まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv— 作:アストラ9
『やあ、黒い鳥。僕だよ。
早速だが、依頼内容を確認させて貰う。
依頼内容は、東ドイツに展開する部隊の援護、部隊を攻撃しているBETAの
ああ、援護と言っても協力なんかはしなくてもいいよ。君の任務はあくまでBETAを殺す事なんだからね。
BETAはどうやら比較的小規模で進行しているようだが、伏兵がいるかもしれない。長期戦になると思うから、近接装備を持っていく事をオススメするよ。
なお、この作戦で君が今後活動できるかどうかの審議が行われる事になる。くれぐれも失敗しないよう頼むよ。
依頼主:
敵戦力:
作戦領域: 東ドイツ オーデル川西岸
成功条件: 敵対勢力の全滅
成功報酬: 200000C 』
「……
機体データチェック……感度良好、問題なし。
依頼内容……確認。これより東ドイツへ戦術機部隊の援護へ向かう」
手元の小型遠距離操作リモコンを弄りながらデータチェックを行う。そして、その操作と連動するかのようにギガベースのハッチが開かれ、カタパルトがその姿を見せた。
さーて、改修型F-4戦術機 "アンファング" の初陣だ。派手に行こう。
俺はブースターとジャンプユニットをフル稼働させて東ドイツを目指した。
「——ふぅ……やっと着いたか」
カタパルト出港から数時間、俺は長い間を海の上で過ごしていた。AMSを繋いでいるお陰で俺の視界の半分には、もう見慣れてしまった大海原の姿が延々と流れていた。
ああ、そう言えばこのコックピットについての事は言及していなかったな。実は残った資材のほとんどはAMSシステム等の内装の改装に費やされている。その為に外装は節約したのだからな。
AMSシステムの導入に
ああ、それと対Gジェルも少量入れてある。まあ、別に無くても良かったんだが。強化人間手術によって結構なGは耐えられるしな。
入れた理由は……まあロマンだ。ロマン。
まあ、そんなこんなで比較的高性能な戦術機な訳だが……いやー、正直戦術機で来て良かったと思っているよ。ACで来ていたら途中で水没していただろうね。
と言うのも、ACブースターの消費が結構激しいのだ。更にそれにエネルギーを供給しているのがMTジェネレーター。長時間航海する為のENが確保できなかったのだ。
そこでACブースターを吹かせる、ENが切れそうになったら跳躍ユニット(ジェット)に変更、ENが回復したらACブースターに変更、……、と言うように手動で切り替えながらEN、燃料を温存していたのだ。
戦術機じゃなかったら着くことすら難しかったかもしれない。
「ま、今はもう作戦領域内に入っているのだが」
その証拠に先程の大海原は既に後方に控えており、目の前には雪の降り積もった大地が広がっている。
俺は節約航海モード(今この場で命名)を解除し、跳躍ユニットを停止した。ここから先はレイヴンステップで移動していく事になる。
通常モードで引き続き稼働を続け、アンファングの脚部をその冷たい大地へ降り立たせる。
ここから先は
「さて、それじゃあレーダー頼りに各部隊を支援していきますか」
俺はまず一番近くで戦闘を繰り広げている部隊の所へ行く事にした。
BETA。地球を侵略し、蹂躙の限りを尽くそうとしている人類の敵。
そんな最悪生物が俺たち第233戦術機中隊の目の前に数百、数千もの軍勢を引き連れて迫って来ている。正直言って反吐が出そうだ。
『く、くるなぁぁぁ!!!』
突如後方で待機している筈の同僚の声が戦術機のスピーカーから流れ込んできた。
後方を確認するとそこには何体もの
……くそっ!
瞬時に跳躍ユニットを起動してロケットエンジンを吹かせる。それと同時に右腕の手持ち兵装を突撃砲から
「オラァァ!!!」
まずは機体に群がる戦車級を短刀で排除する。
長刀では貫通する可能性があるが短刀なのでその心配はない。速攻で片付けた。
続いて俺たちへ向かってくる戦車級に対して面圧射撃をぶちかます。ハンガーも同時使用する事で瞬間火力も高める。
『……お、俺も手伝うぜ、隊長…』
後ろから後輩も援護射撃を開始する。これなら行けるぞ……!
——ピー! ピー! ピー!
突如レーダーのアラームが鳴り響く。この反応は……!
