まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv—   作:アストラ9

7 / 18
 
 どうも。作者です。

 いや〜、ビックリしましたね〜。たった3話でまさかお気に入りが50超えるんですもの。マジでビックリしましたよ。

 もうホント、感謝感激雨AMIDAでも降らせたい気分です。

 まあ、こんな作品ですがこれからもよろしくお願いします。

 では、本編どうぞ。


イングヒルト

『結論から言えばそこから基地へ短時間で移動する事は出来ない。

 非常に残念だけど、その人命とやらは諦めることだね』

 

 財団はきっぱりとそう言い切る。このパイロットに生きる道は無いと。

 

 だがそんな態度の財団の様子が、突如として変わる。まるで不満のある任務を押し付けられたような雰囲気に。

 

『……朗報だよ、黒い鳥。

 もしかしたらそのパイロットは生きる事が出来るかもしれないね』

 

「なに?」

 

『たった今、老人の一人からある申し出があった。

 内容は、ドイツ近海に新たに拠点型AFを作らせてやる、との事だ』

 

 それは今この状況においてはとても魅力的な相談だな。

 

 あのAFまでの距離は結構ある。なんせ太平洋のど真ん中だからな。途中にアメリカを挟んで航海するのもどうかと思っていた所だ。

 

 ……だが、何か裏がある。

 

 今までの『企業』と似たような存在だとすると、いつかは俺の事を潰して来るだろう。

 

 『プログラムには不要だ』 とか言ってな。

 

 今までもそうだった。各企業に尽くしてやっていたのに、すぐに手のひら返しする。全く、嫌なやつらだ。

 

 ——だが今は、今この場ではその提案を受け入れさせて貰おう。

 

 手のひらで踊らされている気もするが、そんなものは二の次だ。今はパイロットの命がかかっている。

 

「財団、そのAFまでの距離は?」

 

『そこから北西にずっと進んだ先の海洋に浮かんでいるよ。でも普通にブースターを吹かせるだけじゃダメだ。

 そんな調子だったら1時間かかってしまう。恐らくそのパイロットは持って3、40分が限界だ』

 

 っち、だったらどうすればいいんだ! 普通にブースターを吹かせるだけでもENを食うってのに! 

 

 くそったれが。容量も足りない、推力も足りない。パイロットも死にかけ。こんな状態でどう移動すればいいんだよ!

  こんな時、OB(オーバードブースター)さえあれば……待てよ、オーバード、だと?

 

「おい財団、ブースター、跳躍ユニットどちらも熱暴走を起こす程の出力で向かったらどの位かかる?」

 

『へぇ……考えたね。まさか力尽くでOBを再現しようするとは……』

 

「いいから早く答えろ」

 

『まあ、質問には答えるよ。結論から言えばタイムリミットまでは持つよ。恐らく20分位で着くと思う。

 ……でも、その為のエネルギーはどうするつもりだい? そのジェネレーターじゃあ熱暴走を起こす程のエネルギーは供給できないよ。

 それにそんな高負荷のGにパイロットが耐えれるとも思えない。正直言って博打だよ、その作戦は』

 

「ふん、そんな事は分かっている。それでも可能性は0(ゼロ)ではない。限りなくゼロに近い0()だ」

 

『……ま、僕はどうでもいいけどね。そのパイロットがどうなると知った事じゃない。

 でも聞かせてほしい事がある。エネルギーはどうするつもりだい?』

 

「ああ、それならばジェネレーターを『リミット解除』すればいい。ブースターを暴走させるのだから、こちらも暴走すれば済むだけの話だ」

 

 リミット解除。ジェネレーターのリミットを解除して強制的に超稼働させる裏技のようなものだ。

 

 そこからくる限りのないEN供給はこの時間が勝負の飛行に多いに役に立つ。

 

 だが、それでもリミットはある程度かかっている。リミット解除した後に、オーバーフローによる暴発をしないようにリミットが掛けられているのだ。

 

 だが、今回はそのリミットすらも解除する。これにより時間制限のないリミット解除が出来るが、代償としていつ爆発するか分からない機体となってしまう。

 

「だが、今はそんな悠長な事は言ってられない!」

 

 俺はアンファングのマニュピレーターを操作してドイツ機体のコックピットブロックの扉を強引に引き剥がす。

 

 そしてすぐさまアンファングのコックピットを開いて外に出る。まずは俺のコックピットへパイロットを移動させる事が先決だ。

 

