まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv—   作:アストラ9

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拠点型AF・戦術機

 

 見渡す限りの青。()も、下も横()も全てが青。

 そう、ここは大海原のど真ん中。当然陸地なんて存在する筈は無かった。

 

 だが、純粋な陸地は存在せずとも人工的な陸地は存在した。鋼鉄のそれに覆われたコレはまるで、さながらプレゼントボックスのようだ。

 

 ——だが、それはあながち間違っていないと言える。異世界の神からの純粋なプレゼント(・・・・・)が入っているそれは、確かにその通りだと言える。

 

 ……問題はそのプレゼントが善意から来るものではなく殺意を持った悪意から送られたと言う事なのだが、それを受け取り主達が理解できるのはごく僅か。このプレゼントの脅威に気付けるのは一体いつになるのか、ある意味見所とも言える。

 

 さて、そろそろこのプレゼントボックスについてタネ明かしをしよう。

 

 この巨大構造物は上空から見るとn、又はAの様な形をしており、U字型の要塞ユニットの中央に独立した砲台ユニットを取り付けたような形となっている。

 

 機体四角に大型の2連装実弾砲を備え更に、その周囲に(人間からすれば超)大型のミサイルランチャーを3門備える。

 

 機体中央部には超高精度射撃を可能とする主砲を二門構え下部には2連装ガトリング砲を備える。主砲の威力は非常に高く、ネクストのPAありで最低でも5000は逝ってしまう程。

 

 また機体各所に小型の(とは言っても戦車の砲塔ユニットよりは確実に大きいが)キャノンを配置されており、まさに要塞と呼ぶに相応しいものとなっている。

 

 更に機体中央部下部に超大型リニアキャノンを装備してある。これは主砲の威力・射程を大幅に引き上げた高出力兵器であり、威力は恐らく主砲の倍以上。弾速も非常に高い物となっているだろう。

 

 そう、これは、こことは別の世界の実質的な支配者の一部が製造した超大型兵器(アームズフォート)『ギガベース』、その内の一機だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりまだ少し信じられねえな……まさか俺が破壊して回った兵器を拠点にするなんてな……」

 

 甲板で基地内から回収したコーラを飲みながら一人呟く。こんなに広い中一人と言うのも少し寂しいな。

 

「ま、トーラスのクレイドルを落とした後と同じ状況だと思えばそんなに寂しくはないがな」

 

 あのクレイドルを落としていく狂乱の俺に唯一協力を申し出てきたトーラス。あいつらのクレイドルを落としたのは少し気が進まなかったが……結局落としたからな。

 

 今となってはそれが正しい選択だったのかは分からない。

 だが一つ言えるのは……俺が出来るのは"破壊"する事のみと言う事だ。

 

「……おっと、いつの間にか時間が過ぎてしまったな。これだから年を取るといかねえ」

 

 ま、身体年齢は20歳前後なんだけどな、と心の中で一言付け加えて置く。

 

 どうやら財団は俺の肉体を限りなく全盛期にかつ強化人間としてくれたようだからな。こればかりは正直助かる。

 

 俺は甲板を後にして自室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺の自室へと着いた。因みに自室と言っていたが、食堂(仮)に一番近い個室を勝手に占領しただけの部屋だ。これが現代日本だったら不法侵入罪で逮捕されているな。

 

「ま、今の俺は残念ながら財団に雇われた一人の傭兵だ。早速お仕事でもしようか」

 

 俺は早速パソコンを起動した。まずはスマホの情報を全て移し替える事が先決だ。

 

 パソコンへバックアップを取る作業はものの数十分で終わった。早速ライブラリを確認するとしよう。

 

 備え付けのパソコンを起動し直し、ライブラリを開く。そこにあったデータは大半がブラックボックスと化していて開く事は出来なかった。

 

 だが開く事が出来たデータは幾つかあった。

 

 一つ、財団からの依頼系列のシステム。

 

 一つ、敵についての情報資料。

 

 一つ、ハッキング・情報操作補助システム。

 

 一つ、写真・映像データ。

 

 一つ、アセンブルシステム。

 

 この5つのデータが唯一開けたものだった。なおパソコンで開けなかったデータはスマホでは開けるようだ。

 

