 

「許しませんわ!わたくしが勝ちます!!」

 

「そうだ、女尊男卑に染まったその考えが聖戦を汚す!だから、欲する!」

 

『「自由を!!」』

 

 

 

セシリアの銃撃を避けたと同時にフォルのISの装甲がパージされ、ルーンのような模様が書かれた黒い肩がけのような装甲が展開される。

 

『俺の力を使いたいと?ふん・・聖戦(せつな)を思う。その言葉は真実か?』

 

「(無論ですよ、マキナ卿)」

 

『いいだろう、使うがいい。幕引きを・・な』

 

黒騎士から許可を得たフォルは詠唱(うた)を紡ぐ、鋼の求道を極めたドライチェーンの天秤であるズィーベンの力を。

 

 

 

 

 

 

『「Tod!(死よ) Sterben Einz'ge Gnade!(死の幕引きこそ唯一の救い)」』

 

『「Die schreckliche Wunde,das Gift, ersterbe,(この毒に穢れ蝕まれた心臓が動きを止め)」』

 

『「das es zernagt,(忌まわしき毒も傷も)erstarre das Herz!(跡形もなく消え去るように)」』

 

『「Hier bin ich,(この開いた傷口) die off'ne Wunde hier!(癒えぬ病巣を見るがいい)」』

 

『「Das mich vergiftet,(滴り落ちる血のしずくを) hier fliesst mein Blut:(全身に巡る呪詛の毒を)」』

 

『「Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.(武器を執れ 剣を突き刺せ)」』

 

『「tief, tief bis ans Heft!(深く 深く 柄まで通れと)」』

 

『「Auf! lhr Helden:(さあ 騎士達よ)」』

 

『「Totet den Sunder mit seiner Qual,(罪人にその苦悩もろとも止めを刺せば)」』

 

 

『「von selbst dann leuchtet(至高の光はおのずから)euch wohl der Gral!(その上に照り輝いて降りるだろう)」』

 

 

 

『「Briah――(創造)」』

 

 

 

『「Miðgarðr Völsunga Saga(人世界・終焉変生)」』

 

 

その両腕が鋼と化し、鏡のように磨かれた刃ではなく全てを飲み込む黒色が覆っている。

 

「!!」

 

「言っておく、コイツは模倣ゆえに本来には及ばないが受ければタダでは済まない」

 

驚きによって硬直しているセシリアに声をかける。

 

「本来?」

 

「本来の力で受ければお前は死ぬぞ?一撃でな・・・」

 

黒騎士の影響のせいか口数が少ないが意味のない行動を嫌っているのだろう。

 

「行くぞ・・・!ハアアアア!!」

 

模倣したのは創造だけではない。黒騎士の体術すら模倣しセシリアに迫る。

 

「っ!この一撃・・・受けたら終わってしまいますわね!」

 

ギリギリのところで幕引きの拳を躱しつつ、ビットによって反撃するが至高の体術を模倣しているフォルにとってその攻撃は止まって見えている。

 

「終わりだァ!!」

 

左と右の拳を交互に放ち、左を避けたセシリアはフォルの右の拳を受けてしまった。

 

「ぐ!ゲホッ・・!!」

 

腹部にめり込んだ拳をそのまま振り抜き、アリーナの壁へと叩きつけた。

 

「あ・・・が・・・・」

 

セシリアはあまりの衝撃に再び気絶し、ISが解除されてしまった。

 

フォルはそのままセシリアに近づき、待機状態となっているセシリアのISを手にした。

 

「二日間は預かっておく。決闘の掟だからな」

 

そのままフォルは背を向け、アリーナからピットへと戻った。

 

ルサルカとベアトリスはお疲れ様と労いの言葉をかけ、サタナは次の試合に備えて待機していた。

 

「ちょっと、離れる」

 

「わかったわ、出来るだけ早く戻りなさいよ?」

 

ルサルカにそう言ってフォルは通路へと出た。

 

「居るんだろ?副首領閣下」

 

そうつぶやいたと同時に水銀の蛇たるメリクリウスが姿を現した。

 

「何か用かね?」

 

「コイツをあの人に渡して下さい」

 

そう言って待機状態となっているブルー・ティアーズをメルクリウスに渡した。

 