 機体をよじ登り、登った。登ったが……登った先にいたそのパイロットは、年端もいかない少女だった。

 

 金髪のその少女は、戦場へ出るには若すぎる位の年だった。更に身体の損傷が激しく、肋骨も何本か折れているようだ。

 

「……っち。結構身体の損傷が激しいな」

 

「……だ、誰……?」

 

「喋るな。傷が開くぞ」

 

 俺は少女の近くへと寄ってその手に握る一本の注射針を首元へと突き刺す。針が極小サイズの痛みを感じない無感タイプの注射だ。痛みは感じないだろう。

 

「さて、それじゃあ身体に触れる事になるが、おぶらせて貰うぞ」

 

「……え…」

 

 少女の意見も聞かずに強引におぶる。後は機体へ戻ってリミット解除するだけだ……!

 

 外に出るとそこに居たはずのBETAどもはほぼ死んでいた。 どうやら戦術機部隊が片付けて居たようだ。

 

 そしてその戦術機部隊は……俺を囲むように展開していた。俺をどうするつもりなんだろうな。

 

『そこの戦術機パイロット! その少女を今すぐ解放しろ!』

 

 ドイツの戦術機からそう勧告されたが、俺はそれを無視してアンファングのコックピットを目指す。

 

『お、おい! 待て!』

 

 戦術機が突撃砲の銃口をこちらに向けてくる。……が、撃ってくる様子はない。恐らくこの少女が人質となっているからだろうな。

 

「ま、その少女も死にかけなんでね。お前らの事は無視させて貰う」

 

 アンファングの外装をよじ登ってコックピットブロックへと戻る。

 そして即座に首元にAMSプラグを繋いで機体と接続を開始する。

 

「…うっ……やはりこのAMS繋いだ時の吐き気はどうにも慣れない」

 

 ホント、なんでAMSは繋ぐだけでこんな吐き気がするんだろうか。元は医療用だったはずなんだがな……。

 

「……だ、大丈夫…ですか……」

 

 左膝に乗せている怪我人が顔を歪ませながらも問いかけてくる。お前は俺の心配なんかよりも自分の心配をしていろよ。

 

「機体データチェック……損傷軽微、跳躍ユニット・ブースター共に損傷なし。よし、行けるな」

 

 俺は足元両脇に配置されている2つのハンドルを強く握って右方向へと回転させる。その数刻後、コックピットの液晶の光が緑色からオレンジ色へと変わる。

 これでブースター・ジェネレーターのリミッターが解除できた。

 

「リミット解除……完了! これより拠点型AF、ギガベースを目指して高速巡航を開始する!」

 

 俺はブースターを点火して大地の表面を滑走させる。そしてどんどんと高度を上げてブースターを出力をだんだんと上げていく。

 

「まだだ……まだ遅い!」

 

 ブーストペダルを強く踏み続ける。

 

 強く、強く、強く。

 

 速く、速く、もっと速く。

 

 俺は更にブースターを駆使し続ける。いつの間にか先程の交戦地点から離れてしまっていた様だ。今、俺の目の前には少し凍りついてしまっている氷海が広がっている。

 

「うぅ……は、はや…い」

 

 俺の傍の少女が苦痛を口にした。いつしかそのスピードは400/h にまで登っていた。

 

「…え……な、なに…?」

 

 高負荷のGを耐えるように堪える少女を引き寄せる。

 そんな構えじゃ高負荷のGには耐えられない。

 怪我人だから、という理由ではないが自分で何とかしろなんて言わない。その代わり俺が支えになってやる。なってやりたい。

 

 Gに耐える少女の傍に寄せてから数分、財団の言っていたギガベースの姿が見えてきた。あと少しだ。

 

 

 ——ピー! ピー! ピー!

 

 

 突然コックピット内にアラームが鳴り響く。これは……

 

「っち、機体温度が急激に上昇してやがる。ついに耐熱材が逝かれちまったか」

 

 機体温度がどんどん上昇していく。100、200、300、350……。

 

「……だが、コックピット内に対しての進行は遅い。Gジェルのお陰だろうな」

 

 まさかロマン目的で導入したGジェルがこんな所で役立つとはな。驚きだぜ。

 

「さあ、あとちょっとだ。頑張れ、パイロット」

 

 俺たちは機体温度にやられながらもギガベースを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——あの超高熱巡航の後、無事ギガベースに着く事は出来た。だが機体は着陸と同時に脚から崩れてしまった。

 