 まず一つ目についてだが、これにはここに送られる前に財団に言われた"制限"についてや、財団からの傭兵としての直接の依頼発注、連絡等が主なシステムだ。因みに制限については3つあった。

 

・各パーツは購入しないと使用が不可能。

 

・各パーツ・ACは解放しないと購入できない。

 

・強化人間のメンテナンスは毎月自動で支払われる対価を払わないとストップしてしまう。

 

 まず、一つ目だが、これはかなり厳しい物となる。というのも、ACの初期機体が存在しない(・・・・・)からだ。ドックへ行ってみたのだが、ネクストは愚か、ノーマルすら無かった。

 

 この状況には非常に参ったのだが……どうやら戦術機とやらがあるようだった。

 

 戦術機。この世界での主力兵器だそうだが、正直言って酷すぎる機体だった。

 

 遅く、

 

 脆く、

 

 低威力。

 

 しかも稼働時間もACには遠く及ばない程低い。何故この世界の人間はこんな機体で戦おうなんて思うのか、俺には理解出来ない。

 

 まあ、あくまでデータを参照した結果なのだが。ついでに資料によるとコイツは第一世代なので後継機では改善されている可能性が高いとの事。戦いが楽になりそうなので、改善されているといいんだが。

 

 次、二つ目だがこれは同じ系統の武器を使用し続ければ少しずつ上がっていき、解除されるらしい。

 

 レーザーブレードを使用し続ければ後継機型レーザーブレードが解放されていく、と言ったようなものだ。

 

 最後、これは実は俺の生命に関わるものである。

 と言うのも、実は強化人間の体を維持するには本来ならば定期的に臓器交換や修復をしていかないと使い物にならなくなってしまう代物なのだ。

 このメンテナンスを財団は自動で行うナノマシンを組み込んだらしいのだが、そのナノマシンの起動には数千コーム必要らしい。

 日本円にして数千万円。この額を定期的に払う目処が無くなってしまえば俺は何もせずとも自然と朽ち果ててしまうと言うわけだ。非常にサバイバル要素が強くなった為、金に対して気を使わねばならないだろう。

 

 さて、次の項目へ移動しよう。次は俺が相手にする敵対勢力についてだ。今わかっている限り、俺が戦う相手はどうやら宇宙人らしい。

 

 ……正直言って理解出来ないのだが、理解するしかない。そうでもしないと時間がムダになってしまう。俺はまだ死にたくないからな。

 

 どうやら敵は「BETA」という宇宙人で、地球資源を狙って侵略に来ている、らしい。

 

 さらにBETAは対応がとても早く、地上最強兵器である航空兵器の対抗策を数週間で練られた、らしい。

 

 敵の光線級とやらは戦術機の装甲を簡単に溶かす、とも書いてあった。

 

 これだけ聞いていると、はっきり言って弱点がないと思うのだが。対策が練られるって言うのが兵器にとって一番の敵だと言うのに……。

 

 と、思ったが、どうやら敵が対策を練るにはその兵器の回収をせねばならないらしい。航空兵器の対策を取られたのも戦闘機のサンプルを取られてしまったが為。つまり武器を奪われなければひとまず安心と言うわけだ。

 

 だが、それは武装のパージが使えないと言う事を意味する。つまり消費ENを抑えたり、機体重量を確保出来ないと言う事だ。これは非常に大きなハンデとなるだろう。

 

 さて、ここで実質的なハンデを背負ってしまったっわけだが、次の情報には少し嬉しいものが書いてあった。それは即ち、「撃破報酬」である。

 

 基本的に敵は小型、中型、大型に分類される。

 

 小型を撃破すれば数C(コーム)〜数十C、中型なら数千C、大型には数万C支払われるそうだ。

 因みに例外的に存在する"超大型"種に対しては数億C支払われるらしい。是非撃破していきたい。

 最初の世界(V)では "Au" という通貨が使われていたが、1Cを2Auとして換金して使う事も可能らしい。

 

「……宇宙人を殺すだけで数千万の金が手に入るって聞いたらロザリィはどんな表情をするだろうな」

 

 俺の同僚であり戦友であった一人の守銭奴の事をふと思い出した。結局最後には散り散りになって別れたが、元気にしているといいんだがな。

 

