Fate/Jam uncle 作:飯妃旅立
あと、優しい世界なのはあくまで生者に対してのみです。
雨生龍之介は芸術家である。
与えられた素材では飽き足らず、自ら足を運んで満足のいく素材を調達し、その手で芸術作品を仕立て上げるほどには芸術家だ。探究心の塊ともいえる。
だが彼の本質はそこにはない。
雨生龍之介は殺人者である。
自らの姉に始まり、老若男女のべ42人の人型から命を奪って来た。そこに妄執や確執のような明確な理由は無く、極めて純粋な悪性の殺人者だ。
だが彼の本質はそこにはない。
雨生龍之介は好奇心旺盛である。
そもそも殺人に手を染めたのが「死」という物への好奇心からであり、そこで快楽を得てしまったが故の連続殺人だ。
好奇心と探究心。これが彼の本質だろうか。
『サーヴァント・マイスター、召喚に応じ馳せ参じた。 問おう、貴公が私のマスターか』
否。
『――……不潔だな』
彼の本質は、もっと深い所にあった。
『――餓えているな。これを食え、マスター』
雨生龍之介は殺人者である。
例え現在の嗜好が殺人からほど遠い所にあるとはいえ、人の死に一々驚いたりするような清い性格になったワケではない。
だから、目の前に死体があっても、動揺する事は無いのだ。
「……」
「ん……あぁ、パン屋の兄ちゃんか。こんな夜更けに出歩いてっと、危ねぇぞ?」
そう言いつつも龍之介を心配する雰囲気は一切見受けられず、コンクリートに
その穂先についている血液も、地面にぶちまけられた肉片のようなものも、まるでそれが日常風景の1つであるかのように気にしていない。
「ラ……ライダー……?」
そんな男の背後から、気弱な声をかける少年。
一切の動揺をしていない2人と違って、その少年は今にも腰を砕いてしまいそうな……頭に乗せたワカメと同じくらいヨタヨタしていた。
「……なんだ、まだいたのか坊主。俺のマスターはマスターの命までは狙ってねぇ。失せな」
「あ……あぁあ……ああああ!!」
その槍の穂先を少年へと向ける青タイツ。
ピリリとした空気が少年へと向かえば、少年は涙を零しながら這うように逃げて行った。
「……ここまで、ですか……」
その少年の後姿の方を向いて、消えつつある身体と胸に開いた大穴を晒しながら、女が呟いた。
扇情的な姿をした女だ。その瞳を
先に情けない姿を見せた少年への想いか、はたまた本来の彼女のマスターへの想いか、それはわからない。
「でも……あのチョココロネは……美味しかった、ですね……」
そう言い残して、女は消えた。
「毎度ありー、っと……それで、ご注文は?」
その言葉に何を感じたのか、龍之介は消えた女へ決まり文句を言う。
そのまま身体を蒼タイツに向き直し、これまた決まり文句をのたまった。
「……んじゃ、40円で買える奴あるか?」
「あげぱん1つか、揚げドーナツ2つ」
「んじゃ揚げドーナツ2つで」
「40円になりまーす」
その態度に諦めたような声で対応する青タイツ。
どの道彼には「一日に1人の戦士とのみ戦う」という
「龍之介、出来たぞ!」
「あいよー!」
そんな折、突如なにもなかった道路に褐色のキッチンカーが現れ、ましてやその天井からサーヴァントが出て来れば、いくらケルト神話の大英雄といえど驚きはするもので。
驚きこそすれど特に脅威にも感じないその男に、青タイツは怪訝な目を向ける。
確かに道端に、そして空気に凭れ掛かるような姿勢で立っていた売り子の青年は違和感だらけだったが、今の今までそれを疑問に思う事さえなかったのだから、これは自らの対魔力やルーン魔術すらをも凌ぐ神秘……つまりキャスタークラスである可能性を見出したのだ。
聖杯からのバックアップの中にある知識に寄れば、キャスタークラスは魔術師や錬金術師だけでなく、小説家や音楽家、発明家や数学者とそれはもう選り取り見取りのバラエティーに富んだ英霊が当てはまるという。
つまり料理人のキャスターがいてもおかしくは無い。
「んじゃ、熱いうちに食ってくれよ!」
渡された紙袋を見れば、それなりに品質の良い礼装である事が見て取れた。
ますますキャスタークラスという信憑性が深まる。
バゼットに料理人……殊更パン作りの英雄に関する知識を問うてみようと思いつつ、青タイツはその場を後にしたのだった。
ライダー脱落です。
そもそも英霊が死なないと聖杯戦争終わらないからね!!