「これは、ああ・・戦い敗れた彼女の蒼き雫か。ほかならぬ君の頼みだ。この蒼き雫は彼女に渡しておこう」

 

「・・・・二日目には返却しますので」

 

「その旨も伝えておこう」

 

要件を終えたメルクリウスは陽炎のように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、サタナがアリーナに佇み、形成状態のまま。対戦相手を待っていた。

 

「・・・・」

 

「アンタが相手とはね。アンタを見てるとあの劣等種の兄を思い出すからムカつくわ!」

 

「そうか、お前に関しては俺は何も言わない。だが、叩き潰す!」

 

「男のアンタが私に勝てる訳が無いでしょ!」

 

試合が始まり、互いに突撃し剣をぶつけ合った。

 

「!!この太刀筋・・・!アンタまさか!」

 

「・・・」

 

大剣で千雨の太刀を弾き返し、間合いを開く。

 

「まさかアンタがあの劣等種だったなんてね・・・!ますます倒さなくちゃ!」

 

「言葉を交わす気にもなれないな」

 

「ふん、アンタが忠誠を誓った相手だってクズでしょう!アンタなんかが忠誠を・・!がっ!?」

 

その先を言う前に千雨は喉を掴まれていた。その力強さは人間ではない。

 

サタナの目には殺意と怒りが同時に宿している。

 

「おい、お前・・・ハイドリヒ卿を侮辱したな?ザミエル卿を、マキナ卿を、シュライバー卿を、クリストフさんを、ベアトリスさんを、戒さんを。黒円卓を馬鹿にしたな?」

 

首を掴む手に力が更に込められていく。

 

「がっ・・・かはっ・・・!!」

 

外そうと千雨はもがくがサタナの力が緩むことはない。それどころかサタナの怒りはますます燃え上がっている。

 

「ふん!」

 

そのまま投げ飛ばすと、サタナは大剣を構え直した。

 

「ゲホッ!ゲホッ!!」

 

投げ飛ばされた千雨は喉を押さえながら必死に酸素を貪っている。投げられても衝撃を緩和していたことは驚くに値するだろう。

 

「お前にはもう手加減しない・・・血に濡れたまま踊り続けろ!」

 

「アンタに私が倒せるわけがない!」

 

「やってやるよ!」

 

怒りによって殺意を明確にしたサタナは千雨の知らない剣術で追い込んでいく。

 

「なによ・・これ!零落白夜を発動させる暇がない!」

 

「俺にこの剣術を教えてくれたのはベアトリスさんとザミエル卿だ!お前はそれすらも馬鹿にした!切り刻んで痛みと恐怖を与えてやる!」

 

千雨は二本の刀で防御重視の技を使って大剣を捌き続けるがその均衡は崩れてきている。

 

「うおおおおお!!」

 

小枝のように振るい、美しく軌道を描き続ける大剣は千雨をとうとう捉えた。

 

「あ!」

 

悲鳴を上げる前に全身を切り刻まれていく。痛みはなく、自覚できない。

 

「何ともないじゃない!おとなしく負けなさいよ!劣等種!」

 

「お前は気付かないだろうな。そのまま倒れろ」

 

自分の頬に何か暖かいものが付着する。それに手を触れて見る。その正体は鮮血、千雨の手のひらには真っ赤な鮮血が付着している。

 

「何・・・血じゃないのよ・・これ・・・た・・助け・・お姉・・」

 

Auf Wiederseh´n. Dumme Schwester(じゃあな、愚かな妹)

 

そう、サタナが声をかけると同時に千雨の全身から血が噴き出した。

 

出血している場所は容赦なく切られた四肢にある動脈の全て。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

断末魔のように悲鳴を上げ、かつての妹はその場に倒れた。

 

観客からは悲鳴が上がり、サタナを非難する声も溢れているが、これは命をかけた決闘であり第三者が踏み込んでいい場ではない。

 

サタナはそのままピットへと戻っていき、ルサルカとベアトリスの二人のもとへ向かっていった。




「情け容赦のない演目、いかがだったかな?」

「道化というものは自覚があれば人を楽しませられる」

「それが無ければただの愚か者に過ぎない」

「君達は楽しめたかな?」

恐怖劇(グランギニョル)は始まったばかり存分に楽しんでくれたまえよ」

「次の演目にて再会を」

演説 水銀の蛇

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