 熱暴走やブースターから飛び出るの異常な程の熱に当てられてしまったのだろう。腰から下が融解してしまっていた。

 

 その中で俺はアンファングのコックピットから緊急脱出ボタンを使用して脱出。少女をおぶって治療施設の所まで目指した。

 

 着いてからはまずCTスキャンに掛けた。まずは怪我のレベルを知らなければいけない。

 

 そして掛けた結果だが……Aレベルの重症。肺や静動脈の破損による死にかけの状態だ。普通の手術では蘇生できる確率は低いという。

 

 だからここまで運んできたのは無駄骨だった……と言うわけでは無い。まだ一つ、生き残る手段がある。

 

 『強化人間手術』。借金を背負ったレイヴンやリンクスとして生きていくために必ず必要となる手術の事だ。これに掛ければ生き延びる事が出来るかもしれなかった。

 

 基本的臓器は人口臓器に変更し、身体中に光ファイバーを通す事で高反射性を獲得する強化人間手術ならば、何とかなるかもしれない。そう思い、俺はそれに掛けた。

 

 だが、強化人間手術で生き残るには、困難を極める代物だ。

 

 理由はごく単純、成功率が非常に低いからだ。

 

 成功さえすれば俺のように身体能力が強化され、レーダー機能も使えるようになる。

 

 だが、失敗してしまうと、あの傭兵(ワイルドキャット)の様に思考回路がまともな物ではなくなってしまう。生きる事すら出来なくなるかもしれない。

 

 だが……彼女が生き残るにはこの方法しかない。蘇生手術に強化人間手術を使うと言うのも、皮肉なもんだがな。

 

 俺は多少の不安を残しながらも彼女の手術が成功する事を願って長椅子で待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東ドイツの基地、そこでは今ある一つの話題で場の空気が盛り上がっていた。それは……

 

「なあ、お前見たか?」

 

「ああ、勿論見たさ! "黒い亡霊"の事だろ!」

 

「やっぱりお前も助けられたのか」

 

「まあな。でもビックリしたぜ。まさか旧型であんな機動を実現するなんてな」

 

「ああ、全くだ……」

 

 "黒い亡霊"。戦場に突如現れ、各地で奮闘していた部隊を助けて回った黒いF-4戦術機の事だ。

 

 旧型であるにも関わらず単騎で圧倒的な力を見せつけ、BETAをあっという間に殲滅していったunknown。その実力は東ドイツ最強と名高い第666戦術機中隊にも匹敵するともっぱらの噂だった。

 

 そして比較対象にも出された第666戦術機中隊の部隊は今、様々な問題を抱え込んでいた。

 

「ったく、色々あり過ぎて訳わかんねえ……」

 

「そのうちの一つを持ち込んだのは貴官ではないか、同志少尉(テオドール)

 

「いや俺は別に……」

 

「そこまでにしてやってくれ、同志中尉(グレーテル)。私が命じたのだ。それよりも……あの黒いF-4について何か分かったか?」

 

 金髪の中隊長、アイリスディーナが問いかける。

 

 その質問に対してグレーテルは両手を上げてお手上げのポーズを取りながら言う。

 

「いいえ、何も。唯一分かった事と言えばあの戦術機のパイロットが男で、生身(・・)で乗っていたって事ぐらいね。顔もバイザーをつけていたから分からなかったし」

 

「なに? 所属や装備についての事は分からなかったのか?」

 

「ええ、国連軍にも問い合わせたけれど、そんな戦術機は所属していないって」

 

 一体どう言う事だ? 国連軍の所属でも無いと言うのは……。

 

 アイリスディーナは思考を巡らせる。イングヒルトが要撃(グラップラー)級に襲われた次の瞬間にいきなり現れたあの黒いファントム。

 

 少し薄汚い布をマフラーの様に纏った漆黒の機体。

 

 その機体が自分達以上の機動性を見せつけ瞬時に要撃級を排除するという人間離れした技量。

 

 しかもそんな高負荷のGがかかるような機動をしているのにも関わらず強化装備無しで操作しているなんて、普通はありえない。そもそも強化装備無しでは周りを見る事も動かす事すら難しいというのに……。

 

 そして最も不思議なのが彼がイングヒルトを攫って行ったという事だ。

 

 彼女の容態は遠目でしか分からなかったが、とてもじゃないが助かるようなものではなかった。あんな状態のイングヒルトをあの機体の乗らせるという行為すら愚かしい。

 

