まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv—   作:アストラ9

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傭兵雇用

 

「アーマードコア?」

 

「ああ、そうだ。戦術機とは異なる思想設計で作られた人型汎用機動兵器。それがアーマードコアだ」

 

 俺は今、イングヒルトにACについての説明を施している。理由はごく単純、彼女にACに乗って貰うためだ。

 

「そもそも何故こんな話をするのか。第666戦術機中隊の自分に話しても……と思っているだろう。

 だが最初に言わせて貰う。お前はドイツには戻れない

 

「……え?」

 

 その瞬間、彼女の表情が暗い物へと変わる。

 

「お前達の国を少し調べさせて貰った。

 随分とすごい国だな。他者を監視するのが当たり前と化している国家というのは」

 

 あれが東ドイツという国なのか、という事は認識させられるものだったよ、あれはな。

 

 武装警察『シュタージ』による反逆者の密告と処分。

 

 『シュタージファイル』という個人情報のデータバンクの存在。

 

 都合の悪いものは即刻消去する帝政。

 

 正直言って反吐が出そうなほど、真っ黒な国家だ。こんな国が存在出来ているという事が不思議でならない。

 

「先ほども言った通りお前の体は強化人間手術によって以前とは比べ物にならない程強化されている。

 そんな状態であんな国に帰ったらどうなる? シュタージとやらに捕まって実験のモルモットになるのがいい所だぞ」

 

「で、ですが……!」

 

「それに第一強化人間の身体を維持するには特定のナノマシンの稼働が必要だ。しかもそれを稼働するには1000万もの金がかかる。定期的にな。

 それを東ドイツという国は支払ってくれるのか? たった一人のパイロットの為に」

 

「……っく」

 

「勘違いしないでほしい。俺は別にお前を陥れる為に言っているんじゃない。純粋な好意から言っているんだ」

 

 なんせ俺も同じだからな、と一言付け足しておく。仮に死ぬとしても、一人で死ぬわけではない。ある意味運命共同体という訳だな。

 

「そこでだ。俺はお前を俺と同じ傭兵として向かい入れようと思っている」

 

「傭兵…?」

 

「そう、傭兵だ。強化人間手術によって生命の維持が大変なのはお前だけではない。俺も同じなんだ。

 そこでお前を傭兵として使う事で収入を増やす事にする。

 その見返りとして報酬の何割かはお前に分け与えよう。それと衣食住もつけてやる」

 

 どうだ、まだ不満があるか? と苛立つような笑みで問いかける。コレをバネにして……と思うが俺の演技が下手すぎるのが否定出来ないので多少は効果があったとでも思っておこう。うん。

 

「……何を、すればいいんですか?」

 

 暗い雰囲気を醸し出しながらも、彼女は喋った。

 よし、少しは効果があったかもな。多分。

 まあそれはともかく、彼女に今やる事を示しておこう。

 

「イングヒルト、お前料理はできるか?」

 

「ええ、出来ますが……え?」

 

「ああ、恐らくお前の思っている通りだ。お前には暫くの間家事全般の仕事について貰う」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 私を傭兵として戦場へ連れて行ってくれるのでは……!」

 

「ああ、勿論そのつもりだ」

 

「だったら……!」

 

「……お前、基本コンセプトから全く違う兵器に初見で乗れるのか?」

 

 その言葉にイングヒルトは黙り込んでしまう。

 

 正直に言わせて貰うが、それはかなり難しいのだ。

 

 例えるならば戦闘機のエキスパートが戦車に乗り換えて即戦果を出せるか、と言っているようなもんだからな。

 

 そのような場合は普通、再訓練を行うものだ。勝手が違う兵器を扱うには、それぐらいしなければいけないからな。

 

「私に……訓練を受けろ、という事ですか」

 

「ああ、その通りだ。流石に勝手が違う兵器にいきなり乗せる訳には行かないからな」

 

 せっかく拾った命だ。ドブに捨てるようなマネはしたくない。

 

「……分かりました。ならば甘んじてそれを受け入れます」

 

「ああ、それでいい。それで十分なまでの訓練を積んでくれ。また仲間を失うような事にはなって欲しくない」

 

 ……RD、俺はお前が何故離れて行ったのかは知らない。考えた事もない。だが……お前が離れてしまって俺は少し寂しかったぞ。結局俺たちはただの同業者って事を再認識させられてな。

 

「……だからこそ、今度は回りにも気を配らなければな」

 

「? どうかしましたか? エーアストさん」

 

「……いや、なんでもない。とりあえずイングヒルト、お前にはACシュミレーションをしながら家事全般を行なって貰う。それに異論はないな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 よし、ならば後の事は任せても良さそうだな。この基地の事は彼女へ任せてもおこう。

 とりあえず俺は今から機体の修理・改修だな。

 

「それじゃあ俺はハンガーへ行ってくる。また後でな」

 

 俺はハンガーを目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれからAF内移動用スロープに乗る事数分。やっとハンガーへとたどり着いた。

 