「なっ⁉︎
『た、隊長! 逃げて!』
「⁉︎」
後輩が銃を構えた先を振り向くとそこには既に突撃級が目の前まで迫っていた。
直ぐに突撃砲を構えるが、数刻遅い。トリガーを引くまでの時間がない。
目の前の絶望的状況の中、俺の目の前に中隊のみんなとの思い出が映し出される。
後輩とのメシの取り合いに、新人との意見のぶつかり合い、戦場で目の前で散って行った仲間達……。
——これが走馬灯って奴なのかもな……。
自分の死を予感していた俺はいつの間にかその目を閉じていた。
せめて、死ぬときは一突きで楽に行かせて貰いたいものだ……。
——ピー! ピー! ピー!
そしてその圧倒的な質量がぶつかるであろう時、突如として再びアラームが鳴り響いた。
その反応は……
—ガギィン!!!
レーダーにunknownと映り、突如として現れたその機体は今、俺の目の前で突撃級を
そう、文字通り、蹴ったのだ。この俺の目の前で。
そしてそのunknownは、蹴った事で麻痺した突撃級を無視して左右に銃を構えた。
そしてその銃は普通の突撃砲とは同じ物には見えなかった。
俺がさっきので頭がおかしくなっているのでなければ、その銃には砲門が
——ダダンッ! ダダンッ! ダダンッ!
unknownはその突撃砲からけたたましいほどの炸裂音を響かせる。その銃口から射出された弾丸に貫かれた突撃級の大半は大地に体を打ち付ける事となった。
『…あれ? あの戦術機の突撃砲、なんだか口径が小さい……?』
なんだと? 突撃砲の口径は大分前に修正された筈では……
後輩に言われて見てみると、確かにそのunknownの四門の突撃砲は口径が若干小型になっている。
新兵器として小口径化したのではなければ、これは旧型の突撃砲という事になる。しかし何故そんな旧式を使うのか、そこがわからない。
そのunknownは滑腔砲を打ち終えたと思ったら急速で機体を旋回させて生き残った突撃級の後ろを取り、その機関砲の銃弾を一匹一匹丁寧にかつ、素早く撃ち抜いていった。
しかもその銃口から放たれる弾丸は規則的に放たれ、それは一種のリズムを奏でていた。
そのリズムは非常に簡素で、とても心を落ち着かせるような、そんな物が感じられた。
『た、隊長、大丈夫ですか⁉︎』
後輩が近づいてくる。どうやら後輩の機体も損傷はあるようだが、大破には至っていない。
スピーカーから音声が流れてくる。
『隊長、なんなんですか、アイツ! あんなのがいるなんて聞いて無いですよ!』
「それはこちらも同様だ。俺もあんな増援が来る事を聞いていない。と言うよりも、我が国又は、国連の機体かもどうか怪しい」
『え⁉︎ どう言う事ですか⁉︎』
「……奴の機体を見てみろ」
後輩の機体が奴の方を見たのを確認した後、俺も再確認する。
奴の機体は、軽く布を機体に巻く事で隠したでつもりだろうが、それはF-4、つまりファントムのそれと同じフレームだ。
また、奴の兵装が旧式である点や、カラーリングが黒で統一されている点も怪しい。
更に言うならば、戦術機は普段単独で活動をしない。撃破されたならば別だが、隊を組まずに単独で移動するなんて事はありえない。
『……隊長、どうします?』
「放っておけ。どうせ俺たちには反撃出来るほどの弾薬は残っていない。それにアイツが俺たちの周りのBETAも片付けてくれているしな」
『……了解』
ったく、拭いきれない所がある事は分かるが、仕方ない事だろう。
俺たちには生きて帰るという兵士としての使命があるんだ。死ぬ訳にはいかない。
——全く、面倒な奴に出会っちまったな。本当に……。
俺は目の前で繰り広げられるショーを見ながらそんな事を思っていた。
「……よし、とりあえずここら辺の奴らは殲滅し終わったか」
中型、3、40匹に小型数百匹。結構狩れたな。
だが弾丸の消費が少し激しいかもしれない。あの戦術機を助けた時に脚部も損傷したし、結構ヤバいかもしれないな。
「ま、別にロケットもあるし、大丈夫だろうがな」
さて、ここら辺は狩り終えた事だし、さっさと狩り場を変えるとしよう。
俺はレイヴンステップを駆使して次の戦術機集団の座標へと急いだ。
「……これで6箇所目か」
あれから何度も場所を移動しながら各地を援護する事6回目。そろそろ弾薬も尽きてきた。
恐らくこの辺から近接戦闘に切り替えないとヤバいだろう。流石に弾薬が持たない。
俺はハンガーの長刀と左腕の突撃砲を持ち替える。
「よし、次は……ん? 地下からBETAの反応?」
結構近いな。しかも無視しようとしていた部隊も近い……。
「しゃーない。援護にいくとするか」
流石に見殺しは後味が悪い。さっぱりしてから行こう。うん。
俺はレイヴンステップで再び移動を開始した。
よし、見えて来たな。小型数百、中型60……なんだ、アレは? 何故あそこに中型が集まって……⁉︎
「……!」
その光景を見た俺は無言で機体速度をあげていた。ACブースターもロケットブースターも吹かして先ほどの一点を目指す。
「……オートサイト解除、ノーロックモードに切り替え。ロケット全弾発射」
機体の角度を傾け、ある一点を目指して歩く中型と小型の混成部隊へと放つ。あそこへはこれ以上近づかせない。
ロケットを打ち終えた俺はノーロックモードからオートサイトへ切り替える。
そしてMTライフルと突撃砲を機体下方へとぶっ放す。まずは経路の確保だ。
着地地点の掃討を終え、無事着地を終えると即機体を傾けてブースターを真っ直ぐ走らせる。
ステップよりENを食うが、そんな悠長な事は言っていられない。人命がかかっているのだ。
目標地点に到達した。まずは群がる中型級から排除する!