「……っと、そろそろ戦術機とやら改造が終わった頃だな」

 

 

 俺は兵器ドックを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前には今、戦術機という機体が一機佇んている。

 

 その見た目は全体的とても黒く、サブカラーにはワインレッドの刺繍がカラーリングされてある。また、この機体は薄汚れた布を纏っており、どことなく放浪者のように見えなくもない。

 

「ま、これ全部俺がやったんだがな」

 

 カラーリングは正直面倒だったのでアンサングと同じ物にした。なんとなくアレ、カッコいいしな。

 

 因みに布を纏わせたことに関してだが、特に意味は無い(・・・・・・・)。この戦術機に被せて合った物を首に巻きつけただけの代物だ。

 

 さて、それでは性能面での話をしよう。

 

 今回の改装にあたって行った物は、ジェネレーターの増設、銃火器の増加、腕部補強、コックピット改造の計4つだ。

 

 だが、そもそもの話、まずは資源が必要となる。当然今の俺は一門無しだった訳だ。そんな状態でどう資源を集めたと思う?

 

 答えは "売却" だ。

 

 本来ならば売るものなど何もないのだが、ここには丁度売れる物があった。それが、

 

「ギガベースの防御兵装だ」

 

 そう、ギガベースの防御兵装を売っぱらう事で即席で手頃な金額を手に入れたという訳さ。その金額なんと10万C! 小型砲台一本売っただけでこんなになるんだな。

 

 資金を手に入れた俺がまずやった事は、ジェネレーターの増設だ。

 

 戦術機の燃料にはごく少量分しか搭載できず、かつその消費も激しい。3日持つがどうか怪しいくらいの代物だ。

 

 そんなカツカツの機体で何万もの宇宙人軍団に単騎で突っ込めと? はっきり言ってEN切れで死ぬのが目に見えている。

 

 そこで俺はACのジェネレーターを購入し、戦術機に組み込んだ……訳ではない。まあ実際組み込んでも良かったのだがな。そうなると他に回せる金が無くなってしまう。

 

 そこで、何のジェネレーターを搭載したかと言うと……『MT』だ。

 『MT(マッスルトレーサー)』、ACの原型の原型となった機体だ。基本的にACより弱い存在とされているが、中にはACの性能を遥かに上回る機体も存在する。

 

 新人レイヴンに驚異的な強さを見せつけた『シュトルヒ』や、大きすぎる力を持った者を処刑する無人兵器『ナインボール・セラフ』もこちらに当てはまると言えるだろう。

 

 そんな高価な機体を購入したかったが、そこまで回せる金も、買うための権利も今の俺には無かった。どうやらMTも購入には制限を解除しなければならないようだ。

 

 と、言う訳で買った機体は『MUMLUK』という安価な逆関節機体。

 

 逆関節の脚部に砲を取り除いた戦車砲塔にような平らなボディを取り付けた安定性重視の機体だ。主兵装に2連装MTライフルを両サイドに一門ずつ、機体上部に6連装MTロケットを2つ取り付けた物だ。

 

 MTである為、通常兵器(車両・戦車・列車・ヘリ等)には容易に貫通し、また比較的にだが、攻撃を耐える事も出来る。

 

 そんな機体が兵装付きでなんと3万Cで購入出来たのだ。これでかなりの金額を抑える事が出来た。

 

 別にこの機体を使って宇宙人と戦う訳ではない。今回この機体を購入したのはジェネレーター・逆脚・兵装狙いだ。

 

 と言うのも、これら全てをACパーツとして購入してしまうとかなりの額になってしまうのだ。

 

 廃価版のジェネレーターで1万C、逆脚で2万C、兵装で6万C(ロケットが大体1つで2万C)掛かってしまう寸法となる。最高で9割近くも使用してしまうのだ。

 

 それならばと思い、多少性能は落ちるがMTの方を購入しようと思ったのだ。

 

 だかまあ、正直言ってMT装備でも十分に戦えそうではあるがな。そこら辺の戦車よりは十分に強いし。

 

 武装に関してはこんなもん……と言われる所なのだが今回買ったのはパーツ単体ではなくMT本体なのだ。つまり武器以外にも付属してくる。

 