 そもそも何故彼女を狙っていたのだ? 死にかけだとしてもそこが分からない。一体彼は何者で、何が目的なのか。それを知りたい。

 

 アイリスディーナは、この戦場に何か得体の知れない者が関わっているのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってドイツ近海の海洋上。その海のど真ん中に浮かぶ鋼鉄の城の一室で、二人の青年少女が向かい合っていた。

 

「……それじゃあ、自己紹介でもしようか。

 俺の名前はエーアスト。しがない傭兵だ」

 

 俺は目の前にいる少女に軽い挨拶を交わす。

 

「あ、はい。えーと私の名前はイングヒルト・ブロニコフスキー、東ドイツ第666戦術機中隊所属の衛士です。

 それで……ここはどこなのでしょうか?」

 

「ここは……そうだな、ドイツ近海に建てられた俺たち(・・)の基地だ。先の戦闘でお前は瀕死の重症だった訳だが……覚えているか?」

 

「え、ええっと…覚えています。突撃級に攻撃された私はあの後……!」

 

 そこまで言って目を見開いて怯えるイングヒルト。どうやら図らずしてトラウマを引き起こしてしまったようだ。これは悪い事をしたな。

 

「すまない、嫌なことを思い出させてしまったな」

 

「い、いえ…大丈夫です」

 

「まあ、それで俺はお前を回収してここまで運びこんで治療をした訳だ。理解できたか?」

 

「はい。ありがとうございます、わざわざ助けて貰って……。このご恩は……」

 

 そう言ってキラキラと輝いて潤う瞳を俺に見せながら礼を述べるイングヒルト。

 

 こんな純情の塊みたいな少女に事実を突きつけるのは心が痛むが……仕方ない。

 

「あー、その事なんだが……俺はお前に謝らなければならない」

 

「え? ど、どうしてですか? エーアストさんは私を助けてくれたじゃないですか!」

 

「ああ、確かに俺はお前を助けた。だが……その助け方で酷いことをしてしまったんだ、俺は」

 

 そこから俺は事の経緯を話した。

 

 どんな機体・状態で彼女を運んだか。どんな手術を行ったか。その手術はどれだけ成功率が低いか。

 そんな事を全て彼女に話した。

 

 強化人間手術なんかに掛けたんだ。どんな罵声が飛んできても構わない。そう思っていたのだが……彼女の対応はとても優しいものだった。

 彼女が抱きつくながら語りかける。

 

「……それでも、貴方は私を助けてくださいました。瀕死の私を見捨てないで助けてくださいました。

 それに機体がそんなになってまで私を助けてくださったのです、そんな貴方が悪い人で有るはずがありません。

 貴方は私の命の恩人です。貴方は全然悪くありませんよ」

 

「! ……だが、俺はお前を強化人間手術に掛けた。純粋な人間として生きる道を潰したんだぞ」

 

「それでも、です。そうでもしなければ私は死んでいたんでしょう? ならば貴方の判断は正しかったはずです。何処にも責めるべき所はありません」

 

「……」

 

 ……参ったな。こんな対応は初めてだ。

 

 確かに俺は今までいろんな世界でいろんな奴を助けてきた。

 

 ディソーダーに囲まれて絶体絶命のパイロット、モノレールに仕掛けられた爆弾の解除、重要物資を運ぶトラックの護衛。

 そのどれもを俺は解決してきたが、帰ってきたのは感謝する、や ありがとうなどの簡素な定型文を喋っているような形だけの感謝。時にはもっと早くこいなどの罵声も飛んできた。

 

 そんな中で生きてきた俺にとっては……この対応には驚かされた。定型文を喋っている訳でも無く、罵声と言うわけでもない。純粋な……好意からくる感謝なんて、な。

 俺は彼女を引き剥がして向き直る。まだ説明の途中だ。

 

「——お前のそれは感謝の言葉として受け取らせて貰おう。……ありがとう」

 

「いいえ、礼を言うのはこっちですよ」

 

 そう言って彼女は笑った。

 

 ……女の笑顔を見たのなんていつぶりだろうな。フランやロザリィの奴、元気にしているだろうか……。

 

 俺はいつの間にか昔の仲間の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




   —収支報告—

◯収入金額 成功報酬: 200000
      特別加算: 978000(小型1250中型320)

◯支出金額 弾薬清算: 0(自動装填なし)
      機体修理: 0(修理なし)
      特別減算: 0

◯合計        1,178,000C
  

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。