機体を高速で走らせながら長刀を構えて一閃する。まずは一体。
途中でブースターを停止させて機体を急旋回させる。その際の遠心力を利用して付近にいた中型を一閃。これで2体目。
急旋回させた後の目の前に丁度中型2体がいい具合に並んでいる。それをMTライフル、突撃砲で迎撃しながらブースターを吹かせる。これで終わりだ。
「あとは……人命救助だ」
俺は付近の敵を掃討し終えた所で、奴らが群がる原因となった物へ近づく。
奴らが群がっていたもの。それはドイツの戦術機であろう機体の上半身だった。恐らく攻撃を受けた時についたものであろう、機体コア部は少しヘコんでしまっている。
「だがまだ……まだ死んでいないはずだ」
まだ俺の生態レーダーには僅かながら反応はある。こんな所で殺すつもりはない。
だが、どうすれば良いのか。レーダーにはまだ反応はあるが、それはごく僅かだ。パイロットの体は限りなく弱っている。
周りの戦術機に頼むにしても、奴らはBETAの対処に追われている。
それに、情報ではこいつらの基地とは距離がある。このパイロットではそれまで持たんだろう。
……だが、それは俺も同じ事。俺の基地との距離もかなり離れている。ギガベースには治療施設もあったが、それまで患者が間に合わねば意味がない。
「くそったれ……ゲームオーバーって事かよ……」
少し憂鬱になりつつ、他にも策は無いかと思考を回転させる。
そしてその時、俺のスマホから振動を感じた。……どうやら財団からのようだ。
俺は電話のスイッチを入れた。
『あー、聞こえているかな。黒い鳥』
「ああ、聞こえている。要件はなんだ? 俺は急がなければならないのだが」
『……焦っているようだね、なら手短に話すよ。
今から数分後、そこへ航空部隊が到着し、爆撃をするようだ。今すぐそこを離れた方がいい』
「……なんだと?」
『ああ、依頼ならば完了という事で言いそうだ。あの老人達をとりあえずは納得させる事は出来たようだよ』
俺の収入先の確保には至ったという訳か。だが、ここには瀕死のパイロットがいる。どうにかならないものか。
……財団にも聞いてみるか。
「財団、一つ聞きたい事がある。ここから基地に1時間で帰る為にはどうすればいい?」
『……君は何を言っているんだい? この距離を1時間で移動? バカなんじゃないか?』
「いいから答えろ。人命が掛かっているんだ」
『……はぁ。かつて幾人もの傭兵を潰してきた君が言うセリフかい? それ』
……まあ、確かにそうだろうな。俺は確かに今までかなりの傭兵、人間、機械を壊して来た。
だが、そんな俺だって破壊以外の事を学ぶ事が出来たんだ。依然として破壊以外は出来るような事はないが、それでもやれる事はやりたい。それが日本人としての俺の意志だ。
『仕方ないね、ならば答えて上げるよ。
でもまあ、結論から言えばそんな事は出来ない。
非常に残念だけど、その人命とやらは諦めることだね』
そう言った財団の口調は、少し冷たい感じがした。
—制限解除—
⚪︎ACパーツ
・中量逆関節「ELB-A1001」
・FCS「VREX-ST-2(ST-1)」
・ライフル「ZWG-RF/37」
・ロケット「CWR-S30」
⚪︎MT・通常兵器
・高機動四脚MT「クアドルペッド」
・狙撃特化型MT「044FV450」
・二脚型汎用MT「レイヴンマスカー」
・逆関節安価型MT「シャフター」