 ハンガーに入ると第一に目に入ってきたのはカタパルトへ倒れこむように転倒しているアンファングの姿。

 

 流石に今回の出撃で機体を酷使してしまったからな。お詫びも兼ねて改修・改造を行なった方がいいだろう。

 

 ポケットの中からスマホを取り出す。

 

「さて、それじゃあまずはACパーツから……あれ?」

 

 俺はスマホを弄ってパーツ購入メニューを開いたのだが……ほぼ全てのパーツにロックがかかっている。

 

 外装パーツに至っては安価逆接以外全てにロックが掛かっている。どういう事だよ。

 

 俺は財団へ直ちにコールする。

 

『……ん? ああ、君か。黒い鳥。何の用だい?』

 

「財団、率直に聞かせて貰う。コイツはどういう事だ?」

 

『……ごめん、黒い鳥。話が見えないんだけど』

 

 ああ、確かに財団には説明していなかった。とりあえず事の成り行きを説明する。

 財団は答えた。

 

『君の機体がボロボロになって修理しようとしたらACパーツが使えなくなっている、との事だけど……それならばMTを使っていけば初期型がどんどん解放されていくはずだ』

 

「なに? MTだと?」

 

『そう、MTだよ。君は最初に安価な軽逆MTを購入して戦術機に組み込んだよね。

 その機体での戦闘回数が蓄積されたから軽逆脚部とロケットなどの武器パーツ、FCSなどの内装パーツ等の初期型が解放されているはずなんだ』

 

 ふむ、確かにジェネレーター等は購入できるようになっていたが……だが、それならばブースターについての説明はどうする? 全てのブースターが使えるようになっていたぞ。

 

『ああ、一応言っておくとジェネレーターとラジエーター,ブースターは最初から全部使えるようにはなっているよ。

 老人たちもどうやらこのくらいなら許容範囲内らしい』

 

 ……ああ、それでブースターは最初から使えたのか。少し上手く出来すぎている気もするが、今この現状では有難い。

 

『それじゃ要件は以上かな? 僕は仕事に戻るよ』

 

「ああ、手間取らせて悪かったな」

 

『いやいや、大丈夫だよ。それじゃあまた今度』

 

 財団との通信は切れてしまった。

 

 とりあえずだが、今からやっていくのは基本的にMT装備をアンファングに装備させて各パーツを解放していくのが先決だな。マシンガン辺りはすぐに解放しなければならない。

 

「それじゃあ早速改修に入りますか」

 

 俺は各資材を買い漁る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの忌まわしきイングヒルト誘拐事件から数日たったある日、東ドイツの某基地の第666戦術機中隊には補充要員としてある人物が編入していた。

 

 

「はふぅ〜、へろへろですぅ〜」

 

 

 それが彼女、カティア・ヴァルトハイムである。

 

 元々西ドイツ軍の衛士だった彼女は先のBETAとの戦闘の支援に向かう部隊へ合流し、東ドイツの某所で戦闘を繰り広げていた。

 

 ……が、その際の戦闘で彼女を残して部隊は全滅、周囲の敵を殲滅出来ぬまま戦場に一人取り残されてしまったのだ。

 

 そして惜しくも彼女が戦っていた場所には例の黒い戦術機は来なかった。支援には来てくれなかったのだ。

 

 弾薬も残り少なく、支援も期待出来そうにない場所での単騎での戦闘は、非常にリスクを伴うものだった。

 

 

 ——だが、そんな彼女にも祝福の女神は微笑んでくれた。

 

 

 第666戦術機中隊。その内の一番機と八番機が救助信号を受けて増援に来たのだ。

 

 その後、救助に来た二人(アイリスとテオドール)によって彼女は無事救出、めでたく生還する事となったのだった。

 

 そして、事件は起こった。

 

 それは、彼女が目覚めたと聞いて様子を見に来たテオドール少尉とグレーテル中尉が彼女の部屋に入った際に言った、ある言葉が原因だった。

 

 

「私を——第666戦術機中隊に加えてください!」

 

 

 当然、その言葉を聞いた一同には戦慄が走った。彼女は一体何を言っているんだ、と。

 

 そしてその言葉に最も強く反応を示したのが政治将校でもあるグレーテル中尉だった。

 

 彼女はその言葉を目の前で聞かされた事もあり、カティアがそれを言い終わった後に頬を打つという暴行にも走っている。

 

 そして彼女が最も先に思い至ったのが、同志大尉(アイリスディーナ)が何かを吹き込んだ、というものだった。

 

 だが彼女はそれを否定した。それはこの部屋の録音を聞けば分かる事なのだが、彼女達は世間話など、精々テレビでやっている様な事しか話していない。

 

 そこでアイリスディーナ大尉は口を開いた。何故だ、と。

 

 カティアは答える。自分は東ドイツの事が以前より気になっていた。いつかは東ドイツの人々とも友だち(・・・)になりたかった、と。

 

 それをその場にいた者達は亡命を希望している、と取った。当然、反対意見が政治将校であるグレーテル中尉から出る。

 