 このMTから流用するものが幾つかある。まずは先程の銃火器・ジェネレーターだ。これは外せない。

 

 またジェネを導入したに当たってブースターも導入した。こちらはAC仕様だ。

 

 因みに値段的に低消費ブースターとなった。少し財政が厳しいのがきつい。

 

 流用したものは先程の2つの他にはMTの装甲パーツ、逆脚パーツを流用させてもらった。

 

 装甲パーツはギガベースに内蔵されていた兵器プラントで精製し直して格納ハンガーの強度を強化した。流石に途中でポキっといきそうな程脆そうだったのでな。

 

 他にも簡易的な盾も作った。

 

 だが正直言って強度は悪い。ハンガー用に回した装甲の余りと使わない機材をプレスした物を組み合わせて作られた物なので、軽い砲弾用或は投擲用としてしか使い道がない。戦場では即時に使い捨てる品だ。

 

 逆脚パーツは分解して腕部用の補助パーツとして組み込んだ。これは本来する必要は無かったんだが、戦術機用の銃器を強化した際に片手で扱うには負荷が大き過ぎるようで……暫く使っているとぽっきりいくという残念な状態になってしまうらしい.。

 

 という事で渋々逆脚パーツを流用したという訳だな。ちゃんと補強した副産物として銃器の扱いは今まで以上の物となったよ。

 

 MTの武装、2連ライフルとロケットの事だが、これらは肩部に装備させた。肩部上部にロケット、サイドにライフル、と。ACで言うエクステンションのような物だな。

 

 まあ、エクステンションとして装備させる為に肩は一回分解して回路組み直したりしたんだけどな。こことか、ジェネ内蔵が主に時間がかかった原因だな。

 

「ま、お陰で戦術機を運用する上での大幅な強化にはなったがな」

 

 いや、それはもう本当に強化させて貰いました。突撃砲四門による……ってそうそう、そういえば突撃砲の事忘れていた。

 

 今回戦術機に付属していた突撃砲という銃器も強化……というよりは複合というべきか。まあ、それをした訳だ。

 

 内容はごく単純。突撃砲2丁を片手で持てるように重ね合わせただけ。それだけ。

 

 まあ、それだけだ。砲火システムに関してのチップを新たに埋め込んだりはしたが、基本的には銃を2つ合わせて鉄で固定した、機関銃みたいなもんだ。

 威力は当然に2倍になるが、それと同時に負荷も2倍、またはそれ以上のものとなる。重量やメンテナンス性、反動とかな。

 

「ま、それでも数が必要だからこの改装は必要なものなんだが」

 

 でも実際見てみると結構な数を装備しているな。

 

 武器は、突撃砲四門(2丁)に6連ロケット、2連ライフルに戦術機付属の長刀。

 ジェネはタンク式ではなく生産+タンクのハイブリット。

 ブースターはACブースター(フル装備時の時速200〜300)

 使い捨て廃盾。

 

「いやー、結構なもんになったもんだな。これなら戦術機のみで戦ってもいいかも」

 

 いや、流石にそれは無理か、と心に中で呟く。

 

 人類がこの兵器を何台も導入しても全然反撃できていないのだ。俺が使った程度でどうなるもんではない。

 

「そういえば機体名考えていないかったな。ついでに言えば俺の名前も」

 

 そう言えば今までどの世界でも名前なんてもの考えてた事がなかったな。

 フランに雇われた時も名前とか聞かれなかったし、レイヴン・リンクスとなった時にも「unknown」という名前さえあれば良かったからな。

 

 うーん、だとしたらどんな名前にしようか。流石に日本とかで活動するようになったら接触は必須だからな……。うーん。

 

 そんな時、俺の中の一つの記憶が浮かび上がる。今では旧型と呼ばれるACを駆っていた時代のアリーナのトップとの戦いの記憶が。

 

 ……あいつの名を借りるか。

 

「……機体名は"アンファング"。そして俺の名前はこれから"エーアスト"だ」

 

 二脚アリーナでお前を打ち取った俺がこんな所で果てる訳には行かないよな、エーアスト。

 すまないがお前の名を貸してもらうぞ。エーアスト。俺が生きる事を諦めない為にも、な……。

 

 俺はスマホを取り出しながら戦術機の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 


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