「その筋書きはありきたりで、既に一度開演した歌劇ではあるが・・・」
「役者が変わる事で、新たな歌劇となると信ずる」
「故に面白くなると思うよ」
「さぁ!今宵のグランギニョルを始めよう…!」
演説 水銀の蛇
2XXX年 5月1日
PM13:30
ある場所に二人の少年、いや青年達が拉致されていた。
一人は奥の倉庫へ放り投げられ、もう一人はその隣の倉庫で縛り付けられている。
「悪いな?お前を使わんと棄権させられないんでな?」
「もう一人は?」
「奥に縛って放り込んである。お偉いお姉さまが見てるよ、これで大金と権力が手に入るなら万々歳だ」
「・・・・」
青年の一人は黙っていた。
身動きが出来ないからか、それとも悲観して全てを諦めているからだろうか。
「(勝利を・・・勝利を、こんな奴らに負けるなんて嫌だ・・![総てを蹂躙し尽くしたい、全ての力を得たい!]」
否、青年の心の内は闘争の渇望を放っている。
それはまるで祈りのように、
奥の倉庫へ放り投げられたもう一人の青年も先ほどの青年と同じように渇望を放っていた。
「(こんな、俺がなんで!ふざけるな![斬首台のように全て刈り取りたい!俺自身が刃だったらいいのに!])」
もう一人の青年も闘争を望む渇望を放っている。
ふたりの渇望が
『卿らの
「「!!!!!!????」」
どこからか聞こえてくる声に二人は場所こそ違えど同じ反応を返した。
まるで清水のように心に染み渡っていく、威厳にあふれた声。
カリスマなどという言葉では片付けられないほど二人はその声に聞き入った。
『卿らは何を望む?』
「「
『よかろう、ならば我が
突如として二つの倉庫の扉が破壊される。
一方はまるで戦車の砲弾が直撃したかのようにひしゃげており、もう一方は超高温による熱でチョコレートのように溶かされていた。
「・・・・・」
「・・・・・・ふん」
一人は男性らしく、無精髭を生やし鍛え抜かれたその身体は無駄なところが一切ない。
その男が繰り出す拳によって銃を持った護衛の男達が次々に命を駆られていく。
「・・・ここに一人か」
◇
もう一人は女性で口には葉巻を咥えて紫煙を吹かしている。
炎のように紅く長い髪を束ねており、それを靡かせながら近づいてくる。
軍人といった様子だが美貌を持ちながらも左顔面にある火傷の痕によって更に威圧が増している。
「ハイドリヒ卿が目をかけた小僧どもか。なるほど渇望の度合いが強い事は認めよう、だがそれだけだな」
「あ、アンタ何者よ!?女なのに男を助けるの!?」
主犯格の女性が女騎士であるザミエルに震えながら意見を口にする。
しかし、それは自分の命を業火に晒す事と同義であった。
「女尊男卑・・・くだらん思想だな。その機械を動かせるだけで己を特別だと思う考え、反吐が出る」
吐き捨てるかのように紫煙を吐き出し、ザミエルは目を伏せた。
これ以上見るに値しないと言わんばかりに。
「死ねぇ!」
女に付き従っている残った最後の男がマキナと呼ばれた男へ向かっていく。
「・・・・」
ギリギリと拳を握り締めたマキナは無言のまま構えをとり拳を放つ。
「あ・・・がッ・・・?」
何が起きたかわからない、それが男の本心だろう。
拳を撃ち込まれたに過ぎない、ただそれだけだ。
終焉を告げる拳、触れた物の
「そんな・・・一撃で」
マキナの一撃を受けた男は
「この程度か・・・」
最早、自分の任務を終えたと言わんばかりにマキナは動かない。
「こ、こうなったらアンタだけでも!!」
女は紫煙を揺らしているザミエルへISの射撃武器を向け、砲撃した。
「やった!」
手応えを確かに感じた。目の前にいた紅の女を倒したと確信している。
「この程度か・・しかも素人過ぎる。撃つなら確実に仕留めろ。貴様ごときには剣など不要だな」
「そ、そんな!直撃だったはずよ!?生身の人間なのに!」
爆煙が晴れた中から現れたのは無傷のまま真紅の髪を揺らした紅の騎士の姿だった。
「
その瞬間、主犯であった女は火柱に包まれた。
悲鳴すらもかき消す炎はISごと女を焼き尽くし、塵芥に変えた。
「すごい・・・」
それを見ていた青年は恐怖ではなく憧れを抱いていた。
炎に魅せられた訳ではない、圧倒的に敵を倒す力と実力それに魅せられたのだ。
「貴様等さっさと立て。ハイドリヒ卿がお待ちかねだ」
促されるままに立ち上がり、紅騎士であるザミエルの後へと着いて行く。
「来い・・・」
黒騎士であるマキナも、もう一人の青年を連れて行く。
「終焉・・・・一撃」
マキナについていく青年はマキナの
全てを終焉させる力は彼にとっては憧れであり、渇望の根源であった。
◇
「入るがいい」
「・・・・」
案内された先は城のような場所であり、円卓があった。
マキナはⅦの数字が書かれた席に座り、ザミエルはⅨの数字が書かれた席に座った。