 その意見をアイリスディーナ大尉が欠員の補充にはなる、という意見でねじ伏せた。

 

 普通に考えればそんな理由で西側の人間を亡命させ、尚且つ戦術機部隊へ引き入れるというのは無理がある話である。国の重要な戦力である戦術機をスパイのような素性の人物に使用させるというのだから。

 

 だがそこは政治将校の権力を有する彼女(グレーテル)の腕の見せ所である。彼女の政治将校としての権力を行使すれば多少無理はあるが、編入する事自体は可能なのだから。

 

 更にそれは、例の黒い戦術機によって混後押しされる事となった。例の黒い戦術機によって上層部はそちらに力を入れざるを得なかったからである。

 

 所属不明の黒い戦術機。機動力で勝るはずのバラライカの機動を見事に上回り、単騎で戦場を駆け巡った亡霊。

 

 その姿を見た者は多く、各地はその話で盛り上がっていた。そんな彼らをいつもならば弾圧するだけで終わる。

 

 ——だが、今回に限ってそれは違った。目撃者・生還者が余りにも多かったのだ。そんな大多数の人間を捌ききるなど、無理があるというものだ。

 

 そして上層部はついにその所属不明の戦術機、"黒い亡霊"の捜索を開始した。本来ならば表立って動かさない秘密警察まで動かすという本気っぷりには見事と言わざるを得ない。

 

 つまり、今の上層部に取って、そんな事(亡命)は顔に止まった蚊のように小さな案件なのである。多少気にはするものの、本気になってかかる案件ではないという事だ。

 

 だから政治将校としての権力を行使こそはしたが、意外にも亡命の申請は上手くいく事となった。まあ、自分らの戦友を奪って(攫って)行った戦術機のお陰で上手く言ったというのは、なんとも皮肉なものではあるが。

 

 そういう訳あって彼女は新たに第666戦術機部隊に編入、東ドイツ最強の一団に合流すると至ったのだった。

 

 話は冒頭へ戻るが、今日はカティア少尉の就任初の飛行訓練だった。

 

 今までアメリカの主力戦術機であったF-4に比べてドイツ主力の戦術機 "Mig-21 バラライカ" は機体を軽量化し機動力を高めたものとなっている。

 

 つまりF-4ファントムに乗り慣れている衛士にとってはバラライカは非常に扱いにくく、かつ高負荷(G)がかかりやすい機体なのである。普通の衛士ならば乗り換えるのに数回乗らねば慣れる事はできない。

 

 それを彼女はそれを一回の搭乗で、なおかつ初めての機体コントロールで低空飛行を実現させた。部隊の中で唯一生き残れた腕は伊達ではないという訳だ。

 

「お疲れ様、二人とも」

 

 初の低空飛行訓練でげんなりしているカティアと、それを上から静かに見下ろしているテオドール。

 そんな彼らの元に一人の女性衛士が労いの言葉を投げかけた。

 

「もう、また格闘戦して〜。ナイフに自信があるのは分かるけど、テオドール君の悪い癖よ?」

 

「……いい加減君付けで呼ぶのはやめてくれ」

 

 そんな冷たい態度に彼女、ファム・ティ・ラン中尉は頰に手を当てながらわざとらしく一言、

 

「そんな事言われるとお姉さん寂しいな〜?」

 

 どうやら彼女、そこまで気にしていないようだ。

 ファムはカティアの方を向いた。

 

「で、カティアちゃんでいいかしら?」

 

「は、はい! ファム中尉!」

 

「お姉さんでいいわよ。 で、どうだった? バラライカは?」

 

 そして、カティアの表情が真面目なものとなった。

 彼女は口を開く。

 

「……正直、驚きました。ファントムとはあんなにも勝手が違うんですね。

 機動力が上がっている分防御力が犠牲になっていたり、いい事尽くめという訳ではないんですね」

 

「へえ〜、最初の訓練でそこまで気付くなんて、筋がいいのね」

 

「…チッ」

 

 テオドールが一人舌打ちをした。

 

 が、誰もそれには触れはしない。彼はこういう人間だというのを隊の皆は既に理解していたのだった。

 

「期待してるわよ〜、カティアちゃん。お漏らしも、ちゃんと治してね?」

 

「ふ、ふえぇ〜⁉︎ ちゅ、中尉まで〜⁉︎」

 

「…ッチ」

 

 また舌打ちした。

 

 

 ——ヒュォォォオオオ!!!

 

 

 突然辺りに空気を裂くような騒音が響く。聞く限りでは戦術機のブースター音のようである。

 

「あら? どこの部隊かしら?」

 

「いや、この音は……Mig-23、チボラシュカ」

 

 音が気になった一同は戦術機格納庫の入り口付近へと近づく。

 

 そして、数分してから一台のヘリコプターが着陸、その後を青緑にカラーリングされた8台の戦術機が着陸する。

 

 その戦術機を一目見てテオドールは目を見開く。

 

「あのカラーリングは……シュタージ!」

 

 東ドイツのお抱え武装警察の襲来だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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