「さて、卿ら。初対面だったな、名乗ろう。私はラインハルト。ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ」
その名に青年達は驚愕した。
ラインハルト・ハイドリヒと言えば歴史を深く掘り下げたものなら知っている名だ。
当時のドイツでナチスのゲシュタボの長官を勤めていた人物だ。
その人物が目の前にいる。それだけでも驚きだがそれ以上の輝きに対して必死に耐えていた。
威圧、眼光、姿。その全てが黄金であり、有無を言わさぬ雰囲気を纏っている。
「卿らの名前は?」
「織斑一夏」
「鏡月正次」
二人はそれぞれ名乗った。そして心の中に黄金の輝きが射し込む。
「この統治された世界において渇望を持つか、それもかなりのものだな」
まるで愛でるような声に二人は震えていた。このハイドリヒという男は威厳がありすぎる。
「っ・・・っ・・く」
正行は震えていた、ハイドリヒから溢れ出る覇気に当てられているのだ。
「少々、戯れが過ぎますな。獣殿?」
影法師のように外套を纏った痩せた男がいつの間にか場にいた。
「カールか」
「この二人は未だ[人間]。獣殿と相対しているだけで大したものでしょう」
そう、この黒円卓にただの人間である二人が耐えられている事は珍しいのだ。
「さて、皆が揃ったところで本題に入ろうか。この二人を黒円卓に迎えたいがどうかね?」
「この二人を?」
カールと呼ばれた男は含み笑いを浮かべたままラインハルトを見つめている。
それと同時に二人の方へも視線を移す。
陽炎のように存在がない。しかしその仕草や行動一つ一つがまるで土に染み込む水の如く、それでいて遅効性の毒のように染み込んでくる。
黒円卓の面々は二人へと視線を一斉に向ける。
「ハイドリヒ卿、コイツ等はまだ人間なんっすよね?大丈夫なのか?」
「確かに坊や達だものね、魂の強度は認めるけどね~」
サングラスをかけた白髪の男性と小柄な女性が意見を述べた。
まるで品定めをするように見続ける、獲物だと言わんばかりに。
「彼らの渇望は我がグラズヘイムにふさわしいと思うがゆえに呼んだのだが、不服かね?」
ハイドリヒの表情は読み取れない、しかしそれをカールは笑ったまま見ている。
「それなら鍛えてあげれば良いんじゃないかなぁ?この二人の血を見てみたいしねぇ!」
「貴様にしてはまともな意見だな?シュライバー」
眼帯をした白髪の少年とザミエルは意見を僅かに交換すると目を伏せた。
品定めが終わったように黒円卓の面々はハイドリヒ卿に視線を向けた
「俺は強くなれるのか・・・?」
「そうだ!強くなれるのか?ここにいる方々のように」
二人は必死に叫ぶ、自分達もこの円卓に相応しくあろうと。
「無論」
ラインハルトは笑みを深くすると二人へ黄金の波動を向ける。
先ほどの波動とは違い、二人を肯定する波動。言葉にすれば愛という感情を向けられたのだ。
「あ・・ああっ・・・」
「あ・・・ああ・・・」
二人は涙を流していた、誰にも認められず二人の姉妹の付属品としか見られなかった青年と自身の存在を認めず親類の人形になるよう強制された青年。
破壊の愛、それは王者が従者を認める覇者の愛であり、それを受けた二人は歓喜している。
「ほう?この二人はよほど他者からの愛に飢えていたとみえる」
外套を纏った男は二人に対し視線を向けた。
「獣殿、私も賛成致します。この二人を向かい入れては如何かな?」
「ああ、皆はどうだ?」
黒円卓の面々はそれぞれが頷いた。誰もが肯定の意思を見せている。
主たるラインハルト、そしてその隣に並び立つカール・クラフト。総首領の二人が向かい入れると判断したのだ、従者たる爪牙達に反対する意思はない。
「では、カール。二人に魔名と呪いを与えよ」
「承知した。ああ、君達には名乗ってなかったか。私はカール・エルンスト・クラフト、他にも名はまだまだあるが一番気に入ってる名を名乗らせてもらうよ」
そう言ってカール・エルンスト・クラフトと名乗った男はふたりの前に立った。
「織斑一夏、君の魔名はサタナ=キア。呪いは他者に認められない、だ」
「鏡月正次、君の魔名はフォル=ネウス。呪いは自分の存在を決めつけられる、だ」
儀式は終わったと言わんばかりにカールはハイドリヒの近くに立つ。
「さぁ…卿ら。新たな爪牙として我らと共に女神の治世を守ろうではないか」
「「Jawohl!」」
「(サタナのルーンは刃。そしてフォルのルーンは鏡、この二人は新たな未知を感じさせてくれそうだ。否、そうでなくては困る)」
「ジーク・ハイル!」
「「「ジークハイル!!」」」」
魔名を受けた二人は女神を守る修羅の宇宙へと足を踏み込んだ。
己の渇望を満たさんが為に。
勢いで書いてしまった。
正田崇氏の作品は引き込まれる要素が沢山ありすぎます。
チート級が揃う黒円卓の中で能力がチートなのはご了承ください。